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5

 



「ご、ごめんなさい!!!」


「……」




 お腹を押さえながら真っ赤になったであろう顔をぶんぶん振りまくる私。



 そうやった。

 仕事帰りに買い物して、その帰りの事故やったから……まだ肉じゃが食べてない(涙)




 ぅうゔはっず!

 めっちゃはっずぅ!


 何でこのタイミングで空腹訴えるんかなぁ私のお腹!

 もうちょい我慢しいや!



「……」


「え?」



 羞恥に悶えていると、ディルムッドさんは無言で私の手を引いて歩き始めた。

 あ、凄い硬い手のひら。やっぱ異世界の人なんや……戦う人って感じするわぁ。



「ディルムッドさん?」


「……」



 進む先を背中越しに見れば、夜の森の中に少し、明るくなってる場所が見える。



「あ、そっか。もう夜ですもんね。野宿の準備してましたよね」


「……」



 ディルムッドさんは私に振り返りながら、小さな頷き一つで歩み。止める事なく進み続ける。

 ……もしかしなくても、随分と寡黙なのね。


 ……むう。素敵な声が、もったいない。



 アホな事考えながら付いていけば、ザ・野宿用の毛布やパチパチと燃える焚き火。


 ……あと、手鍋や木で出来た深皿が乱雑に放置されていた。



 ……これは、もしかしなくても?



「ディ、ディルムッドさん。お、お、お食事は?」


「……」



 私から手を離しながら、ディルムッドさんは無言で転がる食器類を拾う。と……?




 くるるるるぅ




 そこで響いたのは、私のお腹の音じゃ、ないよ?




「お食事の邪魔して申し訳ございません!」




 私はその場で、しっかりがっつり土下座した。






 そして。


 私の買っていたじゃがいも、糸こんにゃくが役立つことに。



 焚き火には携帯用のバーベキュー台みたいなのが設置されていて、金網の上に大・小の鍋を2つ置いて調理開始。



 神様が≪アイテムボックス≫に入れてくれたらしい市販の出汁の素を大鍋に入れて、一口大に切り揃えた玉ねぎ、にんじん、じゃがいもと、浸かるくらいの水入れて。

 その上におろし生姜を揉み込んた一口大の野鳥の肉(ディルムッドさん提供)も乗っけて蓋。



 関西出身の私は、肉じゃが=牛肉やけど。

 お安くボリューミーに出来る鳥じゃがも大好きなので問題無し(モーマンタイ)


 それに。

 空腹にさせてしまったお詫びに、調理を申し出た私に無言で獲物(新鮮な野鳥)を差し出してくれたディルムッドさんに報いたい。



 ……血抜きしてた野鳥、無表情で差し出された時はちょっぴり怖かったなぁ。首ぱっかーんやったから。


 ま、まあ解体してくれて助かった。私にはハードル高い。



 そんで、我が家の肉じゃがは炒めないで最初から炊いていくスタイル。

 炒めた方が煮崩れしないらしいけど……我が家は細かい事気にしない母だったので。うん。


 ……はっ、あかんあかんまだやる事あるねん。


 大鍋はアク出るまでちょっと放置して、今度は小鍋で糸こんにゃくの準備。

 これまた≪アイテムボックス≫に入ってた料理バサミで適当にバツバツっと切って、小鍋で沸かしてたお湯へ。

 そのまま入れると独特の臭みがあるから、ジャバジャバっと簡単に湯引き。


 大鍋のアク取ってから、湯引きした糸こんにゃく投入。


 ここでみりん、砂糖、香り付け程度に醤油をホントにちょろっとだけ入れて味見。うん、うまうま。そんでまた蓋。



 子供の頃キャンプで使った様な円柱型の飯盒をディルムッドさんがいくつか持ってたので、同時進行で白米も準備されてます。

 ご飯炊ける頃に鳥じゃが出来るかなぁ。




 そうして、現在。

 私の目の前には、寡黙で無表情なディルムッドさんがくつくつ炊かれる鍋を見つめながら機嫌良く尻尾を振ってる。



 猫やったら、ゆっくり大きく尻尾振る時って興味津々とか興奮してますって事だったような……?



 ……ど、どうしよう。この人可愛い。



 前髪もっさりやけど、甘い低音の声が超絶素敵で背も高くてゴリラまでいかない筋肉質な男前。

 それが、ディルムッドさん。




 そんな彼は、仕草が、可愛すぎる!




