第3話 乙女ゲームの世界に転生しちゃいました?!
時間が掛かってしまいました。キリが良い所でって思ったら長くなってしまって・・・個人的に1万字近くを1話の文量の目安にしています。時間が掛かりますが、宜しくお願いします(●︎´▽︎`●︎)
直接的な性描写はありませんが、性描写を思わせる文言等が出てきますので、苦手な方は戻るボタンを押すか飛ばして下さい。
「もしかしてここ乙女ゲームの世界なの?!」
鳥の囀りをBGMにして目覚めた。昨日までは夢だったのでは無いかと一瞬期待したが、見えた世界は昨日と同じだった。
(何も気後れすることは無い。この世界で生きるってレティーシャと約束したもの。今日はレティーシャの事をマリアに聞いて、それから部屋のリフォームと新しいドレスを作ってもらわないと。まだまだすることは多そうね)
「皇女様もうお目覚めになられていたのですね。おはようございます。良く眠れましたか?」
「マリアおはよう。よく眠れたわ」
「それはようございました。お食事の準備が出来ております。食堂でお食事になさいますか?それともお部屋でお食事になさいますか?」
「食堂で食べるわ。何時までも部屋に籠る訳にはいかないもの」
「畏まりました。では食堂で食事をする旨を伝えて来ますね」
廊下に繋がる出入り口用の扉を開け新しく来た侍女だろうか「食堂に食事の準備をお願いします」「はい」と聞こえてきた。
それからマリアが部屋に戻って来た。
「じゃあ皇女様お着替え致しましょう。あの扉の先が衣装室です。あそこには日常用のドレスや宝石等が収納されています。ここ以外にも沢山衣装室がございますが、わざわざ行くのが面倒だと皇女様が前に仰られたので、この部屋にも衣装室を用意致しました」
朝から確かに移動してドレスに着替えるのも面倒臭い。レティーシャグッジョブ。心の中で手を握り親指を立てた。
(まさかここ以外のドレス全てピンクじゃないでしょうね。後で確認しないとダメね)
マリアが扉を開けると昨日見た場所だった。昨日のように体が重くなったりしない。それがなぜか少し悲しい気持ちになった。
「マリアドレスはピンクしかないの?」
「公用のドレスはピンク以外にもあるにはあるのですが、日常用のドレスはほぼピンクですね······ですが、他の色も少しはございますし、濃いピンク以外にも薄いピンクや紫が混じった淡いピンクもございます!ドレス如何なさいますか?」
「じゃあ薄いピンクのドレスにするわ。あと日常用公用関係なしにピンク色のドレスはあらかた処分するわ」
「処分なさるのですか?」
「ええ。ドレスについてある宝石や貴重な物は取り外してから処分しましょう」
「畏まりました。ではこの椅子にお座り下さい。髪の毛のセットを致します。ドレスの件ですが、宝石など貴重な物が沢山ついていますので、処分に時間がかかるかもしれません。残ったドレスの処分はどう致しますか?」
「ドレスの残骸は燃やすわ。今日新しく来た侍従達は何人?」
「燃やされるのですね······」
「理由は聞かないの?」
「はい。何か理由があってされている事だと思いますし、皇女様のお気持ちを推し量るような無粋な真似は致しません。ただついて行くのみです!
お話していたら髪の毛のセット終わりましたね。皇女様の髪はいつ見ても美しくいらっしゃいますね。この髪色はお母様譲りなのですよ。黄金の瞳は皇帝陛下譲りですが、お顔立ちは本当にお母様にそっくりです。皇女様のお母様はあまりの美しさで、神の寵児とも巷で言われておりましたよ。もう一度お会いすることが出来るのであればお会いしたいです」
「私が綺麗なのはお母様譲りなのね。お母様はどんな方だったのか、また今度時間があったら聞かせてね。お腹が空いてきちゃった」
「はい!では食堂に向かいましょう〜」
マリアに手を繋がれて廊下に出た。私がどこにも行かないように心配されているようだ。
「皇女様さっきの侍従の件なのですが、新しく配属された人数は合計で約700人です。急遽人を集めたので今後はもっと増えていきますよ。家から通う人間も居ますが、基本は泊まり込みなのです。多いと思われますが、週7日のうち2日は必ずお休みなので、ここまで人数が膨れ上がるのです。皇城と皇帝宮に次いでここが3番目に大きい宮なので、これでも少ない方なのですよ」
「分かったわ。後でドレスをどうするか伝えるね」
「畏まりました。到着しました。ここが食堂です。皇女様は1番奥の上座がお席です」
2階に食堂はあった。期待を裏切らずやはり豪華だ。だが嫌な感じはしない。ピンクでないだけマシだろう。
「お食事が終わりましたら、皇女様の執務室にご案内致しますね。そこで皇女様のことやこの国のこと、この大陸のことをお教え致します。お食事が終わるまで、傍で控えております。何かございましたらお呼びください」
「じゃあマリア一緒に食事しましょう」
「いけません!皇女様と同じ場所で、しかも座って食事をするとは不敬になります」
「でもこんなに広いのに、誰とも一緒にご飯を食べられないなんて寂しいの」
「······では今日だけ、ご一緒させて頂きますね。ついでにテーブルマナーもお教え致します」
何十人も食事できるような長テーブルで、皇女は毎日1人で食事をしていたのだろうか。あのショッキングピンクを着る理由も何となく分かった気がした。
(でもそんな慣習とか私の前じゃ塵も同然よ。私が変えてみせるわ!)
「皇女様テーブルマナーが完璧です!素晴らしいです!体が覚えていらっしゃるのでしょうか?急に晩餐会に呼ばれても大丈夫ですね!」
「あっはっは。私天才かもしれないわ!」
(まあ三条恋詠の記憶があるからね······良かった。この世界とテーブルマナーが同じで)
笑って誤魔化すしかなかった。これからは下手なことは出来ない。気をつけないと。
食べていると少し残念な事があった。食事の味は日本までとは言わないが、美味しい分類に入る方だ。だが感動するほどでは無い。この世界のこの城しか見た事がないが、建築物は賞賛を送りたい程だ。だからこの世界の料理も美味しいであろうと期待していたがしすぎたのかもしれない。私の期待値を上回ることが出来なかった。改善の余地がここにもあった。
(まあ食事も後々考えましょう)
「ここが執務室です」
執務室の場所は1階にあった。
案内された執務室は見覚えがある。皇女の意識の中で見た皇帝の執務室と造りも非常に似ている。三階分を突き抜けた本棚。木がふんだんに使われている。
日本人だからか西洋風の部屋よりも木で作られた部屋の方が落ち着く。
「とても落ち着くわ。ん?マリアどうしたの?」
「!いえ。事故が起きる前の皇女様も同じことを仰られていたので驚いてしまって······」
「記憶を忘れても思うことは同じなはずよ」
焦って誤魔化した。中身が別人だということはまだバレてはいけない。マリアが本当に信頼における人物だと分かった時に私が皇女じゃないと伝えよう。今の段階では悟られてもダメだ。気を付けないといけない。
「あそこに座りましょう。私の事教えてくれる?」
「はい」
指差したのは来客用の椅子だ。ベッドもそうだが、あまり座り心地は良くない。少し硬いようだ。
私が座るとマリアは向かい側に座った。
「まずは皇女様のことについて··············」
この国の名は神聖アーステリア帝国。大陸一の規模を誇っている国だ。国土が大陸の3分の1以上を有しており。属国も多数ある。一番歴史がある古い国であり、国民の全員が魔力を持って生まれてくる(魔力に大小あり)。
皇女の名前は、レティーシャ・ディア・フォンベルク・レイ・ヴィルヘルム・アーステリア。
現在3歳。神聖アーステリア帝国の皇女。皇帝の実子で唯一の嫡女。魔力がないことが難点である。
現皇帝である皇女の父は、カイルス・ディス・フォンベルク・レイ・ユピテル・アーステリア。
現在20歳。歴代最強の強力な魔力を持っている。
どこかで知っているような聞いた事があるような名前だ。思い出すことが出来ない、ら
とにかく名前が長すぎる。覚えるのが大変だ。皇帝の歳は20か。若いなぁ······ってことは例の女は8歳だから12歳の時に出来た子ども?!若いなぁ。この世界の常識が分からないけどこれが普通なのかな?いや普通であって欲しくない······。
魔法がある世界なんだ!魔力がないってことは、私使えないのか。まぁ元から魔法のない世界に居たから、そこまで気にしなくても良いわね。
皇帝になり8年目。12歳の時に皇帝の父である前皇帝が、カイルスの母であった皇妃を寵愛したことに嫉妬した皇后が皇帝を殺害し、それで当時皇太子だった父が皇帝に即位した。
ちなみに前皇后は平民出身で、当時皇太子だった前皇帝と学生の頃から付き合っており恋愛結婚のようだ。
しかしその時の皇帝が結婚を許さなかった。結婚をしたいならと提示した条件で、カイルスの母であるルティアを第1側妃として娶ることになった。
「前皇帝殺されたの?しかも恋愛結婚までした皇后に」
「これは世紀のスキャンダルとして、今では劇になったりしていますよ。結婚された当初は大変仲睦まじかったようですが、皇后に子が出来ず側室を増やしていった事で、夫婦仲に少しずつ亀裂が入っていったのが原因の様です。最終的に48人も側妃が居らっしゃったんですよ」
「そんなに?!」
「はい。皇帝の一番重要な仕事が、子を作り次世代に繋げていくことと言われています。元々皇族には子が出来にくいと言われていて仕方なかった部分もあると思いますが、50年以上も子が出来なかったことが問題になっていたので···」
「皇帝がそれぐらいの妃を囲むことは普通なの?」
「いいえ。前皇帝の件が稀です。最近ではあまり側室を持ちません。割合の大多数を占める平民が一夫一婦制ですから。でも昔は皇族でも一夫一婦制だったんですよ。
あっ、皇女様安心して下さいね!陛下には側妃も妾もいらっしゃいません。
前皇帝の場合は子どもさえ生まれたら何でも良かった感じじゃないでしょうか?ですがやはり高位貴族を母に持つ子の方が、後々皇帝になった時にごちゃごちゃ言われませんしね」
「その皇帝に問題があったからじゃないの?」
「いえいえ。その後に第1側妃様が懐妊されまして、生まれきた子どもが皇家に代々受け継がれていた黄金眼持ちだったのです!
