92:北門周辺7
虎にゃんこ達はまだおやすみ。もう少しアニキ達の居る北門でのお話続きます。
第三者視点です。
『グギャグギャギャギャ〜!!?』
サーリーから発せられた虹色の光を嫌った腐敗王は、存在しない眼球を守る様に自身の顔周辺にいばらの蔓を密集させながら、地面に額を付けてのたうつ。
腐敗王はサーリーから放たれた虹色の光を、ユーリ王子達の存在が気にならない程に嫌っているらしかった。その巨体と蔓の蠢き様が恐ろしく不気味だった為、ショータの顔色は吐き気を催しているのか若干青かった。
「何こいつ……触手キモ!」
「アンデッド化した竜種は何度か討伐した事がありますが、これは……何という、醜悪さ。……ショータ、迂闊に手を出すのは危険過ぎる」
「っ分かってるよ!」
アルフレッドの忠告にショータは頷きながら、少し腰を落としながらの構え……剣道での居合の体制で装備している刀の鍔に指をかけた。合図があれば、即座に抜刀出来る様に。
その様子を横目に見たユーリ王子は、サーリーをモエに預けながらノーランへと向き直った。
どういう訳か先程までノーランが身に纏っていた青い炎は搔き消え、ノーランの右胸に炎を模した刺青の様な痣が現れていた。ノーランは歌っていたピクシーを探そうと視線を巡らせようとしたが、その前にユーリ王子の声に顔を向けた。
「ここは……北門、か。ディルムッド達は?」
ノーランはユーリ王子の言葉に頷こうとしたが、途中で止め眉をひそめた。
「いや、……ディルムッドとマイは、ギルドの」
「ノーラン、ちょっと剣貸して!」
ユーリ王子とノーラン、2人の会話に食い込みながらサーリーが混ざり、そのままノーランに突進する。一瞬、ノーランが拒否する様に腕でサーリーを遮るが、サーリーは無視してがっしりとノーランの右腕にしがみ付く。
「もう青い火無いから、近寄っても良いでしょ! 貸して!」
「あ、おい」
普段のノーランならそれでも危ないから駄目だと突っぱねるだろうが、今のノーランは消耗が激しく心身共に疲れていた。ノーランの右手から、小さな体格のサーリーは抱える様に剣を奪い取った。
「ほら貸してっ! ……あいたっ」
「大丈夫か!?」
ノーランから無理矢理引き剥がす様に抜き身の剣を掴んでしまった為、サーリーは刃の部分に指を引っ掛けてしまった。
ノーランの真っ赤な剣の刀身に、サーリーの血が数滴垂れる。ノーランは腰に付けていたアイテムバッグからポーションを、モエもポーションをその両手に持ち憤慨しながらサーリーに近寄った。
「こらサーリーちゃん! 危ないから駄目よ!」
「だ、大丈夫! ……それで、ユーリ王子様にお願いあって……手、出して?」
「いや、それより治療をっ……………………はぁ、しょうがないな……こう、か?」
サーリーの頑なな表情に、敵の眼前である事もあって早く話を進めようとサーリーの言葉を聞き入れたユーリ王子は、彼女の前に跪き左腕の装備だけ外してサーリーへと差し出す。
「うん! あ、籠手も今だけ外してほしい……また直ぐ着けていいから!」
これが何処かの城の中であったなら、女性にプロポーズしている貴族に見えなくもない、とノーランとモエはそれぞれ思いながら見守り……。
「えいっ」
「「え」」
そんな世の女性が羨むユーリ王子の差し出す手のひらに、サーリーは真っ赤な刀身を、しっかり狙い澄まして振り下ろした。
「……いや待て待て待て!」
突然の有り得ない事態に呆気に取られたノーランも、ユーリ王子の小さな「ぇ、いたい」の声にサーリーから自身の剣を素早く奪い返した。
幸か不幸か。
