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「忘れ物は?」
「「な〜し!」」
「お弁当は?」
「「唐揚げ大量に確保済み!!!」」
「……りゅりゅる?」
「……はっ! も、勿論ルシファーのバナナマフィンもバッグに入れた!」
「そんじゃあ、皆でギルドに行くで!!!」
「「おお〜!!!」」
「りゅりゅ〜!!!」
「う〜ん。…………遠足か?」
いやいやノーラン、ちゃいますよ?
本日、雨も風も無い晴天。
緊急依頼、当日やんか!!!
早朝。
サルーの町、その中心にあるギルド前には老若男女問わず冒険者が集まっていた。
ギルド長であるリカルドさんに聞けば、今回の緊急依頼に参加するのは私達を入れて総数150人程と、思ったより少ない。
今回の緊急依頼はランクC以上じゃないと参加出来ない様になってるから、そのせいかな?
ギルド前の広場で集まった冒険者達は、リカルドさんの言葉に、叫びに、しっかりと耳を傾けていた。
「サルーの町に集まった、勇敢なる戦士達よ! お前達の父母、祖父母、先祖代々から続いて来たこの忌まわしき縁も、今日までの事! 永きに渡り我等を苦しめた≪名無しの軍団≫との決着を……今日だと思えっ! そして皆、勝ち残れっ! 生き残れっ! 死ぬ等、俺が赦さんっ! 貴様らの命、死体に1つだってくれてやるなっ! 殺す事しか能が無い死体になど、貴様らの命は勿体無いっ!!! 死なずに、勝つのだっ!!! 分かったかっ!!?」
『うおおおおっ!!!』
ヒトにエルフ、獣人、ドワーフ、ピクシーに竜人と多種多様な人々の雄叫びが、ギルド前の広場で空気を熱く、震わせる。
びりびりとした空気が、肌で分かる。
「……いよいよ、やな」
朝から普段通りを心掛けても、やっぱり緊張しちゃう。手がぷるぷる震えちゃう。カッコ悪い。
でも、そんな私の手を。
ディルは優しく握ってくれる。
……初めて出逢った時も、こんなふうに手を握ってくれたっけ?
「……大丈夫。マイなら、俺達なら。……大丈夫!」
「……うん!」
ディルの笑顔が可愛くて、素敵で、緊張も恐怖も薄れる。
ディルを中心に優しくて安心出来る、清らかな光で満ちてるみたいで……やっぱ、ディルは通り名と同じ、月みたいや。
1人で真っ暗な夜を歩いてても怖くない位、きらきら光るまん丸お月様。
私は1度大きく深呼吸してから、リカルドさんの立つ場所に向かった。
戦えない一般人やレベルの低い冒険者達は、夜の間に避難を終えてる。アニスさん達もシェルターの中。
後は。
一緒に戦う皆を、私が≪結界≫で守ってあげるだけやな……!!!
―――――
そんな、張り切っていた私を他所に。
張り詰めていた緊張の糸、切れちまったのは私のせいや無い、筈。
「えっと……状態異常無効付きでお願いしますよ〜……≪結界≫!」
2人、3人、4人組の各パーティー毎に≪結界≫使い続けて、およそ1時間。何でかまだ半分も終わってない。
それと言うのも……。
「なあ、俺達≪ニクジャガ≫と共闘したいんだ!」
「にゃ。無理!」
「ディルムッドは強いから良いじゃないかっ! ……ならせめて、回復役の彼女に一時的にこっち側に……っ」
「はぁ…………うぜぇ。終わったなら、さっさと失せろ。後ろ待ってるだろうが」
「「ひぃっ!?」」
うん。今回もディルの可愛い拒否と、ノーランのヤの付く職業顔負けなガン飛ばしのお陰で事無きを得ました。
私とサーリー、ルシファーはこの状況に飽きてしまい溜息が止まらない。
リカルドさんが私のスキル≪結界≫の説明をしてくれたまでは皆、驚いてたけどまぁまだ普通やった。
3組目のパーティーに≪結界≫施した時。
自身のステータス確認したらしい目の前の冒険者が、いきなり私の腕を掴んで来て「俺の所に来てくれ!」って言ってから可笑しくなったんや。はぁ。
あ、ちなみに。
私の腕を掴んじまったその冒険者は、旦那様の殺気混じりの威圧にそそくさと、半泣きで去って行かれました。
……うん、サーリーさんや。私のおてて、そんな怖い顔でごっしごっしとハンカチで拭かなくても大丈夫。多分汚れてないよ。
そんでルシファーは兎も角、虎耳の旦那様。お願いだから人前でべろんべろん腕と指を舐め回すのやめてノーランも半笑ってないで止めてー!?
