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93:北門周辺8


気付けば、異世界初心者なこのお話を投稿し始めて丸一年経ちました。

拙いクセに書きたい事だけ増え、完結が遥か彼方になってる事実にうへぁ〜と呻いてる私がいます。でも後悔はありません。アニキの為に、私、頑張りますから…!※原因、アニキなんでっせ( ̄▽ ̄)


眠い中の謎テンションでしたが、24日のクリスマス・イブがこのお話の誕生日ですよって事で1日早く投稿してます!

書いてる本人は無理せず楽しくをモットーに投稿していきますので、気長にゆるっとお付き合い下さいね!



それでは前回から引き続き、可愛い娘とアニキの居る北門周辺のお話、どうぞ!


 


「俺じゃなく、ユーリディア王子に向かってもらえ。……その方が、アイツも喜ぶ」



 諦め混じる、苦笑しながらのノーランの言葉の中にはサーリーの変化に気付いた様子は無い。相変わらずの鈍い男から出てきた自身の名に、ユーリ王子は激しく慌てていた。

 断片的な話だったが……ユーリ王子は自身が何故か、不本意にもノーランとサーリーの言う「王子様」との間に割り込む間男的立場の人物となっている事を悟ったからである。



「……おうじ、さまって……、おとこの、……ひと?」

「……ぴ?」

「ケンケン?」



 モエの赤と青を行ったり来たりしているだろうその顔と、不思議そうにユーリ王子を見上げている巨大ハリネズミとグリフォンの赤ちゃん……モエのテイム・モンスター達を、ユーリ王子は全力で視界から外した。

 今、その無垢過ぎる瞳はユーリ王子には苦痛以外の何物でもなかった。



「うんいや待ってくれノーラン」

「おいっいつまでくっちゃべってんだよ!?」



 ユーリ王子の弁明の言葉に重なる様なショータの叫びに、ノーランとサーリー、ユーリ王子とモエは顔をあげる。

 視線の先には、武器を構えていたショータとアルフレッド。2人は行動を再開したらしい腐敗王から伸びる、いばらの蔓の排除を始めていた。



「ちぃっ! アルフレッドさんは右っ側頼みます!」


「ああ、ショータも気を抜かずに! レベル差も考慮する様に!」



 全身に黒い鎧を纏う騎士、アルフレッドは指示に頷きながら数歩、ショータから離れる。

 アルフレッドは正しくショータの攻撃範囲を把握している。まだまだ修行中のショータの誤作動に巻き込まれない為だった。



「分かってますよっ……焼き払えっ≪火車(かしゃ)≫!」



 ショータは向かってくる触手、いばらの蔓に向け足を踏み出しながら抜刀し、その振り抜いた刀の軌道に沿って炎の刃を飛ばした。


 それは、ショータのもつ特殊スキル≪飛ぶ斬撃≫による攻撃。神から与えられたそのスキルは、Maxまでポイントを振り分けていればMP不使用で高威力の物理攻撃が出来る。今回は火の属性を付加し範囲も広げている為、MPを20使用していた。ショータの正面、例えるなら6体程のモンスターを横一列で巻き込める程の範囲攻撃である。MPと釣り合っていない様に感じるが、これはマイとモエも持つMP使用半減のおかげで節約されていた。


 ショータに伸ばされたいばらの蔓に攻撃は当たり、勢い良く燃え上がった。……しかし燃え尽き灰になる事なく、そのままショータの眼前へとまた伸びて来た。

 焦熱龍の魔力と竜核を取り込んでいる為に腐敗王は火の耐性が高い。ノーランと違いショータの放った炎の刃は、赤。青い炎と比べると、威力が足りない。

 灰になると予想していたショータは驚き動作が遅れ、1本の燃える蔓が鼻先にまで伸び触れそうになっていた。



「あぶっ……いっ!?」



 ショータの呻き声が周囲に響くのと、彼の眼前に迫っていた燃え盛るいばらの蔓に、魔力の込められた風を纏う矢が突き刺さるのは同時だった。斬撃を浴びたかの様にいばらの蔓がバラバラと裂けた。ルアンが鷹の翼を羽ばたきながら放った弓矢だった。

