2.表彰状
僕は目を覚ました。
目を覚ますと、そこは大理石でできた神殿の中だった。
さっきまで、戦争地帯の病院に居て。薬剤師のボランティアで。
大砲の中逃げ遅れて。なぜここに?
僕は不安に思う。
「起きたかね。」
そう声をかけてきたのは、白いひげをはやした老人だった。優しそうな顔をしている。
老人の隣には若い女性が二人。それぞれ両隣に立っている。
老人は頷く。そして、顔つきが一気に真剣になる。
老人は、紙をサッと広げた。そして。
「表彰状。森田修殿。
貴方は、薬剤師として、海外の紛争地帯のボランティア活動を実施し、戦時下の人々の命を救い、懸命に治療に当たり、そして、銃弾が降り注ぐ中、懸命に患者の非難に尽力し、不発弾に気付かず、病院のがれきの下敷きとなり、多くの貧しい人のために殉職という、悲しくも勇敢な最期を遂げました。
貴殿の勇敢な栄誉を称えるとともに、褒賞として、もう一度生き返る権利と、20階級特進と特別ボーナスを授与し、ここに表彰いたします。
12月31日。天の門番一同。」
僕は、急に背筋が伸び、その表彰状を受け取った。
パチパチパチパチ!!
老人と2人若い女性の3人が大きな拍手をする。そして、老人は握手をする。
「素晴らしい!!実に素晴らしかった!!」
老人は感動して、泣いているようだ。
僕は表彰状を受け取ったのはいいが、いくつかはてなマークがつく。
「あの・・・・・。ここはどこですか?」
僕は、質問をしてみる。
若い女性二人が、老人の肩をポンポンと叩き、説明するようにお願いしている。
「ああ、すまんかったのう。ここのことは何も知らなかったよね。」
老人は頭を下げる。
「まずは、ここに来る直前まで何が起きたかわかるかい?」
老人は僕に聞いてきたので、思い出す限り話した。
患者の非難をさせるために、爆発に巻き込まれたことを話す。
気づいたらここにいたと。
「おお、よく覚えているようじゃの。結論から言えば、ここはこの世とあの世の境。儂の後ろに門みたいのが見えるだろう。」
老人は指さす。
確かに、神殿のような建物の背後には大きな門がある。
「この門をくぐればあの世。つまりお前さんは、患者を避難させる際に、爆発に巻き込まれ、病院のがれきの下敷きになり、死んでしまったのだ。」
この言葉にすべてを悟った。そうか。僕は死んでしまったのか。確かに、あの爆発があり、あのがれきに下敷きになればそれは納得だ。
ふう。とため息をつく。
確かに、理屈からしてみれば、条理が立っているが。もっといろいろとやりたかったなあという感情も同時に沸き起こる。
特に、バンドや彼女のことは、もっと努力してやめさせたり、奪ったやつらを見返してやると思ったところだったのに。
「やはりその顔は色々とやり残したことがあるようじゃの。大丈夫じゃ。」
老人の顔は朗らかになってくる。
「大丈夫・・・。と言いますと。」
「普通であれば、儂らは門を開いて、あの世に送り出し、ここはすぐに通過してしまうため、門の向こうで意識が気づく人がほとんどなのだが、特例があってな。」
「・・・・特例?」
僕は首をかしげる。
「いろいろとやり残した人や、君みたいに、人を助けるために殉職した人、誰かに殺された人、長時間労働で何もできずに後悔ている人、など、様々な理由で、非業の死を遂げた人をサポートする役目も儂らは担っておる。
特に君の場合、職務を全うし、人の命を優先しての殉職した人に該当するため、一番手厚い待遇でサポートすると決めた。
ほら、君の表彰状に書いてあるじゃろ。『もう一度生き返る権利と、20階級特進と特別ボーナス』と。」
僕は改めて、表彰状を見た。
確かに、『もう一度生き返る権利と、20階級特進と特別ボーナス』と書いてある。
「おお、やった。」
僕は心の中でガッツポーズをする。
だが、少し考える。
まてよ。こういう展開、どこかで、いや。頻繁に見たことある。
僕の持っている小説。そして、ネットから配信された日本のアニメで見たことがある。うん。とてもよく見かけている。
確かこの後、この老人から発せられる言葉は容易に想像できた。
「だが、一つ条件として、もう一度生き返る権利についてなのだが・・・・・・・。」
「「異世界に行ってもらう。」」
僕と老人の声と口の動きがきれいにそろった。
「おお、話が早い。本当に最近の若者は、『異世界に行く』という動作に何の抵抗もなく、むしろ君みたいにすべてを予測したかのように、呑み込みが早い人が多くて非常に助かっている。特に、地球という場所の日本というところから来る人、全員にそれが見られて本当に早く対応できて助かっているのじゃ。現に、一週間前に担当した人もそうだったなぁ。一体何がそうしているのじゃろうか。」
まあ。その、そういうアニメとかあるし。