サーリーの攻撃力が極貧だった事と、手のひらに触れた一瞬後にノーランが奪い取ったおかげでユーリ王子の手のひらは薄皮数枚、ほんのちょっぴりの流血で事なきを得た。
しかし……。
「そん、な…………ぅうっ」
「サーリー、ちゃん……?」
幼女に刃物を向けられたユーリ王子は「ディルムッドの養い子に殺意向けられる程嫌われてた」と思い、天使の美貌を絶望に歪めながらの半泣きに。
「サーリーちゃん、さっきのは助けただけだよ? マイさんに変質者の定義を教えられたのかな? た、確かにガッチリと抱っこしてたけど、アレは人助けでユーリ王子はブラコンであってロリコンじゃないからセクハラじゃないよ!」
サーリーの両手とユーリ王子の手のひらにポーションを掛けながら、モエはサーリーに誰が聞いても安心出来ない、フォローでは無いトドメを口にしていた。ユーリ王子の潤んだ目尻から、涙が一粒、零れ落ちた。
この一連を見届けたノーランは、この場が戦場なのを忘れそうになった。
「……か、代わってくれ」
眼前に広がる現実に、ツッコミ担当(本人否定)のマイに丸投げしてから逃避したい衝動に駆られるノーランだったが……。
『装備武器:呪われた血塗れの剣の、呪い解除条件を満たしました。装備武器:聖剣フラガラッハに変更されます』
「は?」
脳内にそんなメッセージが浮かび、自身の持つ剣から魔力が吹き出せばノーランの思考は現実に引き留められた。
血に染まったかの様な赤い両刃が、全てを浄化する様な聖属性の魔力を帯びながら白銀に光り輝く。血濡れた様に赤く、禍々しくも美しかった魔剣と呼ぶに相応しい姿からの変貌に、ノーランとユーリ王子達は息を詰めた。
聖剣フラガラッハ。
とある異界の神が、とある太陽神に与えたと言い伝えられた聖剣。神に創造され、装備者に聖なる加護まで与える伝説の武器。
まるで昔からそうだった様に、ノーランの馴染んでいた武器として、その手に収まっていた。
この変化に微笑み、満足げな顔で何度も頷いたサーリーはノーランの足に触れながら前へと……ギルドのある方向へと促した。
「ほらノーラン。行って」
「サーリー……」
「私がノーランにしてあげれる事は、これで終わり。……後はね、ノーランが頑張って」
サーリーの、全てを悟ったかの様な微笑みにノーランの表情は固くなっていく。
「何、言ってる」
「だって私じゃ、無理だから。……だからノーランが、ディルのにいねぇちゃんを……私の、初めてのお友達だった王子様を、助けてあげて」
サーリーの言葉に、ノーランはその表情を強張らせたまま、地面に片膝を付けながら大きな紫紺の瞳と視線を合わせた。
「サーリー……お前……」
ノーランの悲痛としか呼べない表情に、しかしサーリーは微笑み返す。
「うん…………だから、行って。私は≪結界≫無くても、守って貰えるから。でも王子様はディルとマイを……ノーランを守るのに必死で、自分を守らせないし、守らないの。……だからノーラン、無理矢理守ってあげて!」
自身の纏うローブの裾を両手で握り締めながら、サーリーは大きな紫紺の瞳に涙を浮かばせながらノーランに懇願する。
「だって私、皆と一緒に」
「なら、ユーリディア王子の方が良いだろ」
そんな、必死な様子で言い募るサーリーの言葉を、ノーランは遮った。
「「え」」
そして、ノーラン達の会話に大人しくしていたユーリ王子とモエは怯える様に体を震わせた。
何故ならサーリーの背に、モエには鬼の形相のマイが。ユーリ王子には無表情で愛槍構えるディルムッドが。
「……は?」
怒り狂った状態で、仁王立ちして立っている姿が重なった為である。
可愛い娘は、逞しく成長してます。
鬼嫁と殺人鬼を背負う程に…!(ソレあかんヤツ)




