75:ギルド前広場1
前半マイ視点、後半第三者視点混ざります。
それでも宜しかったらどうぞ。
「ふむ。相変わらずの威力だな」
「あっはっはっはっ! ヒューリッヒのMPがなきゃあ出来ぬがなっ!」
数キロ離れた空に居たモンスターの群れを吹っ飛ばした感想が、これである。
「……リカルドのヤツ、あの武器でヒューリッヒのMP仲介させて、取得してる火属性最強の魔法ぶっ放しやがった!」
ノーランの言葉に成る程そんな事も出来るんや、と若干色々な事に麻痺しそうな思いしながらも、私とサーリーは目の前のゾンビを相手にドンパチを続ける。
リカルドさんの必殺の一撃を見ても、恐怖する様子は見られず真っ直ぐ私達に向かって来るゾンビ軍団。
……ヒトの形をしてるけど、目の前の存在は、ホンマにモンスターなんや。それも、感情も理性の無いゾンビ。
例え、冒険者の様な装備を纏っていても。
例え、元は愛らしかっただろう花柄のワンピースを纏っていても。
「ホンマに………………っ酷い事、するやないか≪名無しの軍団≫!!!」
私達に襲いかかるこのゾンビ達は、元は≪名無しの軍団≫に襲われ殺された冒険者と市民なんや。
≪名無しの軍団≫は……町を、ヒトを殺す毎にその規模を大きくさせた集団なんや!!!
「おいっ、気を付けろっ!」
「デカイの来るぞ!?」
双子の言葉に視線を巡らせれば、ギルド正面入り口から右手側、私達の居る反対側からやって来るゾンビ達の中に、頭3つ4つ飛び出した黒い存在がいくつも見える!
スキル≪鷹の目≫を発動させれば、体長5メートルはありそうな、真っ黒い西洋甲冑が金属音を響かせながら不自由そうに歩いて来るのが分かった。手に持つのは、歪な突起が多い斧らしき武器と、釘バッド思わせる巨大な棍棒。
……フルフェイスの兜から覗く目の部分が、不気味に紅く光ってる……中に入ってるの、ゾンビやない!
「ヒューリッヒ、ありゃ魔導人形だ!」
胸の中心にコアがあるぞ、とのリカルドさんの言葉に。
「分かっている。……カール、キール。覚悟は、良いな?」
「「おうよ!!!」」
「……ふ、骨は拾ってやる。……そういう訳だ。力を貸してやれ、『ブルーム』」
そうして、ヒューリッヒさんがおもむろに取り出したのは……両手に、試験管?
逆さまに傾けると、片方から白っぽい水が、もう片方からはネットリとした質感の真っ青な液体がたぷぷっと地面に垂れ混ざり合い……次の瞬間、無音で、爆発的に質量が増した。
……どれくらいか?
2人並んで立ってた双子が、一度に飲み込まれる位やで!!?
「「カールっ、キール!!?」」
「にゃう!!?」
私とサーリー、ディルが思わず走り寄る位には恐ろしい光景や!
まさか、まさか双子を生贄に何か強力な精霊とか召喚するんか!!?
「お前ら落ち着けっ、こいつはヒューリッヒのテイム・モンスターだっ!!!」
「「「へっ?」」」
リカルドさんの言葉に私達が足を止めれば、双子を取り込んだ青と白のぷるぷるがヒトの形になり、両手に剣と盾を持つ、青と白のマダラ模様が目立つ……それこそ、こちらに向かって来る魔導人形と色違いの、岩を思わせるゴツゴツとした鎧を纏った存在に変化した。
『『心配すんな、俺達大丈夫だぜーっ!』』
岩の鎧を纏うマダラ模様のぷるぷる魔導人形から、双子のご機嫌な声が聞こえて私達は安堵した。
『おらぁっ!』
『うらぁっ!』
双子を取り込んだ魔導人形は、その巨体に似合わず俊敏に足と腕を動かし、ゾンビを数体纏めて吹き飛ばしながら真っ黒い魔導人形へと突進していく!
頭のもげたゾンビが空を舞う光景。グロイ!!!
「わ、私達も援護するで!」
「止めろ。あの魔導人形に自爆されたら厄介だ」
「「「自爆!?」」」
何怖い事言ってんのヒューリッヒさん!!?
