ストーリーテラー②
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感謝を伝えられた後、ルールが手を差し伸べてきた。
仲間としてよろしくねという意味の握手かと思ったので、照れ恥ずかしながらも手を握り返した。
しかし、ルールは一向に手を放してくれない。そろそろ離してくれないか?などとは泣いていた女子には言えない。
結局手をつないだまま教室に到着し、そのまま教室へ入った。
「やっぱり、付き合ってんじゃねえか!」
「さっきのは照れ隠しだっただのね!!」
これ見よがしにクラスメイトのテンションが上がる。
また揶揄われる。でも、前みたいにルールがこの場を収めてくれるから大丈夫だ。
そんな僕の意思を汲み取ったのか、ルールはこちらを見てウインクをしてから口を開く。
「そうだよ! だから、ルナには誰も手を出さないでね?」
あれ、想定していた言葉とは違う……。
ルールのその一言でクラスは騒がしくなり、もう誰も止められない。
唯一歯止めを利かせることが出来るルールが加速させたせいで、噂は他のクラスにも一瞬で広まり学校公認カップルになってしまった。
一体ルールは何を考えているんだ……?。
騒動が一段落してからヘルツの情報収集と整理をしてからその日は帰宅した。
――――――――翌日――――――――
今日からは本格的にヘルツを逮捕するために動く。
とりあえず、ルールの人脈を駆使してヘルツらしい人物の目撃情報をかき集めた。
そして、14地区にそれらしき人物がいる確率が高いと分かったので移動した。
一体ルールの人脈はどこまで広がっているんだ?開発都市一帯はルール領地なんじゃないかと思い始めた。
14地区に着き目撃情報のあった市営住宅の近くへ移動した。
そこには、巡回中の警察官が3人居り僕たちの存在に気付くとこちらへ歩み寄ってきた。
「「「ルールさん。 お疲れ様です」」」
あきらかに僕たちよりも年上であろう警察官達がルールに敬礼して畏まる。
大人が子供相手を敬うような態度は傍から見ると不自然でしかない。
「うん、お疲れ様。 ヘルツはこのエリア周辺にいるから目を光らせてね?」
「「「承知しました」」」
警察官達はハキハキしながら巡回を開始した。
どうすれば大人相手にマウントを取ることが出来るのか不思議でならない。
やはり、コードネーム通り人を操るのが上手なんだな。
警察官達と別れた後、市営住宅からヘルツの行きそうな場所である住宅街へ徒歩で移動する。
歩いている間、ルールは女子高生、主婦、サラリーマンなど幅広いから声を掛けられていた。
その際にヘルツを追っていると伝えると有益な情報をもたらしてくれた。
そのおかげでヘルツの最新の足取りを掴むことが出来た。
ナビで確認すると此処から300m程離れた住宅の目の前にヘルツらしき不審者が居るそうだ。
その不審者の特徴はヘルツと一致する点が複数あるので間違い。
ルールはまるで大きな網で徐々に魚を追い詰め、遂にヘルツを捉えた。
ここからは時間との勝負だ。
情報によると2人暮らしだが、日中は夫が仕事のため妻しか居ない。
したがって、凶器を持った男性に襲われたら女性は一人で抵抗したとしても高確率で殺されてしまうだろう。
すぐさま近くのエリア巡回している警察官達に出動要請をし、僕たちも急いで現場へ移動した。
300mと走れば1分も掛からない場所に居たおかげで、ヘルツがまだ襲い掛かる前に着いた。
警察官達の姿はまだ見えない。どうやら僕達が一番乗りだ。
援護が来るまでどうにかしてヘルツを止めなければならない。
凶器を持つ相手にルールを近づけさせる訳にはいかないたいため僕一人でヘルツを止めるしかない。
しかし、力ずくで止めるのは凶器を持った相手に対してはリスクが大きすぎる。
だからといって、隠れて何もしなければ家の中に居る女性が襲われてしまう。
「ねぇ、そこのお兄さん。 今から何をしようとしてるの?」
ルールが状況を打開するためにヘルツに話し掛けた。
