00.メツボウの始まり
「鬟溘▲縺ヲ繧?k」
「え……?」
桜川凛は目の前で起きていることが理解できなかった。授業を受けていたらいきなり窓が割れ、目の前で一瞬にして担任の頭が吹っ飛び、その頭を、その虫は、白い甲殻を身に纏った具足虫のような見た目をした化け物が食べている。この瞬間、いつもと変わらない日常が壊れてしまった。
「に、逃げろぉぉぉぉ!!!!」
クラスのリーダー的存在である勇人が叫ぶと皆一斉教室のドアの方へ走り出した。腰を抜かして動けないクラスメイトもいる中、真っ先にドアの方へ駆け寄った美香と恵理が叫んだ。
「あ、開かない……?」
「こっちも開かない!」
「俺が開ける! みんな、手伝ってくれ!!」
鍵がかかっているわけでもない教室の前と後ろのドアが何故か両方とも開かなくなっていた。勇人を中心に動けるクラスメイト全員でドアをこじ開けようとしていると、入ってきた虫のような物体がまた意味の分からない言葉を発した。
「縺雁燕繧峨b鬟溘▲縺ヲ繧?k」
一斉に教卓に視線が集まる。その虫は担任の頭を食べ終え、口元は形容しがたいほどグロテスクになっている。その虫はクラスメイトに標的を移した様子だった。
「せ、先生……?」
凛は頭が吹っ飛んだ先生が起き上がったことに気付いた。担任の体は、コンピューターやゲームのバグのように変形、黒いモザイクのようなものが掛かっている。動きもおかしく、ところどころで瞬間移動しているように見えている。
「鬟溘▲縺ヲ繧?k」
「急げ……!!」
「そんなこと言ったって開かないわよ!!」
急かす勇人に凛は怒号を飛ばした。いつも面倒事には首を突っ込まず、何となく生きてきた凛。もちろん学校で怒号など飛ばしたことはなかったが、目の前に死があるという計り知れない恐怖で、凛の頭はパニック状態になっていた。
「い、いや……!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
先生も入ってきた虫とともに、謎の言葉を発しながらクラスメイト達に襲い掛かってきた。ドアを開けるのはとうとう間に合わず、教室内が一瞬にして地獄と化した。
「た、助け……」
「死にたくな……」
阿鼻叫喚し次々と殺されていくクラスメイト達。凛はただ血塗られていく教室で殺されないように逃げ惑うしかなかった。
「鬟溘▲縺ヲ繧?k」
殺された人間は虫に頭を食われ、起き上がり最初の先生のような、さながらゾンビのような状態なり他の生徒を襲う。そのループで、どんどん敵が増えていく絶望的な状況になっていく。
「そ、そうだ……!」
凛は思い出したかのように虫とクラスメイトの群れを掻い潜り、ロッカーから箒を取り出す。
「ふう……はぁ!!」
箒を逆手で持ち、剣道の要領で群れをなぎ倒していく。いつの間にかクラス内の生き残りは凛のみになっていた。
「よし、これなら……なっ!?」
「鬟溘▲縺ヲ繧?k」
安堵したのもつかの間、起き上がった勇人が剣也に掴みかかり、その衝撃で箒を落としてしまった。
「くっ! 離して!」
「鬟溘▲縺ヲ繧?k」
生前から力が強かった勇人に凛は為す術がなかった。掴まれている間にも、倒したはずのクラスメイト達が起き上がってくる。やっと見つけた武器を落とし、仮にも一緒に過ごしてきたクラスメイトに襲われる。血生臭い教室に一人残された凛に圧倒的な絶望が襲い掛かる。
「いやだ……死にたくない……いやだぁぁぁ!!」
凛に訪れる死。それはあまりにも凄惨で理不尽な死。薄れゆく意識の中で、瞼の裏に走馬灯が駆け巡る。家族とは仲が良くも悪くもなく、クラスメイトとは面倒事に巻き込まれないようにそこそこ仲良くし、中途半端に生きてきた人生。ただ一度、もう一度チャンスがあるなら、私の人生に光を灯してくれたあいつ――幼馴染のあいつに――。
「想いを……伝えたかっ……た……」