皇女様も黄金眼をお持ちなので珍しいとは思っておられないと思いますが、前皇帝もその前の皇帝も数千代遡っても黄金眼を持って生まれてくることはありませんでした。いつの間にか受け継がれなくなってしまっていたからです」
「この目の色ってそんなに珍しいの?!他にも居そうだけど」
「いえいえ、アーステリア皇家からしか生まれない特殊な目なのです。陛下は言わば先祖返りですね。そのおかげで第1側妃様が特例で皇妃となられて、前皇帝の名声も格段に上がったのです。それから顕著に皇妃様を寵愛するようになったのです」
「前皇帝の子どもは皇帝だけなの?」
「いいえ。異母姉弟がいらっしゃいます。第48側妃様がお産みになられた、陛下と同い年のシルロテ様と2つ年下のディラン様です。第48側妃様は南方にある今は滅んだ国の踊り子をされていた方で身分が高くないのです」
「でも皇帝の子どもでしょう?皇女とか皇子とか付けなくていいの?」
「シルロテ様とディラン様の立ち位置は、公的には私生児なのです。以前は系譜に入っておりましたが、現在は抹籍されていて系譜にも載っておりません。実際は皇族ではないのです。私生児の立ち位置は平民と同じですよで、実際は様をつける必要もありません」
この国の法で庶子や私生児には、家の財産も権利も一切与えないと記載がある。しかし庶子には敬称の義務と一部権利が付与される義務があるとされている。
「前に問題になったことがあったのでこの法律が出来たのです。1138代皇帝の時代の話です」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
当時海運業を生業にしていた侯爵家が、商売に失敗して多額の借金を負った事件があった。他国からこの国に海路で運んでいた船が沈没していまったという。
その船には貴重な物が大量に積まれていて、亡くなった乗組員への保証金や購入者への賠償金などで火の車になった。
さらに噂を聞いた人々が誰も注文しなくなり倒産してしまった。
「その時の侯爵が皇帝陛下に頭を下げ、借金の返済や支援金をくれと頼みに行ったのです。
最初は断っていた様なのですが、寵愛していた皇女がその侯爵家の次男が好きだったことが判明したので、借金をチャラにする代わりに次男を後継者とし皇女を嫁がせることにしたのです。侯爵は皇女が嫁ぐ家として位が低い。皇女が降嫁する祝いに公爵位を授けると仰ったのです」
(ちなみに現在では皇族が私欲で勝手に後継者をかえることは違法になっています)
だが問題が生じた。次男は第2夫人の子で庶子であり、半分は平民の血が混ざっていたからだ。侯爵は悩んだそうだが、この家が取り潰しになるよりマシで、何なら爵位が上がるという事で長男(嫡男)を後継者から外すことにした。
次男は母親似で見目だけは良かったが、女癖も悪く頭も良くなかった。長男の方はしっかりと勉強をしていたが、次男は女遊びばかりで勉強をしてこなかった。
このことで愛想を尽かした第1夫人が、長男を連れて家を出た。皇女と結婚した時の結納金の一部を慰謝料として、第1夫人と長男に渡した。言わば絶縁金だ。同じ家に居るのが気まずかったのかもしれない。
次男と皇女が結婚し、次男が後継者になって少しした頃、子どもを抱えた女が家に来て次男の子どもだと訴えてきた。調べると次男が過去にその女の人と関係を持っていたことが分かった。他にも愛人や一夜限りの相手や今現在も続いている女もいた。皇女が次男に問い詰めると、
「結婚前は仕方ないだろう。結婚前の子どもぐらい心優しいお前なら許してくれるだろう」
それからも次男の子だと言う女が現れても、皇女は静かに受け入れ続けた。それでも皇女との間に子どもが出来ることはなかった。
結婚して5年が過ぎたある日、妊娠中や生まれたばかりであろう子や、どう考えても結婚後に出来た子どもを連れた女が次男の子だと言ってきた。
皇女は結婚前に出来た子ならと仕方ないと許していたが、結婚後に関係を持ち生まれて来た子を、皇女は到底許すことが出来なかった。
皇女は次男に問い詰めた。
「あなたどういうことですか?!私は結婚前に出来た子なら致し方ないと認めていました。なのにこの仕打ちは何ですか?!」
「浮気は男の甲斐性だろ。俺はお前みたいな醜女となんか結婚なんてしたくなかったんだよ。結婚してやったんだそれぐらい我慢しろよ」
「その口の聞き方は何ですか?!私は皇女なのですよ!私が貴方を公爵にしてあげたのですよ!」
「元皇女様だろ?降家したからお前はもうこの家の人間だ!お前が大層な身分をお持ちだから、俺は他に嫁を娶れねぇんだよ。お前みたいな石女と結婚してやったんだ。感謝しろよ!」
次第に言い争いが絶えなくなった。
それでも次男の子だという女は途切れることはなかった。しまいには堂々と家に女を呼び、皇女の居場所は追いやられて行った。
次男の代わりに仕事をし、それなのに妾達から虐められる。とうとう我慢出来なくなった皇女は実家である皇家に帰り、父である皇帝を頼った。
話を聞き憤りを覚えた皇帝が家を取り潰し、約束を違えたとして違約金まで要求した。最終的に女の数は78人。子どもの数は認知した子どもだけでも50を越えていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「という事があり、この法が出来たのです」
当時の法では長子制度が導入されており、これを機に嫡子制度に変わった。皇族も長子制度だったが、そのせいで争いや殺し合いが頻繁に起きていた。元から継げないことが分かっていた方が揉めなくて済むと考えたからだ。
「でなぜシルロテ様とディラン様に敬称をつけないと言いますと······」
側妃から生まれた子は庶子、妾や愛人から生まれた子は私生児。庶子が嫡子になることはない。私生児もまた庶子にもなることすら出来ない。
※妾と愛人の違い
妾は公的で人々に認知されている
愛人は私的で人々に認知されていない
これは側妃妾愛人が妊娠や出産することで、他の妃や子を害さないように、また身分が上がらないように皇室法で定められている。
また同じ内容が帝国法にも定められている。
嫡子が居ない場合は別の嫡系から探すことになっている。探しても見つからない場合は庶子が継ぐことも可能。私生児にはその権利すら与えられない。
嫡子が死亡している場合、その嫡子に子が居る場合はその子に権利が行く。そのため基本は庶子が継ぐことはほぼない。実際にこの法が出来てから皇帝になった者は皆嫡子だった。
-----説明-----
・皇室の場合
皇后(正室):嫡子(嫡男嫡女)
第1側妃(側室):第1庶子
第2側妃(側室):第2庶子
第2側妃が先に子供を産んだとしても第1側妃に子どもが産まれたら第1側妃の子どもの方が順位は上(立場的な関係も)。嫡子が死んだ場合、子が居る場合は(嫡子に限る)子が継承順位1位。嫡子がそもそも産まれなかった場合、皇帝の系譜を遡り嫡子の子を探す。
皇帝に嫡子の兄弟姉妹が居る場合は当てはまる人が継承順位第1位。皇帝に嫡子の兄弟姉妹が居なくても、系譜を遡って連れてくる(基本高位貴族に嫡子が嫁(婿)に入るので他国に出ることはないのでそこは問題はありません)
・貴族の場合
第1夫人(正室):嫡子(嫡男嫡女)
第2夫人(側室):第1庶子
第3夫人(側室):第2庶子
基本は皇室と内容も同じ。敬称が違う。
嫡子が死んだ場合は、子どもが居たら(嫡子に限る)その子が継承する。居ない場合は遡る。
