ダガー
「……あと、あの木に咲いている花を採ってくれる?」
「お安い御用で」
カミラはブラックコンドルを連れて薬草園に来ていました。
ここは山の奥地にカミラが勝手に作ったものであり、カミラが結界を解除しない限り誰も近づくことはできませんでした。
「ありがとう、とりあえずそんなところね」
「もういいんですかい?駄賃がいいんでもっと難儀な仕事かと思ってましたよ」
そう言いながらブラックコンドルは木から下りると、先ほど採った花をカミラに渡します。
「これだけあれば十分よ。あまり一気に取りすぎても良くないからね」
ブラックコンドルはいくつかの小袋に入った植物を眺めました。
「こんな物がどんな薬になるのか、あっしには想像もできませんや」
「フフフ、アンタには分からないかもしれないけど、この子達はとっても貴重な材料なんだよ」
「そうなんですかい?」
「見る人が見れば白金貨2枚でも喜んで買っていくだろうね」
「そんなに?!」
その時、ブラックコンドルは喋るカミラの背後で鎌首をもたげる蛇に気付きました。蛇は首を揺すりながら今にもカミラに噛み付きそうな勢いです。
ブラックコンドルは咄嗟に懐からダガーを抜くと、目にも止まらぬ速さで蛇へと投げつけます。
ところが、放たれたダガーは狙いを外れ、蛇の頭上を通り過ぎると正面の木に突き刺さりました。
「ありゃ?」
驚いた蛇はその鎌首を枝に戻し、スルスルとどこかへ行ってしまいました。
「――ブラコン、あんたどういうつもりだい?」
突然の暴挙にカミラは鋭い目つきでブラックコンドルを睨みつけます。
「ち、違うんですよアネさん!後ろに蛇が――」
ブラックコンドルの言葉を受けカミラは背後を一べつしますが、木に刺さったダガー以外に怪しいものは何もありませんでした。
「金目当てに私を殺そうなんていい度胸だね」
「違うんですよアネさん!違うんです!」
カミラが呪文の詠唱を終えると、森にはブラックコンドルの悲鳴が響き渡りました。