85:東門周辺1
今回と次回、ギルド前と北門以外のお話入れてます。今回は虎さんパーティーが守る東門です。
第三者視点で進みます。それでも宜しかったらどうぞ!
ディルムッド達パーティー≪ニクジャガ≫が町の中心と北門それぞれの戦場に立つ最中。
東門を任された虎獣人パーティー≪タイガー・ロンド≫も溢れるゾンビ軍団を相手にしていた。
「「「ぶもおおおおおおお!!!」」」
東門を破壊しながら町に侵入し、街路樹や周囲の建物を破壊しながら突進してくる身の丈5メートル越えの巨大なイノシシの大群……それ以外にもアンデッド化した巨大動物達と冒険者達は衝突し、体力を消耗していた……しかし。
「あらあらまあまあ、なんて立派な豚足なんでしょう!」
街路樹を吹き飛ばしながら突進してくる、大群の中でも一際大きいイノシシの背に軽やかに飛び乗りながらそう言ったのは≪タイガー・ロンド≫のリーダー、フィンの妻であるマーニャ。
明るい空色の瞳と波打つ長い金髪を靡かせた、戦闘中とは思えないおっとりとした口調と場違いな発言をした彼女こそ冒険者の間で≪鉄拳聖母≫の通り名で知られる女傑である。
「ちょっとアナタ……私達の晩ご飯のオカズにならない? ……そ〜れっ!!!」
右手に握り拳1つ。
マーニャは装備している自身の瞳と同じ空色に煌めく籠手を、街路樹と衝突した衝撃さえ物ともしない巨大イノシシの脳天に叩き付け……その頭頂部を粉砕しながら下顎を大地にめり込ませた。
「ぶるあぁ!?」
「「晩ご飯がアンデッドは嫌ですぅぅぅ!!!」」
巨大イノシシと、とある年若い冒険者2人の叫びは同時だった。冒険者の叫び声は、切実だった。
倒された巨大イノシシはその巨体を掻き消し、頭に乗っていたマーニャは軽やかに着地。そこに突進して来た小型……それでも成人男性並みの大きさのイノシシを回し蹴り一発で倒す顔だけおっとり美女の姿は敵からしたら恐怖の対象である。
恐怖心を感じる心の無いアンデッドには不幸中の幸いと言えるのかもしれない。
「…………そもそも、アンデッドは食えん」
「もう、そんなのわかってますよ〜」
冗談冗談と笑うマーニャの夫でありパーティー≪タイガー・ロンド≫のリーダー、フィンは戦場でも相変わらずな妻の姿に溜息を一度我慢した。フィンの手に大剣は無く、その手には岩に独特の窪みがあり何処か人の顔を思わせる大盾と砕けた魔石、土石があった。
東門周辺はサルーの町の住民が住む家が多い。大通りの両サイドには冒険に使う備品や装備では無く食品や日用品を販売する商店が多い。大通りから家に続く脇道も多く、フィンは自身の魔力と土石を使い東門から大通りを文字通り一本道になる様に土壁を作り上げ町を守護していた。
フィンとマーニャ。この2人をRPGの様なジョブに例えるならフィンが魔法騎士、マーニャがモンクと思えば良いだろうか。意外にもフィンは細やかな魔力制御に長けていた。
「…………モンスターを倒すのは良いが、蹴り飛ばした先を見てから蹴ってくれ。……門が壊れたのは痛い」
「夢中になっちゃって、ごめんなさいね〜。蹴り甲斐のある巨体だったから……フォローしてくださる素敵な旦那様が居て、私はラッキーだわ」
「……ふん」
終始厳しい顔のフィンだが、マーニャには妻に褒められ喜んでいる夫が手に取る様に分かっていた。獣人の機嫌は、表情よりも尻尾と耳を見るのが正しい。フィンは機嫌良く揺れる尻尾を装備しているマントで隠しながら周囲を見回した。
「……東門を前に隊列を作る、盾持ち集まれ! 遠距離攻撃得意な奴はその後ろだ! ……接近戦得意な奴はマーニャと共に大通りに入り込んだ分の始末と隊列の護衛に回れ! バケモノ共を門まで押し戻すぞ!!!」
「「「おうっ!!!」」」
フィンの言葉に反応した冒険者達はそれぞれの役割を全うする。
大通りに横一列に盾を構えて並ぶ十数人の冒険者と共にフィンは東門へと向け足を進める。
襲い来るアンデッドは巨大化したイノシシやシカ、最初にマーニャが蹴り飛ばしたゾウなど多種多様の動物型だったが一貫して猪突猛進な印象を受けていた。文字通り壁となった者達の背後から長槍や投げナイフに弓、魔法で蹴散らしながらフィン達は町の外にモンスターを押し出す事に成功した。
「……止まれ!!!」
壊れた門の残骸を踏みしめながら前進していたフィンは、背筋に走る悪寒を感じた。フィンは自身の感に従い、己の妻と子供達が門の内側に居る事を確認しながら東門の外に視線を向ける。
門の外、冒険者達の見える範囲には押し出したモンスター以外存在しなかった。
そう、大挙していた筈のモンスターの姿がこの場には無く……だからこそフィン達はソレに気付いた。気付いてしまった。
時刻は昼時。晴天の空。それなのに門の外の大地、草原は日陰の様に黒々としていた。そして、周囲に漂う鉄の臭気。
つまり、眼前に広がるこの黒い景色は……血が錆びて黒く変色した大地と草と花の光景なのだという事に。
つまりこの場で大量のヒト……しかし遺体が存在しない事からおそらくは大量のモンスターが血飛沫を上げながら絶命した可能性にフィン達は気付いたのだ。
「何で……こんな事に……」
「父さんっこっちに来て!!!」
隣に立っていた同年代の冒険者の声と同じ感想を抱いていたフィンは、自身の娘グラーニャの声に隊列の後ろへ足を向けた。
「早く! この足跡見て!」
門の外は黒々としているが、町の中は瓦礫はあっても黒に染められた所は見当たらない。
しかし1箇所、グラーニャの指差す地面に血で付けられた足跡があった。まだ少し血液の赤黒さを残す、男性でも大柄なフィンの倍近い大きさの足跡は蹄を持たない獣のソレであるが……歩幅の間隔を見るに、2本足で歩いている事が窺える。
これを見て、フィンはグラーニャの隣に居たマーニャに視線を向けた。
「……、アナタ……」
「ああ。……どうやら、団長様は既に町の中らしいな」
足跡は、数歩進んだ先で踏み荒らされている。何処に向かったのかは分からない。分からないが……フィンはあまり不安だと思わなかった。何故ならフィンの頭には、ディルムッドとノーラン、2人の背中があったのだから。
「……気を抜くな! 俺達は、俺達の役目を全うすれば良いんだ! ……盾持ち構えろっ! またゾウが来るぞ!!!」
視界の先、数十メートル向こうから土煙が見え既に懐かしい巨大が窺える。あいも変わらず突進攻撃が続く様だ。
「ナナシは≪月の獣≫率いる≪ニクジャガ≫が必ず倒す! 獣風情に邪魔をさせるな、気張れ野朗共!!!」
「「「うおおおおお!!!」」」
フィンは己の役目を全うする為、冒険者達を鼓舞しながら自身も前線へと身を投じていった。
「ふにゃ…………私の旦那様、素敵だにゃ〜!」
「「……」」
そんなフィンの背中を見てきゃあきゃあ身悶えながらモンスターを殴り飛ばすマーニャを、子供達は酸っぱい物を食べた顔で眺めていた。




