89:北門周辺5
前回のが短過ぎるので、連続投稿。
お久しぶりの寝起きテンションでの投稿。誤字脱字あったらこそっと修正大歓迎です。
第三者視点で進みます。
ディルムッドが父ディランとの決着、別れを迎えたその時。
北門を守るノーラン達は苦戦を強いられていた。
それというのも、ノーラン、ルアン、年若い冒険者2人の計4人は己の武器を用いて生ゴミ……≪名無しの軍団≫幹部である腐敗王と対峙し応戦していたが……のれんに腕通しな状態が続いていた。
腐敗王の触手、いばらの蔓はルアンが撃ち落としてもその場で再生し。
運良く接近出来た、両手に戦斧を持つ銀狼の冒険者が胴体から覗く骨を叩き砕くのに成功するも、飛び散った骨のカケラは数秒後には逆再生された様に元通り。
ならばと魔力タンク扱いにされている、胴体のみを残された焦熱龍ホムラとの引き剥がしを試みた豹の冒険者は、テテ爺とその弟子の手助けを借りながらも未だ出来ずにいる。
この時、闇属性が強いと分かる風体の腐敗王に聖魔法を放ったが……ダメージが通った感触は全く無く、水魔法を放っても同様だった。
そして、今。
テテ爺の視線の先に、文字通り魂を燃やして闘う男の背中があった。
「はぁっはぁっ、はぁ」
薄青かった炎は色味を濃くしながら、ノーランへ与えるダメージを増やしている。魔法やポーションでHPは回復するが、炎に炙られる苦痛による精神的な疲労は蓄積されていた。
短くも荒く息を乱し、流れる汗さえ自身の炎で蒸発していく事に不快感を感じながら、ノーランは幼い頃の父親との鍛錬以外でこれ程までに体力を消耗していた事があっただろうかと苦笑を浮かべた。
「はぁっ、はぁっ……リカルドが居たらなぁ……っ!」
滝の様な汗を流し即座に蒸発させながら、ノーランはグチとも言える軽口を叩き、テテ爺はこれに頷いた。
リカルドのスキル≪査定≫なら、何らかの情報が得られた可能性がある。しかし今この場で救援を要請する事は不可能に近い。
町全体に緊急依頼を知らせた拡声魔道具はリカルドが持つ1つ限り。テテ爺が何度か折り紙型の自動で飛んでいく手紙を送ろうとしたが、紙に内包された魔力が上手く働かず飛んだ瞬間に燃え尽きてしまう。テテ爺曰く、サルーの町を覆う様に何らかの力場が形成されているらしく、そのせいで魔力が乱れているのではないかと予想していた。オマケにギルドのある空に何度か光り輝く剣が見えた事で、向こうも乱戦が予想された為戦力の分散は悪手としか思えなかった。
「はぁ、はぁ……っ!!!」
『グギャグギャギャギャギャアアアア!!!』
「ノーラン殿!!!」
数十回目の特攻。
ノーランの剣戟は蔓を、腐った肉を、黒光りする骨さえ斬り裂いたが……斬り裂いた瞬間から腐敗王の体は再生を始めてしまい、この再生したいばらの蔓にノーランはまたもガレキの山へと吹き飛ばされた。
「畜生! どうしたらいいんだよ!」
鋭い爪のある籠手を装備した豹の冒険者の声にはもう、恐怖しかなかった。………………しかし。
「あらあらあら! 屈強が売りの冒険者が、こぉんな汚いゴミ相手に弱音なんて口にしたらダメじゃない!」
戦場に似つかわしくない、明るく高い少女の声にテテ爺達は顔を向けた。
「寄り道で少々時間が掛かってしまった、……すまない。ファレンの言葉は無視して構わん」
「そうそう無視……えっ無視はやめて!!?」
テテ爺達の視線の先に居たのは、竜種討伐専門のパーティー≪ドラグ・スレイブ≫に身を置く手のひらサイズのピクシー、ファレン・ファンファン。オレンジ色の長い髪と拳法家を思わせる装備が印象的なエルフのセイロン。そして……。
「ノーランっ、大丈夫!?」
「な……サーリー、何でここに……!」
ノーランへと駆け寄るサーリーの、3人。
サーリーは付いてこようとした半泣きのルシファーをマイ達の護衛として置き去りにし、セイロン達と共に北門へとやって来ていた。
「詳しく話したいとは思うのだがな」
『グギャグギャギャギャ!!!』
「サーリーっ来るわよ!!!」
