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77:北門周辺2


第三者視点で続きます。




 サルーの町、北門前に広がる露天広場にて。

 ノーランは自身を夫と呼ぶ巨大な火龍(かりゅう)からの、ちょっかいの様なその実受けたら瀕死になるだろう攻撃を周囲の冒険者への被害が最小限になる様に避けながらどう攻略しようかと思考し続けていた。


 以前見た時よりも色濃くなった赤黒い鱗を守る様に、高温の火の魔力を羽衣の様に纏う火龍には生半可な攻撃は効かない。ノーランの持つ魔法属性が火と風である為、属性的有利も働かないのだ。



『るるるっ、ノーラン! ルシファー、アイツにかみつけるよっ!』


「今行くと燃やされっぞ。せめて、あの纏ってる魔力削いでからじゃねぇと危ねぇ」


『る……りゅるぅ。ルシファー、キバあるのに……やくたたず……くすん……』



 その幼い声にノーランが足を止める事なく少し視線を向ければ、背にくっ付いていたルシファーが首を伸ばしてノーランの顔を半泣きで伺っている。その愛嬌ある表情に、戦場だというのにノーランの心は和んだ。


 サーリーの様に契約した訳でも無いのに、竜種であるルシファーの言葉が正しく理解出来るのは同じく竜の血が流れている竜人だけである。

 ……ノーランに懐くルシファーの様は、親に甘える子供同然。親を亡くしたばかりのルシファーにとって、同族の気配を纏うノーランの側はとても心地良く離れ難い。

 ……それ故に、封印が解けた事で精神的に負担になってるノーランに気付いてからは幼子なりに気遣っていた。誰にも言うな、の言葉にも素直に従っている。

 ノーランの為に特攻したいと思っても出来ない今の状況に、ルシファーは悔しく感じているらしかった。そんな優しくも幼い子龍に、ノーランは微笑みを返す。


 ちなみに、子龍や冒険者ではないただのウブな町娘がこの時のノーランの微笑みを見ていたなら……10人中9人は卒倒するであろう男の色気が乗る微笑みである。

 ディルムッド同様、ノーランも身内と認めた者達には極甘な男であった。



「……俺もサーリーも、マイ達だってお前を頼りにしてる。泣くな」


『っぅ、うんっ、ルシファーよいこだから、ねぇちゃのサーリーも、かあしゃのマイも、とうしゃのディルも、にいちゃのノーランも、まもる!』


「……なら、弟のルシファーは俺が守ってやるよ」


『……っえへへへへっ!』



 ノーランが自身の肩口にあるルシファーの頭をぐりぐり撫でてやれば、るぅるぅとご機嫌に喉を鳴らしている。その姿は、ノーランの中で幼い頃のディルムッドを思い出させた。



『ず、ずるいぞ! 我の頭も撫でよ!』



 ある意味放置されていた火龍が、ノーランに微笑まれたルシファーを羨ましげに見咎める。

 そして攻撃をやめ、中空で浮かぶ目の前の火龍がふらふら近寄ろうとするのをノーランは避ける。ルシファーに向けた優しい顔を般若に変え、殺意を込めた視線で押し留めた。



「生憎、敵を撫で甘やかすつもりは毛頭無い。……それに、だ」



 ノーランは眉間と鼻にしわを寄せ、不快だと言わんばかりに火龍を睨む。



「……臭えんだよ、お前。()()()()()()()だ」



 辺りに立ち込めるのは、色々なモノが焼け焦げる臭いと……ゾンビ達から漂う腐臭。

 火龍から殺して腐肉を浴びたとしてもあり得ない程の臭気を、ノーランも獣人の冒険者達も感じていた。



「気付いてる筈だ。お前、()()()()()()()()()



 ノーランの言葉を聞き、目の前の火龍は視線を逸らす事も慌てる様子も無く。




『? ……それがなんじゃ。竜種のツガイは来世であっても魂を縛るモノ! 我が死ぬ時、我が夫が共に死ぬのは道理じゃ!!!』



 当然の様に雄叫びを上げる火龍……狂った言葉を話すゾンビとなったらしい火龍は、ごるごると喉を震わせながら魔力を練り上げ始める。



「だ〜か〜ら〜よ〜……俺は、夫じゃねえって、言ってんだろうがっ!!!」



 ノーランの叫びを無視し、また町中を焼き払おうと口を開ける火龍に冒険者達が慌てる中。



「≪ライトニング≫!」



 パリパリと静電気にも似た魔力を纏ったノーランは、地面に数センチ足をめり込ませる程に踏み込み、目にも留まらぬ速さで火龍との距離を詰めた。そして、数十メートル上空にある巨大な下顎に愛用の真っ赤な剣を叩き込む。


 ≪ライトニング≫は風魔法にスキルポイントを45振り分けたら使える単体の電撃魔法である。しかしそれだけではなく、自身の素早さを上げる≪ゲイル≫の上位魔法であり、自他共に素早さに定評のあるノーランも愛用している魔法だった。