「人形遣いによくある手口だ。……自身の作品を破壊する事前提なのが、私には信じられんがな」
魔導人形は自動、又は遠隔操作出来るモノが多い為、中に爆薬仕込む爆弾人形が大昔の戦争ではポピュラーな戦法やったらしい。
「私のテイム・モンスターは『スライム・ゴーレム』の変異体。ステータスは高いのだが、生まれ付き自力で行動出来ないらしくてな。運動がてら他者に寄生しながら移動して、その代わりに宿主を守っている」
今の様に、と指差す先のゾンビ無双する双子を見て納得やけど……私達の心配は消えない。
「ブルームのステータスは防御に優れている。至近距離で爆発されても、ある程度ブルームの防御力で耐えられるだろう。ディルムッドの嫁が使用した≪結界≫もある。問題無い」
そう言いながら、ヒューリッヒさんは双子の入ってるのと同じデザインで青一色の魔導人形を3体追加しゾンビ軍団に特攻させながら、≪アイテムボックス≫から取り出した上級エーテルを……ぐいっと一気飲みしたっひい!?
「……ふぅ。私はリカルドの弾丸作りとブルームと魔導人形への魔力供給の為、滅多な事が無い限り動かぬし、直接的な攻撃には参加せぬ。……眼前の掃除は≪ニクジャガ≫に任せるぞ」
魔法攻撃力はあってもMPが極貧なのだ、と指差されたリカルドさんは苦笑しながらも拡声器っぽい道具使って双子に指示出してる。
どうやら、リカルドさんにはモンスターの弱点が見えてるみたいやな!
「「「了解!!!」」」
ウワバミ系酒豪のヒューリッヒさんに言われたので、私はまたゾンビに向けてマジック・ピストルを向け、ディル達も……。
「……っん?」
って、あれ。
「……なぁディル、ノーランとルシファーは?」
「にゃ? ……え、さっきまで一緒に……」
私が、見当たらない2人の行方をディルに聞いた時。
かしゃん、と。
脳内にガラスの割れる音と。
遠くで天に伸びる火柱が上がったのが、同時やった。
『『えっなにあれこっわ!!?』』
「北門の方角……ありゃ、誰の魔法だ!!?」
「……リカルド並みの火魔法の使い手など、早々居らんぞ」
リカルドさんとヒューリッヒさんの驚きの言葉にも、今の私には響かない。
慌てて自身のステータス、それも仲間内、パーティーの項目を確認したら……。
――――――
≪ニクジャガ≫
●ディルムッド
結界残り10
●マイ
結界残り10
●サーリー
結界残り10
○ルシファー
結界残り9
●ノーラン
結界残り9
――――――
「……っノーランとルシファーの≪結界≫が壊されてる!!?」
私達は10まるまるあるのに、ノーランとルシファーだけ9や!?
「まさか………………やっぱりっ、ルシファーあの火柱の所に居る!」
ルシファーと魔力的繋がりのあるサーリーは、泣きそうな顔で私とディルを見上げてくる。
なら、あれは味方の魔法じゃないって事で……!
ノーラン、ルシファー……無事やんな!?
――――――
同時刻。サルーの町、北門周辺。
マイ達の側を離れていたノーランとルシファーは、北門周辺にある商売人が使っていただろう露店の残骸を、勢い良く蹴飛ばしながら起き上がった。
「……けふっ、りゅるっ、る」
「おう。無事だなルシファー。……マイの≪結界≫あって助かったな」
「るるる!」
「……か、かたじけないノーラン殿」
そうノーラン達に礼を述べたのは、北門周辺を任されたAランク冒険者≪漆黒の翼≫リーダー、ルアンである。
リカルドが空に向けた魔法による閃光に紛れ、サルーの町周辺の草原と肉薄しながら低空飛行で近付く存在に気付いたルアン達は、町に侵入させない様に応戦していたのだか……。
健闘も虚しく、全く歯が立たなかった。
……マイの≪結界≫が無ければ、とっくに消し炭にされていた事だろう事実に、この頼りの綱も、既に数回破壊されている事実に。早々に彼等は絶望していた者まで居た。
そんな時に現れたのが、その特殊な存在の気配を察知したノーランとルシファーである。
「礼は不要だ。むしろ、俺がお前らに謝らなきゃならん。……どうやら俺が招いた客みたいだ」
そうして。
ノーラン達の眼前の存在は、ヒトと獣を混ぜた様な不可思議な声音で言葉を紡ぎ、裂けた口を大きく開け高らかに笑っていた。
『かかかかっ! そうじゃそうじゃっ! 我も逢いたかったぞ我が夫よ!!!』
「……り、りゅる!!?」
「いや俺に嫁取りした記憶はねぇよ!!!」
全長、およそ20メートル。
大蛇を思わせるその身を守るは、灼熱の炎纏う赤黒い鱗と魔力。
鱗と同じ赤黒い2本の角を額から生やし、ピジョンブラッドを思わせる紅玉の瞳は、只々、ノーラン1人に向けられている。
モンスターの頂点と言っても過言ではない種族、竜種。その攻撃特化として知られる飛龍・火龍がノーラン達の前に立ち塞がっていた。




