第11話 祖父との初対面の人
遅くなりました。すみません。
扉をノックしお茶を用意をしたグレンが部屋に入ってきた。
「レティーシャ様、大公が到着したようです。今こちらまで案内しています」
「分かった。ありがとう」
お茶を並べているグレンを見た。やっとここまで辿り着くことが出来た。もうこの世界に来て3ヶ月以上が過ぎた。命がかかっていたからか、ここまで本当に長かった。
大公達を乗せた馬車は皇女宮に到着した。皇女が乗る馬車以外は中に入ることは出来ず、外で下ろされる。豪華な馬車から14人が下りてきた。14人は中が見えない高い門が進路を阻まれた。
「ちぇ。何で中まで入れてくれないんだよ」
「ほら文句言わずに荷物を運びましょ」
「それにしても高い塀なのです〜。圧巻なのです〜」
「本当に凄いですだ」
「あらやだ。どこまで外の人間に触れさせたくないのよん。城門でもここまで高くないわよ。まるで監獄みたいだわん」
「お前とは意見が合わねぇが、今回だけはお前に同意だ」
「まっ。失礼だわ。私はね、いつも正しいことしか言わないの。オーガスト、貴方に私の荷物を持つ権利を与えてあげるわ」
「はぁ。仕方ねぇ。持ってやるよ」
「あらあら〜。オーガストは優しいのね。だけどここは私が魔法で運んであげるわ〜」
「ニコラさん、ありがとう。おかげで手軽に行くことが出来るわ」
「プリシラちゃんどういたしまして。皆もそれでいいわよね?」
皆が宜しくとニコラに言った。ニコラは浮遊魔法をかけ、荷物を浮かせた。周りにいた人達がわっと驚いている。数個浮かせるぐらいはできるが、ここまで多く浮かせることは難しい。いとも簡単に浮かせてみせたので驚いたのだ。
「門を早く開けろ」
大公が驚いている門番に急かすように言った。いつまで経っても門番は仕事をせず、門を開けなかった。はっと意識を戻した門番は急ぎ開門した。
"ギィィ"
音を立てて自動で巨大な門が開いた。誰かが中を見て「うわぁ。スゲェ」と言ったほど、門から覗く庭園は圧巻だった。大公は忌々しそうに目を細め皇女宮の敷地に入っていた。
「あらあら。思っていたよりも広いわね〜」
「外から見て中がこんな風になってるなんて、予想出来たかったのです!」
「庭いじりのやり甲斐があるってもんですた。旧皇后宮も敷地内にあるみだいで、皇帝宮に次いで2番目に広いようですだー」
「思ったより綺麗な所じゃねぇか。ゴミ屋敷じゃなくて良かったぜ」
ニコラ、プリシラ、ベティ、オーガストは三者三様の意見を述べた。高い塀に囲まれた見た目こそ牢獄だが、中を見てしまえば天国に見える。ここなら普通に住めそうと喜んでいる。
「ちっ。見た目が良いだけの紛い物だ。誰かをよぉ出て行かせねぇ為によ。牢獄よりもたちが悪ぃ」
「ラルフの意見に賛成です。この高い塀で外が全く見えないんですから。この国で一番高貴な方を、ここに閉じ込めておくだなんて以ての外です。見た目だけは良いですが、皇女様を軟禁しているのでしょう」
「外の情報を一切入れず成長させるには、打って付けの場所でしょう」
「あらやだ。こんなの飾りがいがないじゃないの!皇帝陛下とセシリアお嬢様の容姿を継いでいるんだから、着飾って然るべきなのに。神への冒涜だわん」
ラルフ、フレヤ、スヴェンは眼鏡を弄りながら、エリアスことエリスは反対意見を述べた。
「綺麗なだけマシじゃん」
「貴方もまともなことが言えるのね。でも早く帰ることを進めるわ」
「ひでぇな、姉ちゃん。俺は絶てぇ帰らないからな!」
「···綺麗な所···住めるね」
「うわっ。急に喋るなよ。てか初めて喋ったんじゃね?」
「寝やすい所で安心した。あの木の下で日向ぼっこしたいなぁ」
「ノア貴方、寝ることしか考えていないのね。全く先が思いやられるわ」
レオネルは頭に手を置いて、レオノアは呆れながら、ベルナールは何も考えてなさそうで、ノアは欠伸と伸びをしながらそれぞれ感想を言った。
「貴方達お喋りですね。良いですか?目上の人の話に割り込んだり、先に話しかけたらダメなんですよ。覚えておいてくださいね」