ファレンの言葉と指差す先にノーラン達は顔を向ければ、サーリー達の登場に興奮したらしい腐敗王が耳障りな雄叫びを周囲に響かせながら這いずる様に移動を始めるのを見た。
これを見たノーランは、サーリーを己の背に隠しながら刀身が真っ赤に染まった剣を右手に、黒光りする短刀を左手に持ち構える。……腐敗王の視線の先を、遮る為に。
「はぁ……ディルムッド達に、何があった?」
「大丈夫……ディル達はまだ大丈夫なの。……でも、だから、ノーランはディル達の所に戻って。……私を置いて、戻ってほしいの」
「却下だ」
背中を向けたままの即答に、サーリーは困った様に笑い……。
「……そうじゃないと、ディルとノーランのにいねぇちゃんが居なくなるの」
「っ! ……お前、それが≪夢視≫の能力って言いたいのか」
ノーランの背中を見上げながら、サーリーは首を傾げる。
「……分からない。でもセイロンさん達が来た時、私は一緒に行かなきゃ駄目って思った。……ノーランと交代しなきゃ駄目だって思ったの」
ノーランの視線の先で、ファレンを肩に乗せたセイロンがいばらの蔓を殴るだけで粉砕していく。しかし即座にいばらの蔓は再生した。
「……っ駄目だ。あのバケモノは俺がぶっ殺す! お前はサポート以外認めん!」
話しながらも腐敗王のいばらの蔓はこちらにも伸びてくる。ノーランは剣と自身の纏う青い炎で無力化しながらサーリーを庇い闘った。
その表情は、取り繕う事も出来ない程の苦痛に歪んでいた事にノーランは気付いていない。
「ノーラン……ありがとう。でも、……ごめん、ね…………お願いファレンちゃん!!!」
「今なのっ!? …………っもう、セイロン、耳!」
「承知」
「……私が離れてる間に死んだら化けて出てやるんだから!」
「……その場合、化けるのは私なのでは?」
セイロンは自身の右肩に座る小さな人影、ピクシーであるファレンの言葉に首を傾げながらも何とか頷き、何処からか取り出した耳栓で自身の耳を塞いだ。
そして、ファレンはセイロンの肩から飛び立つ。薄く繊細は翅で宙を浮かびながらノーランとサーリーに近寄り……。
「約束だものね……じゃ、ノーラン聴きなさい! ……ら〜、ららら〜♪」
そして、唐突に。ファレンは歌い出した。
セイロンとサーリーを除く、ノーランと冒険者達は「何してんのコイツ」と顔に書いた状態でいばらの蔓を払っていく。
ファレンの歌に歌詞は無く、鼻歌の様にも聞こえてしまう簡素な物だった。……聞いた事のない調べである筈なのに、両手の剣を振るいながらもノーランの耳にこの歌は馴染んだ。
「ら〜〜、らら〜ら〜♪」
ファレンはららら、と少女特有の高い音域で歌い続ける。ファレンが歌うと闇属性の魔力が周囲に漂う。何処か懐かしく優しい調べに引き込まれたノーランは、自身の背中の向こうでサーリーの紫紺の瞳が涙で濡れた事に気付かなかった。
変化は、このすぐ後に訪れた。
「……は、が、あああ!?」
突然、ノーランは右胸に今までに無い程の……例えるなら焼いた石を押し付けられた様な熱を感じた。あまりの激痛に、思わず剣を取り落としたノーランは地面を転げ回った。
敵も、それを見逃す事は無く。
触手という名のいばらの蔓がノーランへと殺到した。
腐敗王に弓矢で牽制しながらこれを見ていたルアンは、耳栓をつけた状態のセイロンと共にノーランに駆け寄り、いばらの蔓を無力化していくが……再生したいくつかがノーランに伸びる。
「ノーランに触らないでっ!!!」
それを、サーリーが白銀の杖と自身の体で割り込み阻止した。
灼熱の苦しみに喘ぐ中、ノーランは目を閉じていなかった。だからこそ混乱した。
サーリーの小さな体が、いばらの蔓に絡め取られ持ち上げられる。
巻き付く力が強いのか、サーリーの服を裂きながら絡み付いていく。
「……サー、リー……っ!?」
痛みと熱で頭が回るノーランは、確かに混乱していた。
どういう訳かサーリーに施されている筈の≪結界≫が、全て破壊されているという事実に。




