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【完結】妖精と呼ばれた転生令嬢は今度こそ恋をしたい  作者: ごんちゃん


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(11)メルカッツ家の事情

ブクマ、評価ありがとうございます。

メルカッツ家の大きな馬車で揺られながら学園へ向かう。


向かいの座席ではさっきから美麗な青年がこちらを見てやたらニコニコと微笑んでいる。


いつも一緒にいたエリーなのに、男性だと意識した途端に距離感がうまく掴めない。


それに色々と分からないことばかりで、頭がずっと混乱している。


しばらくして、ようやく私は一つ大きく息をついてから口を開いた。




「あの、エリー?男性って……でも、ずっと…あれ?名前ってエリーじゃない?」


「うん、ごめんね?本当はエリーアスっていうんだ。でもエタはいままでどおりエリーって呼んで欲しいな」



そういえば、男性でもエリーという名前がないわけではないけれど、やはり一般的とはいえない。


案の定エリーの名前は、本当はエリーアスというらしい。


心の中でエリーアスという名前を何度も繰り返して、とても目の前の青年に似合いの美しい名前だと思った。




「エリーアス……分かりました、エリー」


「とりあえずは色々聞きたいだろうから、順番に説明してもいい?」


「…うん」




エリーはスッと、掬いあげるように私の手を握り、向かい合って両手を繋いだ。


慣れているはずのエリーの手の温もりが、今は鼓動を早めるばかりだ。


長くて形の良い爪や、昨日までと違って骨ばって見える男性の手にも照れてしまう。


エリーも私に話すことに少し緊張しているのか、大きく二度深呼吸をしてから、ゆっくりと話始めた。




「メルカッツ家が長年辺境伯に任じられているのは知ってるでしょ?いちおう高位貴族家として、過去にも何度か王族が降嫁したりしてるわけだけど、最近だと先々代当主の1人娘だった祖母と当時の第三王子殿下が結婚して家督を継いだ…ここまでは知ってるかな?」


「もちろん、エリーのお祖父様が王族の方だということは聞いたことあります」



つまり、エリーもかなり序列は低いながらも王位継承権を持っているということなのだろう。


これだけの容姿と才能を持った高位貴族の嫡男。


しかも王族の血を引いている名門貴族家だ。


これまでは同じ学園で机を並べる学友として、親しく付き合ってきた。


けれど、普通に出会っていれば到底エタが近寄ることなどできない身分だったのだと、卒業を前に改めて痛感させられた。


それでも、これまでとまるで変わらないのだというように優しく接してエスコートまで買って出てくれる。


そんなエリーだから、これからの人生をこの大切な友人に仕えることに捧げようと思えたのだ。




「じゃあ、この国の王族男子が呪われているって話はどの程度知ってるかな?」


「先代国王陛下の兄君である第一王子殿下の婚約破棄がきっかけで、何らかの呪いを受けたことは知っていますが、詳しい内容は私達下位貴族までは知らされていません。ただ、学園生活中の王族男性に関わるとトラブルに巻き込まれやすいとか、この学園の規則が詳細に渡って厳しくなったのもそれに関係しているらしいとか、その程度でしょうか」




以前は不文律であったような貴族としては常識とも言えるマナーなどについても、明文化され遵守を求められるようになった。


プレスクールが設置されたりするようになったのも、その呪い以降のことだと聞いている。


官吏や国家魔道師、騎士団などへの平民の登用も昔に比べるとかなり増え、門戸を広げただけでなく優秀な人材が平民や下級貴族層からも多く出るようになった。


良くも悪くもこの国は、その呪い以降様々な面で変革がもたらされてきているらしい。





「そうだね。今のところ分かっているのは、王族男性が学園に通う年齢である15歳から18歳の間に、やたらと『無邪気な女性』からアプローチをうけたり、恋愛系の問題に巻き込まれやすくなるんだよ。ちなみに、学園に通ってなくても国内にいなくてもこれは適用されてしまうものなんだけど」


「アプローチ……そういえば、エルヴィン殿下やグスタフ殿下にやたらとマナーを無視した接触を図っていた女性が何人もいたのは…」


「まあ、ああいう感じでね?アプローチしてきた女性達の中には、本来ならマナー教育も出来ている令嬢も呪いの影響でかなり理性的でない振る舞いをしてしまうんだ。最も、対象の王族に対して全く好意を持っていない場合は呪いの影響も受けないみたいなんだけど」




