バスタードソード
騎士達が戦闘訓練を重ねる傍らで、オリビアはどこか上の空でその様子を眺めていました。
「考え事ですか、オリビア様?」
伯爵家の騎士達を束ねる騎士長ローガンがオリビアに話しかけます。
「ローガン、私もお父様もあなた方騎士団には心から感謝しております。あなた方がセントレイク家の領地を守ってくださっているお陰で、お父様も安心して執務に専念することができます」
「もったいないお言葉です」
ローガンは感激し、オリビアに深く頭を下げました。
「――でもね、ローガン。私は思うんです」
そう言うと、オリビアは壁際に掛けられているバスタードソードに目を移します。
「どうしてあんな立派な剣があるのに、皆さん普通の剣で戦おうとするのでしょう?」
「僭越ながらオリビア様、あの剣は馬上で用いるための長剣で、あまり歩兵向きではありません」
ローガンはオリビアをたしなめるように言いました。
「存じてます。しかし、傭兵の方の中にはああいった大型剣を巧みに扱う方もいらっしゃいますよ」
「確かに。ですがそれは見栄や威嚇のため。実際の戦場においてはその長さと重さが振るう者の負担となり命を危うくいたします」
「それは日々の鍛錬によって自己の技量と力量とを高めていけば解決できる問題だと思います」
「簡単に仰いますが、人間にはどれだけ鍛錬を重ねたところでどうしても肉体の限界というものがございます。やはり近接戦闘においては身の丈にあった武器が一番かと」
「そうでしょうか……」
オリビアは頬杖をつきながら今一つ納得がいかない様子で溜め息を漏らします。
「オリビア様はよほど大剣がお好きなようですね」
「それはもう!私、今度の誕生日にはお父様に大きな両手剣を買っていただくつもりなんです」
目を輝かせながら語るオリビアを前に、なぜこれほど勇猛で天賦の才に恵まれた方が男子ではなく女子として生まれてしまったのかと、ローガンは運命のいたずらを呪わずにはいられませんでした。




