スモールシールド
その夜、アイザックは酒場で体格のいい傭兵風の男と意気投合しました。
男はメイソンといい、各地を転々としながら10年ほど傭兵家業を営んでいるとのことでした。
話によると、ここから山を越えた先にある街で大規模な傭兵の募集が行われており、メイソンはそれに応募するためやって来たといいます。
その話はアイザックも知っていたので、それならばと一緒に行くこととなりました。
◇
「若いの、そんな小さな盾じゃ大事な命を守れんぞ」
道すがら、軽装のアイザックを見ながらメイソンが言います。
「うるせぇよ、小さくたってそれなりに使い道はあるんだ」
「ほう、例えば?」
「例えばって、そりゃ……狭い所で戦うとき、とか」
アイザックが言い淀んでいると、メイソンは鼻を鳴らしながら口角を上げました。
◇
それは2人が峠を越えた辺りでのことでした。
急に大きな羽音が聞こえたかと思うと、妙な異臭と共に大きな鳥の影が飛来します。
「ハーピー?なんでこんな所に」
メイソンが担いでいたバスタードソードを構えると、アイザックも慌てて腰から剣を抜きました。
ハーピーは上空から蠱惑的な声で歌をうたい始めます。二人は慌てて耳を塞ぎますが、その声を防ぐことは難しそうでした。
間もなくアイザックが歌声に魅了され、朦朧とした足取りでハーピーの元へと歩き出します。
「若いの、借りるぞ!」
メイソンはアイザックからシールドを奪うと胸元で水平に構えます。そして狙いを付けるように素早くスイングさせながらハーピー目掛けて勢い良く放ちました。
シールドは猛スピードで飛翔し、狙い過たずハーピーの顔面に直撃します。メイソンは猛然と走り出し、落下するハーピーを横一文字になぎ払いました。
メイソンは地面に落ちたシールドを拾い上げると、呆然としているアイザックの方へ向かいます。
アイザックにシールドを差し出しながら、メイソンは言いました。
「なるほど――確かに小さな盾も使いようだな」
「……だろ?」