(1)エタ・ツヴェルク
呪われた王国シリーズの8作目です。
※この国の男性王族は呪われています。学園に通う15歳から18歳の時期に『無邪気なヒロイン』に強制的に出会い結ばれる為の様々なトラブルに巻き込まれるという傍迷惑な呪いに。呪いに抗いながら幸せを模索する王族やその周囲人々を描いたシリーズです。
今回がなろう初の連載です。
よろしくお願いします。
私、ことエタ・ツヴェルクは心の底から叫びたかった。
「転生してまでこれはないでしょう!?」と。
ツヴェルク伯爵家の四女として生をうけた私は、家族からも使用人からも、とても愛されていた。
領民たちからでさえ「領主様のとこの妖精姫さま」「我らの小さい天使」とか言われて愛され慕われている。
ある意味、貴族令嬢としてとても幸せで素晴らしいことだとは思う。
但し、私が例えば未だに10歳に満たない令嬢であるならば…である。
私はつい先日18歳になった。
8歳ではない……18歳だ。
つまり貴族令嬢としては結婚適齢期真っ只中、というより既に終盤に入ってしまった。
歳の離れた兄も3人の姉も既に結婚しているが、今だに私には恋人も婚約者もいない。
そんな相手が出来る気配すらない。
現在貴族たちが多く通う王立学園に通っており、そこでも男女問わずに人気はあるが、そこから恋愛に繋がるかと言われれば恐らく答えは否だ。
そんな学園の卒業も目前に迫っている。
一緒に卒業を迎える令嬢たちには、卒業と同時に結婚する者も多い。
おかげで最近、己の将来を考える度に泣きたい気持ちになることが多くなってきた。
まあ、泣いたところで何も解決しないことぐらい私だって分かっているので泣きはしないのだが。
エタがもっと幼い頃には、ツヴェルク伯爵家にもエタ宛の釣書が何通も来ていたらしい。
しかし、末娘のエタを溺愛していた両親や兄姉がやらかしてくれていた。
エタにはまだ早いだの、こんなに可愛いからもっと良い縁を望めるだの、家に縛られずに好きな人と結婚させてあげたいだの、望むならずっと伯爵家にいても良いだのと、要するに皆で寄って集って好き勝手に選り好みして難癖をつけて断っていたのだという。
正直にいえば、なぜそんなことをしたのかと家族を一列に並べて小一時間説教したい気持ちにはなるのだが、既に何年も前に終わってしまったことを今更どうこう言った所で意味はないことは分かっている。
そして現在。
私へ届く釣書は断っても断っても諦めずに何度も釣書を送りつけてくる、ある男爵からのエタを後妻に求める一通だけという惨状だった。
既に結婚と離婚を三度繰り返しているその男爵は、私の父であるツヴェルク伯爵と同年輩で……少女性愛者であると噂がある人物である。
そんなことを考えていた私は、つい夜会で何度か見かけた男爵の姿を一瞬思い浮かべてしまい、背筋を怖気が走るのを抑え切れなかった。
もちろん貴族家の男性なのでその男爵とて醜いわけではないのだが、あの嘗め回すような目が!!!
「嫌!!絶対あの男爵にだけは嫁ぎたくない!」
握りこぶしで些かどころでなく寂しい胸元をギュッと押さえ、思わず声に出してしまった。
寮の個室とはいえ、誰かに聞かれてしまっては恥ずかしい。
慌てて窓に目を向けて、窓が閉まっていたことにホッとする。
あんなところに嫁ぐのは絶対に嫌なのだが、今の所他に嫁ぎ先は見つかっていない。
要するに、エタは18歳とは思えないほど幼く見えるのだ。
親友のエリーからは、せいぜい12歳ぐらいにしか見えないと言われている。
それは言い過ぎだろうと言いたいが、実際エリーの10歳の妹より背も低いのは間違いない。
身長1つとっても小柄だと言い張るには少しばかり厳しい。
だがそれだけでなく、私は顔立ちも人一倍幼いのだ。
その為学園でも、皆のマスコット的に愛されてはいる。
嫌われるより余程良いとはいえ、エタはマスコットとして愛されるより、素敵な男性と普通の恋がしてみたいと願っているのだ。
そもそもツヴェルク伯爵家は、遥か昔に妖精族の姫がある平民の魔法騎士と結婚した際に国から叙爵されてできた家だった。
その為、他の家系より自然魔法や精霊魔法などの素養が他家より多少強く出るものの、今では純粋な人族とさして変わりはない。
いや、なかったというべきか。
父であるツヴェルク伯爵は中肉中背の落ち着いたブラウンの髪と暗めの青い瞳だし、兄も母方の血が濃く出たのか赤みの強いブロンドヘアに深緑の瞳であり、騎士団に所属するほど長身で体躯もしっかりしている。
3人の姉たちも細身ではあるが、それぞれに一般的な身長と整った顔立ちで学生時代に出来た恋人とそのまま結婚している。
そんな中、エタだけが先祖返りと言われる程、初代の妖精族の特徴が強く出てしまっていた。
先祖がえりのせいか魔力も家族の中ではかなり強いほうだが、攻撃魔法は極端に苦手で得意な魔法は植物魔法だ。
つまり出来ることといえば薬草栽培や作物の品種改良など、顔立ち同様実に地味なものである。
妖精族の姫と言えば、おそらく殆どの者が想像するのは金や緑の髪に蝶や蜻蛉のようなキラキラした羽のある、見目美しい姿を思い浮かべるだろう。
しかし、残念ながらと言ってはご先祖様にもその一族にも失礼ではあるのだろうが、ツヴェルク伯爵家の初代妖精姫の一族は『愛らしい』とは言われても大抵は『美しい』とはあまり言われない。
所謂蕗の葉の下にいる系の、髪も瞳も黒く顔立ちも地味な小人っぽい種類である上、あまり強い力も持たない妖精の一族であったらしい。
彼女の一族の住む集落が、魔獣の群れによって滅びの危機に瀕していた所を初代当主となった騎士とその仲間たちに救われたそうだ。
その勇姿に惚れ込んだ姫が騎士の元へ押しかけるようにして嫁いだらしいが、その積極性のかけらでも私にあればこの状況もなんとかなるのかもしれない、などと無い物ねだりまでしたくなる。
とはいえ、私がこれほど己の結婚について悩むようになったのは実は最近になってからのことだ。
それまでは婚約者候補すら決まらない状況を多少寂しく思いながらも、貴族令嬢であるならばいつかは家の為に嫁ぐだろうし、そうでないなら領地の修道院で過ごすのも致し方ないとさえ思っていた。
貴族令嬢とはそういうものなのだからと。
しかし、先日起こったある出来事以来、私にはどうしても以前までのように将来のことを簡単に割り切ることが出来なくなってしまっていた。
それは先日、学園の廊下を歩いていた際のことだった。
私は突然、壁に強く全身を打ち付けられた。
魔術の補習授業を受けていた下級生が制御を誤り、暴走した風魔法の突風に煽られた教室のドアに弾かれた…らしい。
そして、そのまま意識を失った私が保健室で目覚めた時、雨後の湖に川から流れ込む水のように大量の記憶が一気に流れ込んできて思い出してしまったのだ。
所謂、前世の記憶というものを。
仕事が忙しくて一気書きできないので、ちまちま更新予定です。
お一人でも良いので楽しんで頂けますように。