無理やり意思を曲げられているわけではないとはいっても、呪いの影響で淑女としては失格と言われかねない行動をとってしまうなんて、恐ろしいことだと思う。


それに、高位貴族家の方は男性も女性も容姿の整ったもの同士での婚姻が続く為に、タイプは違えどそれぞれに素晴らしい容姿を持っている。


魔力やその他の才能にも優れている場合が多いのだから、例え家同士で決められた婚約者がいる者であっても、憧れの気持ちぐらいは抱くだろうことは想像に難くない。




「呪いの影響で…あ、もしかして入学してから何人もの令嬢が学園を辞めていったのは……」


「そうだね。殆どは呪いの影響を受けた令嬢かな」


「そんな!彼女たちはどうなってしまうの?」




思い浮かぶのは、昨年まで同じクラスで学んでいた特待生の商家の娘ユナの姿だ。


一学年下のグスタフ王子殿下が入学してきた途端、それまでの彼女からは考えられない程積極的に殿下へアプローチを始めた。


実家の商店には、私達より5歳上で業務提携をしている隣国の商家の子息が、既に2年前から彼女の婿になる為に修行に入っていると言っていたのに。


愛してはいないけど、仲は良いからうまくやっていけるだろうと笑っていたユナは、行動が変わった数日後にいつの間にか学校を辞めてしまっていた。


実家で何かあって急に辞めることになったのだと思っていたけど、もしかすると…。



「うん、これは高位貴族と王家の官吏しか知らないことだけど、彼女たちのうち『本当に呪いの影響だけが原因』だと判断された者は女性専用の教育機関であるサクラ学園に転校してもらっているよ」


「サクラ、学園?じゃあ、退学処分とかじゃなくて…」


「学校としては転校扱いになっているよ」


「そうなんだ……良かった」




とりあえず、秘密裏に処分を受けたりしたわけではなさそうなことにホッとする。


この世界で王族に対して不敬を働けば重罪に問われてもおかしくない。


それでも、本人の望まぬことで厳しい処分を受けるとなると、前世日本人だった私ににとっては冷静に受け止めることができないことであったろう。


思わず呟くように零れた安堵に、クスリと笑ったエリーが分かっているよとでもいう様に私の両手を重ねて、その上からポンポンと優しく掌で二度叩いた。




「サクラ学園は、問題の呪いをかけた令嬢…というか元聖女様なんだけど、彼女の名前を冠した学園でね。どうやら呪いの影響を受け易い令嬢には、不思議な傾向があると分かって来ているんだ」


「傾向…?」


「まず、それまでは異世界からの聖女召還でのみ得られていたはずの、聖女とするに相応しいほど強い聖魔法に目覚める者が現れ始めた。その他にも、画期的な魔道具の開発をしたり、新たな魔法を作り出したり、国に有用発案したり。とにかく不思議と優秀な人材が多く含まれることがここ50年ほどで分かって来ているんだ」


「なんだか不思議な話ですね…聖女サクラ様……」




呪い以降にしかこの世界で聖女が現れていないのだとすると、サクラ様はおそらく異世界人なのだろう。


もしかしたら、私の前世と同じ世界の人だったりするのだろうか。


異世界まで来て、聖女にまでなったのに呪いをかけたくなるほどの何かがあったのか。


もしも同じ時代にいたら、色々な話を聞いてみたかった。




「まあそれを踏まえて。元々、我がメルカッツ家では男児が無事に育つように7歳を過ぎるまで女児の姿で過ごす風習があったんだ。それで入学前に何度も両親や王家の方々とも相談して、女装を続けてそのまま女生徒として入学することにしたんだよ。まあ、もしかしたらそれで呪いの影響を受けずにすんだり、軽減したりするんじゃないかということでね?実験も兼ねてって所かな。単に女性からの単純なアプローチだけなら断ればいいけれど、彼女達との恋愛を盛り上げるためなのか分からないけど、婚約者を貶められたり瘴気が増えたり魔獣が出たりと関連するトラブルの方が色々大きな問題だったからね」


「……それで女装して通っていたのね。言ってくれれば良かったのに」


「ゴメンね?一応異性には秘密ということに王家と我が家で取り決めてあったんだよ。とにかくそのおかげかどうかは分からないけど、この3年は他の王族方に比べたら随分影響は少なくてすんだってわけ。まぁ、時々同性でも良いとアピールされたり、私の性別を知らない同性からアプローチされるのだけはちょっと困ったけどね」




綺麗な眉を少しハの時に眉尻を下げ、ちょっぴり情けない表情で許しを請われれば、ダメだなんていえるはずもなく。


しかも、それが王家と辺境伯家での約束だったのだと言われれば、話せないのも仕方のないことだと十分理解もできる。


ただ、気付かなかった自分が情けなくて悔しくて、様々なことを思い返せば穴に入りたくなるほど恥ずかしいだけなのだ。


決してエリーが悪いわけではないので謝らせてしまうのは違う気がする。


そう思って、さっきのエリーの言葉がふと気になった。




「え?ちょっと待って……エリーの性別を知っている人もいたってことですか?」


「ああ、だってメルカッツ家に今は男児しかいないことぐらい、高位貴族家ならどの家だって知ってることだし、女装していたとはいえ私も弟も殿下たちとは一応学友候補で幼い頃からの友人だからね?剣術クラスでも私が男性だと知らなかったのは、この前のバイラー侯爵子息ぐらいじゃないかな?」




