表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万屋チェーン正直堂【商品目録】  作者: 一二三 五六七
16/31

ミディアムシールド

 アイザックはゆっくりとその場に腰を下ろしました。


 周囲には敵味方も分からない死体が多数横たわっていましたが、疲れ切ったアイザックには何の感情もわいてきませんでした。


(今回も生き残れたか……)


 安堵にも似た大きなため息がアイザックの口から漏れます。



 辺りでは早くも友軍の傭兵達が、武器や鎧を死者から剥ぎ取り始めていました。


 連中に言わせれば、“勝者による当然の権利”とのことでしたが、アイザックにはどうしても死者の遺品を持ち帰る気が起きませんでした。


 脱力したまま何気なく脇を見ると、アイザックと同い年くらいと思われる若い傭兵の死体が目につきました。


 それほど酷い損傷も無いその傭兵の腕には大きめのシールドが身につけられています。


 まだ真新しいそのシールドに、アイザックは妙に惹かれるものがありました。


(俺のシールドも大分ガタが来てるからな……たまには“当然の権利”とやらを行使してみるか)


 アイザックは死体からシールドを引き離すと、自身の腕に通してみました。


 持ち手を握ってみると、まるでアイザックのためにあつらえたかのようにしっくりと腕に馴染みます。


(こいつはいい!)


 そのシールドを気に入ったアイザックは、新しいおもちゃを手に入れた子供のように嬉々としてシールドを眺め回しました。


 すると、シールドの内側に小さく何かが刻まれていることに気が付きます。


 少し顔を近づけてみると、そこには手彫りの字で「この子をお守りください」と刻まれていました。


 凍えるような衝撃を受けると同時に、アイザックは故郷で働く母の姿を胸中に描き出しました。そしてそれは、父、兄夫婦、友人と絶え間なくつながっていきます。


 足元に横たわる青年に自分自身を投影しながら、アイザックは幼い頃の思い出と、今日までの時間とに押しつぶされるような思いがしました。



 勝利に沸き立つ戦場で、見知らぬ時間の残骸に囲まれたアイザックは天を仰ぎながら静かに涙を流していました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