フレヤはそう唱えると静かにするように促した。目で大公を見るように伝えた。それから皆は静かにただ歩いた。
大公は少し皆と外れ、何も言わずに静かに歩いていた。この場所で娘が亡くなり、孫が生まれ育った。あの子は自然が好きな子だった。木々たちに囲まれて空気を吸うのが好きだった。ここには手入れが行き届いた草木しかない。あの子が好きな自然は1つもない。
自然で生きてきたあの子にとって、ここはどんな場所だったのだろうか。息苦しくなかっただろうか。あの子がここで生活している姿を、全くもって浮かべることが出来ない。自分が気付かない内にあの子は、私の手から離れ知らない人間になった気がした。
「お待ちしておりました。皇女様の所へご案内致します。後にお続き下さい」
皇宮で支給される服を着た侍女が、宮の大扉の前で到着を待っていた。大公を含めた14人に頭を下げ礼をとった。仕事をまともにしない侍従達は「あの人カッコイイわね。話しかけちゃおっか」などと浮き足立っている。
大公達に挨拶をした侍女は、はっと気付いたように勢いよくもう一度頭を下げた
「あっ申し訳ございません!ここまでご案内をするように言っていたのですが、私が自ら皆様をお迎えするべきでした。本当に申し訳ございません!」
門番が門を開いてからここまで、誰一人として14人を案内する者は居なかった。つまり大公と大公爵の地位を理解していない者が多いということだ。それよりも問題なのは、皇女の言うことを聞かない者達しかほぼ居ない所だ。
「私が大公であると知らない者達が多いようだ」
大公は冷めた眼差しを浮かべ、声は冷ややかだった。
こそこそこちらを見て内緒話をしていた侍従達は、まだ自分が置かれている状況を詳しく理解していない。何が起きたのか分かっていないのだ。
確かにここに居る人の中で、一度も大公の姿を見た者は居ない。1000歳を越し、もっと老人だと思っていた者も多く居る。だがその髪色と目で大公だと判別することが出来る。学園の授業や歴史で勉強をしていたら簡単に分かるはずだ。
ザワザワしだして、やっと自分達が置かれている状況を把握しだした。
「ミっミーシャ早く言っといてよ!大公様だなんて私知らなかったわ!もっと早く教えてくれてたら迎えに行ったのに!」
「黙りなさい!大公閣下の御前です。私は確かに大事なお客様がいらっしゃるからお迎えして、ここまで案内するようにと伝えたはずです」
「大事なお客様だけじゃそんなの分からないじゃない!」
案内をするように頼まれていた侍女は、ミーシャと呼ばれた侍女に噛み付いた。大公の前で敬語の1つすら話さない。
大公は呆れたように腰に掛けられていた剣に手をやり抜いた。侍従達は焦って膝をつき頭を下げた。
この国は身分がしっかりしている。平民と貴族が違うように、階級が異なれば同じように異なる。事実越えられない壁が存在している。大公より上は皇帝と直系皇族のみ。すなわち不敬罪が適用されても可笑しくはない。
「お前達はこの剣がただのなまくらだと思っているようだな」
大公は剣を目元の位置までかかげた。その鋭く研ぎ澄まされた刃に、鋭く冷たい目が映りこんでいる。
「お許しください!知らなかったんです。大公様だと知ってたら、こんなことはしませんでした。どうか慈悲の心をお見せ――――」
大公は案内をしなかった侍女の嘆願を最後まで聞くことなく切り付けた。一般人には目視することが出来ないほど、素早く時間が追いついていなかった。まだ侍女の頭は、頭と胴体が既に繋っていないことを理解出来ていない。頭は宙に投げ出され、首からはおびただしい程の血が吹き出ている。
侍女が「えっ」と声を出した時には、既に頭が地面に叩きつけられていた。その侍女は自分が死んだことすら理解出来ずに息絶えた。
「「「「ギャーっ!」」」」
それを見ていた侍従達は顔を青く染め、頭をさらに地面に擦りつけ大公に許しを乞うた。うわ言のように「許してください」「どうか命だけは」など呟いている。
