水と油
神様は意地悪だと誰かがいった。
人は何か物事が起きるたびに「神様」に祈る。
願いが叶ってほしいとき 嫌なことから逃げ出したいとき
人は手をあわせて自分に神様に祈る。
きっとその神様に助けてもらえなかった誰かが神様を憎んでこの言葉を残したのだろう。
そして私も神様は意地悪だと思う。
主役になる人というのは生まれた時から主役なんだと彼女を見て思った。
切れ長の瞳にすぅっと通った鼻筋
少し薄くて控えめな唇は桃色に色づき、肌は雪のように白い。
不愛想だがそれが余計に彼女のミステリアスな魅力を引き立て、
まるで物語のお姫様がそのまま飛び出てきたのではないかと思ったほど。
おまけに体には無駄な肉もなく、
すらりと伸びた足はどこにでもいけるし、白くて長い指はなんにでも手に入れられそうな気がした。
勿論彼女が恵まれていたのは容姿だけではない。
彼女は勉強も運動もとにかくなんでもできた。
すべてが1位というわけではないが、それでもクラスの成績順位表の上位には必ず彼女の名前があったし
体育祭では彼女みたさに他校からいろんな生徒が集まるほどだ。
何をするにも花形で、とにかく周りを魅了する彼女。
周囲がそんな人をほおっておくはずもなく彼女の周りにはいつも人がいた。
彼女を自分のものにしようと必死になる男たち
そんな彼女の力のおこぼれをもらおうとハイエナのように近づく女。
どちらもうまくいかないとお互いに慰めあうか、
彼女を陥れようと必死になるかのどちらかに別れるのだった。
全知全能というのも考え物だなと思ったのは彼女の周りの人間を見てしまったからだろうか。
そして私はといえばどちらにも属さないごくごく普通の一般人だった。
鼻筋は通っているがぺちゃりと低く、瞳は奥二重でぱっとしない。
輪郭はぽてっとしていて、「餅のようだ」とよくからかわれたものだ。
勉強は中の下、運動なんてもってのほか。
唯一好きなことは本を読むことと食べる事。
彼女のように主役なんて程遠い、わき役にもなれない存在。
きっと物語にでてくるとしたら私はモブ子Aにでもなるのだろう。
それでも毎日でてくるご飯はおいしいし、沢山ではないけれど好きな本を語り合う友達もいる。
運動は嫌いだけど、少し甘いものを我慢した後に体重が減っていると嬉しいし
勉強だって文を書くことだったら誰にも負けない。
決して花形ではないが、だれにも負けない幸せな人生。
だから彼女のような人を見ても「こんな人もいるんだ」と驚いただけでそれ以上の感情をもてなかった。
良くも悪くも人に干渉しすぎない性格も関係していたのだろう。
まるで油と水のように成分が違う二人。
きっとこのままかかわることもなくなんとなく卒業して
将来大成功を収めるであろう彼女の噂なんか聞いたりした後
「相変わらずすごいんだねー」なんて笑い話にしてお互いまったく別の人生を歩んでいくのだろうなんて能天気なことを、この時の私は本気で考えていたのだ。