※嫡子が遡ることができるのは3代前まで。平民の血や他国の血が入っていないことが必須。3代より前だと血が薄くなっているから不可。
全ての戸籍が書かれている血籍大本という本がある設定です。分かりにくくてすみません。
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「最初に懐妊が判明したのは、当時妾だった第48側妃だったのです。城内がお祭りモードになったそうですよ。しかし他国の踊り子であったことが問題となりまして、この国の貴族の養女にと話が進んでおりました。ですがそれ以上の弊害がございました」
この国の皇室は他国の王族貴族から皇室に嫁いで来た場合でも、皇后には決してなることが出来ない。
また産まれた子は庶子であってたとしても私生児扱いになる。皇帝になる事は実質不可能。他国からの政治的介入を防ぐ為だ。この旨を皇室法で定められている。
「国内の貴族に手を挙げる者は1人も居ませんでした。特例が設けられたとしても産まれた子は庶子と決まっていましたので、貴族側にメリットが1つもなかったのです。
もう少しで出産ってなった時に、当時第1側妃だった皇妃様の妊娠が発覚しました。養女にして側妃にする件は空中分解しました」
しかも期待を背負って産まれてきた子は、魔力が平民並しかなく少なかった。
「やっぱり魔力って重要?」
「はい。この世界では特に魔法国家であるこの国ではとても重要です······」
(だからレティーシャは出来損ないって言われていたのね。と言うか何か知ってる気がするんだけど。何だっけ?思い出せない······)
「それからしばらくして皇妃様も出産されました。産まれて来た子の魔力が強大でしかも黄金眼持ちだったのです。
それで第1側妃様が皇妃となり、産まれてすぐのカイルス様は皇太子になられたのです。それを良く思わなかったのは妾でシルロテ様を出産したローラ・アマリエでした」
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ローラ・アマリエは幼少の頃から美しかった。
貧しい家の娘だったことが、彼女にとってはコンプレックスだった。ローラの美しさは近所では有名だった。
5歳の時に家が借金を抱え、そのカタとして奴隷商に売られた。だがローラは喜んだ。これで貧しい家から開放されると······。
巷で有名だった一座にローラは購入された。ローラは新たに踊り子という職を得た。以前よりも贅沢な暮らしが出来て満足していた。
しかし男達から貢がれる度に、今の生活が次第に満足出来なくなっていた。
「もっと私には華やかな生活の方が似合うわ」
踊り子として名声を上げ、さらに美貌は増していった7歳の時、座長から特別な仕事があるがするか?と聞かれた。その仕事をすると今以上に華やかな生活が送れると言われた。ローラは迷わず「する!」と答えた。
そんなある日、座長から貴族の男を紹介された。この方がお前の客だ。紹介された男は確かこの国の宰相だ。
いつものように踊っているだけで良いと言われ、いつもと違う部屋に連れて行かれ男と2人きりにされた。
ローラはおかしいと思いながらも、いつものように舞を披露した。
「やはりお前の舞は素晴らしい。私の上でも舞ってくれないか?」
男の上で踊らされた時、これが普通の舞では無いことぐらいは7歳のローラにでも分かった。父親よりも年上の男が必死そうに私を踊らしている。
ローラの中に愉悦感が生まれた。7歳のローラはその踊りの虜になってしまった。
その日から誰が見ても分かるぐらい生活の質が向上した。下手したら貴族よりも良い暮らしをしていた。
昼は華のように踊り夜は蝶のように舞う。幾つもの夜を舞い歩いた。
ローラは既にローラを買った金額以上のお金を稼ぎ財産も持っていた。だがローラは辞めなかった。ローラにとって踊り子は天職だった。
いつの間にかローラは一座の1番の売れっ子から、国1番の踊り子になっていた。その時まだローラは10歳だった。財産を手に入れ名声も手に入れた。だが地位だけ手に入れてなかった。それがローラには我慢ならなかった。
「私の地位が上がる方法はないかしら?」
それからも沢山の男と舞った。その頃ローラは夜の舞だけでは我慢出来なくなっていた。自分を奴隷商で買われたように、一緒に舞う奴隷を買ったりしていた。
朝起きて舞い昼も踊り夜も舞う。舞いたくなった時は、その辺で歩いていた男達とでも舞ったことさえあった。昼夜関係なく中外も関係なかった。それでも心を満たすことが出来なかった。
11歳になった頃、ローラは妊娠した。完璧に避妊していたはずなのにだ。ローラは最初の内は悩んだでいたが、次第に気にする事はなくなっていった。
ローラはそれすらも芸の肥やしにした。敢えて腹が見える過激な衣装を着用し、膨らみ始めた腹を揺らし舞った。
男達はさらにローラの虜になり、熱を上げた。
15歳になった頃、ローラはその国の王の愛人になった。王はいたくローラを気に入り寵愛をした。王の子も産んだ。今まで経験したことがないぐらい華やかな生活を体験した。だがその王が死に次の王が誕生すると、ローラは子どもと一緒に追い出された。
また踊り子の生活に戻った。ローラはローラと子を追い出した王家の人間に復讐を決意した。1度は手にした物を奪われた。許せなかった。
「私はもっと上を目指せる。こんなちっぽけな国なんかいらないわ。いつか私の子が王になって滅ぼしてやる。その時に私に許しを乞えばいいわ」
そう決意を固めた時から、沢山の人と舞った。ツテを獲得する為だ。他国に商売に来ていた男と舞った時情報をもらった。
「座長話があるの。次の公演場所はアーステリア帝国に行きましょう」
「確かにこの一座の名を世に知らしめる良い機会だと思うが······」
「ねぇ知ってる?アーステリア帝国の皇帝陛下には、子が1人もいらっしゃらないらしいの。ほら私は今までに13人も子を産んできたでしょう。私が皇帝の子を産んだらこの一座は、国一の一座から大陸一の一座になるわ」
ローラはそう言うと妖艶に笑い舞った。ローラは11歳から現在の25歳までに13人も子を産んでいた。さらに今も腹にも子がいる。今腹に宿ってる子の父親は座長だ。
「この子のためにもお願いよ」
ローラは腹を撫でながら言った。男は了承した。
それからアーステリア帝国の至る所で公演をした。ローラは妊娠しないように気を付けた。
だが今までとは違いアーステリア帝国で相手をした男は、皆男爵ぐらいまでの下級貴族や平民ばっかりだった。
「堕とす時が楽しみだわ」
遂にお忍びで来ていた皇帝の目に止まった。
今までローラが相手をしてきたどの男よりも目を見張った。端正な容姿に夜の舞も上手かった。ローラは皇帝に相手をされてからというもの、他の男との舞では満足出来なくなっていた。
「やっぱりあなたが欲しいわ」
皇帝と何度か舞を共にするうちに、妾にならないかと話を持ち掛けられた。ローラはすぐに了承した。
それからは早かった。遠くから見ていた巨大な城が目の前にあった。前に王の愛人をしていた城と比較ならない程大きい。あの国の首都が余裕で入る程の大きさの敷地で、1つの街と言っても過言ではない広さだ。
ローラは裏手の塀に囲まれた宮の一室に用意された部屋を使うことになった。そこは男子禁制の後宮と呼ばれる場所だ。
ローラは豪勢な部屋を見渡して、ここでも1番になれると思った。なぜなら妾がローラしか居なかったからだ。
だが、現実はそう上手くは行かなかった。
