浸食
「Trace・on」
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君は誰だ?
(私は宮越 杏里)
猫と遊ぶのは好きか?
(はい、とても好きです。 猫に水を浴びせて震える姿が溜まらなく大好きなんです)
なぜ、学校からかけ離れた11区行きの定期を持っていた?
(11区には私の大好きな動物が沢山いるからです。 散歩目当てで来ている人達のペットを攫って痛めつけるんです。 苦しむ表情は綺麗で何度見ても飽きません! そして、その姿を写真にとって永遠に見続けるんです!!)
「Trace・off」
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「宮越さん。 あなたが動物を殺していた犯人だったんですね」
「何を言っているんですか?」
「あなたは失踪した猫を探していたのではなく、攫うペットを探すために街を歩き回りながら聞き込みをしていたんです」
「だから、さっきから何を言ってるのか分かりません!」
必死に否定するも焦りの表情でいっぱいになっている。
「あなたの家に今まで攫った動物の写真があります。 今APCの特権を利用して捜査してます」
APCには強制的に捜査協力を求める特権があり、それを利用して宮越さんの自宅を捜査した。その結果、今まで失踪した動物たちの痛めつけられた写真が飾られていた。
証拠が発見された途端、宮越さんはあっさりと罪を認め連行された。
事件が解決したので事後処理と報告の為に学校へ戻った。
「ところでさ、ルールも気づいていたんじゃない?」
ルールは最初から宮越さんを怪しんでいた気がした。
困っている人を助けるために声を掛けたのではなく、怪しいから声を掛けたような気がする。
「うん、目や仕草が危ない人特有だったからね。 それに、猫をモノのように持ったことや一緒に水浴びとか不自然な点があったからね」
「そこまで分かっていたなら事件をもっと早く解決出来たんじゃない?」
「証拠が見つけられなかったんだよ。 ルナみたいに本人しか分からないことを知ることなんて普通は出来ないんだよ?」
「そういうものなのか」
その後も今回の事件について話し合いをした。
お互いに議論に熱が入りすぎ、あっという間に時間は過ぎ去った。
気が付けは20時を回っていたため帰宅することにした。
じゃあね、と言い帰ろうとするとルールから一緒に帰ろうと誘いが入る。
「あたしも一緒に帰るよ! ほら、同じ寮に住んでいるんだからさ」
APCは全員同じ寮に住むことが校則にある。
寮と言ってもマンションのようにそれぞれ個室が与えられているため実際には共同生活をしている感じはしない。
寮を目指して歩いていると今日の事件を思い出させるようなものを見つけてしまった。
「よりにもよって今日見るとこになるなんて……」
ルールと一緒に寮へ帰宅する道中で猫の死体を見つけた。
車に跳ねられたような傷があるのでひき逃げだと思う。
ルールはその猫を埋めようと行動を起こすが僕はその傷ついた猫から目が離せず一歩も動けなかった。
この感情が何か分からなかったが勝手に言葉が漏れた。
「綺麗だ……」
そう、猫の死体を見て感じていたのは美しいと思う感情だった。
そして、気が付けばスマホで写真を撮っていた。
「え……。 何を言ってるの? それに何で写真なんか撮ったの??」
僕の言動に戸惑いを隠せないルールはまるで宮越さんを見る軽蔑した眼差しだった。
「あ……。 いや、何でもない」
僕の言動のせいで雰囲気がぎくしゃくしたが、それでも猫を土に埋めてきちんと埋葬した。
その間、お互いに無言でもくもくと作業をするのみだった。
寮に着いたのでルールと別れて自分の部屋に入る。
何もする気にはなれずにベッドに寝転んだ。
それにしても、こんなにも浸食が早いのか……。
確実に以前よりも浸食のスピードが速まっている。
トレースは犯人の思考をそのまま僕のものにする技術だ。
憎しみ、殺意、狂気、性格、思考など取り入れることで事件解決のために犯人の全てが理解できる一方で、僕自身も考え方や感情が犯人と同じになっていく。
いずれ僕自身が狂人になる……。
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