 ちなみにショータが呻いた原因は、ショータと共に現れていた、同年代の馬獣人の少年がショータの襟首を掴みその場から後退し、難を逃れた為である。



「そのモンスターは再生能力が恐ろしく高く、火の耐性も持っている! 常時、一撃必殺を心掛けろ!」


「だってさ! もぅっ父さんみたいなうっかり、ダメだよショータっ」


「っわ、悪かったよ!」



 この会話の間にも、ルアンは風の魔力を込めながら矢を放ち、ショータ達に追い縋る蔓を射抜いていく。全身黒い甲冑に身を包むアルフレッドも、これを愛用している長槍で薙ぎ払いながら数歩後退した。アルフレッドの愛用する長槍も火属性なので、こちらも相性が悪い様だった。

 応援としてやって来たセイロンも、自身に伸びてくる蔓を殴る蹴るなどして粉砕しながら逃げ回る。彼のオレンジ色の頭には、小さな妖精がしがみ付きながらキャーキャー喚いていて煩い。声に反応して余計に蔓が殺到していた。

 そしてテテ爺達他の冒険者は、腐敗王が動かぬ内にと焦熱龍の胴体との切り離しを再開していたが……やはり何度も何度も再生するらしく、こちらも上手くいっていない様だった。



「ほら、乗って!」



 短い栗毛色の馬獣人の少年に引き摺られていたショータは、少年らしい片腕一本にも関わらず頭上に放り投げられ、そのまま背にある鞍に落とされていた。

 少年と呼べる風貌だったが、その馬の胴体は競走馬を思わせる細くとも筋肉質な立派な物だった。少年は遊牧民を思わせる複雑に編み込まれた馬着で馬部分の胴体を覆っている。人の部分は布製と木彫りを組み合わせた様な首飾り以外何も身に付けていなかった。

 戦場だと言うのに人懐っこい笑顔で、少年は馬の脚で腐敗王の周囲を駆ける。ショータは自身の喉と臀部に走った痛みによって涙目になっていたが、右手に持ったままだった自身の刀、鬼切丸を敵である腐敗王に向けた。



「MPの無駄だったか……っなら、このまま化け物の周り駆けてくれよタルファ! 魔法の火が駄目なら、今度は無しでやってみるから! ……そこの飛んでる獣人とアルフレッドさんっ、あとその解体作業してるあんたらもっ避けろよ!」


「っ物理の範囲攻撃です! 全員、その少年達から5メートル以上距離を取って下さい!」



 ショータの声に反応したアルフレッドは、声を張り上げながらユーリ王子の元へと走り寄る。

 ルアンとテテ爺含む他の冒険者達も指示に従い腐敗王から離れ始める。

 鞍の上で背筋を伸ばすショータは1度深呼吸をしてから刀を構え直した。そうして、上体を腐敗王へ向けながら、鬼切丸の切っ先をその巨体へ。



「……斬り裂け≪鎌鼬(かまいたち)≫! ≪鎌鼬≫! ≪鎌鼬≫!!!」



 右手に握られた鬼切丸を横に一閃、縦に一閃、左下から斜め上に一閃。その刀身から、腐敗王に向けて魔力を含まない斬撃が襲い掛かる。ショータの持つ≪飛ぶ斬撃≫の、属性を宿さない無属性の物理攻撃である。

 馬獣人の少年、タルファはショータの願い通り腐敗王の周囲を駿馬の如く走り抜けていた為、骨が剥き出しだった横腹、骨と鱗が奇形となって歪になり不自然な凹凸が目立つ背中と背骨、触手として存在するいばらの蔓溢れる正面の腹部分に攻撃は当たった。



『ギャアアアアアア!!?』



 ショータの斬撃は、腐敗王を取り囲み守る様に蠢く蔓を斬り裂いてなお進み、腐敗王の胴体に少しの傷を与え……その雄叫びに、確かなダメージが通った事を全員が知る事になる。何故なら……。



「…………おい、蔓の再生が遅いぞ!?」



 爪のある籠手を装備した豹の獣人の叫びに、全員が悟る。今まで斬り裂いて数秒で生え揃っていた蔓の再生が、目に見えて遅い事に。確かに再生はしているが、それでも半分以上の蔓が斬り裂かれた状態のままである。胴体の傷はもう塞がっているが、それは浅い傷だったからだろう。