いつもならすぐに妊娠していたのに孕む気配すらない。しかもこの後宮でのローラの地位は1番下っ端だった。後から分かったのだが、ローラ以外の者は皆側妃だった。
ローラが手にしたくても手に入れられなかった身分を持った女達が上に居た。この部屋以上に豪勢な部屋を持ち、さらに上の人間は宮をまるまる1つ持っていた。
お茶会や集まりが合っても妾だからという理由で呼ばれなかった。間違いなく今の寵妃は私のはずなのにだ。
呼ばれない理由は週に3回はこの部屋で、皇帝と私は舞っているからだとローラは思った。
私がこの後宮でこの国でこの世界で1番美しいのだ。そんな私に高貴な女達が嫉妬しているのだ。ローラは面白くなりほくそ笑んだ。
後宮に来てから1年が過ぎた時、ローラは待ちに待った妊娠をした。正真正銘皇帝の子だ。城内がお祭りモードになり、毎日皇帝はローラの元を訪れた。
「ねぇそこの女」
「私でしょうか?」
「そうよ。陛下は今何処に居らっしゃるの?今日1度も来られてないじゃない」
「皇帝陛下は、側妃様の所を訪れております」
膝を床につけ答えた侍女は震えていた。ローラは手に持っていたロックグラスを投げつけた。
「ローラの体調が良くないの。そう言って今すぐに陛下を呼んできて!」
「無理です!もう側妃様の元でお休みになられています!」
「私が妾だからなめているのね!私は皇帝の子を妊娠しているのよ!次の皇太子を妊娠しているのよ!」
ローラは他に子どもが居ないから、自分の子が皇帝になると考えていた。この国は女でも皇帝になれることを知っている。性別はこの国では関係ないのだ。
「そっその、申し上げにくいのですが、ローラ様がお産みになった子は、皇太子にましてや皇帝になることは出来ません」
「どういうこと?!分かるように説明して!」
「この国の法で妾の子は私生児という扱いになります。皇族の系譜には載りますがが、私生児は平民の扱いになるので決して皇太子になることが出来ないのです。
嫡子のみ次の皇帝になる資格が与えられます。私生児には敬称と一切の権利もございません」
「もっと分かりやすく言いなさいよ!」
「つ、つまりローラ様の子は正確には皇族ではありません。産まれた子が男女関係なく一切の身分や権利を持ちません。平民と一緒です」
ローラはこの国の法を詳しく理解していなかった。ローラは自分の産んだ子が皇帝になれると信じていた。信じ切っていた。裏切られた気がした。
「この子を皇族にすることは出来るの?」
「子を宿したことが判明する前に側妃になっておれば、お腹の子は庶子という扱いにはなれたのですが、後から側妃になったとしても今宿されている子は私生児のままなのです。
もしローラ様がが皇后になられたとしても、嫡子には決してなることが出来ません。それ以前にローラ様は他国の出身なので、ローラ様が側妃であったとしても私生児扱いになるのです。特例がない限りは庶子にもなれません。これはローラ様だけではなく他国出身の妃は皇后にはなれません。事実第48側妃様は隣国の嫡王女でいらっしゃいますが、後宮ではこの国の出身である下級貴族の妃様方より身分が低いのです。他の国であれば皇后になられてもおかしくない身分なのですが······」
その隣国の嫡王女よりもローラは身分が低いのだ。他の側妃達が寵愛される私を見ても何も言わなかったのは、妊娠しても意味が無い事を知っていたからだ。
私が笑っているつもりが、あの女達が私を見て笑っていたのだ。ローラは許せなかった。
「出ていって!」
「皇帝陛下をお呼びする件は······」
「もういいから出て行って!――――――待って!あんたこれから後宮で集まりとかあったら、私に絶対報告しなさい。良いわね」
ローラはどうすればいいか分からなかった。一日にして勝者と敗者両方を味わった気分だ。朝方まで考えても結局答えを出すことが出来なかった。
それからも皇帝の来訪は減ったが寵愛されていた。皇帝は初めて出来た自分の子を喜んでいるようだ。
「ローラ様、今日の午後2時から皇后様から側妃様全員が集まる茶会が開かれるとのことです」
「分かったわ。ドレス用意なさい。あと庭園を一緒にお散歩しましょう。胎教に良いようです。午後2時前に迎えに来てと陛下に伝えて」
それから膨らんだ腹を見せる様にピッタリとした艶やかなドレスに着替えた。
皇帝が午後2時前に迎えに来て、胸を押し付けるように引っ付いて歩いた。
「その女は妊娠したという妾ですか?」
ローラよりも容姿の劣った女が向こうから歩いてきた。それなのにローラよりいい衣装を着ている。
「この方はどなたですか〜?陛下」
「皇后だ。覚えておきなさい」
「皇后さま〜。妊娠しているので頭を下げることが出来ないのです〜。許しくださいね。陛下、ローラは疲れてきました。向こうで休みませんか〜?」
「ああそうしよう。腹の子に障ってはいけないからな。ではもう行く皇后よ」
(あのような不細工な女が後宮の長だなんて、やっぱり私がここでも1番美しいんだわ。勝ったも同然ね)
歩いて行くと開けた場所に出た。
ローラは驚愕で目を見開いた。そこに居る側妃達は皆ローラよりも数段いや格段も美しかったのだ。そこに座ればローラは花ではなく、まるでそこら辺に生えている雑草のようだ。
「両陛下におかれまして、ご機嫌麗しゅうございます」
皆が椅子から立ち挨拶した。皆はまるでローラがその場に居ないかのような対応をした。
「面を上げよ。今日は茶会か?」
「はい。陛下、私が招集をかけました」
「皇后がか?珍しいこともあるものだな。皇后も座りなさい」
皇后が上座に座ると側妃も続いて座った。
「へいか〜。ローラは疲れてしまいましたわ。でも悲しいです。私に席が用意されていないようです······」
ローラはいかにも傷ついているという顔をした。
皇帝は困った顔をして、傍に控えている侍従に用意してやりなさいと指示を出した。しかし椅子が用意された場所は外れで、女達からは離れていた。
「ここに座ることが出来るのは妃の位を賜ってからです。立場を乱用せぬように重々弁えなさい」
皇后の隣に座っているその場で1番綺麗な女が、偉そうにも私に口答えしてきた。
ローラの存在を無視するかの如く茶会が始まった。ローラはお腹が痛いと言ったり駄々を捏ねたり皇帝とくっ付いている所を見せたりしたが、皇后と以下数名の側妃以外は顔色1つ変えなかった。
「お開きの前に私から1つございます。今朝懐妊したことが判明しました」
ローラはまたも驚愕した。私に口答えをしてきた女が、皇帝の子を身ごもったと告げたからだ。
ローラは今まで感じたことない焦燥に苛まれた。今まで唯一皇帝の子を宿した女から位が下がったからだ。ローラはすぐに皇帝の顔を見た。皇帝が今までローラにも向けたことのない表情をしていた。
皇帝はもう私のことを見てもいなかった。私の手を振り払い、その女の元に駆け出した。
「なんとめでたいのだ!安静にせよ」
それから私が出産するまでの間、皇帝がローラの部屋に来ることはなかった。その女の部屋に毎日入り浸っていると侍女から聞いた。今から絵本を読み聞かせたり、ローラの腹の子にはしなかった事をあの女の子にはしているのだ。
ローラはついに子ども出産した。ローラが産んだ子は女の子だった。魔力もこの国の平民以下だった。
皇帝は出産した後に1回娘に会いに来て、名前だけ付けてそれから来ることはなかった。名前も考える素振りもせずにシルロテと名付けた。
その時ローラは悟った。ローラという人間は皇帝にとって物珍しがっただけなのだと。綺麗な華を相手する時間潰しに、隣に咲いている草花に手を出しただけなのだと。