 鍋を見つめながら、まだなのかな〜と首をこてっとかしげながら待ってる姿が可愛すぎるし、ゆらゆらしてる尻尾の動きに私は目が離せない。


 無表情でも、怖くない。てか可愛い。

 私の心臓、きゅんきゅんしっぱなしやから!




 ……獣人さんって、皆こんな感じなんかな?


 ……私、この世界で生きていけるかなぁ。ディルムッドさんみたいな人ばっかやと、キュン死しそうやねんけど。



 アホな事考えてる間に白米が炊き上がり。

 ……うん。鳥じゃがの方も、じゃがいもが菜箸で半分に割れた。



「ディルムッドさん、この料理私の故郷の味付けなんで、ちょっと味見してみます?」



 ふーふーと軽くじゃがいもを冷ましてから、鍋の前から離れないディルムッドさんの口元に。



「……ぁふっ」



 一口サイズに割ったけど、それでも熱さは軽減出来なかったのか。

 ディルムッドさんは、はふはふ口を動かしてじゃがいもを食べてくれた。



 ……あれ?

 あっやっべつい甥っ子相手にするみたいに「はい、あーんv」をしちまった!

 え、でもまって何の警戒もせずに食べてくれただとう!!?


 恥ずかしさと感動に悶えた私は、視界の端で2倍に膨らむまっすぐピーンと立った尻尾に釘付けとなりました。


 お、おお尻尾が!?



「おいしい」


「ふあっ!?」



 うおおお素敵ボイスがっ、もっさり前髪の男前がキラキラしだしたぞ!!?



「……もっと、食べていい?」


「ど、ど、どうぞ召し上がれ!!?」



 顔が赤くなってるのを自覚しながらディルムッドさん持参の木の深皿に鳥じゃがを。

 私の≪アイテムボックス≫から取り出した木の茶碗に白米を山盛りよそって差し出すと、彼は勢いよく食べ始めた。



「……っ!」



 その食いつきは、中々凄まじい。

 鳥じゃが、白米、鳥じゃが、白米をエンドレス。


 いい食べっぷりや。


 うんうん。お腹減ってたんやなぁ。我が家の味付け気に入ってくれて良かった。

 あ、ディルムッドさんは左利きかぁ……それに、お箸の扱い上手。この世界にもお箸文化あるんやなぁ。



 私も自分用によそった鳥じゃがを頬張ると……ぁあ。じゃがいもうま〜。

 野鳥に揉み込んだ生姜も、肉の臭み消してくれただけじゃなくて後味にいいアクセントになってくれてる。

 お肉からの出汁で旨味倍増。うまうま。


 あっさりやけど甘じょっぱい味で、ご飯が進むなぁ。




 ……まあ私の脳内では色っぽすぎる「食べていい?」がリピート再生され続けてるけど。空腹だったのでお箸は勝手に進むんです。




「……ぁ」




 ふと気付けば、カラになった深皿を見つめるディルムッドさんがいる。

 気のせいか、どこか哀愁さえ感じさせるその横顔。

 ……やべぇ色っぽ……あ、ちゃうちゃう静まれ邪なる欲望!


 茶碗の白米も無くなってるし、きっとおかわりや。



「おかわりします? 多めに作ったから、いっぱい食べて下さいよ」



 なんせ野鳥はディルムッドさんのですからね。お肉提供者は優先されないと!


 そう言いながら、私が手を差し出せば。



「……ぅ、うん! おかわり!」

(にぱ〜)


「ぶふっ」


「?」



 素敵な声を持っている、寡黙で無表情やと思ってたディルムッドさんから満面の笑み「にぱ〜」を頂いてしまいました。


 ……オマケで、私の口から飲み込みかけてた糸こんにゃく出た(きちゃない!)





 ディルムッドさん。

 満面の笑み……破顔した時に出てくる猫っぽい八重歯、とってもかあいいですね。


 私、生きてて良かったと心底思いました。まる。






暇つぶしに、脳内でお好きな声優さんを虎さんに当てはめてやって下さい。



私は、勿論、諏◯部さんでお願いします(笑)



追記

サブタイトル5から少しずつ手直しを始めています。

内容はほぼ変わってません。少しでも読みやすくなっていたら、幸いです。

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