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迷宮高校の陰キャクラン  作者: 多真樹
第1章 陰キャなるもの
8/25

白くてぬめぬめしてるあれ

「ちょいと待ちなされ、若者よ」

「あ? 自分を引き留めるのはもしやそこなおばあさん? 急いでるんだよ、見てわからないの? おうちなら交番で聞いてね。じゃあ、また今度ww」


 最寄り駅から降りて学校の敷地へ向かう途中の道で、敷物を敷いて座り込む老婆に声をかけられた。


「そう、口の達者なそなたに話しかけておる。一目でわかる。新天地へ何かを求めるように向かうそなたの顔がな。どれどれ、ふむ、そなたはなんとも他者を顧みない傲岸で偏屈な面妖をしておるのぉ。己が世界でしか物事を語らず、他者のものの見方にとんとこだわらぬ。それでよしとする割り切り方は面白い。しかして理解者を自ら遠ざけようとするモラトリアムな面は、ほっほ、ださいのう」


 占うのはいいとして、頭の上の水晶がなんの役に立っているのか甚だ疑問だった。


「大好きな実の姉を性的な目で見てしまうのも大概にするといいわい。解決策は彼女をつくることじゃが、そなたには難しそうだのぉ」

「おおい、こんな往来で人聞きの悪いことを言いなさんなよ、おばあさん。具体的すぎて鳥肌立つわ~」


 もっとも鳥肌が立つのは、初対面の老婆に兄貴分しか知らないようなことを言い当てられたこと。カエル兄貴だってそこまで本気だと思ってからかってきたわけではないだろうに。


「そなたには慰めてくれる仲間が重要になるようじゃ。どんなときも仲間を思うことを忘れぬように、じゃのう。困ったら助けてやれ。それがおぬしに転機をもたらすじゃろう。そして叶わぬ恋に一区切りついたとき、新たな出会いが待っているのじゃ」

「なんだよそれ。希望の芽を初めから摘まれた全自分が泣いたww ところで千里眼でも持ってるんすか、よぼよぼのまぶたなのに前見えてます?」


 叶わぬ恋と言われてドキリとした。それを誤魔化すように、ふざけて返す。老婆にはまったく通用していないようだが。


「この世界には秘宝というものがある。たった六つだけ存在し、所持者同士を強烈に引き寄せるアイテムじゃ」

「あ、聞く気ないんですね、わかります」

「そなたはいずれ大成する器じゃ。それまでの苦しい道のりに耐えうる仲間を見つけることが肝要じゃ」

「急に漫画の胸熱展開っぽくなったしww」


 選ばれし戦士である。ちょっと期待してしまう。

 戦隊モノに一時期ハマっていたので、ドラマチックな展開には弱いのだ。


「ゆめゆめ忘れるでない。これはきっかけにすぎぬのじゃ。為そうとする志こそがそなたを英雄にするであろう」

「やればできる子ってやつですね、ってそれ一生やらないやつww」

「はい、五千円」

「高いわっ!」


 仲間は欲しい。五千円で手に入るもんか?