会話で時間を稼ごうという事か。
「私の事ですか? 今から営業の仕事をするところですよ」
これから人を殺すとは思えない程、落ち着いた態度で答えた。
何処にでも居るサラリーマンだと言われれば、そうとしか見えない誠実さを装っている。
だが、こいつが人を殺して臓器を奪い去るヘルツだ。
「むき出しの包丁を片手に訪問販売? もっとマシな嘘はないの??」
「この状況を見られては誤魔化しようがありませんね」
やけにあっさりと認めた。
最初から言い逃れはできないと分かっていたのだろう。
「あなたはストーリーテラーに唆されて心臓を集めているんだよね。 それに何の意味があるの?」
「私はドナー提供を必要とする人たちの資金稼ぎの手伝いをしてきました。 しかし、他人の命など考えずに私腹を肥やす人から搾取する金額だけでは足りません。 その時、ストーリーテラーが教えてくれました……。 金ではなく臓器を直接取れば良いと!」
「それで助かった人達は、自分が生きるために殺された被害者の事を一生考えるんだろうね」
「それは心配いりません。 真実は誰にも伝えていないですし、自分が生き残れたのに後悔する人はいないでしょう!」
ヘルツは完全に狂っている。自分の理想を相手に押し付けているだけだ。
そんなものは救いとは言わない。
「本当にそうかな?」
「どういう事ですか?」
「臓器を移植した相田総合病院で入院している田所君、本当のことを言ったら精神が病んでしまったよ。 被害者の遺族に今もずっと謝り続けているの」
「そんな筈ない!」
冷静さの化けの皮が剥がれ感情のままに叫ぶ。
「それと飯島さんは自分が生き永らえるは間違ってると言い残して自殺したよ」
ルールの追い込みは止まらない。
ヘルツが言われたくない事を的確に把握して、そこを重点的に攻撃する。
「何故だ……。 臓器を奪い提供させることで無価値の奴らを価値のある人間にしてやっただけだ。 それの何処が間違っているんだ!」
「あと、あなたが無価値と思って殺した最初の女性は給料の20%を毎月寄付していたよ。 あなたと同じでドナーを必要とする患者を助けるために」
「そんな……。 私はストーリーテラーから教えて貰った無価値の人間をターゲットにしていたんだぞ!!」
ヘルツは同じ志を持つ者を殺していたとは信じたくないようだ。
ルールの言葉を否定することで自分の行いを正当化しようとする。
でも、それも無駄なことだった。
「はい、これ。 毎月寄付するOLとして取材を受けた記事だよ」
最初に殺された女性の記事が載っている新聞の記事を出した。
今まではルールの言葉だけで確たる証拠が無かったが、物的証拠を見た途端ヘルツは崩れ落ちた。
とうとう自分の行いが間違っていたと気づいてしまったからだ。
それから警察が到着するまでも崩れ落ちたまま微動だしなかった。
犯行を止めに来たはずの警察達は、無気力に成り果てたヘルツを見て何が起きたか分からないという表情だった。
「あんなやり方で解決するとは驚いた」
今まで数々の事件を解決してきたけど相手の精神を崩すやり方は初めて見る光景だったので、衝撃のあまり素直な気持ちを伝えずにはいられなかった。
「あたしは相手の言われたくないことを見極め、そこを突いただけだよ。 それにこんなやり方はあの人みたいで嫌なんだ……」
今回の事件を通して人を上手く操り犯人を逮捕するのを見て、ストーリーテラーを見ているような気分になった。
ルールが人を手駒のように動かすことが出来るのはずっと一緒に育ってきた姉の影響を受けたからだと思う。
探偵として力を磨くほど奇しくも憎い相手に似ていく。
そんな葛藤に苦しめられても目的のために許容してきたのだろう。
「ストーリーテラーは人を惑わすためだけど、ルールは事件を解決するために磨いた技術だ。 だから、誇っていいと思う」
僕のトレースと似ていて使い方によって善にも悪にもなる技術だ。
だから自分の力に葛藤するルールを見て共感し応援したいと思った。