『ブレスはいたら、めっなの〜〜っ!!!』



 無意識なのか意図的なのか、火龍が狙ったのは町の中心部。ノーランの渾身の攻撃でも、まだ被害が出る程度には角度は危うかった。ノーランの背中に張り付いていたルシファーは、その小さな体とは不釣り合いな高魔力を練り込んだ黒いブレスで追撃する。


 火龍との出会い頭にした行動と、ほぼ変わらない。


 結果、先程同様に頭の角度が変わり、火龍の放つブレスは障害物の無い、ほぼ真上の空へ。

 こうして、雲の無い空にまたも勢い良く火柱が昇ったのである。




 ぶすぶすぶす、と木材などが焼け焦げる音と臭いが周囲を包み、火龍(かりゅう)の頭部と空中で接近していたノーランは、脳内でガラスの砕ける音が鳴った事に舌打ちした。



「っやっぱ、前より火力がヤベェっ!」



 軌道を変える為に火龍の顎下を攻撃したノーランとルシファーは、勿論ブレスの直撃を受けてはいない。それでも余波だけで≪結界≫は破壊された。

 ノーランは前回、我を忘れ加減を知らなかった火龍のブレスに直撃しても魔法防御さえ上げていれば即死までのダメージは無かった為……明らかに敵はパワーアップしている。


 最初と違い地面に無事着地したノーラン達は、素早くルアン達冒険者の前に戻りながら、頭から露店に突っ込んだ巨大な火龍を睨み付けた。



『う〜、ゾンビだけど、アイツつよい〜ルシファーのブレスきいてない〜!』


「ゾンビ化に伴う痛覚無しはしゃあねぇとしても……無傷はおかしいよなぁ……ルシファーの攻撃が効いてないって事は、闇系の竜種でも喰ったか?」


「ま、待ってくれノーラン殿……まさかあの竜種、勇者の物語に出てくる焦熱(しょうねつ)龍に進化してるとでも!?」


「その可能性も視野に入れるべきだろ」




 ノーランの言葉に、鷹獣人ルアン含む冒険者達はその表情を曇らせた。



 竜種は通常、1つの属性を持って生まれてくる。

 しかし縄張り争い等で他の竜種と戦い勝ち、運良く相手の力の源である竜核(りゅうかく)を貪り己の糧としたなら……同属性なら己の属性をより高め、他属性ならば新たな種へと進化する。


 焦熱龍とは火系と闇系の飛龍同士で進化する竜種で、過去の勇者が退治した強敵モンスターでもあった。



「そう考えると厄介だな……あー、ルアンだったか。湧き出てるゾンビの方はどうなってる?」


「……今は、私の仲間とレベルの低い冒険者達が抑え込んでいる。1番足の速い者に≪ドラグ・スレイブ≫へ連絡に行かせ、その間を竜種と戦った経験のある者と、レベルの高い私達で足止めしていた」



 ノーランがぐるり、と周囲を見渡せば鷹獣人のルアンとラムスを合わせて10人程の冒険者達が居るだけである。確かにゾンビの姿は広場では確認出来ない。

 聞けば北門周辺のゾンビは巨大な門の向こう、外からやって来ているらしくだからこそ彼等は猛スピードでやって来た敵の接近に気付いたのだ。

 門自体は壊されたのか上半分が破壊されているが、ノーラン達が火龍を近付けない様に上手く立ち回ったお陰で何とかゾンビの侵入は防げているらしい。ゾンビがこちらに来れない様に大地をスキルで変化させ簡易的にバリケードにしているのも、現時点では最良の選択だと思える。

 そして、増援要請。

 確かに竜種を相手取るなら≪ドラグ・スレイブ≫(専門家)に頼むのが定石。リーダーのヤツカが水系の竜人であるのは髪色で分かる事だったから尚更である。



「回復魔法使えるヤツは?」


「向こうに4人。此方に2人。この2人は後方にいたので、まだ≪結界≫を壊されてはいない」



 ノーランは多少老成した装いの魔法使い2人が頷くのを見て、肩にくっ付いていたルシファーを引き剥がした。



「ならルアン、絶対こっちにゾンビが来ねえ様にお前は他の冒険者連れてゾンビの所に加勢してくれ。そんで悪いが、回復役の2人はここに残って俺のサポートに回ってくれ。……ヤツカのおっさんが来るまで、あの竜種は()()引き受ける」


『るるっ!? ルシファーもがんばる!』



 ノーランの決定にルシファーは納得いかない、と引き剥がされた肩にまたしがみ付いて抗議した。しかしノーランは拒絶の意味で首を振る。



「お前は、先に戻れ。俺の経験上、こういう時はロクな事が起こらない。お前は戻って、ディルムッド達と共にサーリーを守りに行け。……大事な(ねえちゃ)を、守るんだろ!」