 そうして疑いつつも手渡されたマスク。

 寮に入って荷物を開けていると、同室になった田児が荷物をパンパンに引きずって入ってきた。

 腕にたくさんの手提げを下げており、ガシャガシャ言わせながらふりふりと手を振って挨拶をしてくる。


「やっほ。同中で同室なんて運命感じちゃうね」

「気兼ねがいらないって点で田児とは当たりだと思うぜ。田児だってエロ絵を知らないヤツに見られるのは嫌だろ」

「そうだね。ボクはあんまり気にならないんだけど、教室で描いていたりするとすっごく怒られるし、女子からの評判も悪いからね」


 中学時代にやってしまった黒歴史をばつが悪そうに回顧しながら、二段ベッドの下に荷物を置いている。

 顔を上げて、学習机に目を留めた田児が、あっと指を差した。


「あ、僕もそのマスク、おばあちゃんからもらった。色違いのやつ」

「おまえもかよ!」


 世界の秘宝とはなんぞやと言いたくなる。ぼったくりも大概にしろよと。

 老婆の手製マスクの可能性が浮上してくるのだった。







「……ふがっ! ……あ??」


 だぶついた腹をぼりぼりと掻きながら起き上がると、そこは荒れ地の勾配だった。

 ドームの天井はいつしか見慣れた筱原先生謹製である。天井に小さい穴を開ければプラネタリウムとかできそう。


 パチパチと爆ぜる焚き火を前に、寝袋を敷いているだけの簡易布団である。

 自分の鼾に驚いて起きたのだろう、ズッと啜ると鼻詰まりが酷い。

 辺りを見るとひとり起きている田児が、焚火の灯りで真剣な目をしてスケッチブックに描き込んでいるところだった。

 他のメンツは思い思いに眠っている。防具だけ外してインナーだけで眠るのがダンジョンスタイルである。寝袋や毛布を使うかは個人の自由だ。

 頭を掻くと、指に臭いが付く。もう三日ほど風呂に入っていないので、頭は皮脂でゴワゴワである。近づけば互いに臭いだろうが、自分の臭いはあんまり気にならないものだ。


「ふわぁ……」

「早河くん、起きたの?」

「昔の夢、見てた。中学時代の。兄貴と田児と三人でぐだぐだしてた頃の」

「懐かしいね。ボクが早河くんのお姉ちゃんの同人誌を描いて、兄貴さんがそれをネット販売して、売れたお金で焼き肉食べに行ったよね」

「田児が自分でやればよかったといまでも思うな」

「そう? でもボク、ネットって怖くてあんまり触らないから」


 田児はドワーフ族のくりくりの小さな目をして、スケッチブックに向き合っている。手はしきりに動いていた。

 足下には描きかけのラフの原稿が散らばっていた。

 きっと描きたい意欲が突然湧いて、頭のものをアウトプットしているのだろう。


 常識的には迷宮内に持ちこむものではないが、常識なんて知ったこっちゃない。

 ここに潜っている限り、誰の目も気にする必要はなかった。

 趣味に没頭できるという意味では、この空間は理想的だ。

 ただし持ち帰るときに一工夫しないと、スケッチブックに描いた絵はもとの白紙に戻ってしまう。

 現実の方では一時間も経たないという不思議ルールによって、やりたいことはいくらでもできた。男女のあれこれだけは無縁だが。


 各々学校の教材や趣味アイテムを持ち込んで、休憩時間や見張りのときなどに有効活用していた。

 田児は描くのが趣味というか、それで小遣いを稼いでもいるので、絵描き道具はどこにでも持っていく。

 かつて販売した同人誌の初月の売り上げは五万ほどになり、それからしばらくはぽつぽつと売れて十万を超える利益になった。しかし漫画を描いた本人の報酬が焼き肉だけというのに気づいていない。

 どこまでも純粋な男である。

 あのときは中学生だったから、社会人の兄貴に委託販売のすべてを任せてしまったのはしょうがないことだった。

 そのカエル兄貴が売上を風俗につぎ込もうとして、一時期険悪になったことを田児は知らない。

 クズ人間であることは仕方ないが、焼き肉以上の利益を吸い上げることは許すまじ。


 あの阿呆な社会人に金を持たせるとろくなことにならないので、売上をスマホで逐一チェックできるようにして、兄貴の口座に振り込まれていたお金は別の口座へと落とされるようにこっそりと変更した。

 兄貴はもちろんキャッシュカードも暗証番号も知らないので引き落とせない。

 「もう売れねえなあ」と漏らし、気づいた様子もない。

 田児がなにかしら同人誌を描く度にネット販売するのは自分の仕事になり、責任者の名前だけ兄貴から借りている形になった。あまり公にできない秘密である。


「いま誰見張り?」

「名無くん。ドームの外にいるよ」

「田児は夜起きてると昼間ぼーっとすんだから、さっさと寝たほうがいいぞ」

「うん、わかってるんだけど、手が止まらなくて。もうちょっとだけ起きてる。乳首のカットがどうしてもうまくいかないの。本物見てからインスピレーション湧いたけど、あれ以来ナナ氏の乳首と似たようなのしか描けなくなっちゃった。もうちょっと描いたら寝るよ」