というか、辿ってきた道とかみとけよ。こういうアニメとか漫画とか好きな人とかいるだろう。と思ってしまう。
「まあ、何はともあれ、異世界で、もう一度生きていただこう。この紙に必要事項を書いてくれ、それをもとに、スキルとかいろいろ決定していくから。といっても、君の場合はほぼ無双状態に近くなるがな。」
これもよくある展開だ。
そして、差し出された紙に必要事項を書いた。
その紙はどこにでもある、履歴書と職務経歴書だった。なるほど、ここはよくできている。
僕は履歴書にいろいろと書いた。
名前、学歴、職歴、趣味、特技。その他、職務経歴書にいろいろと自己PRのように書いていった。
「ふむふむ。森田修君か。異世界では、こういう名前の人はほとんどいないので、これからは、君の名前にちなんで、【シュウ=フォレスト】と名乗るがよい。」
老人は手を差し伸べる。
【シュウ=フォレスト】、名前を聞かれても、無意識に名乗れるような魔法をかけてくれた。
同時に、文字の綴りも頭の中に浮かんできた。
「当然、今後の異世界活動によっては、ペンネームとか芸名とかで、修=森田、と名乗っても構わないからな。」
僕は頷く。
「そして、職業は薬剤師。音楽バンドもやっていたと。ということなので、回復魔法スキルは当然最高ランクのS。薬草学と、調合のための錬金魔法のスキルも最高ランクのSとしよう。当然、聖セラフと聖メディスの加護も与えよう。ああ、セラフとメディスというのは、君が行く予定の異世界で神話に登場する薬師と医者だな。
回復魔法に適性があり、さらに極めたものに与えられる加護だ。特に、聖○○と名のつく加護は上級職、最高峰であり、聖○○の加護持ちは、何らかのスキルが最高ランクのSということになるので、頭に入れておいてくれたまえよ。」
なるほど、加護やスキルについては、いろいろと勉強していく必要があるが現時点で、回復魔法や、錬金術で無双できる権利をもらったわけだ。
「その他、趣味のスキルも引き継いでおくからな。そして、卒業した大学のレベルや今までの行いによって、適当に振り分けておくぞ!!そして、はいこれ。」
老人は袋を渡す。かなりしっかりした、布製の袋だった。
「その袋には収納魔法が施されている。君の部屋に置いてあったもの、君が使っていたものが一色入っておる。PCやスマホなどの電子機器で電気を使わないと動かないものは君の魔力で動くようにしておいた。そして、異世界対応用に変えておいた。
例えば、君の部屋に地図帳が置いてあったが、それは異世界の地図帳に変えておいたし、国語辞典も異世界の言葉を乗せておいたから調べてくれ。勿論、植物図鑑は異世界の薬草の図鑑として、入れておいた。」
「あ、ありがとうございます。」
僕は老人と、従者の女性に頭を下げる。
「さて、まだ『20階級特進権利と特別ボーナス』には相当の余裕があるぞ。何か、必要なものはあるかね?」
僕は先ほどいただいた袋の中身を確認する。
日本で買ったものに関しては、すべてそろっているし、異世界へ行っても、基本的なものに関してはありそうだし、大丈夫そうだ。
「とくには、問題なさそうです。しいて言えば、音楽バンドを追い出されたり、職場を追い出されたり、彼女も奪われたので、異世界ではそれがないようにしたいし、幸せになりたいです。」
僕は老人たちに向かって言った。
「それは勿論じゃ。そうなるように祈っておる。と、言うことなので、余った分は魔法の全属性の適性と、魔力付与、および能力値上昇で問題なさそうじゃな。病気にでもならない限り、誰かに殺されるような死に方はしないだろう。ただ、魔法は全属性適正があるとはいえ、回復系魔法以外は初期値として、全て最低レベルになっておるからの、自分の腕で磨いてくれよな。まあ、君ならばすぐに使えるようになるが。」
そういって、老人は僕の頭に手を乗せた。
どうやら、異世界に転生する体になってきているようだ、魔力というものが感じるようになる。
「ついでに、14、5歳くらい、若返らせておく、そうだな、実年齢で、15歳、中学生、高校生くらいにしておこう。先ずは、その若返った体で、ギルド登録などをして、お金を稼いで、学校にでも通ってみるといい。」
老人に言われて、僕は頷く。
「よしそれでは準備ができたので、『20階級特進』と『特別ボーナスによる』異世界転生と行こうかな。たくさん冒険して、また死ぬとき会おうぞ!!」
老人と従者の女性は手を振ってくれる。
僕も手を振り返す。
「ありがとうございます。」
と、言いながら。
最後まで、ご覧いただきありがとうございます。
まだまだ、プロローグの段階なので、これからの連載を楽しみにしてくれると嬉しく思います。
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