それでも大公は剣を振るうことを止めなかった。辺り一面が死体と血の海で広がっていく。石畳には血が溢れ、血飛沫も飛び交っている。庭園は一瞬にして地獄と化した。
「どうか大公閣下をお止め下さい」
ミーシャと呼ばれた侍女は、大公と一緒に来た13人に助けを求めたが、13人は首を横に振り応えることはなかった。なんならこの状況に対して、何の関心も持っていなかった。この異質な状況の中で13人は笑いながら喋り続けている。
ミーシャは恐ろしくなった。体の震えが止まらない。自分があそこに行ったとして何も出来ない。自分も殺されるだけだ。心の中で「誰か助けて」と唱え続けた。
「それまで。何やら騒がしいですが、到着して早々このような···!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「···てかさ遅いし、何か外が騒がしくない?」
「そうですね···。もう到着されているので、あとここに来るだけなんですけど」
大公の到着をグレンが私に知らせて、既に20分は経過している。遅い。あまりにも遅い。
私は椅子から立ち上がり窓の方に歩いた。執務室からは庭園が一望できる。庭園が一望出来る位置に、寝室や談話室などが置かれている。庭園に位置しない側には、図書館やドレッサールームなどあまり景色を必要としない部屋が置かれている。裏側は裏側で小庭園があり、別に何も無いと言う訳ではない。落ち着きたいなら裏側がオススメだ。何か大人な雰囲気の庭園だからだ。本を読んでいたら雰囲気が出る。
バルコニーに続く窓扉を開け外に出てみた。外に出てみたら分かる。悲鳴や叫び声がよく聞こえる。
「ねぇグレンどう思う?私が止めに行くべきだと思う?」
「普通の状況であれば止めなくても良いと思いますが、止めなければこの後の計画に支障が出ると思います」
「やっぱりそう思うよね。うーん、でも今更止めた感が否めないというか」
「ではこうすれば如何でしょうか」
「えっなになに。教えて?」
「大公の味方はせずに侍従達の味方をするのです」
グレンの考えはこうだ。今のままでは後に控える計画に支障が出る。その為には今の侍従達の間での緊張感を解かなければならない。侍従達の前で大公を批判し、侍従達の肩を持つことで今まで通りの舐められている皇女を演じる。
レティーシャは今まで仕事をしない侍従達に対して怒ったことがない。それ以上に褒美をよく渡していたとグレンから聞いた。生き残るための最善だったとは思うが、お金で出来た関係はどこまで行ってもそれ以上の関係になることはない。悲しいが。
「よし。それで行こう」
ここで注意する点がある。大公を表立って批判すると、貴族が多い侍従達の間で噂になり大公がなめられたりすることだ。直接的な表現を避ける。ここがポイントだ。
だが利点もある。大公と皇女の不仲を決定付けることが出来る点だ。大公家という後ろ盾をなくしたように見せれば、今まで通りにそれ以上に舐めてもらえる。
「噂はすぐに回ります。不仲に見せましょう。あと泣いてくださいね」
「泣くって?」
「ほらよく考えてください。3歳の子どもが血を見たらどう思いますか?」
「驚くと思うし、人死んでたら叫ぶわね」
「はい。ですから弱々しく見せるために泣いてください。そしたら私が抱っこして顔を隠すので、泣き真似が続けて下さい。そうすればさらに不仲が強調されるでしょう」
「分かった、頑張る。じゃあ行こっか」
大公の威光を下げずに、不仲を強調させるような言葉か。結構難しいな〜。
グレンと歩きながら、ピッタリ当てはまる言葉を必死に探した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「それまで。何やら騒がしいですが、到着して早々このような···!」
私はあたかも初めて血を見たかのように目を見開いた。さっき見たが···。手を口元に持っていき、驚いて腰を抜かしたように地面に座り込んだ。グレンに言われたように、必死に涙を絞り出した。
「ミーシャこれはどういうことですか!皇女様が驚かれています!後で責任を追求します。ひとまずここの処理をお願いします。私が案内するので後を頼みます」