一番一緒にいた自分は気付かなかったのに、他の者は気付いたのかと些かショックを受けたのだが、言われてみればその通りだ。


貴族は生まれたときから婚姻相手が決まる者がいるように、各派閥や家系の縁組の為に各家の家族構成などの情報は当然知っているべき情報なのだ。


つまり、高位貴族家の令息令嬢方は当初からエリーが男性だと知っていたということになる。


そんな人たちの前で私は毎日のように、男性であるエリーと手を繋いでいたらしい。


一体私は彼らの目にどう映っていたのだろうか。


それを思うと羞恥と恐怖に身が縮む思いだ。


実際にこれ以上縮んだらたまったものではないのだけれども。


ああ、でも私がチビッコだからこそ、これまで身分違いだ破廉恥だと責められることもなかったのかもしれない。


まさか、己の幼い外見に感謝する日がこようとは思ってもみなかった。


黙って俯いている私が色々考えてしまっていることに気付いたのだろう。


少し座席から身を乗り出したエリーが、私の耳元で少し楽しげな声音で囁いた。




「そうそう、ここだけの話。実はエルヴィン殿下の初恋相手は私だったらしいよ?会って1分で失恋したみたいだけど……あ、これはリーゼロッテ嬢には内緒だよ?」



パチリとウインクをして笑うエリーは、男性だと分かっていてもやっぱり綺麗で、王子様が恋してしまうのも仕方ないだろうと思えた。


クスクスと楽しそうに笑うエリーにつられて、私も思わず笑ってしまった。




「ふふっ、そうだったんですね……ん?!え?あれ?…お、とうと……?エラちゃんも、男の子なんですか?」


「あはは、そうだね。エラの本当の名はエラードっていうんだ。エラも女装で通学することになっているから、それでやはり呪いが軽減されるなら有効だってことが証明されるってわけ」




どうやら、以前会わせてもらった私より背の高いエリーの妹…いや実際は弟だったらしいけれど、エラちゃんも男の子だったらしい。


エリーに似た美少女だと信じていたのに、メルカッツ辺境伯家、どうなってるの!!


こんな美人さんな息子ばっかりだなんて、ご両親の顔面偏差値の高さが窺えるというものだ。




「……男性なのに兄弟そろってこんなに美人だなんて、世の中不公平だわ」


「うーん。褒め言葉、だと思っておくかな。でも私にとって、エタはすごく可愛いし綺麗だよ」




はい、流れるような褒め言葉頂きました。


これまでは女友達からの褒め言葉だと思っていたから、嬉しくもくすぐったい気持ちで受け取って来たのに、異性からの褒め言葉に慣れない私はどう反応していいか分からなくなった。


これはモテるはずだ。


これからきっと沢山の令嬢がエリーの妻の座を欲して競い合うのだろう。


そう思ったら胸がチクリと痛んだ。




「お、お世辞はいいです!」


「本心なんだけど。私はこんなに可愛くて素敵な令嬢は他に知らないよ?」



いつもどおりのエリーの言葉なのに、やはり少し素直に受け取ることが出来なかった。


こんなに素敵なドレスを着せてもらっても、どんなに磨いてもらっても、チビッコはどこまでいってもチビッコなのだ。




「だって、こんなチビッコなんだもの。皆マスコットみたいに可愛いとは言ってくれるけど、誰も恋愛対象になんてしてくれないのよ?貴族令嬢なら家の為にだって嫁ぐ覚悟は私にもあるのに、こんなに小さい身体じゃ子供だって産めないだろうって皆に言われるの!求婚者なんて、今じゃホイス男爵だけなのよ?絶対、絶対、嫌!!」




見た目も家柄も、エリーとは並ぶことはできない。


これからは一歩下がって、エリーを支えていく立場になる。


それは私が望んでエリーが私に与えてくれた立場でもある。


そのことが、嬉しくもあり、少しだけ寂しくもあった。


今の私に張れる精一杯の虚勢で、できるだけ口角を上げて微笑む。



「だからね。エリーが男性だって知ってビックリしたけど、辺境伯家で雇ってもらえるなら私は頑張って働くから!これからも、見捨てないで……よろしくお願いします」




それなのに、返された言葉は思ってもいなかったもので。




「え?エタを我が家で雇うつもりはないんだけど…」




私のなけなしの虚勢はあっさりと崩れてしまうのだった。

不穏な終わり方ですみません。


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