「寝不足だけはやめてくれよ。歩けないやつに合わせて休憩増やすとかごめんだぜ」

「うん、ありがとう」


 これはしばらく寝ないなと呆れつつ、早河はごろりと仰向けに寝転んだ。






 ダンジョン二十三階層、山岳エリア。

 草木の生えない急斜面の山岳エリアの特徴は、次への階層へ進む階段が必ず山の頭頂部にあることだ。三十階層まで毎階層、麓から山頂を目指して歩き詰めになる。

 ダンジョンダイブの度にまったく違う攻略を必要とするのが難点で、今回は四輪駆動車が使えないが、パーティメンバーはそれほどしんどいとは思っていなかった。


 むしろ迷宮外にちょっと面倒を抱えてしまったため、そちらの方にうんざりしている。

 名無の因縁でクラン『白蠍』に関わってしまったことで、ダンジョンダイブのときに監視されているのだ。

 同じ二十階層の迷宮を選んでも、基本的にパーティ単位でランダムなエリアへ飛ばされる。エリア同士は接していないので、遭遇することはない。

 しかし膨大な調査により、特定の回数でエリアが重なることがわかっている。

 そういうことを調べるのが大好きなクランがあり、盗賊ギルドと呼ばれるPK大好きっ子たちは、そこから情報を買ってお目当てのパーティのエリアを狙って襲撃するのだ。

 クラン『分析(アナライズ)』。

 面倒なことに『白蠍』は大事な顧客。

 彼らを撒くために混雑する時間帯を狙うなどの方法を取っているが、いずれは追いつかれるだろう。

 返り討ちにするだけなのだが。


 前回は平原、その前は渓谷と坑道をひたすら下り続けたが、今回は登り続けるというまったく逆パターン。

 田吾作……違った、田児が趣味で所属する創作集団『黒神鉄(ガルバンバン)』は、名刀から四輪駆動、果ては十一分の一スケールのフィギュアまで所属するメンバーが各々作りたいものを追究するためだけのマイペース集団だ。

 車に情熱を掛けており迷宮内でスピードレースを開催することが夢と語る『ビッグサンタマウンテン』の三年生の協力および監修により生まれた高機動四輪車で颯爽と移動できればよかったのだが、山道はごつごつした岩肌がそこらに見えて、あっという間に立ち往生してしまう。

 急ぐ旅でもないので、マイペースに探索している。前回が快適過ぎた。

 ひと月はダンジョンに籠もっていられる物資を《荷役(キャリアー)》のジョブを持った田児が管理してくれているので、ダンジョンダイブでのキモとなるペース配分を気にしなくてよくなるのは重要である。これホント大事。

 レベル上げや各々の趣味への時間が有意義に使えるのは《荷役》を抱えるパーティの特権である。


 田児の漫画もそうだが、筱原も書き物をしている。

 《筆記士(ノートテイカー)》のサブジョブを持っており、自動筆記に似た能力が備わっているので、頭で思ったことを素早く書き記すことができる。

 マップのない迷宮を一から探索して、自作地図を埋めていく役目だ。

 ちなみに同じ階層を選んで、次回山岳エリアを引き当てたとしても、そこは全く違う景色で前回の地図は役に立たなくなる。自動生成型の不思議のダンジョンではあるのだが、坑道などの通路探索型では重宝されるものだ。


 そして伊東は、イヤホンをして音楽を聴いていることがほとんどだが、魔物を集めるついでにスピーカーから大音量で流しながら踊ったりもする。

 音にわらわらと集まってくる魔物は夏の夜の誘蛾灯のごとし。さらにダンスで挑発してヘイトを集める役割もこなす。

 オールバックにサングラスをかけ、黒の中折れ帽で顔を隠す姿がバッチリ決まっている。カットシャツの裾をきっちりと格子模様のズボンにしまい込み、サスペンダーを肩に引っかけたクラシック回帰である。磨き上げた真っ黒な革靴が鏡のように姿を映しており、正直迷宮ではなんの耐性もついていない、汚れるばかりの服装だったが、彼の思惑はひと味違った。

 伊東は避けタンクであった。当たらなければどうということはないと早河のようなことを言うが、本当に当たらない。泥ハネもステップで躱し、舞い上がる砂埃も回転して払い除ける。前衛なのに被弾率はパーティイチ低かったりする。

 ちなみに最被弾率を誇るのは名無であった。自らのスピードに翻弄されて壁に激突すること多数である。

 ともかく、伊東がもし黒のスーツに顎ひげを伸ばしていたら、どこぞの大泥棒の相方のガンマンになれそうなポージングを決めても様になるだろう。体型はマッチョだったが。


 部長の寿々木に関しては、そっとしておくのが吉である。下手に興味を持ってはいけない。

 魔物のぐちゃぐちゃになった死骸の写真を嬉しそうに見せられたことがあるので、それ以来遠慮している。ぶっ飛んだ話は好きな性質だが、車に轢かれた動物を喜んで観察する趣味はないのだ。

