白蠍の報復戦
伊東の欠員。
誰にも非はないだけに、誰も責めようのない空気がパーティの雰囲気を重くしていた。
いや、非があるとすれば、後先考えなかった寿々木か。
彼も反省したようで、白ローパーはしばらく封印された。
「今回のアタック、もしかしなくても詰んでる系だね」
「伊東くんがいなくなったからって、いまさら来た道返せないよ。次のフロアに溶岩ないことを祈るしかないよね」
「部長は使い物にならない上に、早河氏もなんだか上の空。まとまりないなあ……はぁ、私もか」
筱原の独り言に、田児が目も合わせず返事をするが、どこかぎこちなさがにじみ出ている。いつもならくだらない会話でダンジョンアタックが遠足気分になるというのに、一行の頭上には暗雲が垂れ込めている感じだ。
ただの呼吸で熱気が肺を焼くようで、じっとしているだけでもきつい。
名無は伊東という頼もしい前衛がいなくなって流石に浮かれていられなくなったため、斥候として気を引き締めている。
ここにきてあれだが、田児はいまだに描けないことで悩んでいた。
いままで特に悩まず描いてきたので、この状況をスランプだと思いたくない気持ちもある。
早河と寿々木に囲まれて、誘惑に呑まれた伊東の姿を見て、何かこみ上げるものがあったが、それも形にならないまま霧散した。
迷宮に外の悩みを持ち込むのは御法度である。そうはいってもパーティ自体がダンジョン攻略に関係のないことでぎくしゃくしていることもまた事実だった。
田児は戦闘で足を引っ張ることのない後衛職だったために目に見えた影響は出ていなかった。
ふたつのジョブのうち、《技工士》は生産系である。彼のために魔物の素材や鉱石やらを収集しているのも、メカニックな道具を作ってパーティをサポートするためだ。四輪駆動車とか自動小銃とか、彼が別で所属している『黒神鉄』で譲ってもらったものだが溶岩流が横を流れるこのエリアでは、あまり役に立ちそうにない。
もうひとつのジョブの《荷役》のほうはいるだけで意味があるので、死なないだけでパーティに貢献できるのだった。だからといって姫プになるわけもなく、家事雑事を仕切るのは田児の仕事だった。むしろそっちの方がグダグダでメンバーの不評を買っているのだが。
「田児氏、飲み物がほしいんだけど」
「……」
「うん、まだ我慢できるかな」
筱原は田児と言い合いになってしまった件から、まだ仲直りできていない。
田児の描けないもやもやがなくなるまで、筱原に八つ当たりのように無視してしまうのだ。
独り言のような会話には独り言のような返事が返ってくるが、直接話しかけると聞いていないふりをする。
いつもならこういうときに緩衝材として部長が間に入ってくるのだが、ローパーの件で反省モードなのでまるきり役に立たない。
言い合っても寝て起きれば忘れる名無や伊東と違い、面倒くさいこだわりやプライドがあるためいつまでも根に持って完全解消が難しかった。
どちらかが謝れば済む話なのだが、どちらも先に折れるのをよしとしないのだ。
早河だけが普通かと思いきや、いつもは無駄に口だけが独立して動いているような彼が、不思議と無口になることが多かった。
いつものように皮肉交じりにテンション高めで会話することもあるのだが、ふと気づくとここではないどこかに悩みがあるように黙ってしまう。
戦闘はブラッドオークがいるので、手こずるわけではない。寿々木に調教されまくった哀れなオークだったが、レベルも高いし魔物を棍棒で蹴散らす姿には爽快感がある。間違えてブラッドオークに「伊東さあ」と呼び掛けた名無は、気まずさに口をつぐんでいる。
そんなこんなで魔物が現れればルーティンワークのようにタコ殴るが、どこか精彩を欠いていた。
こんなときは必ず失敗をするものだ。
誰かがダメージを負ってもフォローに入らず、怪我の治療を自分の手持ちの薬草で済ました。
連携がうまくいっていた頃なら手の空いたものが回復薬をすぐさま手渡してくれたが、なんだか心の距離が遠い。
それでも階層に比べて実力が高いために魔物は倒せるので、攻略を進められている。
新入生の新パーティのほうがもっと連携が取れているという有様だった。
「ところでマンガできたの?」