10回一撃必殺……つまり死んでしまう様な攻撃を防いでくれるとはいっても、今回の相手は≪名無しの軍団≫や。皆怖いし死にたくないと思ってる。
そこに現れちゃった、私。
そりゃあ無茶して≪結界≫効果使い切っても、側に私居たら安心やね。オマケに回復魔法も使えるし。
そんな訳で、参加はしたけどちょいと自分達に自信の無いCランクパーティーの面々が共闘、もしくは私だけ一時的にパーティー加入してくれってしつこいのなんの……はぁ。
……何であんなにめんどくさいんやろ。かあいいディルとかあいいサーリー&ルシファーとアニキなノーランを見習えこの愚民共っ!
(マイは、疲れからやさぐれている)
―――――
冒険者ランク早見表
SSS レベル100
S レベル80
A レベル60
B レベル40
C レベル30
D レベル20
E レベル10
F レベル1
―――――
ちなみに、四捨五入してもレベル20台の私とサーリーが居るので実はディル率いる≪ニクジャガ≫はCランクパーティーである。ディル達高レベル冒険者混ざってるので、ランクはプラス1されてる。
ギルド規定では、一定ランクの依頼複数こなしてから昇格試験としてモンスター討伐や珍しい素材採取の依頼が用意されてる。
勿論これには特例もあって、例えば緊急依頼で活躍認められたりしたらレベル関係なく、飛び級みたいに上がる事もある。ディルも昔、闇の精霊グリードからの緊急依頼受けた事でレベル60台でもSランク冒険者になったらしいからなぁ。
ディルの冒険者としての教育方針は『自分のペースで学んだ方が絶対身になる』って考えだったので、冒険者ランクには拘らず、採取の技術や剥ぎ取れる素材待ちのモンスターの見分け方等冒険の初歩も初歩を、私とサーリーに合わせて教えてくれていた。
そんな訳で、ランク上げる為の依頼は後回し。本当はルシファー仲間になった後はランク上げする予定やったけど、色々あったし未だにCランクである。
……そんなディルは、一部の冒険者に『ツガイにうつつを抜かして腑抜けたSランク冒険者』とか『何で子供連れ……脳みそガキだからか』とか影でコソコソ笑われてたらしい。知らんかった。
あ。勿論、この噂話を聞いたアニキはそんなヤツらをタコ殴りにしてくれたらしい。良くやった!!!
話は戻って、現在。
めんどくさい彼等には後日、お仕置きを予定してる。これから熾烈な戦闘あるからね。勝ち残ると信じて、物理なお仕置きは控えておく。
そういう事で、私は今、納得してる。…………でも、捨て台詞に「調子乗んなクソ野郎っ!」ってディルに向かって言った奴……その顔、私、覚えたからなぁ?
(※マイはディルを騙してアイテム奪ってた子供達の顔もしっかり覚えてます。すれ違う度怖い顔で微笑み脅してます。この冒険者の顔も、一生忘れないでしょう)
リカルドさんだって何度も注意してくれたけど、水鏡通信で他所との連絡でギルドの中に入ったりすると再発する。
ぁあ……時間の無駄や。
「ぅう……なんか、どっと疲れた……」
「あ、マイ。そろそろMP切れだと思うよ? ……はいっ、エーテル飲んで!」
あ、成る程これがMP切れ……体は動くけど、気分的には長距離マラソン終えた後って感じやな。
精神的疲労って、中々馬鹿に出来ひんねんなぁ。
シャンパンとか入ってそうな、小洒落た250mlのボトルに入れられた上級エーテルをサーリーから受け取った私は先ずはくいっと一口。
うん。口と鼻に広がるのは柑橘系の香、り……っ!!?
「ぐふっ……づ、強っ!!?」
何これかっっら、あっっつい!!?
口内が熱持ちながら舌にびりっびりくるこの感じ……お、お酒かっ!!?
ジンとかテキーラとかウォッカとか、そっち方面のキッツイお酒か!!?