 ……つい先程、アルフレッドは言っていた。今から放たれるのは()()()()()()()()()。それは、つまり。



「まさか……属性無しの、純粋な物理だけなら!」



 ルアンは装備していた風属性の弓から背負っていた無属性の弓に入れ替え、弓矢も矢尻に魔石を使わない物に変えた。ルアンはつがえた3本の矢を蠢く蔓へと穿った。そして結果は……、



「……やはり、再生速度が遅い! これなら、頭か心臓を一斉攻撃で潰せば何とかなるかも知れん!」



 ルアンの弓矢は見事、数本のいばらの蔓を貫通させぶちぶちと音を立てながら千切れさせた。そして蔓の再生速度は明らかに遅く、ショータの攻撃を受けた一部の蔓は再生も出来ていない様だった。

 この場に居る冒険者達は、不確定要素はまだあるが腐敗王の弱点が属性含まぬ完全なる物理攻撃だと断定した。そしてテテ爺は実力者の多くいる中、何故この場に居る者達全てが苦戦を強いられていたのか納得した。


 何故なら、今回の緊急依頼に参加している冒険者達の殆どがメインと予備の武器を用意し、1つは自身の得意な属性の武器、もう1つは聖属性か火属性の武器を用意して来ている筈だからである。それは闇属性のアンデッドや、歴史的に多く現れると知られている獣型のモンスターを相手取るのに、この2つの属性が必要不可欠とされていた為だった。



「……それならっ!」


「ノーランのアニキ! 勇者様御一行! あとちびっ子とセイロンの旦那っ! 俺達武器替えてくるからちょっとの間、頼んだっ!」


「承知した」


「ちょっと! ピクシーにちびっ子は禁句よ駄犬!」


「うるせぇ! ノーランのアニキに迷惑掛けるな音痴!」


「ぉおおお音痴って言った!? ()()()()の私に音痴って言った!?」


「ファレン、煩い」



 ルアンの言葉に頷いた豹と銀狼の獣人2人は、仲間達に聞こえる様に叫んでから、魔法で造られた土壁で道を塞がれてある北門正面へと走り出した。そこで闘っている仲間が、彼等の装備品を預かってくれているらしい。

 耳栓を外していたセイロンは了承し、ノーランに一瞬だけ視線を向けてから走り出した。ちなみにノーランが探していたピクシー、ファレンはいつの間にかセイロンの頭の上にしがみ付いてた。ファレンがスキル≪アイテムボックス≫を持っていたらしく、セイロンはその場で装備を入れ替え戦闘に戻っていた。

 そしてテテ爺とその弟子は仲間達の回復に専念する事にしたらしく、攻撃の手を止めていた。



「ちっ、短刀燃え尽きた今の俺だと相性悪いかっ!」

「ノーランは! さっさとっ! ギルドに行くの!」



 ショータ達の闘いを見ていたノーランのこの言葉に、サーリーは私の話聞いて、と憤慨していた。しかしノーランは、首を横に振りながら否しか言わない。



「だから、ユーリディア王子が行った方がいいって。それにあの生ゴミは俺が殺すって、……あのアホ(ホムラ)とも約束したしな。それに……()()()を引き留めるのは、俺じゃないんだ。……だから俺は、ここに残って闘う」



 サーリーと合わせていた視線を外しながら立ち上がった男の顔は……一言で言えば、不貞腐れていた。

 どう見ても口にした言葉は言い訳で、ユーリ王子が行くべきと言いながら嫉妬しているのがありありと分かってしまうその顔で、しかしにいねぇちゃん(おうじさま)が幸せなら、と苦手であろう我慢をしようとしていた。

 子供のサーリーでも分かる程に、それはそれは面倒な男である。

 そんな男の顔を見上げたサーリーは「時間も無いのに……」と怒り……と言うか。

 サーリーは、キレている。



「何よ……何よっノーランの、ヘタレ!」



 その小さな背中に、聖女な鬼嫁を背負ったサーリーの叫びが周囲に木霊する。同時に、幼女の頭上には闇色の魔力がうごうごと蠢く。ユーリ王子とモエは、サーリーから発せられる怒りの気配とその魔力の塊に恐怖を感じた。



「ノーラン、王子様大好きなのにっ……何で我慢するの!? ノーランは……ノーランは我が儘で良いの! 我慢、駄目なの!」



 怒鳴りながらぼろり、と大きな紫紺の瞳から涙を零すサーリーは、驚き硬直しながら目を見開くノーランを見上げ続ける。



「自分を大事にしない王子様のお願いなんかっ無視して良いの! ノーランのしたい事して……言いたい事言って、良いのっ! ……ノーランはっ、もう、竜じゃないんっ、だからっ……!」



