15
このまま公爵家に帰してもいいが、あらぬ事を言われ続けるのも鬱陶しい。
引く気がないミケーレをそのままにしておけば、後々面倒なことになりかねない。
その前に二度とソフィーアの前に顔を出せないように‥そして思い出したくないと思うような痛い目に遭わせなければならない。
(‥‥仕方ないわ、最後の手段をつかいましょうか)
「そういえば1つ面白い映像がありますの」
「‥‥ソフィーア、やめてくれ!」
「ソリッド様、もう手遅れです」
「‥っ」
「これでミケーレ様にも思い出して頂けると思いますわ」
「な、なんだよ!!」
そこに映し出された映像には――
『どういたしますか?ランドリゲス公爵家のミケーレ様が決めてくださいませ』
『‥‥』
『ああ、やはりミケーレ様には‥』
――パンッ
『俺だって、そのくらい自分で決められるッ!』
『‥どうでしょう』
『お前がっ、お前がそこまで言うのなら婚約破棄してやる!!』
『そうですか』
『――俺がお前を振ったんだっ!間違えるなよ!!』
ミケーレがソフィーアの頬を打った、あの時の映像である。
その瞬間、ブワッと部屋の中が暗闇に包まれる。
「ルゼット様」
「こいつ‥地獄に送り込んでやる」
「それはわたくしが居ないところでお願い致します」
「ソフィーアが居ないとこならいいの?」
「‥‥任せます」
ソフィーアがそう言うとルゼットは爛々と目を輝かせながら、手を引いて獲物を定めるようにミケーレを見ている。
「アイツらの餌にしちゃおうかなぁ?」
ミケーレはルゼットの言葉に顔を真っ青にさせてから口を閉じた。
周囲が明るくなると、ラバンジールとリマも完全にミケーレを敵と定めたのか首元に剣を突きつけている。
「思い出してくれました?」
「‥‥ひっ」
ミケーレはカクカクと首を動かした。
「ウフフ、なら良かったですわ」
剣先がキラリと光る。
ミケーレの股間には、じんわりとシミができている。
余程怖かったのだろう。
3人を煽るような形になったが、ミケーレを追っ払うのに手っ取り早い方法は物理に他ならない。
言っても納得してもらえずに、多少強行手段になってしまったが致し方ないだろう。
「ランドリゲス公爵様、書類と共に新しいソファと絨毯も一緒に送って下さいな」
「‥‥勿論だ」
「では、ランドリゲス公爵様、ソリッド様、ミケーレ様‥‥ごきげんよう」
泣きながら部屋から出て行くミケーレを、ソフィーアは満面の笑みで見送った。
「‥‥さようなら」
ルゼットにはミケーレに手を出さないように頼んでから、少しの間‥‥ソフィーアに関する死ぬほど怖い悪夢を見せてもらうように頼んだ。
(わたくしってなんて優しいのかしら)
これでもうミケーレと関わる事はないだろう。
そして計画通り、窮屈なベルタ王国ともサヨナラだ。
「うふふ‥」
*
青い空には雲ひとつない。
ソフィーアは綺麗な景色を見ながら、優雅に紅茶を飲んでいた。
家族と共に新しい国で心機一転、素晴らしい日々を過ごしていた。
"ソフィーア"の美貌と魔法の力を最大限に活かして、計画通りに自由を手に入れる事が出来た。
"悲劇の令嬢ソフィーア"は、無事未来を変えることに成功した。
今は結婚を機に、祖母と同じように表舞台にはあまり出ないようにしながらも、ひっそりと静かに暮らしていた。
愛する旦那様と共に、優雅で幸せな日々を送っていた。
「ソフィーア」
「はい、旦那様」
「愛してるよ」
「わたくしも愛してますわ」
元婚約者がどうなったかって‥?
"全く興味がない"
それだけだった。
end