「はい。仰せつかりました」
「皇女様、申し訳ございません。部屋に帰りましょう」
グレンは座り込んだ私を抱っこして、背中をトントンと落ち着かせるように叩いた。私は泣く演技を続けている。グレンはさらにギュッと抱き寄せた。
グレンも演技派だな〜。私よりも才能あるかもしれない。この顔で演技まで上手いだなんて、日本に居たら間違いなく売れてるわ〜。
「大公閣下、それから皆様私の後に続いてください」
それから私は部屋につくまで泣き真似を続けた。正直涙は出ず声だけだ。顔をグレンの肩にうめているからバレてはいないだろう。グレンも私をあやし続けている。こういう時に限って宮が広すぎることが面倒だ。
グレンの肩からこっそり後ろを歩く皆を見た。たぶん1番前に歩いているさっき剣を持って暴れていた人が大公だろう。髪色が私と同じだ。大公はまっすぐ前を見て歩いている。ちらっと目があってびびって目を逸らした。大公を見ずに他の人を見ることにした。あの男女はグレンと同じ目と髪色をしているから親族なのだろうか?男の方は歩く態度が悪い。他にはキョロキョロ見回している人も居る。可愛い。ここに来た当初は、私も何もかもが新鮮でよくキョロキョロして見回していた。微笑みそうになったがまだ泣いていないといけないので、必死に笑みを押し殺した。
やっと執務室に到着した。グレンが器用に私を片手で支えながらドアを開けた。グレンはドアを持ちながら皆に中に入るように促した。
「皇女様到着しました。お疲れ様です。遮音魔法で部屋を覆ったのでご安心下さい」
「うん。ありがとう。グレンもお疲れ様」
グレンは私を床に下ろした。部屋に居る14人を見渡した。さっきまで泣いていた少女がケロッとしている姿を、怪訝そうに不思議そうに私を見てくる。
「なぜ遮断魔法で部屋を覆った」
大公が纏う空気同様、発せられた声は冷たかった。想像通りだ。歳を感じさせないほど若々しく格好良い。そりゃ美少女レティーシャの祖父だもんね。レティーシャはDNAから優秀だったのか。母に始まり父と祖父まで。ていうことは祖母も綺麗なのだろう。
「ここでは内緒話だったとしても、話したことがすぐに回るわ。ここに来てくれたということは、これからここに住むことになるでしょう。気を付けて。貴方達が居た所と全く違うから。ここはそういう場所よ」
私は歩きながらそう答えた。そして上座に座った。大公は忌々しそうに顔を歪めた。
「もうお茶冷えているかしら?」
「はい。温め直します」
「ありがとう。皆も好きな席に座って。立っていたら話も出来ないわ」
グレンが魔法でティーボトルを温め直した。それからグレンは皆の前にティーカップを置いた。置き終えた後、私の後ろに控えた。
私は一息つくために温め直してくれたお茶を飲んだ。この国のお茶は紅茶一択しかない。しかも種類が少ない。少ない所か1種類をアレンジしている。冷やしたり温めたり、フルーツを入れてみたり、いつか日本みたいにバリエーションを増やしたいと改めて決意した。
「今日はここまで来てくれてありがとう。こんなに早く来てくれると思っていなかったからとても嬉しいわ。それから皆様初めまして。私の名前はレティーシャ・ディア・フォンベルク・レイ・ヴィルヘルム・アーステリアと言います。以後お見知り置きを。ちなみに後ろに立っている人は、知っている人もいると思うけどグレンよ」
「ご紹介にあずかりました、グレン・ルクセイ・アンサール・ユノーと申します。以後お見知りおき下さい」
グレンは胸に手を当て頭を下げた。格好良いから絵になる。執事にしか見えない。イケメンに燕尾服は非常に似合う。
私は左側に座っている大公を見つめた。この国では上の身分の人が話すまで、下の者は話すことが出来ない。だから先に話を振る必要がある。
「そちらの方は大公閣下とお見受けします。初めまして。お元気でしたか?」
大公は目を見開き悲しそうな目をした。
(えっ何か間違えた?大公って呼び捨てしなかったし大丈夫よね?)
