82:北門周辺4
引き続き、血みどろ系の残酷描写あります。
それでも宜しかったらどうぞ。
『ぐがあああっ!!!』
焦熱龍の腹から飛び出したのは、先に掛けて紫紺から漆黒へと色合いの変わるいばらの蔓。それ自体に意思がある様で、ノーランという獲物を見失いビクビクと怒りに震える様に暴れている。焦熱龍は相当の痛みを感じているらしく、のたうつ様に身をくねらせ呻き声を上げていた。
「一体何が……ひぃっ!?」
この尋常ではない焦熱龍の様子に、テテ爺達と共に距離を取っていたルアンは不安げな声を上げながら少し離れた場所に立っているノーランへと視線を向け……ルアンは腰を抜かしかける程に、怯えた。
それはそれは優しい、いっそ慈愛や母性さえ感じる程の優しい表情でノーランは微笑む。それも以前、ユーリディア王子に向けた微笑みと良く似ていた。その瞳の色も。
「あー、そー………………そういう事」
微笑む表情とは違い、ノーランの明るいペリドットの瞳はギラギラと燃え上がっていた。
ノーランの言葉と怒りに反応する様に、いばらの蔓はノーランへとその棘まみれの先を伸ばし蠢かせる。焦熱龍の腹はボコボコと激しく隆起し、焦熱龍はまたも断末魔の様に鳴き叫ぶ。
ノーランは、剣を握る拳を震わせながらその姿を見詰めた。
そして、届かぬ事に苛立たしげに大地を叩くいばらの蔓が伸びていた焦熱龍の腹の傷から……しとどの血と臓物に濡れた、漆黒の頭が現れた。
『グギャグギャギャギャギャガアアアア!!!』
耳に痛い甲高い雄叫びを上げながら傷口を拡げ這いずる様に出て来たこの漆黒の頭に眼球は無く、ただ赤い火の玉の様な光が眼孔にあった。皮膚も鱗も肉も鬣も半分以上腐り落ちた頭の、骨だけの顎から垂れた血とよだれで濡れた舌だけが生々しい。
頭の下、這い出て来た飛龍らしい細長い胴体部分も半分以上腐り落ちている。肉の間から黒光りする骨が見え、そしていばらの蔓はこの頭の持ち主の腐り落ちた手足の代わりだったらしく、触手の様に腐った胴体から数十本も生えていた。
……そして、肉と骨の間に見える心臓や内臓が力強く脈打ち、医療経験者で無くともその鮮やかな色合いの心臓は健康そのものに見える。……それ以外が腐敗の限りを尽くしているのに、である。
ノーランとテテ爺、ルアン達冒険者は血みどろの頭と辺り一面に増した臭気に眉間と鼻にシワを寄せた。
「……よう。会えて嬉しいよ生ゴミ」
勿論この時、ノーランは全く歓迎していない表情と低過ぎる声音である。
『ぐぎぃぃ……っ! わ、われ、は……ぐうぅっゴミ、じゃな……!』
「うん。お前は生ゴミじゃなかったな。そこは悪かったよ」
久し振りの外の世界なのか腐り果てた……ノーラン曰くの生ゴミは、聞くに耐えない喜びの雄叫びを上げる。その中でもノーランの呟きを聞き逃さなかった焦熱龍に、ノーランは鼻で笑った。
弱り切って地面に巨体を転がした焦熱龍へ、ノーランは慈愛ある優しい微笑み……ではなく。
嘲笑混じりの顔を向けた。
「お前、その生ゴミに竜核ごと腑喰われ尽くされたから、そろそろ死ぬだろ」
断定の言葉に、焦熱龍は押し黙る。
その姿を見て、ノーランは眉間のシワを深くした。
「おいおい図星かよ。俺を喰うか、殺されるかしたかったって? ……巫山戯てんのか?」
『ぐ、りゅ……』
「見ろよ。外に出ちまってるようるっせぇ生ゴミ。つまり時間切れだろ? 俺は不完全燃焼だろ? お前は死んでおさらばで、俺の不戦勝で終わりだろ? ……そんな勝利を喜ぶクソに見えんのか、この俺が」
『……ぐすっ』
ノーランの言う通り、今の焦熱龍は余命幾ばくもない残り滓だった。
ノーランとの再戦……求愛する為に焦熱龍は傷が癒えてから直ぐに力を求め己の進化を目指した。しかしその結果、挑んだ相手に破れ力も体も命も搾取された。それだけが事実。焦熱龍が、相手の力量を見誤った敗者だっただけの事。
モンスターの世界は弱肉強食。弱ければ喰い殺され勝者の糧とされるのが定めである。弱かった自身が悪いのだと焦熱龍は知っていたし、竜種の性が目覚めつつあるノーランの怒りは当然なのも知っていた。
天に向け雄叫びを上げるノーラン曰くの生ゴミとは逆に、地に頭を付け身動き一つ取れなくなった焦熱龍は近くなった距離で愛して止まぬ魂を持つ男を見た。
薄青い炎を纏うノーランは美しく、焦熱龍は涙で霞む視界でノーランを見詰めながら……この世を造った創造神を崇める様な心持ちで、血を失い過ぎて痺れる口を開いた。
『ぐりゅ……ぐす。われ、を……あわれに、おもってくれ、るなら……われに、なを……』
