ストーリーテラー①
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昨日は詐欺事件の被害者達から情報を集めたことで事件の解決に一歩近づいた。
でも、ルールの様子が時折おかしかったのは気になる。
今日は2日目だが犯人の特徴を分析し、出没しそうな場所はある程度検討がついたので先回りして捕まえることにした。
この調子で進めていけば今週中には逮捕できると思っていたが、事件は急転直下した。
今まで被害者にお金を騙し取る以外は危害を加えなかった犯人が殺人をしたからだ。
凶器は包丁で、被害者の臓器を抉り取るようにめった刺しされていたらしい。
それに伴い事件のランクがCからBに格上げされた。Bランク以上の犯罪者にはコードネームが付けられる規定により”ヘルツ”(Herz)のネームドになった。
そして、この事件についての緊急対策会議が開かれることになり、Cランクの時に担当していたルールと僕、出席可能な3年生の5人も参加した。
その中には生徒会長も含まれている。
「では、このヘルツの事件ですが3年生に対応して貰おうと考えています」
全校生徒を閲覧できる名簿で見たことのある3年生の女性が司会進行を務めており、事件のランクが上がったことにより担当を変える提案をした。
その提案に対して他の上級生も賛成の意を示す。
しかし、この場で最も存在感のある人によって否定された。
「いいえ、私はこのまま担当は変えるべきではないと思います。 それに、この2人なら解決できるだけの力量があります」
生徒会長が担当を変える流れに傾きかけた話を否定した。
それに、なぜ僕たちが信頼されているのか分からない。
「根拠があっての発言ですよね?」
司会進行の女性が生徒会長に理由を求める。
「えぇ、勿論です。 ルナ君はあの”ネロ”の弟子なのですよ? それにルールは私の妹です。 彼女の実力は私が保証します」
姉妹だったことに驚く。言われてみれば顔が似ている気がするが、本名が分からないと名字で判断出来ないから気づきにくい。
それに、ルールが姉である生徒会長に向ける視線や態度は肉親に対するものではなかった。
むしろ嫌悪や憎悪を感じる。
生徒会長の発言を受けた司会進行の女性は考え込む。
そして、結論を出した。
「2年生になれる実力、ネロの弟子、生徒会長の推薦。 そして、元々はあなた方が担当な事を考慮し担当替えはなしにします」
生徒会長の鶴の一声によりこのままヘルツの事件を担当することになった。
会議も終わり各々が部屋から退出していく。
ルールはいつまでも席から離れる素振りが無かったので、先に教室に戻る旨を伝え退出した。
教室へ戻る途中で筆記用具を会議室に忘れたことに気づき取りに戻る。
扉の前まで着いたが誰かが話し込んでいる声が聞こえるので入りづらい。
盗み聞きのような形になってしまったが、声の主がルールと生徒会長だと分かった。
「もう、こんなことは辞めてよ」
「何故? 私は正しいことをしているだけよ」
「言葉で人を操り殺人をさせる事が? それには、あたし達の両親を殺したことも含まれてるの??」
泣いているのか怒っているのか分からない声で訴えている。
「父は無能で会社を解雇され、母はそんな父に嫌気がさし浮気をする間違った人間よ。 必要の無い人間だから間引きして世界を浄化しただけ。 正しいことをしている私を誰が裁くの?」
「そう言えるのも今の内、得意の能弁で言い逃れできない証拠を出して罪を償わさせる」
「それは楽しみね。 でも、両親を殺した時はいくらあなたが必至に私が犯人と主張しても誰も信じてくれなかったわね? みんな私の方を信じた」
空気が張り詰め、静寂が訪れる。
永遠にも感じられる数秒の無言。
ルールが落ち着きを取り戻し再び口を開いた。
「今回のヘルツもあなたの仕業だよね?」
実の姉を他人行儀に呼ぶくらい軽蔑し冷たい声で問う。
そこにはいつもの愛想が良いルールは居ない。
あの話を聞いた後だと生徒会長に憎悪を抱いているので納得出来る。
「正解、あなたは優秀ね。 だから、あの時殺さなかったのよ」
「あたしの担当している事件に横槍を入れたのは単なる嫌がらせ?」
「いいえ、私はルナ君に興味があるの。 だから、詐欺事件の男を私に心酔するように誘導してヘルツに仕立てたの。 求めている言葉を与えただけで簡単に堕ちたわ」
僕に興味があるのはネロ弟子でありトレースが使えるのが理由か?
それにしても、間接的にではあるけど今回の殺人の原因は僕だったのか……。
「ねじ曲がったあなたの思い通りにはさせない」
それ以上はもう話はないと言わんばかりに、部屋から出るために扉へ近づいてくる。
いつの間にか2人の会話を聞くことに夢中になり扉の前から逃げる判断が遅れる。
ガララッと扉が開き、ルールと目が合う。
お互いになんて声を掛ければ良いのか分からず、ただ2人で教室に向かって歩いた。
先にこの空気に耐えれなくなったのはルールの方だった。
「今の会話聞いてたの?」
一番確認したいであろう事を恐々と聞いてきた。
筆記用具を取りに来ただけで、何も聞こえなかったと言い訳をしようとしたが辞めた。
最初は偶然聞こえてきたけど、途中からは聞き耳を立てていたので素直に認めることにした。
「うん。 大体の流れが分かるくらいには聞いていた」
「えっち……」
いや、なんでだよ!という突っ込みはしなかった。
多分、暗い雰囲気を晴らすための軽口だろう。
「ごめん。 でも、ストーリーテラーがこんな身近に居るとは思わなかった」
「え!?」
ルールが驚く。
僕の発言に何処かおかしな所があったのか?
「ルナは信じてくれるの?」
「信じるも何もルールが話してた事だろ?」
「でも、今まで誰も信じてくれなかった。 あたしよりもあの人の言う事をみんな信じるの」
「そうか。 でも、僕はルールを信じる」
ルールは俯いてしまった。
普段から人に好かれる性格をしており、彼女の言う事なら誰でも喜んで聞くに違いない。
だが、姉と比べた時はどうだろうか? いくら、ルールが正しい事や真実を主張しても今まで出会った人達は姉の方を信用してきたのだろう。
そんな彼女にとって姉よりも自分を信じてくれる味方が初めて現れたことが嬉しくて溜まらない様子だ。
その喜びを噛みしめるように顔を上げる。
そして、
「ありがとう」
と言いながら涙を流した。