ローラはあの手この手で皇帝を呼ぼうとしたが、結局皇帝が訪れることはなかった。
侍女が急いで部屋に入ってきた。
「ノックぐらいしなさいよ」
「緊急事態なのです。第1側妃様が産んだ男の子が黄金眼を持って生まれてきました!先祖返りのようです。黄金眼が受け継がれなくなってから初の出来事でして、発令が出て第1側妃様は特例で皇妃となり、産まれた子が嫡子となりました!皇太子になったのです!」
この国の直系の皇族にのみ伝わっていたとされる、今は決してお目にかかることが出来ない黄金眼がよりによって生まれたのだ。私の子ではなく、忌々しいあの女の子として。それに生まれた段階で既に皇帝の魔力を上回っていた。
その子はカイルスと名付けられた。皇帝が三日三晩考えて名付けたと聞いた。
生まれてから何ヶ月も経っているのに、城内や城外もお祭り騒ぎだ。私の子がシルロテが産まれた時には何も無かったのにだ。私の子が得られなかった座を身分を持ったカイルスと、カイルスを産んだ忌々しい女をさらに憎むようになった。
それから毎日ローラの国で言い伝えられている呪いを唱え続けた。結果が結ぶことはなかった。けれどローラは毎日欠かさず続けた。
ローラはカイルスの生後1年の誕生祭にも呼ばれなかった。ローラの子にはそんなパーティを開いてはくれなかった。
ローラは思った。私がもう1人子を産んでその子が黄金眼だったなら、私の子が皇太子になり私が皇太后になれる。
(この国でいや大陸で1番の権力を持つ女になれる。私がこれから頭を下げる必要もなくなるわ)
出産してからもうすぐ2年が経つ頃、皇帝に手紙を送った。
"陛下の初子がもうすぐ2歳を迎えます。シルロテが父親の顔を見たいとぐずります。お誕生日を祝いに来てください"。
ローラは座長のツテで、強力な呪いが付与された媚薬を用意した。
皇帝が訪れなくなってから、子が出来やすくなる薬を飲んだり排卵日の計算をして妊娠しやすい日を調べたり、子が確実に作れるように色々な国で語り継がれている民間療法など、毎日欠かすことなくこの日のために準備してきた。
「この媚薬を飲めば······陛下と私は三日三晩いえ1週間は舞い続けられるわ。もうすぐここに子が宿るのね」
子が産まれてからローラはずっと1人で舞っていた。久しぶりに皇帝と舞えることを想像すると体が火照ってきた。体が勝手に受け入れる準備をはじめたのだ。
シルロテの誕生日会をする日は皇帝の夏の休暇の2日目だ。子を確実にするために、1日よりも何日も舞った方が良い。ローラは楽しみで仕方がなかった。
用意して貰った媚薬はローラの国で禁忌とされている薬だ。錬金術師が何年も掛けて作るこの薬はローラの国の最高傑作だ。毒の検査をされても何にも反応も出ない、無味無臭の媚薬だ。
その媚薬は対になっており、もう片方を妊娠する方つまりローラが飲むと妊娠確率がぐっと上がる。それを用意するために、ローラを追い出したローラが産んだ子の異母兄の王に手紙を出した。
王はこの国出身の母を持つアーステリア皇帝が誕生すると喜び、すぐに座長経由で届けさせた。
「石女と呼ばれた王妃が、これを王に飲ませ晴れて妊娠したという妙薬。でもあの王も馬鹿ね。私の子が皇帝になったらお前の国を真っ先に滅ぼすのに······。裏で操ろうとしても無駄よ」
それとこの国の裏で出回っている、子の魔力を上げる薬も並行で飲んできた。準備は万全だ。
「陛下。この度はシルロテの誕生日会に来て下さりありがとうございます〜」
「ちちうえなのですか?わたくしのなまえはシルロテです。あいたかったです」
「シルロテか。大きくなったな。健やかそうで何よりだ」
「シルロテも喜んでおりますわ。さあ陛下あちらにお座りになって。始めましょう。楽しい宴を」
それから皇帝と無我夢中で舞い続けて3日が経った。
媚薬が入ったワインを皇帝が飲んだ。遅延性だから全部飲めるはずだ。私も薬が入ったワインを煽った。
会が始まり2時間程だった頃、皇帝に変化が訪れた。私はそれを見て笑った。皇帝はシルロテと話をしているが、少し注意が散漫になって来ている。
「あら、もうこんな時間ね。シルロテ、お風呂入ったりしていたら就眠時間を越えてしまうわ。もうここでお開きにしましょう」
「ははうえ、まだちちうえといたいのです!私がおふろにはいっているあいだにかえっちゃう!」
「母がお風呂が終わるまで、父上に居て貰えるようにお願いします。だから入ってきなさい」
「そうしなさい。子どもが遅くまで起きていては体に悪いからな」
「ほら父上もそう仰られているから行ってきなさい」
侍女に連れられてシルロテが部屋から出て行った。この部屋からシルロテが出て行ったら、誰も入ってこないように指示をしてある。
(ごめんなさいねシルロテ。あなたの代わりにこの母があなたの父上と楽しむわ。あなたも母に感謝する日が必ず来るわ。あなたがもし好きな人が出来て結婚したくなった時、皇帝の私生児よりも皇帝の実姉の方がいいでしょう?だから今日は我慢してね)
「陛下どうなされたのですか〜?お顔が紅くなられているようで」
ローラも早く受け入れたくて仕方がない。だが、おくびにも出してはいけない。
皇帝に近付き、肌に触れた。皇帝の息が荒い。もうすぐ堕ちる。わざと胸が見えるように誘惑した。この日の為だけに作ったドレスだ。
皇帝が我慢しきれず、ローラをベッドに押し倒した。そこからなし崩しに皇帝と舞った。
それからは睡眠も取らずに舞い続けた。
腹をただ満たすだけの食事と排泄の時以外の全ての時間を皇帝と一緒に舞っている。
この部屋の思い出が全て塗り替えられる程強烈だった。
誕生会から4日経ち、皇帝が正気に戻った。一週間以上と聞いていたが、毒耐性があったからなのか4日だった。
「へいか、もう行ってしまうのですか〜?」
ローラの声を無視し、皇帝は部屋を出て行った。
だがローラは高揚していた。腹に子が宿っているという確信めいたものを感じたからだ。
「ねえ、私の赤ちゃん」
侍女が入ってくるまで、お腹を撫で続けた。
3日に1度妊娠検査薬で測り、魔力が上がる薬を飲み続けた。何とか皇帝に側妃にして貰えないか打診する手紙を出したり、会いたいと伝えたが皇帝からは返事か帰ってくることは無かった。誕生会から1ヶ月後妊娠が判明した。
「妊娠してることがバレる訳にはいかないわ。私はまだ側妃になっていないもの。何とかしないと······」
あの日のことを皇帝がおかしいと思ったのかもしれない。その日から腹巻をし、お腹を目立ちにくくした。だが健闘虚しく妊娠がバレた。
それなのにあんなに準備して産まれて来た子は、黄金眼を持って生まれて来なかった。魔力は下級貴族よりかはあったようだが、上位貴族に遠く及ばなかった。
とうとう子が産まれてきた日に皇帝は来ず、使者に名前を書いた紙を持ってこさせた。"ディラン"という名だ。シルロテより良い名だ。皇帝の子を2人産んだ功績として、繰り上がりで空白になっていた第48側妃に任するという旨を書いた任命書も貰った。だが、妾宮からの妃宮に移動はなかった。
(もしディランを上手く育てられたら、もう一度皇帝が来てくれるかもしれないわ。まだあの媚薬の残りがあったはず。もう一度1からやり直したらいいわ)
「ローラ様、もう一度言ってください。ご子息の名前はディランなのですか?」
「ええそうよ。いい名前でしょう。陛下が一生懸命考えてくれたのよ。しかも側妃になったのよ。この子が産まれてから幸運ばっかりだわ。ところで顔色が悪いけど何かあったの?」