 寿々木が趣味に没頭するタイプなら、名無は没頭する趣味がないタイプだった。これといった趣味はなく、そのときどきで本を読んだり踊りの練習に付き合ったりと一貫性がない。飽き性なのだろう。最近は香水を購入したらしく、どうでもいいタイミングでシュッシュしていて香りが臭い。

 この前ネットでこそこそとコンドームを箱で購入していたが、実際に使うことはないだろう。バカである。


 翌朝になり、登頂を再開する。

 出現モンスターは山の上から転がってくる岩石魔物だったり、頭上から襲ってくる鳥系魔物だったりしたが、パーティは地力がしっかりしており堅実に突破していた。

 というか特に目立ったのは、《舞踏士(ダンサー)》の伊東が何もない空中を蹴って動き回っていることだ。

 どういう鍛え方をすれば二段ジャンプができるようになるというのか。格闘ゲームの中だけだと思っていた。

 だがときどき失敗して、踏み外したように足が空振りして転がるのが難点か。


 同様に名無の俊足も未完成だった。

 ある程度速度を制限すれば自在に動き回れるのだが、目にも留まらないスピードを出すと、途端に制御が効かなくなる。勾配があり、小岩がごろごろして足場の悪い状態では自慢の俊足もただの自爆兵器である。


「あ~れ~……」


 岩場につんのめった挙げ句、急坂を転げ落ちていく名無だった。


「このパーティの中でナムが一番死亡率高いよね」

「間違いない」

「南無三」

「南無三」


 田児と筱原が合掌してつぶやいた。


「どうせ名無さんちの零士くんは死にやすい子ですよ」

「小林さんちのドラゴンなら死ななそうなのにね」


 十メートル以上転がっていったが、三秒も経たず戻ってきてツッコミを入れる名無にもまだまだ余裕があった。

 あっちはメイドラゴンでこっちは一角馬。幻獣つながり以外なんの接点もない。

 ちなみに名無のレア種族は、仲間内でしか知らない。外聞的には鬼系ということにしていた。角が生えた小鬼……つまるところゴブリンである。スレイヤーされないように気を付けないと。


 それからしばらく登っていくと、空が黒い粒に覆われ始めた。


「あれなんだろうな?」

「見りゃあわかるだろうよぉ、三下がぁ。魔物以外になにがあるってんだよ、てやんでえ」

「なぜに江戸っ子?」


 江戸っ子に意味はない。ちょっとばかり登山が飽きているだけだ。

 早河の体型は樽であるがゆえに、高低差のある徒歩移動は呼吸器系に強烈な負荷がかかる。つまるところ汗だくで息が上がっていた。

 名無が指差す先に、段々と魔物が集まり始めている。仲間たちも武器を手に、接敵に備え始めた。


「黒い粒のひとつひとつが黒い鳥だね。すごい数だ。コウモリみたいだけど、あれはツバメかな。翼が刃になってるタイプで間違いない。防御陣をすぐに敷こう」


 双眼鏡を覗いていた寿々木が冷静に指示を出す。部長としての指示は的確であった。

 筱原が地面に手を押しつけると、土魔術で防御陣の構築を始めた。

 伊東はムーンウォークで踊りながら周囲の警戒に当たり、田児はアイテムボックスから備蓄や塹壕に必要な物資を次々と取り出していく。

 自分はソーセージのような太い指をあちこちに指し示し、こちらの位置を誤魔化す幻術をかけていく。

 それでも刃燕の群れは、ひとかたまりの鳥の形となり、まっすぐにこちらへ向かってきていた。


「よっしゃ、ボーナスステージじゃあ!」

「滾るぅぅっ!!」

「ヒャッハー!!」


 《技工士(エンジニア)》のメインジョブを持つ田児から全員に支給されたのは、連射機能を持つ実弾銃。ひとりあたり四百発、弾倉ふたつほどがいま用意できる限度だった。

 しかしそれでも十分だ。一人称アクションシューターゲームのように、迫り来る獲物を撃って撃って撃ちまくるだけである。ゲーム以上の手応えと臨場感が味わえる。そして本物の獣と威力はほぼ一緒である。人に向けては行けないやつだ。


