外傷用軟膏
「思ったより数が多いな……前金は貰ってるし、ここらでトンズラするか?」
剣士風の男が肩で息をしながらアイザックに言いました。
二人はこの小さな集落で用心棒として雇われていました。
◇
住民の話によると、山に棲むゴブリンの野盗団が旅人を襲うだけでは飽き足らず、この集落にも出没するようになったとのことでした。
最初の内は集落の男衆だけでも追い払うことができましたが、最近になって仲間の数を増やしたらしく、不慣れな人間だけでは対処が難しくなってきました。
そこで住人達は用心棒を雇って野党団に対抗しようという話になり、その依頼に乗ったのが剣士風の男とアイザックというわけです。
最初の2日間は何事もなく過ぎていきました。ところが昨日の夜、闇に紛れて数匹のゴブリンが集落内に侵入してきました。
住人の悲鳴を聞き、外に飛び出した二人は事無げにゴブリン達を始末しましたが、隠れていた1匹の奇襲を受けてアイザックは太腿に軽傷を負ってしまいます。
即座に応戦するも、その一匹は戦わずに逃げてしまいました。
不意の襲撃に集落は大騒ぎです。何人かの死傷者が出たようで、住人達は集会所に集まり対応に追われていました。
アイザックが集落を見回っていると、小さな女の子が大きなカゴを片手に駆け寄ってきます。
その女の子はアイザックを手頃な石の上に座らせると、小さな手で懸命に軟膏剤を塗り、不慣れな手つきで包帯を巻いてくれました。
手当が終わると女の子は恥ずかしそうに会釈をし、集会所のほうへと駆けていきました。
◇
アイザックは不格好に巻かれた右脚の包帯を見つめました。
「俺は残るぜ。残金をきっちりもらわないとな」
「大した額じゃねぇだろ、とにかく俺は降りるぜ!」
そう言うと、男はあっと言う間に夜の闇へと消えていきました。
野盗団の第二波は目前まで迫っています。
「――大した額じゃねぇ、か」
アイザックは不敵な笑みを浮かべながら野党団に向かって走りだしました。