「ローラ様はこの国出身ではないので、知らなかったのですね······。この国ではディランという名は平民でも付けられません。ディランと言う名は私生児に付けられることが多い名です。ディランの花はご存知ですか?雑草の花です。意味は······」
衝撃だった。皇帝は何も考えていなかったのだ。ディランと名を与えた段階で"この子は決して皇帝になることも、ましてや皇族にもなることもない"という烙印を名に付けたのだ。
前皇帝もその前も法が作られたあと、私生児に付けられた名前は皆ディランだった。それから貴族達も真似るように私生児にはディランと名付けた。
せめて意味がまともならよかった。だが、ディランの花の意味は何者にもなれないもの。卑しいもの。そこら辺に生えている雑草。全てが悪い意味でしかなかった。ディラン=卑しい私生児となる。平民にさえ疎まれる。そんな分かりやすい厭われる名を私の子に付けたのだ。
「この屈辱倍にして返してやるわ!」
それからローラは黒魔術に傾倒していった。怪しげな人形も札も集めたし、自分自身で祭壇を作ったりもした。毎日呪言を祭壇の前で唱えた。
数年が経ったある頃。
「ローラ様、お聞きになられましたか?皇太子殿下が病で倒れられたようです。侍女に聞ききましたら、神官を大勢呼んでいるらしく呪われたようだと噂されています」
ローラは初めて聞きましたって顔で驚いて見せた。表情とは裏腹に心は笑っていた。効果が出てきたのを喜んだ。さらに黒魔術に傾倒して行った。
「お前がローラ・アマリエか。禁忌とされている黒魔術を使った疑いが掛けられている。ここを調査させてもらう」
急に数十人の武装した兵達が、この妾宮を調査しに来た。どうしてバレたのか分からなかった。誰にも見つからないようにしていたのに。
「中隊長、見つけました!祭壇があります!他にも禍々しいものが多数発見されました」
「ローラ・アマリエお前を連行する。ここに戻って来れると思うな。他にもあるかもしれない。調査を続けよ。ここにいるもの全員牢に連れて行け。事情聴取をする」
ローラは終わったと絶望した。罪人のように手錠をつけられ兵に取り囲まれた。
連れてこられた場所は薄汚い場所だった。
「私は陛下の寵妃なのよ!子どもだって2人産んでるの!この私にこんなことをするなんて覚えて起きなさい!」
「騒がしい。押さえろ。何か勘違いしているな。哀れな女だな」
兵に机に押さえつけられた。今まで男にこんな扱いを受けたことがなかった。
「私が哀れな女?!どういうことよ!」
「それすらも分からないのか······頭がが足りていないな」
「この私に向かってその口答えは何なのよ!陛下に言ってお前を処罰して貰うわ!」
「残念だが、その陛下からお前に対する取り調べの許可を貰っている。吐かなければ拷問してでも吐かせろと」
この男が何を言っているのか、ローラには意味が分からなかった。皇帝が許可した?この私に拷問を?
「お前には容疑がかけられている。他に余罪がないかも調べる。今お前が吐かなければ拷問をする。半日の猶予をやろう。言いたくなったら言え」
中隊長と呼ばれた男は言い終えると、「この女が吐くと言ったら呼べ。また後で来る」部屋に兵士を数人置き出て行った。
「待って!あなたと2人っきりにしてくれたら全て話すわ」
中隊長の男は格好良かった。皇帝より身分は下がるが新たな寄生先には持ってこいだ。
「お前達は出て行きなさい。すぐ部屋に入って来れるように扉前で待機せよ」
部屋にいた兵士達は敬礼をして部屋を出て行った。
「どういう魂胆だ」
「あなたの2人っきりになりたかったからそう言っただけよ。魂胆なんてないわ」
「さっさと吐け」
「見て、私の躰を。こんな野暮ったい部屋じゃ雰囲気がないけれど、あなたと一緒に舞いたいわ」
ローラは着ていた服を全て脱ぎ下着姿になった。
後宮に入ってから皇帝以外の男と舞っていない。ましてやディランが産まれてからは1度も。
この部屋にはローラ以外全員が男だった。腹の奥が熱情に濡れた。
「全部脱がないのか?」
「ええ!」
ローラは捕まえられていることを忘れ、踊りながら衣服を脱ぎ去った。
すでに期待で濡れており、受け入れる準備はとうに出来ていた。
「来て、私と一緒に舞いましょう」
恍惚とした表情を浮かべ、机に寝転び足と手を広げた。
「······やはり脳のない女だ。お前は自分が美しいと思っているようだが、お前みたいな阿婆擦れで歳を食ったBBAが綺麗な訳ないだろう」
「?!」
ローラは怒りで目を見開いた。この私が自ら誘惑ってやったのに、この男はローラを無下にし貶めた。
「この国ではお前のような学のない女など平民にもいない。居るとすればスラム街の奴らか奴隷だけだ。
皇帝陛下が仰っていたぞ。お前は皇后陛下と似ているが、皇后陛下の代わりにもならなかったとな」
「あんなブス女とこの私を一緒にするなんて!!」
「確かに若い時はこの国の平民ぐらいの容姿はあっただろうが、お前は今何歳だ?」
「私は······」
ローラがこの国に来て既に10年が経ち、いつのまにか35歳になっていた。
「お前は学がないから知らないだろうが、この国の寿命は他の国とは違い、平均300歳だ。昔の方が長寿だったようだかな。さらに皇族ともなればもっと長く生きられる。両陛下は今年で80歳だ。また死ぬまで老けることはない。
お前らのような下賎な国の者達と違ってな。この国は神の国なのだ」
ローラは思い返していた。ここ10年皇帝の容姿が変わったことも衰えたことも一度も見たことがなかった。まるで10代半ばの容姿で時を止めたかのようだった。
それに比べてローラは沢山子どもを産んだせいか体型も若い時とは違い衰えており、あんなに自慢だった容姿でさえも翳りを見せていた。
後宮にいるどの女達よりもローラが歳をとっていた。他国から来た王女は元からローラよりも年齢が若かった。
ここではローラの自慢だった若さと美しさは通用しなかった。ここから生きて出れたとしてもローラには何も残っていない。問題を起こした者を一座に受け入れてはくれないだろうし、アーステリア帝国に睨まれたくないからといってどの国もローラを受け入れてくれないだろう。
踊り子に戻ったとして今まで通りの生活は送れず、昔の生活に戻ってしまうだけだ。せめて子どもだけでも生きていたら、子どもの子孫たちがもしかしたら皇帝になる日が来るかもしれない。
その時にこのローラ・アマリエの名が大陸中に広まるのだ。皇太子を黒魔術で呪った女ではなく、皇帝の生みの母としてローラの名前が載る。
ローラは決意を固めた。
「私が産んだ2人の子どもの命だけはどうかお救い下さい!この通りです。お願いします!ですが、私は罠に嵌められました!冤罪です!皇帝陛下の子を2人も産んだ私を妬んだ誰かが陥れたのです!」
「この場に及んでなお、罪を認めないのか······例の女を連れてこい」
連れてこられた女は、私の侍女をしていた女だった。私がここで一番信用していた侍女だった。
「お前私を裏切ったのね!私から金銭類を欲しがっておいて!」
「それについては本当に感謝しています。ローラ様は私を妹のように接してくれましたから。······ですが祭壇で祈っていたローラ様を見てしまった時、私は恐ろしくなりました!黒魔術で皇太子殿下を呪うなど······」
「こんな所に裏切り者が居たとわね。ええ、そうよ。私があの忌々しい女の忌々しい子を呪ってやったのよ!私の子が手にするはずだった皇太子の座を黄金眼を奪っておいて、のうのうと生きてるなんて許せるはずないじゃない!」
