ストーリーテラー③
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事件を解決したので一旦学校へ戻ることにした。
ここ最近は、ストーリーテラーの正体を知ったり命の危機に遭遇するなど濃密な日々を過ごした。
その影響でルールと一緒に話しながら学校へ向かう何の変哲もない行動に平和を感じる。
当たり障りのない会話を楽しんでいたが、ルールは急に真剣な表情になり立ち止まった。
「あたしルナの秘密も知りたい」
最初から秘密を聞き出すために平凡な会話をしてタイミングを計っていたのだろう。
ルールの秘密をフェアじゃない方法で一方的に知ったので、僕は要求を呑んだ。
「分かった。 まず、僕の本当のコードネームは”ルナティック(Lunatic)”。 狂人と言う意味だ……」
月がやがて狂人となる。それは、トレースによって精神が浸食される様を言い表す皮肉めいたコードネームだ。
そして、ネロ、サーシャ、トレースの代償のことを洗い浚話した。
今まで抱え込んできたものを吐き出すことが出来て気持ちが軽くなった。
もしかしたら、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
全てを理解したルールは心配そうに僕を見つめる。
「トレースはもう使わないでよ……」
サーシャのように自我を失い狂人になることを危惧している。
だが、サーシャをフィルムメーカーの呪縛から解放するためには手段を問わない。
例え最悪の結末が待っていようとも。
「駄目だ、フィルムメーカーと渡り合うにはトレースは欠かせない。 僕がフィルムメーカーを終わらせるんだ……」
もうこれ以上サーシャの声、体、心をフィルムメーカーで汚す訳にはいかない。
少しでもサーシャが残っている内に全てを片付けることが最後に出来ることだ。
「なら、トレースを使う必要を無くすためにあたしがフィルムメーカーを捕まえる。 ルナを狂人にはさせない」
「ありがとう、頼りにしている」
ルールの言葉は今まで抱え込んでいた重荷を軽くしてくれた。
言葉に甘えてフィルムメーカーを追い詰めるところまでは協力して貰おうと思う。
でも、最後は最悪の結末しか用意されていない物語を終わらせるのは誰にも譲らない。
お互いに秘密を共有し合ったことで以前よりも親密になれた。
心から信じられる関係は心地が良い。
その余韻に浸りながら学校へ到着した。
誰も居ない教室に入りルールと僕だけの2人の空間になった。
だが、それはある人の登場ですぐに終わった。
トントンと扉をノックして失礼しますと言いながら、生徒会長が入室してきた。
この人の本性を知ってしまうと以前と同じ接し方をするのは無理だ。
どうしても警戒心を高めてしまう。
「今回の事件ご苦労様でした。 私としてはルナ君の活躍が見れなかったのことが残念です」
ヘルツの事件はルールが中心となり解決してくれた。それを生徒会長は望んではいなかったようだ。
「トレースを使わせたっかのですか?」
トレースを使わせることに執着しているように思えたので、その理由が気になった。
殺人事件を起こしてまでやる価値があるのだろうか。
「はい。 ルナ君が変貌していく様を見たいのです」
もしかしたらと予想はしていたが生徒会長はトレースの代償を知っていたのか。
それに、僕の前で生徒会長の皮を被るつもりはないらしい。
「悪趣味ですね。 流石、ストーリーテラーなだけはありますね」
おそらく僕が盗み聞きをしていたのは気づかれている。
なら、正体を知っていることを隠す必要はないだろう。
このくらいの牽制で大人しくなるとは思えないが……。
「そんなに警戒しないで下さい。 私はルナ君と仲良くなりたいのですよ?」
「なぜですか?」
「ルナ君とならこの世界を浄化できると考えているからです。 トレースの力があれば誰であろうと私達を止めることは不可能です」
「間違った方向へ全力で進みたくありません」
生徒会長は本気で人間を選別する気だと肌からヒリヒリと伝わってくる。
ルールから話は聞いていたが、直接言われると余計に執念を押し付けられる感覚だ。
「ルナ君にもメリットはありますよ。 狂人になって理性を失ったら私が操ります。 罪の無い人の命を無暗に奪わないようにすることを約束します」
魅力的な提案だと思ってしまう自分が居た。
僕が恐れていることへの対策を提案することで気持ちが流れそうになる。
甘言で人を思うがまま躍らせることに関して右に出るは居ないだろう。
これ以上話をしていると危険だと本能が訴えている。
「お断りします」
「今はその時ではありませんか……。 でも、必ず私の元に来ますよ」
そう言い残して生徒会長は教室から出ていった。
再びルールと二人きりになる。
生徒会長との会話を横で聞いていたルールは僕を安心させる言葉をくれた。
「ルナを狂人になってもあたしが正気を取り戻させるから」
不思議と狂人になる恐怖から解放される。
今日は何度もルールに助けられた気がする。