5.貴族の馬車
今日もいつも通り、ギルドへと仕事へ向かう。
この世界に転生して、ひと月ほどが流れる。そろそろ、宿屋をもう数か月延長して宿泊しようかと考えている。
「いつでも予約はあいてますよ。シュウさん。私たちの息子も、貴方のお薬でよくなりました。お礼として、初回割引きをもう一回使えるようにしておきますので、延長したいときは声かけてください。」
宿屋の受付の女主人に言われ、笑顔で見送られる。
そうだよな。そんな時期だよな。
そんな中での出来事だった。
「シュウさん!!大変です!!」
ギルドに到着するとあわただしい。
新たにけが人が出たかな。僕の出番だな。と思い、急がないと手遅れになる。とも感じた。
だが、今回ばかりはかなり騒ぎがでかい。
一体どうしたというのだろう。
「けが人ですか?急がないと手遅れになる場合があります。ご依頼された方のところへ急ぎ手配をください。」
僕は受付のお姉さんに声をかける。
「依頼人はこちらの方です。」
受付のお姉さんに通されるとそこに居たのは、兵隊だった。
この町にはあまり見かけない装備に身を包むが、その装備はかなり立派なものだった。
「回復魔法の方ですか?」
「そうですが、貴方は?」
僕は兵隊に応える。
「私は、ロベルト王国にて、兵士をしております。今現在はエバンス侯爵家にお仕えしております。どうかお願いいたします。エバンス侯爵家の馬車がこの先で盗賊に襲われまして、当主様が怪我をされております。恐れ入りますが、手当てをお願いできますでしょうか。
私が早馬で先にこの町に到着しました。まもなく、馬車も敵を振り切り、向かってくることと存じます。何卒よろしくお願いいたします。」
「承知しました。けが人を早くこちらに搬送することは最善のことだと思います。私も馬車が来る方まで向かって、居合わせたところで落ち合いましょう!!案内していただけますか。」
侯爵家か。責任は重いが、誰であろうと協力するのが、薬剤師。回復魔法の使い手の務め。
「ありがとうございます。」
兵士は胸にしっかり手を当て、案内する。
兵士の乗ってきた馬に乗せてもらい、馬車が向かってくる方向へ向かう。
一台の大きな馬車がこちらに向かってくる。
いかにも侯爵家の人々が乗っているような金の細工がしている馬車だった。
「回復魔導士様をお連れ致しました!!」
兵士が叫ぶ。
するとその馬車は止まり、中から老執事らしき人物が出てくる。
「ご苦労様でした。」
老執事は頭を下げる。
「どうかよろしくお願いいたします。」
老執事は、けが人のところに案内する。
けが人は、当主らしき人と、その人の娘さんの二人だろうか。
「盗賊は?」
「抵抗しましたが、逃げられてしまいました。おそらく、私たち目当てで襲ったものかと、間もなく、防衛を実施した護衛兵たちも追いついてくるはずです。」
兵士と執事は、そんな会話をしている。
僕は2人の怪我人の手当てをする。
息は荒いが、呼吸している。
盗賊を振り切り、負傷者だけでも、馬車に乗せて、こちらに向かわせたのは正解だな。
当然だが、治療は早めの方がいい。
まずは2人を触診していく。
これも回復魔法なのだろうか、自分の魔法で、体を透視できることが分かった。
故に、日本のCTや内視鏡なんかも使わずとも、治療が行える。
娘さんの方は軽症のようだ。おそらく、まだ幼いから、突然の襲撃に、びっくりしてしまった衝撃の方が強いのだろう。
頭を強く打っているだけのようだ。
娘さんにはヒールをかけて、ゆっくり休ませる。
「これで娘さん、つまり、お嬢様でしょうか、お嬢様の方は大丈夫です。突然の襲撃に動揺してしまったのでしょう。さて、問題は、当主様の方ですね。」
背中に矢が刺さっていて、抜け切れていないようだ。
おそらく、休憩か何かをしているときに、お嬢様を狙って、当主が庇おうとして、背を向けて守ったのだろう。
そして、弓矢が命中してしまい、当主と呼ばれるこの人は、そのまま倒れこみ、お嬢様は、そのまま頭を馬車の壁か何かにぶつけてしまった。ということだろうか。
初めて使うので、行けるかわからないが、矢の形を想像して、空間転移の魔法を想像してみる。
おそらく、こういう場合の医療系の魔法だ、行けるはず。
手を広げるとすぐに魔法陣が浮かび上がることが出来た。
よし。そしたら・・・・・・・・。
魔法陣を発動して、刺さった矢を取り出す。
まずはホッとする。手術で体にメスを入れていくとなると、さすがに、元薬剤師の僕にとって、それは自信がなかった。
空間転移の魔法が仕えてラッキーだ。だが、こういう時のためにしかこの魔法は仕えなさそうだ。
魔力を大きく使っている感じがする。
次は、取り出した、矢を調べる。
やはり矢の先に毒が塗られている。
まずい。
すぐに解毒の魔法、そして、解毒の薬を使う。
このタイプの毒に効く薬は確か、所持していたはず。
そう思って、袋の中から、薬を口に含ます。
傷口を生理食塩水で洗浄する。
これで、大丈夫。
後は、毒がそこまで重症化していないことを願おう。
数分後、当主と思われる人の顔色がよくなっていることが確認できた。
「これで大丈夫でしょう。後は、クローバーの町に行って、宿屋を手配していただき、そこで、休んでいただければ。」
僕は兵士と老執事に報告した。
「ありがとうございました。本当に腕のいい、回復魔導士の方がいらっしゃって助かりました。」
老執事は頭を下げる。
「しかも、錬金術で、薬も作れるのは驚きです。」
兵士も声をそろえる。
「お礼は後で、必ずお支払いしますので、先ずは貴方様を町までお送りしましょう。」
老執事はそう言ったので、僕はお言葉に甘えて、クローバの町まで、馬車に揺られて帰っていった。
ギルドに達成を報告する。
「やりましたね。シュウさん!!侯爵家の方を助けるなんて、本当に素晴らしかったです。」
ギルドの受付のお姉さんに、笑顔で言われると、少し安心した。
とりあえず、今日はこれで休もう。
そう思って、僕も宿屋に戻っていった。
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