「たかがそんな理由で皇太子殿下を呪うだなんて正気ではありません······」
「つまらん理由だな」
「たかが?私には重要だったのよ!お前たちが私をこうしたのよ!」
「罪を吐いた。この女を牢獄に連れて行け」
ローラは兵士から部屋から連れ出されても叫び続けた。目をひんむき昔大陸一の踊り子と言われた容姿は見る影もなかった。
それから何日経ったのかローラには分からなかった。
1日1食だけしか用意されず、お風呂も入ることも出来なかった。
そんなある日、兵士が来て私を牢獄から出した外に出した。
「やっとこんな窮屈な汚い檻から開放されたわ。あなた達私にこんな扱いしたことを覚えておきなさい」
兵士達はクスクス笑っていた。私を尋問した中隊長が来た。
「お前はやはり脳がない女だな。お前はこれから死刑だ。王都の広場で皆の前で処刑されるのだ」
「そんなはずないわ!私は皇帝の子を産んだのよ!そんな私を「陛下がお前を死刑にすることを決められた」」
被せるように男が言った。
「お前の望みを伝えておいたぞ。皇帝陛下との間の2人の子を生かせてほしいと言っていただろう。お前の望みを叶えて下さるようだ。大臣達は殺すように言ったらしいがな」
良かっただろうとでも言いたげな満足そうな顔で中隊長はローラを見た。ローラは絶望に顔を染めた。
「死ぬなんて嫌よ!いや!いやー!この手を離せ!私は側妃なのよ!陛下の寵妃なの!お前ごときが触れてもいい者ではないのよ!」
ローラは喚き出し暴れた。その顔を醜く曲がっていた。
「言い忘れたことがあった。皇帝陛下との2人の子以外のお前が産んだ子どもは皆刑に処されたぞ。あの一座の連中もな。
あとお前の祖国も滅ぼされて今はない。あの国の王族は否応なく処刑された。あの国の者達は貴賎関係なく皆奴隷だ。そんなお前に行くところがあるのか?それからシルロテとディランは皇族の戸籍から抹籍することが決まった。
これが子どもを生かす条件だ。生かしてもらえるだけでも感謝しろ」
「はっ?!」
ローラは唖然とし声が出なかった。未来の皇帝の生みの母にもなる夢も潰えたのだ。抹籍されるともう皇族に戻ることは不可能だ。
「だから安心して逝くと良い。暴れるようなら引き摺ってでも連れて行け。どっちみち処刑だ。これ以上暴れるようなら足を折っても良いし、腱を切っても良い。されたくなければ暴れぬことだな」
「分かったわ······。最後のお願いがあるの。身だしなみを整えたいの」
「そこまで聞く必要は無い」
皇帝の前だけでも美しい姿で居たかった。そうすれば皇帝は私を忘れなくなる。憎しみででも私を覚えておいて貰える。
いつの間にかローラは自分さえ気付かぬうちに、皇帝のことが好きになっていたのだ。
だがローラの最後の願いが叶うことはなかった。
広場に輸送され処刑台にのらされた。
前を見たら皇帝がローラを睨んでいた。その隣には皇后ではなく、ローラを蔑んだ忌々しい女が立っていた。
どちらにせよ呪いを解くことはほぼ不可能に近いだろう。お前の子はこの私と一緒に死ぬ運命にあるのだ。
笑った。声を上げて笑った。
今まで以上に胸がすく思いで今まで以上に最高な瞬間だった。あちこちで「狂ってる」「体を売るだけしか脳がない売女」など悪口が飛び交った。
だがローラはひたすら笑い続けた。面白かったのだ。その場にいる全員がローラを見ている。人々から注目されている優越感に浸った。
「刑を執行する。準備せよ」
ローラを押さえ付け板を嵌めた。
だがローラはそっちのけで、人から見られる視線に躰が疼いていた。ローラはこれが自分の最後の舞台だと思うと興奮した。今まで以上に高揚した。ローラは死を目前にし心が可笑しくなっていた。
「カイルスは私がお腹を痛めて産んだ子よ!お前が皇妃になる為に私からカイルスを奪ったのよ!」
ローラは意味が分からないことを口走った。狂ったように口を開け大笑いした。
広場に集まった民達は気味が悪そうな目でローラを見た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「でローラ・アマリエは処刑されたのです。私のお母さんも見てたらしいのですが、物凄く気味が悪かったと言っていました」
「それで皇族じゃなくなって平民になったから敬称なしで呼ぶのね······。でもマリアは様付けで呼んでるじゃない?」
「それは後継者が途絶えて廃家になる予定だった、ミュンゼン公爵家に養子に入ったからです」
「ミュンゼン公爵家?」
「はいそうです。ミュンゼン公爵家はほぼ名ばかりの公爵家と言われていて、その時の公爵が亡くなったら潰れていた家なのです。そのミュンゼン公爵も曰く付きでして·····」
「曰く付き?」
「前ミュンゼン公爵の第5夫人の子なのですが、妊娠が発覚してから夫人にしたと巷で噂されております。しかも第5夫人は平民のしかも娼婦の方でしたので、ミュンゼン公爵と血の繋がりがないとも」
「でも遡って嫡子を又は庶子をって法では決まってるんじゃ?」
「嫡子も庶子も居なくて廃家寸前だった様です。居ないというのは語弊ですが、誰も継ぎたがらなかったのです。
ミュンゼン公爵には子が1人もできず、寝たきりの状態だった様です。そこにシルロテ様とディラン様が養子に入り廃家にならないようにしたのです」
「でも犯罪人の子どもよね。公爵の地位をあげなくても良かった気がするけど」
「ミュンゼン公爵には誰もなりたくないのです。前ミュンゼン公爵もギリギリ庶子のような感じでしたし、5代も前からそういう状態が続いていたようです。
ミュンゼン公爵=私生児かもっていう印象が根付いているので、ディラン様も公爵の身分はあれどあくまで私生児でしかないとなさりたかったのではないかなと思います。
私もこのことは疑問に思っていました。何故公爵にしたのかは今となっては分かりませんが」
「へぇ〜」
(権力を握ることを出来ないようにしたかったのね。皇帝はディランとシルロテを社会的に潰したかったのかも。死ぬよりも苦痛そうだもの。だから生かしたのかも)
「はいですが、皇女様は嫡子ですから何の問題もございませんよ!」
「沢山話したら喉が渇いたわ。飲み物持ってきてくれる?」
「畏まりました。持って来ますのでしばらくお待ち下さい」
マリアは部屋を後にした。緊張していたのか体から力が抜けた。
「レティーシャ、カイルス、ソフィーアってどこかで絶対聞いたことある名前なのよね······。どこかしら?」
うーんと頭を捻った。この世界ではなく日本で聞いた事がある気がした。ふと頭に兄の声がした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「恋詠。子会社がさ乙女ゲームを発売するみたいなんだよね。名前はなんとファンタジアパラダイス〜魔法と剣の世界〜通称ワルパラって言うんだって。発売前だけどお試しにって貰ってるから、恋詠試してみてよ」
「ダサい名前ね。これ売れるの?」
「最近乙女ゲームが流行ってるから、流行りに乗っかったみたいだよ。試してみてって渡されたけど、ほら俺忙しいじゃん?恋詠が代わりにやってよ。で感想聞かせてね。宜しく〜」
手を振りながら例の物を置いて部屋から出て行った。残された道はこの乙女ゲームをやるしかほかない。
「はぁ〜。こんなの苦手なのになぁ。でもやるしかない。仕事だと思えば大丈夫なはず。私頑張れ!」
ガッツポーズをし気合を入れて乙女ゲームに取り掛かった。表紙と同じようにファンタジーな世界のようだ。流行りに乗った割にしっかりと出来ている気がする。