私は内心焦ったが、顔には出さなかった。私女優の才能もあったようよ。
「はい。大公で間違いありません。初めまして。私はオーウェン・ルクセイ・アンサール・ヴィルヘルムと申します。元気にしておりました。皇女様もうご安心下さい」
会った時と違いとても優しい顔をしている。この顔をどこかで見たことがある。これは孫を見るおじい様の顔だ。私を見るめは慈愛に満ちている。
(ねぇ、レティーシャどこかで見てる?間違いなくあなたはおじい様に愛されてたよ)
「皇女ではなくぜひレティーシャと呼んで下さい。ここに居る時ぐらいは、呼ばれ方ぐらい私が決めても良いでしょう。あと敬語も辞めて下さい」
急におじい様って呼んだら失礼だろうし、失礼かどうかは今の所分からないがどのラインまでOKなのか知る必要がある。
「そうか。レティーシャお前がそう言うならそうさせてもらおう。私のことも······」
少し照れ臭そうに言葉を言いかけてやめた。目が泳いでいる。
(えっ、照れてる。可愛い!レティーシャ、おじい様まで可愛いよ〜。あっいけないいけない)
もしかしたらニヤケが顔に出たかもしれない。気を取り直し咳をして気を引き締めた。少し怪訝そうに大公に見られている。
「ではおじい様と呼ばして頂いても良いですか?」
「ああ!そう呼んでくれたら嬉しい」
大公ははにかむ様に笑みを浮かべた。息を飲む音が聞こえた。ギョッと見ている人もいる。
「閣下が笑われるだなんて」
「初めて見ただ」
数人が感嘆の声をあげている。そこまで感動されるだなんて、本当に笑わない無表情の人なんだ。
「詳しくお話したいことが山々なのですが、まずそちらの方々の紹介をして頂いても宜しいでしょうか?」
「ああ」
大公は前に座っている女性に目配せをした。
「皇女様、お会い出来て光栄の極みに存じます!」
鼻から息が出ているように見える。少しやばい人に見えるのは致し方ないと思う。けっこう見た目と違って熱い人なんだ。輝いた目で私を見てくれているが、ギラギラすぎてちょっと引いた。
「私はフレヤ・ルクセイ・アンサール・ユピテルと申します。お好きにお呼び下さい。これからよろしくお願い致します」
目がガンガンだが、礼儀正しい真面目な人にみえた。人は自己紹介をする時、呼び方を指定して言ってくる場合がほとんどだが、この人は呼び方を指定しなかった。自己紹介も簡潔で空気も読める。
最初の人が尺を決める。何かを大公と話をしようとしている今、名前だけを言ってくれたことが好感を持てた。趣味を言われてもこんがらがるだけだ。
フレヤは侍女に向いているかもしれない。詳しくは後で決めよう。
「ええ、じゃあフレヤと呼ばして貰うわね。これからよろしくね。えっと次の方は···」
「俺はラルフ・ルクセイ・アンサール・ネプトゥスと言うもんです。料理が得意なんで任せてください。よろしくお願いします」
この男は敬語があまり使えないようだ。皇女の私に向かっても最低限の敬語しか話さない。人前に出たら揚げ足をとられるかもしれない。この男は裏方にして表に出さない方がいい。
「ええ、こちらこそよろしくね。料理が得意で助かるわ。貴方にはここの料理長を任せるわ」
「はっ。初対面のやつの料理を信じて食べれんのかよ」
不貞腐れたような、そんな態度だった。
本当に態度が悪い。ラーメン屋の店主の頑固親父の雰囲気を漂わせている。作る料理は絶品そうだ。
「ちょ、貴方!皇女様に向かって!」
「良いのよ、フレヤ」
フレヤはそんなラルフに対して怒っている。乱闘が始まりそうだったので、フレヤを宥めた。しぶしぶイスに座り直してくれた。
