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86:西門周辺1


今回は赤薔薇メンバーのいる西門のお話。教会もちょろっと。

第三者視点で進みます。

 



 東門を守るフィン達が≪名無しの軍団(ノーネーム)≫団長、ナナシの痕跡を見つけたその頃。


 西門を守るローテローゼ率いる≪赤薔薇≫のメンバーであるファピュラスとジョイスは全速力で森を駆け抜け、教会へと辿り着く直前だった。



「はぁああああ!!!」



 短く刈り上げた灰色の髪と大振りの狼の耳にそれぞれ赤と白のドロップピアスを付けた剣士、ジョイスは一足先に森を抜け目の前のモンスター……幼児程の大きさの巨大蟻へと斬りかかる。


 モンスターの向こう側に、人影を見たからだ。



「シスター無事!?」


「……っファピュラス戻りなさい!」



 2人が森を抜けた先に居たのはシスター・ミラ。ナイフ片手にモンスターと相対していた彼女の背後、教会前の広場は薄青い霧に包まれ騒然としていた。

 赤ん坊や幼児程に巨大化した蝶や蛾が上空に密集し、青い鱗粉を撒き散らしている。騎士と冒険者達は数組のチームに分かれ巨大蜘蛛と巨大蟻を相手する傍ら空へも弓や魔法で応戦していたが、どうにも様子がおかしい。

 数に押されているせいなのか、毒や麻痺にさえ気を付けたら比較的弱いとされている昆虫型モンスターに苦戦している様だった。



「……っこの鱗粉は、周囲の魔力を奪ってしまうの! 敵は私達のMP使用が倍になってるのを分かって、ガス欠を狙ってる! ……ファピュラス、貴女は離れなさい!!!」



 異世界≪リヴァイヴァル≫で魔法を使うには自身の持つ魔力と大気中に含まれる魔力(マナ)を混ぜ合わせる必要がある。

 勿論自身の持つ魔力だけで発動させる事も可能だが、それにはMPが良くて倍、悪ければ倍々に増え仕舞いにはHPまで削られる。

 魔女として名の通ったファピュラスには不利な環境だった。



「だからこそ私達は来たんです!」



 プラチナブランドを編み上げ肩から垂らすファピュラスは、≪アイテムボックス≫から取り出した小指程の大きさの種を取り出し自身のスキルを発動させた。



「シスターは私達の後ろに! ……≪フォレスト・マスター≫である私が命じます、芽吹きなさい!!!」



 ファピュラスが持つスキル≪フォレスト・マスター≫は文字通り、自身の持つ魔力を使用し植物に働きかけ成長を効率良く迅速に促進させる事が出来る能力である。そしてポイントをMaxまで振り分けられたこのスキルには特典があり、それこそが彼女達がこの場に来た理由であり、秘策だった。


 彼女の手のひらで発芽した種は、ものの数十秒で根を茎を葉を伸ばし人1人と変わらぬ背丈にまで急成長する。茎の太さはそこらに生えた樹木と変わらない。そしてファピュラスの頭上には空へ向いて一つの大きな蕾をつけた。巨大な向日葵を思わせる立ち姿と違い、蕾の形は薔薇を思わせる。

 勿論敵である昆虫型のモンスターは襲って来るが、剣を携えたジョイスと弓を射るシスター・ミラ、加勢に来た騎士達が牽制して近寄らせなかった。



「インセクト・イーター! 食事の時間ですよ!」



 ファピュラスの言葉と魔力に呼応する様に、蕾は花開く。彼女の姉、ローテローゼを思わせる深紅の薔薇は血を啜ったかの様に毒々しくも美しく咲き誇る。しかしこれも、ものの数秒で花弁は散った。


 ファピュラスとジョイスはシスター・ミラと闘っていた冒険者、騎士達をこの植物の風上に集めた。

 何故なら散った花弁にモンスター達が群がり始め、空高く飛行していた蝶と蛾に似たモンスターまでもが風に乗った花弁を捕食し始めたから。

 腐った果実特有の甘ったるい香りは昆虫達の好物の臭いである。



 そして今、群がる昆虫達は気付いていない。

 花が散れば、実がなるという簡単な事実に。



 花が散った後に細長い(つる)が空に5本伸び始め、その先端が丸みを帯び実となる。1分程でぶくぶくと肥大し自重で蔓が曲がり、赤子を思わせる大きさの5つの実が地に付くほど垂れ下がり始めた事でやっとモンスター達は異常に気付いた。



 赤子程の大きさの胡桃の様に堅そうな実がパックリと割れ、割れ目からおびただしい数の動物を思わせる牙と粘液纏うおびただしい数の蔓が伸びる。インセクト・イーターとはその名の通り食虫植物であるが、ファピュラスはスキルのMax特典により魔力による品種改良が出来る為、彼女の育てたインセクト・イーターは自生するものとサイズも()()も仕様が違う。