 ノーランの強い言葉と視線に、ルシファーは少し、迷う様にふよふよと空中に浮かび……その大きな紫色の瞳を潤ませた。



『るるぅ……ノーランも…………すぐ、くる?』


「ははっ、甘ったれめ……ああ、すぐだ! …………ほら、早く行け!」



 苦笑したノーランに乱雑に涙を拭われたルシファーは小さく頷き、それでもるぅるぅと悲しげに鳴きながらもギルドのある方向へと飛び立った。

 がりがりと頭を掻きながら、ノーランはそんなルシファーを見送る。



「……悪いな、ルシファー」



 ルシファーの尻尾まで見えなくなった瞬間、ノーランの息は荒くなり、またその表情は苦悶に染まる。ノーランは、ルシファーの消えた方向に背を向けた。



「すぐには、行けねぇなぁ」


『……相談は、終わったか?』



 すると、今まで黙っていた竜種……焦熱龍が、露店だった残骸を周囲にばら撒きながら起き上がり、ノーランに視線を向けた。


 先程のノーラン達の攻撃に、何の不快感も、痛みも感じていないという様に。

 むしろ、自身以外の竜種が去った事に機嫌が良くなっているのが見て分かる。ノーランは懐から取り出した上級エーテルを1本、2本と続けて一気にあおり、瓶を投げ捨て敵を見上げた。



「待ってくれノーラン殿! 竜種相手に1人では無茶だ!」


「……ルアン殿。もうそれ以上は言うてやるな」


「しかし、テテ爺様!?」



 ルアンの言葉を遮った回復役の魔法使いの1人、テテ爺と呼ばれた見た目も年配風の白髪のエルフは、ノーランに視線を向けながら目礼する。



「苦痛を強いて悪いのぅ、お若いの」


「っ……ああ、分かる奴には分かるか。……俺の事は、気にしなくて良い。……はは、あれ以上くっ付かれると、ルシファーの≪結界≫が反応するところだ……っ」


「何を……っ!?」



 ルアンがノーランとの距離を詰めようと足を踏み出せば、竜種から発せられる熱気とは別の、魔力が込められた熱を感じ立ち止まる。


 ……熱源は、ルアンの数メートル前に居るノーランだった。



「……今は、俺に触るなよ。……折角の、マイの≪結界≫が壊れる、からなっ!」



 ノーランの言葉と共に、その身からゆらり、と薄青い炎が立ち上る。しかしノーランの装備品や頭髪が燃える事が無い為、敵からの攻撃ではなく……自身の発する魔力が高温の炎として目に見えている事が……それが竜人特有の魔力暴走に相当する事が……ノーランが、自らの意思で暴走させた事にさえテテ爺は気付いた。



「なっ……!?」


「……青い炎……炎龍(えんりゅう)の血が暴れるか」


『かっかっかっかっ!!!』


 テテ爺の呟きをかき消す様に、長い尾でガレキを掃除しながらノーランへと近付く焦熱龍の姿があった。



『おお、その青き炎のなんと心地良い事か! やはりお主は我の夫、ツガイと成るべき者じゃ!』


「はぁっ…………うぜぇ。俺はっ、お前の、ツガイじゃねぇ!!!」



 装備品は燃えずとも魔力の込められた竜種の炎は自身の体力を消耗するらしく、珍しく呼吸を荒く乱すノーランは……それでも射殺さんばかりに焦熱龍を睨め付けた。



『かかかっ、暴走してる身でまだ言うか……構わぬ。今からでも遅くは無い。お主を血に狂わせ理性を奪い、本能のまま、我と共に弱者を、ニンゲン共をっ弄ぶ喜びを教えてやるのも一興じゃ!!!』



 まさに邪悪としか言えない叫びをあげる焦熱龍に、ノーランは額から汗を垂らしながら鼻で笑う。右手に黒光りする短刀、左手に血が滴りそうな程に真っ赤な剣を装備し、その刀身を眼前の敵へと向ける。



「……はっ! そんな悪趣味な遊びするくらいなら、ダチの貯金使い切るまでタダ酒呑んだくれた方が楽しいなぁ!!!」



 その表情は獰猛にして、野蛮。



「何が本能だっ! そんなもんで、この俺が狂うだと? ()()()()()()()()()()だと? ……阿呆言ってんじゃねぇよっ!!!」



 その身を炎に炙られる苦痛など、物ともせず。



「貴様なんぞに売ってやる程、俺は安売りしてねぇんだよっ勿体ねぇ! ……ははっ、戯れ言ほざく腐れ龍は、1人寂しく土に還ってろっ!!!」



 只々、強敵との闘いを心底喜ぶ戦士の顔でノーランは歯を見せ破顔する。




「……かかって、来いやぁっ!!!」

『ぐるおおおおおおおおおっ!!!』




 こうして北門・元露店広場にて、火属性を持つ竜種が激突する事となる。


 サルーの町の防衛戦は、まだ始まったばかりである。





大まかな内容は変えず、アニキの台詞だけがコロコロ変わる難産なお話でした。

私はアニキに夢を見ているので、これからも楽しく悩みまくると思われます( ̄▽ ̄)




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