1.ボランティア
元女子校シリーズ、異世界転生版です。
冒険と恋愛が始まります。
大晦日。一大イベントは紅白だろう。
「続きまして白組は、初出場。【Future薬局】の皆さんです。」
紅白の司会が、【Future薬局】という名のグループバンドを紹介する。
バンドメンバーが挨拶をする。メンバーは全部で、6人だ。
「なんと、皆さんはテレビ初出演なんですよね。」
司会が言う。
「はい。そうですね。こうしてファンの皆さんに会えたことがとてもうれしいです。」
ファンの皆が拍手をする。
「なぜ今日がテレビ初出演かと言いますと。この【Future薬局】実際にありまして、リーダーの河村さんが勤務されている、薬局なのだとか。」
司会の人が続ける。
「はいそうですね。おかげさまで。地域の人に役に立つことができて、嬉しいです。」
河村という人物が話すと。ほかの出演者が、目の色を変える。
ほかの出演者の歌手は。
「ほぉ~。」
「すごい!!」
と拍手をする。
「そうなんです。この【Future薬局】の皆さんは、大学の薬学部時代同じサークルで、その時から地域で活躍しており、メンバー全員が薬剤師となった今日も、YouTubeを通して、音楽を発信して、今日の紅白出場に至っています。大きな拍手で迎えてあげてください!!」
と客席からあふれるばかりの拍手が沸き起こる。
「そうですね。みんなの職場がお休みのこの年末年始くらいしかテレビに出られないのが残念なのですが、今日は応援していただいた、皆様に感謝を込めて、演奏します。」
リーダーの河村が、客席に手を振る。
「はい。それではご準備をお願いいたします。」
そして、曲紹介を司会が行い。【Future薬局】というバンドの演奏が始まった。
「この曲いいっすね。森田さんも聞いてみてくださいよ~。しっかし、俺たち薬剤師に、こんなすげー人たちが居るなんて、尊敬しますね。森田さん。」
「いや。僕は良いよ。」
大晦日の真昼間の病院。
僕は、仕事仲間に、曲を勧められても、僕は聞かないふりをした。
「またまたぁ~。森田さん、確かピアノ好きで特技って言ってませんでしたっけ。仕事熱心なのはいいですけど、やっぱり地球はどの国でも大晦日なんですよ。こんな日に患者は来ませんよ。普段と違って、この辺も結構静かですし。」
仕事仲間は、やはり大晦日は年末年始のようにのんびり過ごすのだろう。
確かに。普段と比べてここは静かすぎる。ここは少しのんびりしてもいい。
僕が、【Future薬局】の曲を聞こうとしないのは、理由がある。
その、【Future薬局】に1年半前まで僕は勤務していたし、何ならバンドも一緒にやっていた。その薬局と同名の、今紅白で演奏している、【Future薬局】というバンドで。
さらに言えば、作曲も僕がやっていた。
だけど。
「森田。話があるんだけど。」
同僚の河村。つまり、現、【Future薬局】のリーダーから相談がある。
僕は相談に応じた。
河村は、女の子を僕に紹介させた。
「この子、俺の高校の後輩で、大学は違うんだけど、薬剤師なんだ。」
「初めまして。吉村と申します。」
吉村という子は、僕に深々と頭を下げた。
とてもかわいいし、胸も大きい。僕も男だから、やはり若い女の子の胸元に目が行ってしまう。
「それで、相談というのは。」
「この子に【Future薬局】のバンドのキーボードとして入ってもらう。それで、お前は申し訳ないんだがバンドを抜けてもらえないだろうか。やっぱりかわいい女の子を入れて、ビジュアルを意識したいというか。」
な、なんだって。
「なぜだ、河村。俺たち、一緒にやってきたじゃないか。百歩譲って、抜けると言うなら、作詞作曲や動画の編集なんか僕は継続できるのはどうだ。」
僕は河村に持ち掛けた。
「いや~。それも、女の子目線の曲が欲しいじゃん。やっぱりお前が抜けてもらわないと無理なんだよ。申し訳ないが、そういうことにしておいてくれないか。」
と、河村から言われた。
納得できない僕は、すぐに付き合っている彼女に相談した。
泣きながら相談した。
「まあ。しょうがないんじゃない。向こうの都合もあるのよ。」
そんなことを言った。次の日だったが。
その彼女も、【Future薬局】の、ドラム担当の宮下に奪われてしまった。
確かに、宮下は大学時代からチャラかった。
案の定、昨日の河村のように、lineで、相談したいことがあると僕を呼び出し。
僕の彼女を好きになってしまい、告白して、ずっと前から僕に内緒で付き合っている。
という旨の話をされた。
そして。
「やっぱり、音楽をやって欲しかった。仕事しかしない、あなたには興味がない。」
と彼女に言われ、彼女も奪われてしまった。
それが決定打になったのだろう。
「わかった。俺、【Future薬局】のバンドやめるわ。新しく入る吉村さんよろしく。」