「まったくもって貴方の言う通りよ。でも初対面の貴方に頼むしかない事情も分かって欲しいの。食事ぐらい静かに美味しく食べたいものでしょう?」
ラルフは忌々しそうに舌打ちをした。大公は苦しそうに、フレヤと皆は顔を下に向けた。
「まあここで暮らしていけば分かると思うけど、私のここでの立場は曖昧で不確かなの。一言で言うと良くないわ。でも嫡子という身分があるせいでよく命を狙われる。いまは大人しくしてるけど、いつまた活性化するか分からない。だから信用の置ける人物を、料理長として置いておきたいの。ほらご飯って1日最低3回は食べるでしょう。その時間ぐらい命の危険を感じずに食べたいわ」
「食材を無駄にするとはクソみてぇな野郎だな。分かったよ。任されてやる。その代わり俺は人に媚び売るのは嫌いだ」
「安心してあなたは料理を作っていて。表に出すことはないわ。改めてよろしくね」
「ああ、よろしく」
(良かった〜。これで命の危険を気にせずご飯を食べれる)
口は悪いが漢気があって、まがったことが嫌いそうな性格だ。次はグレンに似た女性だ。
「私はレオノア・ルクセイ・アンサール・ユノーと申します。以後宜しくお願い致します」
私はチラッと隣に座っている男を見た。似ている。似すぎている。目線がキョロキョロしているのを悟ったのか男が自己紹介をした。
「俺はレオネル・ルクセイ・アンサール・ユノーだ。ちなみにレオノアは俺の双子の姉さんだ。これからよろしく」
「本当によく似ているわね。2人ともこれからよろしくね」
レオノアは礼儀正しいそうに見えるが、弟の方は反抗期の高校生男子っぽい。弟は表に出さない方が良い。
「次は私の番ですね。私はスヴェン・ルクセイ・アンサール・ケレスと申します。このような役目を頂けたこと光栄でございます。今後とも宜しくお願い致します。我がケレスは代々機知に富んだ一族です。つきましては皇女様の勉学をお教えしたいのですが」
スヴェンと言う男は、間違いなく出来る男だ。メガネまで出来る雰囲気が漂っている。例えると完全無欠の生徒会長系だ。無駄なことを話すことが嫌そうなのに、私に対するお世辞を忘れていない。そして何より結論を急ぐタイプ。気に入った。
「ちょうど講師を探していたところだったのです。ぜひお願いしますね」
「お役に立ってみせましょう」
スヴェンは胸に手を置き、私に向かって頭を下げた。
「そっその私はリッチ・ルクセイ・アンサール・マルスですだ。で、です。えっと···」
この世界でも訛りが存在しているようだ。何か物凄く可愛い。ひよこみたいだ。
「私は訛りは恥ずかしいと思ったことはありません。それも1つの個性です。ですが残念ながら、この帝都ではよく思われていません。急ですが何か得意なことはありますか?」
「えっあっ、庭いじりが得意ですだ」
「じゃあ庭師になってください。広大ですので、やり甲斐はあると思います。無理をしてまで直さなくても大丈夫ですよ」
「ほっ本当ですか!ありがてぇです。どうも人前に出るのが苦手なもんで···。これからよろしくお願いしますだ」
「こちらこそ宜しくね」
目をキラキラさせている。やっぱり小動物に見える。可愛い。
「私はベルナール・ルクセイ・アンサール・バルカンです。得意なことは錬金術魔法です。特に薬剤製作が得意です。苦手なことは人と話すことです。よろしくお願いします」
穏やかでゆっくりとした口調で自己紹介をした。さっきのリッチのことがあったから、得意なことと不得意なことを言ったのかな?