「ヒロインの子可愛いけど、悪役のレティーシャの方が美人なのよね。まぁ優しくて才能もあって賢くて美人だなんて現実味ないからなぁ〜。レティーシャがずば抜けて美人なだけかもしれないけど。まぁ私もそれなりに財力も合わせて完璧だけど」
ヒロインのソフィーアは皇帝の庶子だ。当時皇太子だった皇帝と母親は学園の学生の時に付き合っていて、将来を誓いあった仲だった。
しかし母親が妊娠したことを告げようとしたが、皇帝が亡くなったりバタバタしてる間に伝えそびれて結局告げることが出来ないまま学園を退学した。
実家からも追い出され外で子を出産した。
それ以降皇帝に会うことは叶わなかった。
ソフィーアが4歳の時に、親友であったシルロテ子爵夫人を頼ることにした。優しい子爵夫婦はソフィーアを自分の養女にして育てた。
それから7歳まではセルド家で育ち、8歳からは後宮で生活している。
「前座が暗すぎる······何がファンタジアパラダイスよ。リアリティパラダイスの間違いじゃないの?」
レティーシャの誕生会で、皇帝がソフィーアを第1皇女にする旨を発表した。
「わざわざ誕生会で発表する意味ある?意味分からん······」
ソフィーアは第1皇女になり名前も変わった。
ソフィーアは性格も良く皆と仲が良かった。だがそれを妬んだレティーシャがソフィーアを虐めた。周りの人達は魔力を持っているソフィーアに嫉妬したレティーシャの八つ当たりと認識しされていた。
その為皆からレティーシャは嫌われていて、実父の皇帝にさえ嫌われていた。
「ここまでソフィーアがよく思われてるの何かムズムズするな〜」
恋詠はソフィーアに共感することが出来なかった。どこまで行っても健気で優しくて天使のようだからだ。あとはお金の世界には優しさ何か要らないからだ。
「こんな善に極振りした女なんかいる訳ないじゃん。作った人絶対理想詰め込んだな。こういう女は大概腹に一物があるパターンがほとんどなのに、男はこういう女本当に好きよね。レティーシャの方が分かりやすくて人間味があって、私はレティーシャの方が好きだなぁ」
ソフィーアと男主人公達の好感度を上げなくてはならない。選択肢でルートが変わったり、上手く行けば逆ハーレムルートになる。逆ハーレムルートは高難度らしい。
「まあ適当でいっか。お菓子取ってこよ〜」
ソフィーアは沢山の困難に立ち向かって解決して行った。それに比べレティーシャは魔力はなく、勉学と美貌以外に取り柄がなかった。性格は壊滅的で他の生徒を虐めていた。
次第にはレティーシャよりもソフィーアの方が皇太子に相応しいとまで言われるようになった。
「何が「私は皇太子になど相応しくありません」よ。絶対自分の方が皇太子に相応しいって思ってんじゃん」
進めていくうちにゲームをするのが楽しくなっていった。相変わらずヒロインは嫌いだが、レティーシャ見たさで続けていた。
「やっほ〜恋詠。乙女ゲーム面白い?一昨日発売だったけどさ、めっちゃ売れてるんだよね」
「良かったじゃない!結構面白いよ。ヒロインがいい子すぎて嫌いだけど。周りの男主人公達も何か物足りないのよね······。まあ売れてるなら私の心配は無駄かもね」
「······恋詠がそう言っているなら、これに問題が起きるかもしれないね。念の為に対策を父に提案しとくよ」
「兄様無理しないでね。また感想言うね」
兄は一瞬深刻そうな顔をしてリビングを離れた。
そりゃ心配にもなるはずだ。なぜなら恋詠が心配した時は必ず何かしらの問題が起きるからだ。逆に恋詠が太鼓判を押した時は必ず大成功で、言い方が悪いが大変儲かるのだ。
家族は私がお金の神様に愛されていると信じていて、商業を生業にしているこの家では喜ばれていた。新しい仕事や契約をする時などことある事に必ずと言っていい程、恋詠に意見を聞きに来たりしていた。だから兄は深刻そうな顔をしたのだ。
「ちょっと内容が大雑把だし、後々問題が起きそうな気がするけど。まぁ兄様が対策とるなら気にする必要ないかな」
それからも乙女ゲームを続けた。
とうとうヒロインが皇太子に任命されたのだ。それに嫉妬したレティーシャが皇帝が他国に行ってる隙にヒロインを殺そうとしたのだ。それを男主人公達が食い止めヒロインは無傷で助かった。
首謀者であるレティーシャは宮に幽閉された。
これはレティーシャを裁く場なのだろうか。
王の間と呼ばれる場に沢山の貴族が集まっている。玉座に皇帝が座りその隣にソフィーアが座っていた。
レティーシャは後ろ手で鎖に繋がれていた。
ソフィーアはレティーシャの減刑を申し出た。皇帝はそれに賛同し裁判は終わったかと思った。がレティーシャは暴言を吐いた。まるで死刑になりたいかのように私は感じた。
「やっぱりソフィーアのこと嫌いだわ。いい子ちゃん演じてる気がする。何かレティーシャの言動に違和感があるのよね······」
ソフィーアと皇帝は処刑はせずに離宮に幽閉しようとしていたが、貴族達はレティーシャの死刑に賛同して幽閉する案は掻き消えた。レティーシャが処刑されてパッピーエンド。
「あっ終わった。こうなれば全部のルートをクリアしてやろう!」
決意を固めていつの間にか全ての男主人公達のルートと逆ハーレムルートをクリアしていた。兄の情報曰く裏ルートもあるみたいだが、恋詠はクリアすることが出来なかった。そもそも見つける事が出来なかったからだ。
暫くしてこの乙女ゲームが問題になった。
裏ルートをクリアすることも、ましてや発見することが誰も出来なかったからだ。裏ルートに行く為にはレティーシャが生きていなければならないと考えた人も居たようだが、どのルートでも必ずレティーシャは処刑されて生き残ることは無かった。
またこの乙女ゲームの世界の設定では、庶子や私生児は皇帝にほぼなれないはずなのに、どうしてソフィーアだけが受け入れられたのかという新たな問題も出てきた。
確かに登場してきたモブの中には私生児が居たのだが、虐められたり扱いが酷かったりしていた。それなのにソフィーアは私生児のはずなのに最初から庶子として登場していて、正確には私生児ではないのかと議論になった。
恋詠が最初に感じていた通り、あまりにも設定がガバガバだったのだ。
「恋詠の言う通りだったよ。乙女ゲームを買った人限定で内容を変えたダウンロード版を配布することにしたよ」
「大幅に変わったの?」
「いや大幅には変わってないよ。裏ルートを消して新たに追加したストーリーがあるぐらいかな。恋詠はする?」
「完全燃焼した感じだし、私はもうやめとくわ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「もしかしてここ乙女ゲームの世界なの?!」
恋詠ことレティーシャは驚いた。大声を出してしまって焦った。周りに誰も居なくて良かった。レティーシャには味方が少ない。今の段階でレティーシャが偽物だとバレる訳にはいかない。幸い乙女ゲームの内容は把握している。乙女ゲームを全クリした前世の私を褒めてやりたい。
レティーシャを見てすぐに気付かなかったのは仕方がない。乙女ゲームのスチルでは髪が黒色だった。
レティーシャはある時から髪の毛を染めていると説明にはあったが、前が何色なのか私は知らなかった。
「げっ、レティーシャはどのルートでも結局最後は死んでるじゃん。ってことは私また死んじゃうの?絶対嫌だ。死にたくない。タダで死んでたまるか。よし、絶対生き残ってやるわ!」
結構文法間違いや誤字脱字が多いです。発見したらお手数をかけますが知らせて頂けると有難いです┏○ペコッ