僕は、バンド仲間の前で、バンドの決定事項通りその方針に従うことにした。
「おう。話が早くて助かるよ。サンキューな。森田。」
河村が笑顔で僕を見送った。
そして、河村と同じ職場に居ずらくなったのか。
あっさりと、職場の方の【Future薬局】にも退職願を提出した。
そして。
僕は逃げるように日本を出た。
海外ボランティアの医師、看護師、薬剤師の医療スタッフ派遣事業で現在、アフリカのとある国に来ている。
真昼間の大晦日なのに、夜からスタートする、紅白がもう中継されているのは、このためだ。
日本との時差で、この国はまだ昼なのだ。
そういうわけで、ネットから流れてくる。そのバンドの歌声から逃げたかったのが心の心理なのだろう。
ここの病院は色々とネット環境が配備されているようだ。なので、いろいろな海外の情報も入ってくるし、もちろん、日本の情報も入ってくる。
吉村さんが入ったことで、【Future薬局】はメキメキと再生回数を伸ばし、現在の紅白出場に拍車をかけたニュースも当然、僕に伝わる。
とても悔しいし、惨めに覚えた。
その分、この国で、ボランティアとして、仕事をしようと、心に火をつけた。
ありがたいことに、この病院の治療実績は上がっているようだ。
ほとんどは医師の力なのだが、薬剤師として、縁の下の力持ちとして働いている僕にとってもそれは嬉しい。
そして、今日の大晦日。
いつもは騒がしい、この国もとても静かだ。
騒がしいといっても、人の声や車の音がうるさいというような類の騒がしいではない。
内乱で、爆発の音や、地雷の音が、相次いでいるということだ。
この国は、政府組織と、反政府組織、さらに軍隊が、ほぼ互角に力を持つ。そのため、内乱が一向に収まらない。
ボランティアで配属を決めるとき、仕事も、バンドも、彼女も奪われた僕にとって、新たな仕事を生きがいとすることに決めた。
ということで、誰も手をあげなかった、一番厳しい紛争、内乱地帯へと派遣される事業に堂々と手を挙げていた。
僕が、無心になって、仕事をやるしかない。犠牲になるのは国民だ。国民の命を救うんだ。
その一心で。無心で、仕事に励む日々だった。
だから、この大晦日。何も音がしないのはかなり不思議だが、ゆるやかに流れる平穏な時を、同僚のスタッフとともに、とても楽しんでいた。
現に、あのバンドの次に歌った、アイドル女性歌手グループの歌は、僕たちを励ましてくれそうな元気が出る歌だった。
こんな歌を作りたいと思ったときもあるなと思い出した。
そんな時だった。
銃声、いや、大砲の音が大きく響く。そして。
バーン!!バーン!!
病院の壁に命中して、病院の壁が一気に崩れた。
「まずいです。森田さん!!」
同僚の医師、看護師、そして薬剤師がお互いに顔を見合わせる。
入院している患者を避難させないと。
やはり、ここは紛争地帯の病院だった。
大晦日の平穏は、大砲の音で一気に崩れた。
患者を一人、また一人と救出していく。
必死の活動だ。
僕たち必死の活動によって、入院している患者は全員避難できた。
「最終確認を森田さん、お願いできますか。」
「了解しました!!」
医者と看護師は患者を安全な場所に避難。
残っている人がいないかの最終確認は、薬剤師が担当で、一番最後の確認の担当は今日は僕だった。
僕はもう一度、病院の中を回る。
「逃げ遅れた方はいませんか!!」
僕は大声で叫ぶ。
「どなたかいませんか!!」
大声で再び叫ぶ。
病院の部屋、見落としがちなトイレ。シャワー室。すべて見た。
「いないな。」
僕は頷き。
病院を出ようとする。
「ここも危険だ。なぜ病院を襲う。ふざけるな。」
大砲の音が鳴りやまない中、平和を祈りながら、僕は病院の出口へ向かう。
バーン!!
何発目かの大砲の音。
そして、その大砲が、病院の土の中にあった不発弾に刺激を与えた。
その不発弾が病院の土の中にあることに、当然ながら、僕は今まで、気付かなかった。
その不発弾が爆発し、僕の行方を遮り、病院の天井が僕に近づいてきたのだった。
最後まで、ご覧いただきありがとうございます。
まだまだ、プロローグの段階なので、これからの連載を楽しみにしてくれると嬉しく思います。
少しでも続きが気になる方はブックマーク登録と高評価、いいねをお願いいたします。
評価は一番下の【☆☆☆☆☆】マークからできます!!
●執筆中の別作品もよろしければご覧ください。
1.忍者翔太朗物語~優秀な双子の兄だけを溺愛する両親のもとで奴隷のような生活をして育った忍者のお話~URLはこちら↓
https://ncode.syosetu.com/n1995hi/
2.元女子校に男子の僕が入学するとどうなるのか?※このシリーズの現実世界編です。
https://ncode.syosetu.com/n7935ht/