「まだ構想段階ですが、研究部屋を作ろうと思っています。その時は頼み事を聞いて下さい。今の所は簡易の研究部屋で許してください。これからよろしくお願いしますね」
「はい」
「やっと私の番が来たわ〜ん。初めまして、皇女様。あたしはエリス・ルクセイ・アンサール・ミネルバよ。あたしが来たからにはそのBADなお洋服から、スペシャルなお洋服に変身するわ〜。ノンノン、気にしないで。あたしのファッションセンスはNO.1よ♡」
ウィンクを飛ばしてきた。男に見えるが女なのか、それてもおねェの類なのか判断がつかない。結構筋肉質だから男なのか。いや偏見は良くない。
「えっと···」
相当困っているように見えたのだろう。男が助け舟を出してくれた。
「皇女さん、すまん。こいつは正真正銘男だ。名前もエリスじゃねぇ、エリアスだ」
「まっ、あたしはエリスよ。エリアスみたいなハイセンスな名前、あたしは嫌いなのよん。皇女様、これからあたしのことはエリスと呼んでちょうだいね」
「はぁ。すまねぇ。こいつはこういう奴なんだ。急に話に入ってすみません。俺はオーガスト・ルクセイ・アンサール・メルクリウスって言うもんです」
焦って敬語を使い忘れていたみたいだ。漫才を見ているようで面白かった。2人は油と水のようなのに、本当は仲が良さそうだ。
「いいえ、これからエリスと呼ばせてもらうわね。オーガストも助かったわ、ありがとう。無理に敬語を使わなくて大丈夫よ。これからよろしくお願いしますね」
「はい。お言葉に甘えて。よろしくお願いします」
「あたしが居れば百人力よ♡よろしくね♡」
前の世界で一度こういう人と友達になりたかった。残念ながら近くに居なくて、結局出会えないまま死んだ。私は嬉しく思った
(センス良さそうだし、友達になれたらラッキーだな)
次の女の子は私の同年代なんだろうか。見てわかる通り小さい。
(めちゃくちゃ可愛い)
「次は私なのです。ベティ・ルクセイ・アンサール・アポロンなのです。皇女様の友人兼護衛として、学園に一緒に入学するためにここに来たのです。皇女様と同い年なのです。よろしくお願いなのです!」
必死に大きな丸メガネを触りながら自己紹介をしているのが可愛い。癒しだ。
「学園は平等を謳っていて、護衛の随伴を認めていないんだ。同い年の子が居ればお前の役に立つだろう」
大公は付け加えるように教えてくれた。
(学園で事件とか起きたらどうすんのよ)
「ちなみに侍女の随伴は2名までは認められています。よく会が開かれますので」
グレンの言う通り、昨日まで1人で支度をしたことが無い令嬢に、1人で支度しろと言っても無理だろうしね。ここでも命を狙われているレティーシャは、学園でも狙われるだろうと予測し大公はレティーシャを守ろうとしてくれているのだ。
「ベティ、よろしくね」
「はいなのです!」
「次は私ねー。私はプリシラ・ルクセイ・アンサール・セレネと言いますわ。よろしくお願いします」
箒を持っている。1番魔女らしい見た目をしている。気が強そうな縦巻きロールのお姉さんだ。
「おい、起きろ。」
さっき紹介を終わらしているオーガストが寝ている少年を起こした。目を擦り眠たそうにしている。
「僕ノア・ウェヌス。よろしく」
自己紹介を終えるとまた寝だした。
「ノアも私と同じで護衛なのです。よく眠る子なのです。悪気は無いのです」
「うん、寝かしといてあげよう。移動ばかりで疲れているだろうし」
「ありがとうございますなのです」
「次は〜私ね〜。ニコラ・ルクセイ・アンサール・バッカスよ。よ、ろ、し、く、ね♡」
セクシーな衣装を着た妖艶なお姉さんだ。
(凄いものを持ってる!)
私の目線は胸元に注がれていた。大きいのに重力に逆らっている。凄い。胸に顔を埋めたい。私は雑念を頭を振って逃がした。ニコラは不思議そうに私を見ていた。