「うるっさいなあ! なんでいまその話するの? ここ迷宮だよ。マンガ関係ないじゃない」
名無の無神経さに、田児がブチ切れる。
いま一番触れてほしくない話題を遠慮もなく口にできる神経が、田児には気に入らなかった。
「名無君、もう読ましてやんない。ボクの部屋に立ち入り禁止」
「ええー! なんで!」
腹の虫の居所が悪いときに声をかける方が悪い。
「へっへ、まあ元気出せよ、出禁野郎。……ところでいまどんな気持ち?ww」
「なんで? 僕何か変なこと言った?」
「名無よ、貴様は編集者には向かんなww」
「ならないけど、なんでさー?」
早河がお腹の肉を揺らしながら名無の肩を組んでなにを言うかと思えば、いつもどおり面白がっているだけだった。
ついでに幻術で自分の姿を四人くらい増やして名無を囲み、「ねえねえいまどんな気持ち?ww」と煽りまくる始末だ。
溜飲が下がったので名無への罰はこれで赦してやろうと思う田児であった。
そんなとき、ヒュンとどこからともなく音がした。
全員が一応に反応したが、避けられるわけではなかった。
早河の幻術で作られた分身が矢に貫かれて水に戻り、続けざまに飛んでくる矢の雨に全員が慌てて逃げ惑う始末だ。
そして続けざま、花火のようなヒュゥゥゥと風を切るような音が頭上に聞こえ、何かと思って見上げた名無の目を強烈な白光が襲い掛かった。
「目が! 目がぁぁぁぁ!」
「ム〇カばりの演技力乙ですww」
早河が名無の腰にタックルを決めて、棒立ちで標的になっていたところを押し倒して岩影に身を隠した。
その間にも収まることなく矢の雨と、合間を埋めるかのように溶岩弾が飛んできて、弾けて辺り一面が悲惨なことになっていた。
寿々木を庇って前に出たブラッドオークが火達磨になる。忠実な伊東……ではなくオークは、調教を繰り返してきた主を背に庇い、力尽きて倒れた。
三十六階層、溶岩島――
いまここでふたつのパーティが接敵した。
不意打ち上等で攻撃をぶち込んできた敵方と、交渉の余地はないだろう。
雨のように降ってくる矢や、着弾爆発の火球で主要メンバーがやられなかったのが救いだ。
寿々木のオークと、早河の幻影分身を身代わりに、ひとまずばらばらに身を隠すことができた。
「攻撃はどこから飛んできてる!」
「後ろ後ろ! なんか他のパーティに尾行されてたみたい! 寿々木君のオークがやられちゃったよ!」
「それもう黒猫ちゃんのところやんけww」
降り注ぐ矢の雨に対して、白ローパーをあっさり解禁して受け止めさせていた。最愛の魔物が矢で貫かれ、溶岩弾で吹き飛び燃え上がる姿は寿々木の胸中を抉っているだろう。
たとえ汚い体液をまき散らかして、キーキーと耳障りな悲鳴を上げる姿に微塵も同情の念が湧かないにしても、だ。
寿々木は顔を歪めながらもローパーの壁役の任を解かなかった。
さすがに緊急事態であるから、狙い撃ちされている間は魔物を盾にすることも肯じていた。血の涙を流さんばかりの怖い顔になっているのでちょっと正視できなかったが。
おかげで筱原が土魔術で陣地を作り、全員がそこに飛び込む時間を稼ぐことができた。
目を閃光弾で焼かれた名無は、早河に半ば引きずられるようにしてなんとか潜り込めた。
「いてぇ……いてぇよぉ……」
「ほら、ポーションふりかけてやるから」
体半分が埋まるほど地面を凹ませ、ドーム状に屋根を作って、矢や火球から身を守るようにできていた。
トーチカのように地面すれすれの場所に銃眼、あるいは狭間と呼ばれる窓を作り、襲撃者の様子を窺うこともできた。伊達に軍事兵器の参考書を読み漁っていないのだ。
田児と肩を並べて気まずそうな顔の筱原だったが、すぐに意識を入れ替え、塹壕のように地面を土魔術で崩して道を作り始めるためにひとり移動を開始した。
対人戦闘にはみんな慣れている。どういう状況が相手にとってやりにくいかも、それなりに経験を積んでいる。
《荷役》の田児がすべきことは、死なないように身を守ることと、仲間たちの支援であった。
「ねえいまどんな気持ち?」
「右足が灼けるように痛いよマジで!」
早河に介抱されて座り込んだいる名無の右足は、太ももの裏から矢が生えて血が流れていた。目だけでなく、足もやられたらしい。
溶岩地帯だから全員が噴き出す汗に辟易しており、目に入りそうな汗を腕で拭う。