 早河の幻術で場所を特定させず、筱原の作った塹壕に体半分を隠して小銃を構える。あとは一方的に狩るだけの楽しい時間だ。

 黒い塊がまとまって近づいてくる。百メートルはまだあろうか。しかし待ち切れなかったダダダダダッと銃口が閃光する。


「誰だよ」

「ごめん、ボク。緊張しちゃって」


 手汗を服で拭う田児は、苦笑いを浮かべた。あんまりゲームはうまくないのだ。


「狩りの時間だぁ!」

「ヤッホーゥ!」


 一匹一匹の姿が見えるくらいに接近した。

 全員が騒ぎながら撃ちまくる。ぽたぽたと地面に落ちる黒い粒。

 ドバドバと脳汁が溢れてきて、手の中の振動が癖になりそうだった。

 このパーティは楽しい。

 楽しいことを突き詰めるために冒険をしているようなものだ。そのための努力ならば誰も惜しむことはない。傍目から見ればエンジョイ勢に思われても仕方ないだろう。

 しかし、冒険を心から楽しむからこそ冒険が長続きするのだ。


 かなり撃ち落として魔石がゴロゴロと地面に転がっている。黒い羽根も散乱しており、あとはカードか。

 取り逃したものも当然いて、それらは防御陣を通り抜けるとそのままどこかへと飛び去っていく――はずだった。

 突然岩山から白い触手がいくつも伸びて、刃燕を絡め取っていった。その数は十を超え、あっという間に二十、三十、五十以上と絡め取る手を増やしていった。


「ローパーだ! あの触手、間違いない! しかも白! 色違い!」


 興奮した声を上げたのは寿々木だった。

 刃燕の中にも赤い個体がいたが、それはどうでもいいらしい。

 《調教師(ブリーダー)》のサブジョブを持つ彼は、常日頃から調教用の魔物を欲していた。

 変態の代名詞としていくつかの魔物の名前が挙がるが、そのトップに君臨するのはいつだって触手の魔物ローパーだった。痺れ触手から幻覚触手、媚薬触手まであるそうな。

 調教の相方として、手元に欲しいと常日頃からこぼしている男である。

 ここで出会ったが百年目。色違いローパーにとっては運の尽き。

 寿々木の、趣味に対する執念は恐ろしい。

 ちなみに二番目に欲しい魔物はスライムだという。それなんてエロゲー? である。


「あれを捕まえよう! 反対されても俺だけでもここに残るからな!」

「落ち着けよ~。あのサイズのローパーって絶対ボス級だろ。できうる限り討伐しようじゃないか」

「討伐するだけじゃない、カード化するまでリポップさせるんだ」


 苦笑して寿々木を諫めていた名無が、一瞬にして白目を剥いた。

 倒すだけなら半日もかからない。だがカード化するまでという。

 エリアボス級のカードドロップ率は1%切る。

 ガチャを回すだけなら一日でゲットできよう。

 しかし、倒して→階層を変えて→戻ってきて→リポップしたエリアボスを倒すのエンドレス。

 名無でなくとも白目を剥く。


 防御陣はそのまま拠点として使えた。これは階層が変わっても残っている。長期戦となっても安心して寝泊まりできる。

 だが、《魔札術師(カードキャプター)》がローパーをカード化するのにどれくらい周回しなければならないのか。二週間を見ていた方がいいだろうか。いや、ひと月か。


「部長のご乱心だけど、異議あるものは?」


 誰も何も言わない。伊東だけがステップを踏んでいるだけだ。


「ということで、寿々木に付き合ってドロップ周回がんばりましょー」

「おー」

「まずはやっこさんを見に行きますか」


 筱原が腰に手を当て、やれやれと歩き始める。

 それに従って、それぞれも武装して岩山のようにそびえて蠢くローパーへと向かっていく。

 このパーティはつくづく飽きない。バカを全力でやる。自分以上のバカもいる。振り回すのではなく、ときに振り回される。

 それがなんとも心地よかった。

 周回は恐らく、二周目で飽きてしまうだろうが。

[陰キャメモ]

日曜朝10時から放送、『萌え萌えプリンセス、チャーミングウィンク』

少女向けアニメ戦国時代の昨今、描写に力を入れた神作。変身シーンがぬるぬる動く。

実写、長期シリーズモノ、CG多様な作品群の中で、アニメーションにこだわった意欲作。

色気ある少女たちに、フェティズムを刺激される大人のお友達が続出。根強い人気を得た。

特にへそや腰の括れを強調するお嬢様キャラ、運動系日焼け腋チラ無知娘、太ももが太く尻が大きいことをコンプレックスにする主人公少女など、どのキャラも単純にエロい。

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