 粘液で濡れた蔓は花弁に群がる1匹の巨大蟻に絡みつき、牙の生えそろった実の1つが巨大蟻の頭部を喰いちぎってしまう。

 これを見た昆虫型のモンスターはぎぃぎぃと鳴きながら抵抗し始めるが、昆虫のみに作用する強い麻痺性の毒を含む花弁をたらふく食べてしまった為動く事もままならない。

 オマケに周囲に漂う鱗粉までも粘液に濡れた蔓を振り回す事で回収し始めた為、薄青い霧状になっていた広場も元通りになりつつあった。



「こちらから攻撃しない限りインセクト・イーターはヒトに対して無害なので、皆さん今がチャンスです!」


「「「うおおおお!!!」」」



 ファピュラスの言葉に勇気付けられた荒ぶる冒険者と騎士達は、一致団結しながらモンスターへと襲いかかる。

 完全なる形勢逆転に、シスター・ミラはほんの少し我を忘れていた様にぼんやりとした表情を浮かべた。



「凄いわ……」


「ええっファピーは凄いんです!」


「もうジョイス君っ、褒めても何も出ないから! ……さあシスター、私達も行きましょう!」



 食虫植物の種には限りがあるから念の為に護衛しないと、と言うファピュラスの言葉にシスター・ミラは頷きながら弓矢を持った。



「え、ええ。でも2人共、ローゼの所に戻らなくて……」


「「姉さんは負けません!」」



 それにローテローゼの居る西門にも食虫植物を置いて来たから大丈夫、と自信に満ち溢れた2人の満面の笑みに、シスター・ミラも大きく頷いた。







 一方その頃、巨大な壁の様になっている閉じられた西門、その上部にある見張り台にローテローゼの姿があった。

 ファピュラスの用意した食虫植物は門の外側に絡みつく様に鎮座し、遠距離攻撃に長けた冒険者達が複数の見張り台から弓と魔法を用いて向かってくる巨大化した昆虫型モンスターを撃退していく。運良く町に入り込んだモンスターも、数人体制で倒していけば何の問題も無い。

 こちらが優勢。それが事実だがローテローゼは美しくも鬼気迫る表情のままだった。



「≪フレイム≫!………………やっぱり、こいつもアンデッドじゃないわ」



 自身に向かって来た巨大な蜂を魔法で消し炭にしながら、ローテローゼは眉間のシワを深くした。


 ローテローゼは知っていた。歴代の緊急依頼≪名無しの軍団(ノーネーム)≫撃退の記録、そこに記されているのは団長ナナシが統率するのが全てアンデッド・モンスターであると言う事。

 ……しかし今、例外が発生している。


 今、この西門に現れたモンスターは全てアンデッド化していない、正規のモンスターであるという事。しかし≪名無しの軍団(ノーネーム)≫出現と同時にこの町を襲い始めた……それが示す事実とは何か。



ナナシ(親玉)の都合なのか、それ以外の要因があるのか……情報が少なすぎる…………旦那、気を付けて」



 ローテローゼは1度だけギルドのある町の中央に視線を向けた後、両手を空に向けた。



「さぁ、勇猛果敢な戦士達! 町からモンスターを追い出すわよ! ≪ カオス・ミッドナイト ≫!」



 通常の倍以上にMP使用量を増やしたローテローゼは、門の見張り台に居た冒険者達全員に物理・魔法攻撃力の上がる闇魔法を使いながら高らかに宣言した。



「ギルド長リカルドの言葉をたがえる事は、このあたしが許さないわ! 背中はあたしに任せて、全員、生きて、勝ちなさいな!!!」



 美しさの中にも雄々しさ感じるローテローゼの姿は、まさに戦乙女。



「あ、あ、姉御!」


「姉御に勝利を!」


「おう野朗共、姉御の気持ちに報いるぞ!」


「「「おおおおおっ!!!」」」



 この姿を直視し、やる気満ち溢れた冒険者達に掛かれば西門周辺に出現した昆虫型モンスターにこれ以上の不覚は取らないだろう。










 ぺたり。ぺたん。



 西門、町の中心へと続く道に赤く濡れた大きな獣の足跡が現れたが……冒険者達の行進に踏み荒らされてしまい、気付く者は1人も居なかった。




「……、……」



 誰かを呼ぶ小さな声にも、気付く者は居なかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 姐御っ!姐御ぉぉぉ!!←アニキに続いて今度は姐御が懐く先に認定(笑) アニキは剥き剥きして筋肉を愛で(←ヲイ)姐御は美しくも強いそのお姿とおっさ…げふんげふんリカルドさんに恋する可愛い姿を…
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