 ごしごしごし、と力一杯ローブの袖でサーリーは顔を拭う。



「好きな、人のお願いでもっ……王子様の、お願いなんてっ……無視してよっ……ルシファーの、お母さんみたいにっ……好きな人だからって、嫌々、叶えないでよぉ……!」


「いや、好………………え、俺? …………アイツ、を?」



 疑問符を大量に発生させながら呟くノーランの筋肉質な足を、両手に握った杖を大きく振りかぶって叩き付けながらサーリーは泣き叫ぶ。



「ノーランだけじゃないっ! 王子様もっ、ノーラン大好きなんだからっ! ノーランは……ノーランだけはっ王子様に我が儘言って良いの! それでっ……ディルがマイにしてるみたいにっ……()()()()()()()()()にしたらこっちのモノだってウンディーネもノームも言ってたんだからもっと頑張ってよぉ!」


「うんちょい待て?」



 最初は良かったのに最後の最後で不穏さ醸し出したぞおい、とノーランが苦笑しながらサーリーの頭をわしゃわしゃと犬の子の様に撫でた。撫でながら、ノーランはサーリーと視線を合わせる為にまた片膝付いてしゃがみ込む。



「色々言いたい事があるんだが……まぁ、なんだ」



 先程までの不貞腐れた様子が嘘と思える程に明るくなったノーランの表情に、サーリーは涙を引っ込めた。



「あのクソ野郎が好きなの、…………俺なんだな?」



 疑問符を付けながらの断定の問い掛け。口を開いたノーランの表情は、とても明るかった……そう、とても良い笑顔だった。

 ……ニヤリと効果音が付きそうな、悪巧みしてる大人の男の笑顔だったが。先程と比べればとても明るい笑顔だとサーリーは思った。


 そんなサーリーは心の中で「やっちまったなぁ」と頭を抱える天使姿のマイと、「サーリー、偉い!」とサムズアップする小悪魔姿のディルが現れ……天使なマイにごめんなさいをしながら、サーリーは想像の中の小悪魔なディルに笑顔でサムズアップを返した。



「そう!」



 この時点で、サーリーはある意味にいねぇちゃん……王子様が犠牲になる事が確定したが……命に別状はないしノーランが嬉しいだけなので、サーリー的にはかまわなかった。王子様は自業自得だし、と他人(おうじさま)に訪れる不幸を笑顔でスルーした。



「へー、ふーん。そっかぁ、マジかぁ。……()()()()()()()()()()()……気付かない俺も俺だが……てか、それなのに死んで逃げようとしてたとか……俺を舐めてんなぁ、あのクソ野郎」



 サーリーは、ディル達と共にノーランを追い掛け素っ裸にした事を叱られたその時を思い出した。今のノーランの顔は、あの日の様に、米神や額に青筋浮かべながらの怖い笑顔だった。



「そう!」



 サーリーはその顔を見て、やはり満面の笑顔で大きく頷きノーランの言葉に肯定した。



「……ぐす。ノーランの怒りの矛先が、私では無くなった……」


「良かったですねユーリ王子!」


「……ユーリ王子、戦場で何をしているのですか。まだノーランと仲違いを……? 早くこっちを手伝って下さい」


「「見てなかった癖にそんな事言わないで!?」」



 サーリーの背中の向こうで、ユーリ王子とモエ、アルフレッドも混じってのそんな会話が繰り広げられていたが、気にしない。

 サーリーの望む未来に、また一歩近付いた瞬間だったのだから。






まさかの娘に諭されアニキ。

やっと自分の気持ちに気付いたのね!良かったねアニキ!年下通り越した幼女に言われて納得しちゃったのに笑えるけどね!( ̄▽ ̄)


そして飛び火した、にいねぇちゃんへの楽しい処遇はお楽しみ。

身から出たサビなので、不憫に見えても気にしない方向で( ̄▽ ̄)

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― 新着の感想 ―
[一言] 良かった!良かったねっ!四方まんまるく収まりつつあるよっ!←大変に鋭角のある丸(笑) アニキに腐ったML疑惑!モエちゃんウエルカム腐ロード!( ・`д・´)アニキの口からもボロボロと「あの…
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