88:ノーランサイド4
ノーランのノーランによるノーランの現状解説なお話。短いです。
暑い。
呼吸するだけで喉が渇く。
熱い。
剣を握ってる筈なのに、まるで焼いた炭で戦ってる様だ。
あつい。
額に垂れる筈の汗さえ蒸発して。
アツイ。
きっと俺の脳味噌は茹だっていて……ディルムッド達を忘れて戦いに没頭しそうになる度、やっぱり竜なんて、俺にとっては何の役にも立たない代物なんだと思った。
『闘いたい』
血と臓腑が沸騰しているかの様に錯覚する程の、熱。
俺に付き合って一緒に戦う奴等の制止を無視して、身を守る為に装備していた鎧をシャツごと脱ぎ捨てた。……下まで脱いだらヒトとして駄目なのはまだ理解していたから、何とか踏み留まっていた。
『闘い続けたい!』
誰かが、俺の鎧を回収してくれたらしく。
……その事さえ直ぐ忘れた俺は、何度も何度も、強烈過ぎる生ゴミ臭振りまくバケモノに突っ込む。
俺に触れるいばらの蔓っぽい触手は、焼けて灰になりながらまた再生していた。
『ああ、ヒトの身体の何と不便な事か!』
俺の竜種としての魔力は、確かに封印が解けた事もあって将来的には暴走してしまう事が確定していた。それでも、まだ猶予はあった。自慢じゃ無いが、俺は魔力の扱いに長けていたから。遅らせる事は充分可能だった。……自身の実力を驕って、短期決戦目指して暴走させたのは俺の失敗だ。
一度暴走し解放された竜種の魔力を、俺は自力で仕舞い込むのは無理だった。今この時……熱から、竜種の本能寄りの思考から逃れたくてコントロールしようとして、失敗してるんだから。
火龍が火属性の竜種を取り込み進化すると、炎龍となる。
炎龍はその名の通り炎の化身。誰にでも常時見える火の精霊に近い。
肉体の概念があやふやで、闘う姿は蒼い炎そのもの。周囲を自身の意思関係無く焼き尽くすはた迷惑なのが炎龍ってヤツだ。
まあ炎龍自身がそれを理解しているから、周囲の被害を抑える為に生息域が活火山のマグマの中と聞いた事がある。
……つまり、今の俺は守るべき者さえ焼き尽くす炎そのもので。
……だからこそ俺は、己の中の竜種を封印する事を選んだのに……俺は今、炎の中に居る。
『にゃんにゃにゃにゃーん!』(ノーラン遊んでにゃー!)
『うわっおいディルムッド! 両手塞がってんのに飛び付くな、危ねぇ……!』
『にゃんにゃ……んんっ! ……これはもう本能みたいなモノだ。諦めろ、ノーラン』
『いやだからお前もディルムッドの顔でドヤ顔してんじゃねぇよ!?』
子供から成人へとなる、残り僅かな期間のあの出逢い。
俺はあの日あの時、己の道を選んだ。
俺にとって、全てを焼き尽くす炎とは……俺の望む『強さ』じゃないんだと理解したから。
熱に喘ぎながらその事を思い出しても、生ゴミに特攻していたらずっと闘いたくて堪らなくなって、大事な事を……俺である事を、忘れそうになる。
それとも……俺の選んだ道は、間違いだったんだろうか?
『…………そんな事、無いよ』
精神的に追い詰められた俺は、何処かで聞いたことのある、鈴の音を思わせる愛らしい幻聴を何度も何度も聞きながら生ゴミという名の敵に剣を振るい続けた。
契約上、魔力供給で繋がってますからね。
愛らしいお声は幻聴ではないですよ、気付いてあげてアニキ!