ぼろりと抜け落ちた角を、生ゴミから伸びたいばらの蔓に巻き取られる。直後、本来なら頑強な筈の角が枯れ草の様に萎れ、数秒後には砂となって消えた。
……己の魂までもが砂と消える事を想像しながら、その恐ろしさに焦熱龍は懇願していた。
『あのこりゅう、を、よぶよう、に……おぬし、が……よんでくれる、なを……われに、くりゃれ……』
ノーランの表情に、同情は感じられない。
只々、勝負の決着が着かない事を残念に思っているのが分かる、拗ねたような不貞腐れた顔。
ノーラン曰くの生ゴミが周囲に雄叫びを響かせる中、ノーランの顔はさながら苦虫を千匹噛み締めた様に変化し、舌を打った。
「ちっ! ……言っとくが、これは嫁じゃなくて俺が認めた宿敵に贈る名だ! ……それでも良いって言うなら、俺の先祖、ご大層に≪炎帝≫とか呼ばれた火龍の上位種……炎龍『焔』のその名で送ってやるよ。…………どうする、ホムラ」
『…………ホム、ラ……わが、なは……ホムラ、か……ぐりゅ、……るる、るる……るるぅ……』
機嫌良く喉を鳴らした焦熱龍は……ノーランの顔をもう少し見ていたかったが、重くなる瞼に逆らえず濡れたピジョンブラッドの瞳を閉じた。
「…………お休み、ホムラ。次が有ったら……今度こそ正々堂々、一騎討ちだ」
まあ勝っても負けても嫁にはしないが、との笑い混じりの優しい声を最後に、焦熱龍……ホムラの意識は途絶えた。
そして、この広場に残ったのはノーランとテテ爺達冒険者。そして理性と知性、矜持も魂も欠けてしまっただろう存在だけとなった。
「さぁて、と。……生ゴミとの会話は、無理そうだなぁ」
『グギャギャギャガアアアア!!!』
ノーランによって切り離されたホムラの頭部は他のゾンビ達同様に何も残さず消えたが、ノーラン曰く生ゴミど同化している為に胴体は消えずに残ったままである。
それどころかいばらの蔓が焦熱龍の胴体に絡まり、植物が養分を吸う様に残された魔力を搾取していた。
「……なあ、そこの図体デカイだけな存在自体が汚物な生ゴミさんよぉ」
血を啜った様に真っ赤な刀身を振るってホムラの血を落としながら……声を荒げる事なく、腐った肉を振り撒く眼前の生ゴミに、ノーランは宣戦布告した。
「お前、殺す」
それはもう、決定事項だと言いたげに。ノーランは言葉としてそれだけを発し一歩前に進む。そのノーランの背に、3人の男達が続いた。
「ノーラン殿! 我等もお供する!」
「だいぶ時間も経った! いつナナシが出てくるかも分からないっ、……それに矜持を失った竜種は、もう別の生き物だ! 今回は手出しさせてくれ!」
「アンタを辱めたい訳じゃないんだ、頼むよ!」
片手でも放てる小型のボウガンを装備した鷹獣人ルアン、両手で戦斧を構える銀狼の獣人、鋭い爪のある籠手を装備している豹の獣人がそれぞれ続く。
ノーランは背後を見る事無く鳴き叫び続ける存在を見上げ、小さく頷きながら口を開いた。
「……俺に急接近したらダメージ受けて≪結界≫壊れる可能性ある事踏まえて闘えるなら、好きにしろ」
「回復とサポートは、ワシらに任せよ」
「がが、頑張ります!」
ノーランの言葉にテテ爺とその弟子が続く。
「……なら、メインディッシュが出る前に片付けるぞ、野朗共!」
「「「おおよ!!!」」」
こうしてこの場のみの即席パーティーが結成され。
鳴き叫ぶ腐敗仕切った、ノーランに生ゴミと呼ばれた存在へと攻撃が開始された。
『グギャグギャギャギャギャ!!!』
ノーラン達は知らない。
焦熱龍の腑から現れた存在が『腐敗王』と呼ばれる≪名無しの軍団≫幹部である事を。
『『空帝』が進化し『腐敗王』が発生しました。チーム≪ニクジャガ≫ が確認済みの幹部は『腐敗王』のみとなりました』
こんなメッセージが、マイの目の前に展開された事を。
称号が空帝なのに飛んでる描写が皆無なのはアニキがお空飛べないから。対等目指して飛ぶの封印してました。空からブレスしまくったら即終了の可能性が。
それも分かってたからこそのアニキの怒りです。
そしてアニキはガチギレすると、イッチャッタおめめで微笑みます。こわい(そうしたの私だけど)
次回、虎にゃんこサイドのお話を予定しているのですが投稿ちょっと遅れそうです。
…予定してたプロットっぽい書き殴りと違う展開を思いついてしまって。今ちょこちょこ書き足し書き直ししてしまって…元々遅くなってるのに何言ってんのと言われそうですが( ̄▽ ̄;)
1週間過ぎても投稿してなかったら生暖かく見守って下さったら嬉しいなぁ…!(>_<)