これでも厳しい環境にも耐えうる魔術具を全員装備しているので、肌が焼けるような暑さも、初夏の日向ぼっこ程度の暑さに緩和されているのだ。名無だけは熱気とは別の脂汗を浮かべていた。
「怪我なんてもう慣れっこだろ? この間は潰れたトマトになったんだしww」
「一瞬で死亡するのとは訳が違うからね。こっちの方が百倍つらいよ」
「死ぬ方が百倍つらいはずだけどね。死に戻りできるって常識が感覚を少しおかしくするよね」
「田児は手当よろ。さあ反撃の狼煙を上げるぞ。敵諸君、ざまあ見さらせ。ここぞとばかりにオレの出番であるww」
早河はおもむろに立ち上がると、意味もなく目元にピースを添えて高らかに唱えた。
「水幻魔術・朧分身!」
早河を中心に、人の高さほどの水柱が立ち上った。
そして水が落下すると、そこに現れたのはパーティメンバーとそっくりのデコイであった。
いや、よく見ると目が小粒のレーズンのように小さく、口が全員たらこ唇だ。
「散会して注意を逸らすのだ、愚民どもww」
姿形は似ているが、かかしのようにどこか間抜けなデコイたちは、しゃきっとしているつもりの敬礼を見せた後、動き回るおもちゃたちのような動きですたこらと陣地を飛び出し駆けていった。
《水幻術士》のジョブを持つ早河は、水系適性が高く水を使った幻術を駆使して敵を翻弄するプレイスタイルだ。
実のところ幻術に引っかかった間抜けな相手を笑いたいために、わざわざ直接攻撃系のスキルが極端に少ない幻術士を極めようとしている変わり者である。
しかし面白いことに、いざ対人戦や集団討伐戦になったとき、早河の幻術はとても効果的だった。
幻術に翻弄されて的外れな方向を全力で殴って空振る敵――その油断しきった土手っ腹にクリティカルを決めることが容易くなるのだ。
存在しているのに見えない、あるいは見えているものが実在しないなど、敵のターゲットを意図的に逸らすのは、こちらにとってかなり有利な状況を生む。
実践で初めてその有用性が証明されるのだが、学生というか若いうちは基本的に魔術や直接攻撃の派手な演出を好むため、トリッキーな役職を選ぶものは一握りだった。
というかよくよく振り返ってみれば、正統派のジョブがほとんどないトリッキーな面子しかいないパーティだった。《土魔術師》がいちばん無難である。
「ただいま。あいつら間違いない。『白蠍』の二年と、何人か三年が混じってる」
「斥候ご苦労ww」
筱原は敵の裏側まで道を作ったようで、塹壕から戻ってきた。
再開された陣地の頭に落ちてくる火球は、面制圧に特化していて、狙って落としている様子はない。崖に当たって小石を降らせたり、溶岩流に落ちでボコボコと溶岩をまき散らしている。
火球に巻き込まれなかった幻術のデコイたちは、コミカルな走り方をして敵の弓兵をうまく引きつけている。
真っ先に筱原のデコイが頭を射貫かれてやられたのには、こんな状況なのに笑いがこみ上げてくる。まるでゾンビを相手にするシューティングゲームだ。
「やられボイスが「あぁぁぁん!」ってなんなのよ。いつから私はTSしちゃったんだよ早河氏。緊迫感台無しじゃないの。空気読みなさいよ」
「いま水鉄砲で撃ち合うギャルゲーに沼ってるもんでww」
こんな状況でも早河は笑顔でサムズアップだった。
迷宮での戦死は本当の死ではなく、迷宮外への強制送還という軽いペナルティだからこそ、対人戦(PvsP)を楽しむことができる。
本当に死んでしまうような殺し合いなら、今頃顔を引き攣らせて塹壕でガクブルしているはずだ。
「しかし戦況は最悪だね。前衛ふたりがいないとかなかなかに縛りプレイじゃないかな」
「伊東氏がモンスターの餌になって、名無氏が足に矢を生やして……こっちはポーションでなんとかなるわな。部長は触手が焼肉にされてメンタル真っ白に燃え尽きちゃってるわww」
「私と田児に突っ込めなんて言わないでおくれよ。デコイほどにも囮にならないからね」
ちょうど田児デコイが蜂の巣にあって消えたところだ。散り際に「あぁぁぁん!」と聞こえてきた。
筱原がぱちんと手を叩く。
「んじゃあ、トンネル大脱走計画でもやりますか。ほら部長、いつまでメソってるのよ」