「ま、マイ大丈夫?」
「にゃう……俺も上級エーテル、苦手」
「そりゃお前は酒苦手だからなぁ。飲んだ方が吸収率良いんだが……あ〜、マイ。飲めないなら、頭からぶっかけても良いぞ」
「がげで、くだざいっ……」
そして、私に水をっ、水を下さい……っ!
本来ならMP1000回復出来る上級エーテル、頭からキラキラ……魔法現象的なエフェクト仕様で振り掛けられるとMP900回復してくれるねんて。それで充分です! こんなん飲んでたら、戦う前に私が戦闘不能なるわっ!!!
スキル≪結界≫は私のステータスにある使用MP半減のお陰でMP25しか使わないので、25×150人でMP3750が必要。そんで私のMaxMPは1290。
最終的に上級エーテル、3本振り掛けてもらった。
アイテムいっぱいくれてた幼女な神様、ホンマにありがとう。助かりました!
(※しかし、マイの反応が怖くて上級エーテルの値段を教えられない虎にゃんこファミリー。英断である)
なんやかや邪魔が入りながらも、朝10時には緊急依頼に参加する全員が持ち場に移動する事が出来た。
今回持ち場のリーダーに任命されてるAランクパーティー達は早々に移動してくれてる。
リカルドさん居ない時に勧誘してくる人達、ディル達と一緒に仲裁してくれてたし。
「…………ちっ。大口叩いて真っ先におっ死んだら、笑い話にしてやるからな」
「…………うん。分かってる! ありがとう、ヤツカのおじさん!」
「りゅるるる!」
「……けっ!」
がしゃがしゃ鎧鳴らしながら南門に向かうヤツカと、ディルの真似して両手でサムズアップしながら満面の笑みで見送るサーリーとルシファーの掛け合いがあったり。
「ディルムッド殿、貴方の嫁御に、誠の感謝を」
「これでちょっとした接近戦も怖くないよ。北門のモンスターは任せてくれ!」
「……にゃん!」
防御に不安のあったらしい≪漆黒の翼≫に、ディルが感謝されたり。
「あのさ……あたしが今回活躍したら、リカルドの旦那から報酬欲しいんだけど……良い?」
「ん? 何が欲しいんだ?」
「……旦那が生きてたら、絶対くれるモノさ。な、良いだろ?」
「はっはっはっ! 構わんが、あんまり高値で吹っかけてくれるなよ!」
ローテローゼさんとリカルドさんが、なんかフラグ起こしたり。
「ちゃんと、装備して来たか」
「「イエッサー!」」
「ふむ。……ここは、この町に住まう弱き者の砦。私はお前達に、敵を退ける開かぬ門となる事を要求する。……出来るな?」
「っ……ああ、出来るさ」
「ここには、俺達の家族だって居るんだ。……だから、ヒューリッヒの旦那。俺達を使い潰してでも、守れよな!」
「……ふ、善処しよう」
カールとキールが、ヒューリッヒさんに向かってカッコイイ事言いながら怖いフラグ起こしたり。
「マイちゃん、≪結界≫ありがとうね〜。後、うちの息子と娘がまた何かしたみたいで……ごめんなさいね〜? もぅ、きつ〜くきつ〜くお仕置きしといたから、暫くは大丈夫と思うのよ〜?」
「そんな、気にせんでも良いのに!」
「ウチの人も、竜種みたいな厳しい顔してるけど……マイさん達にはごめんなさいって、いつも思ってるのよ〜?」
「ふふ、ホンマに大丈夫ですよ」
あんなに怯えてる風やのにそれでも暫くしか保たんのや、と大人な私は気になっても突っ込まなかったり。
「…………やっぱ、心配で起きてるか。…………素直じゃないヤツ」
1人空を見上げ、何事かを呟くノーランが居たり。
時刻は、もうすぐ11時。
私達の長く、辛い戦いが、今にも始まろうとしてる。
これ以降、場面場面で視点が変わりながら話が進んでいきます。出来るだけ分かりやすくしようと頑張ってますがあんまり変わらない。すいません。
そしてこの緊急依頼話は、虎にゃんこのお話の次に私が書きたかった部分になります。きっと書きたかったんだろうな、という熱意だけでも伝わったら嬉しいです。お陰で中々進まないでストックほぼ無いですが(´;ω;`)
しかし、戦闘シーンはへっぽこだろうと思っていて下さるとありがたいです。なんせ私クオリティ。皆さんが、適度に受け流して下さる優しい方々だと、信じています!(切実)