「ローパーの恨みは恐ろしいことを身をもって教えてやらねば。絶対に許さん」
「名無氏をやられたことに憤らない件についてww」
「薄情者め。でも知ってた」
名無は傷口にポーションを振りかけている。
応急手当でなんとか立てるまでになった名無だが、血がちょっと抜けたので顔色は悪い。
田児が肩を貸してやってなんとか立ち上がった名無だが、何を思ったか急にえずき出した。
「僕、もうここにおいてって……死んだ方がマシ……げろげろ」
「なんでよ。一緒に生き残ろうよ。マンガのこと言われたときはムッとしたけど、やっぱりボクらは仲間じゃない」
実際田児には、わずかな光明が差していた。サキュバスに操られて寿々木と早河に言い寄られたときに、何かが見えた気がしたのだ。
「……本当の敵は、内側にいた」
「なんで!?」
「数日間風呂に入らず、汗だくで臭いが極まっている所為だろww」
名無の様子を見て、早河が半笑いでツッコミを入れた。田児はそういうことかとポンと手を打つ。
コントをやっている間に、筱原が率先して地面に穴を開けていた。
土魔術による土操作は地面の掘削にも使えた。ただしある程度掘ると、それ以上先には進めなくなる。ゲームの画面の端まで進むと、それ以上奥に行けない仕様に似ている。
地下道を掘り進めて敵の背後に移動し奇襲をかけるという算段だが、あまり深く掘り進めて溶岩が出てきた日には、一瞬でゲームオーバーだった。それほど大きな穴を開けられるわけでもなく、四つん這いで進める程度の穴である。まさに大脱走。
「地面熱いんだけど。手がやけどしそう」
「文句言うなら名無氏と残って犬死にすればいいさ」
「絶対に嫌です」
「……ねえ、それってボクに対してもとっても失礼じゃない?」
さっさと這って移動を始める面々に、名無のなんとも言えない視線が突き刺さる。
いちばん最後に潜り込んだ田児の肉厚なケツを見て、名無はまた具合が悪くなったとか。
○○○○○○ ●
背後からの奇襲によってひとり重傷を負わせたようだが、すぐさま警戒されてそれ以上のダメージを与えられなかった。
今回襲撃のために編成された仮パーティのリーダーを務める三年、鼠耳で筋肉質の根墨先輩が二年の弓兵の顔を殴り、殴られた少年は鼻血を流して昏倒した。
「このボケが! ひとりも殺せてねえじゃねえか! おまえ弓兵やめちまえよ」
二年の弓兵は《狩人》のジョブを持っており、どんな環境でも弓の精密さを失うことはない〈精密射撃〉を持っていた。もうひとりは《火炎魔術師》で、根墨先輩とは別の三年生の指示に従って、火球を撃ち込んでいる。
根墨先輩はがっちり筋肉質に金属鎧を着ているせいで、溶岩流が崖の足下を流れるこのエリアではひどく息苦しそうに見えるが、さすがに一年先行しているだけあり、環境適応の魔術道具によって汗ひとつ掻いていない。
踏みつけにされる弓兵や、斑尾たち二年生はまだ環境に順応するための高価な魔術道具を手に入れていないので、汗だくで直立している。
「やつら陣地を築きやがった。《土魔術師》か《建築士》がいるな」
「ここから潰せるか?」
「距離があるから無理だ。オレァ中距離タイプだかんな。連中の陣地構築は手慣れてやがるし、見たところ外壁が頑丈だから、火の玉ぶつけたところでびくともしねえよ」
もうひとりの三年、鷹の頭をして体が人型の鳥獣人の大栄先輩が根墨先輩と言葉を交わす。
〈鷹目〉という監視用のスキルを持っているから、先行したパーティに気づかれない距離で、つかず離れず追跡が可能だった。
斥候にキャパを振り切っているので、戦闘力は根墨先輩の足元にも及ばないが、いまの二年で楽々勝てるというほど弱くはない。
一年の戦闘経験の差は、越えられない壁であることを斑尾は身をもって知っていた。
「おいてめえ、次外したら溶岩にダイブさせるからな」
根墨先輩は《狩人》のジョブを持つ猫獣人を怒鳴りつけ、背中を蹴飛ばした。たたらを踏んだが持ち直し、震える手で弓を構えた。
「ひとりは残しておけよ。戦利品が消えちまうからな」
監視の目を外すことなく、大栄先輩が言う。名無のパーティを宝箱か何かのようにしか見ておらず、殺すことが前提に話している。
パーティがひとりでも残っていれば、所持するアイテムは迷宮に残されたままだ。
逆に全滅すると、その時点でアイテムはほとんど消えてパーティの所持品に戻っていく。それでもたまに全滅したパーティのアイテムが一部迷宮に取り残される場合があり、二度と手元に戻ってこないことからロストと呼んでいる。
PKをメインにやっているような闇クランは、必ずひとりを生かしてアイテムをすべて強奪し、所有権を奪った上で殺すのだ。
パーティ同士の戦闘は黙認されているとはいえ、明らかに悪質な行為は学校側にバレると退学手前のペナルティがあるので、基本的に顔バレしないようにマスクを被ったり、人相変化の魔道具を使ったりして対処している。
今回は身を隠しながらの奇襲だが、バレることを恐れていない。前回、斑尾たちが全滅に遭ったことの報復なので、無差別でなければ一応の弁は立つのだ。
「出てきた!」
大栄先輩が陣地から目を離さず声を上げる。見れば岩陰に隠れるようにひょこひょこと陣地を出てきている。
「やれ!」
失敗は許されないとわかっているのか、《狩人》の猫獣人の仲間は一呼吸置いて心気を澄ます。
そして弓に矢を番い、速射した。
面白いように脳天を射貫くのは、彼のレベルが高いことの証明だった。
崖の下はぐつぐつと溶岩が煮えて、視界がゆらゆらと揺れているのにも関わらず、すべて命中している。
「途中でモンスターに喰われたから残りは五だったが、いま四人殺った。残りは……わかるな?」
陣地に隠れているのが最後のひとりだ。
そしてそれは、逆算して名無だと見当がついている。
前回の借りを返してやる。先輩たちにびくつきながらも、斑尾は復讐心で燃えていた。
「死に戻りっつうのは楽でいい。なんでかわかるか? 持久戦にならねえんだよ。追い込まれりゃ死んでダメ元で突っ込んでくる」
根墨先輩の言う通り、オタクの連中は消耗戦が不利と見るや、散開して突っ込んできた。
変な動きだったし、矢が刺さったときに気持ち悪い声を上げていたが、確かに仕留めるのをこの目で見た。幻術のように溶けて消えることもなく、倒れて光の粒になったのだ。
あらかた殲滅できたと見て、集中砲火でボロボロになった陣地へと根墨先輩を先頭に近寄った。
残りは名無だけである。反撃がないのは怪我をしているか、亀のように頭を引っ込めてビビッて出てこないかだ。
ボロボロの土壁をパイ生地のようにザクザクと蹴り崩して、根墨先輩が乗り込んだ。斑尾たちはその場で警戒している。
「や、やめ――」
「おらっ!」
奥から「クソ野郎が!」と殴る蹴るの暴行の音が聞こえてくる。
やがて根墨先輩が顔を出し、ぐったりと項垂れた名無の頭を掴んで引きずり出した。
地面に放り投げられた名無は、口も開けないほど顔が血塗れだ。
ボロ雑巾のようにうずくまるだけの名無を、斑尾は何とも言えない思いで見下ろしていた。
正々堂々と倒したいという思いがあったが、それを根墨先輩に告げる勇気がない。
弱者をいたぶることに慣れた先輩が、鼻血を垂らしてぐったりした名無の髪を掴んで持ち上げる。
「やめ、やめへ、ふだ……ひが、ひがふ……」
前歯が二本も折れていて、口から血反吐を溢れさせている。
普通は痛めつけるのにこれで十分だと思うところを、根墨先輩の暴力はとどまることを知らない。
地面に掌を置かせて何をするかと思えば、鉄が仕込まれたブーツで小指から薬指を躊躇なく踏み抜いた。
「いぎゃああぁぁぁぁぁ――――――っっっっ!」
轟き渡る名無の絶叫は、いつまでも耳に残りそうなくらい嫌な後味を覚えた。
「こんなんで引いてんじゃねえぞ、おめえら。もっとエグイ痛めつけ方だってあるんだ。むしろ優しい方だぜ。次は残った指を一本ずつ反対側に曲げてみようか」
人体を破壊することに痛む気持ちは欠片もないのか、根墨先輩はへらへらと笑っている。
[陰キャメモ]迷宮三大エロモンスター
ローパー…うねうね。触手プレイ
スライム…服を溶かす
サキュバス・インキュバス…性欲を増幅させる
ローパーの実際は、穴という穴、鼻・耳・眼窩にまで触手を捩じり込む。グロ。
スライムの実際は、肉・骨、あらゆるものを溶かして消化する。グロ。
サキュバス・インキュバスの実際は、蝙蝠みたいな顔。決してアニメ顔ではない。誘惑にかかったものは同性でも襲ってしまう。モザイク必至。




