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「どゔざま……ぅえっ……ど、さま……」



 私は泣き続けるサーリーを抱き上げ、赤ちゃんをあやす様に背を撫で体を揺らしながらノーランを見つめた。



「……本当に、サーリーのお父さん、なん?」


「サーリー自身の話と、この手記の内容を考えると……可能性はある、と俺は判断した」



 だからサーリーにも包み隠さず教え、判断を任せたと言うノーランは……きっと、正しい。


 ……それでも。


 泣いてるサーリーが腕の中に居るという現状なので、ノーランをおもっくそ睨んでしまう私をどうか許してほしい。

 睨む私を苦笑して受け入れるノーランは、私の気持ちをきっと理解してくれてる。


 そんな、サーリーを抱き上げた私の隣に立ったディルは、泣き続ける娘の頭を優しく撫でながら声を掛けた。



「サーリー……確かめに、行く?」


「ぐすっ……ひっく……どご、に?」



 ディルはサーリーの溶けそうな程に潤んだ瞳を覗き込みながら、緊張をほぐす様に優しく笑った。



「……神様の、ところ」



 そうして、私の腕からディルの腕に移動したサーリーを連れて、私達は教会を訪れた。


 サーリーの様子がおかしいから、と心配するだろうシスターが外出していて居なかったのは助かった。

 オマケに、礼拝堂の見張りが以前因縁つけられたセルとレイドやったから私達が半分脅す様な視線を向けてやったら簡単に道を開けた。ちょろい。



 礼拝堂の中は、私とサーリー、ディルの3人で訪れたあの日と変わらない。



 陽の光でキラリと光るステンドグラス。礼拝堂の扉から真っ直ぐ進めば、祭壇と小さな魔法陣。



 ……子供が乗るのでやっとなサイズの魔法陣は、薄ぼんやりに白く光り、とても幻想的で……そこにはふよふよと浮かび上がる、半透明な幼女姿の神様が私達を待っていた。


 その表情が、どこか悲しげ……悲哀を感じさせるのは私の気のせいかな?



「……来たのだな」


「はい。……お久しぶりです、ツクヨミ様」


「うむ。……ワシに話があるなら、魔法陣の上においで」



 私の挨拶に小さく頷いたツクヨミ様は、新メンバーのノーランにも微笑みかけて私達を魔法陣へと促し、その姿を溶かす様に消した。

 きっと、初めて出逢ったあの真っ白い部屋で待っているんや。



「……すげぇな、あの存在感。流石は神様ってか。……で、どうすんだ。ある意味、敵陣に突っ込むみたいなモンだが?」


「……あの神様は、そんな事せえへんよ」


「……俺は、初対面なんでね。本の内容考えると、こればっかりはな」



 ノーランの心配も、勿論分かる私はそれ以上反論しなかった。


 本の内容によると、サーリーの父サタンは神様が激怒する様な罪を犯した。この内容は本に記されていなかったらしいけど、……サタンは、その贖罪として人々を救う為に心を壊しながら、何度も何度も転生を繰り返してる。


 ……その罪に、きっとサーリーは関わってる。


 何か知ってる筈の精霊達も、サーリーがどんなに問い掛けても、揃って口を閉ざして何も言わないそうや。

 サーリーを愛してやまないという闇の精霊も、首飾りの真似をしたまま微動だにしないらしい。



「ぐすっ……わた、し……教えて、ほしい」



 鼻をすすりながら顔を上げたサーリーに、ディルとノーランは頷いて魔法陣に足を踏み入れた。その後を、私も追う。



 そうして。

 気付けばそこは、真っ白い家具で揃えられた、懐かしい真っ白の部屋。


 部屋の真ん中に設置された白いソファに、ツクヨミ様は座っていた。

 ……悲哀感満載な表情のせいで、以前見た時より幼く見えるから不思議や。



「……お座り」



 体の大きな男性陣に合わせられ以前より大きくなったソファに私、ディルと抱えられたサーリー、ノーランとその肩にくっ付いていたルシファーの順に並んで座った。


 座った私達をゆっくりと眺めたツクヨミ様は、未だ涙に濡れたサーリーに視線を固定したかと思えば……何と、床に手をつき頭を下げた。いわゆる、土下座である。


 それを見た私達はギョッとして、サーリーは思わずディルの腕から飛び降りツクヨミ様の元へ。



「……ツクヨミ、様っ?」


「……ワシは、お主達父娘とその友に、苦痛と責め苦を与えてしまった。そして、その事を告げる事なく謀り、側に居たワシに……本来なら、お主に向ける顔は無いのだよ。サーリー」



 頭を上げないまま言い切ったツクヨミ様の小さな肩を……同じ小さな手で縋る様に掴み揺するサーリーは、泣いていた。


 何故なら、ツクヨミ様のこの言葉で。

 本に書いてある事が事実である事が、確定してしまったから。



「っ……だった、ら……教えてよ! どうして父様っ死んだの!? ツクヨミ様が怒ったっていう、その罪って何!? 今もっ……今も、……泣き、ながら……父様……生き、て……?」



 今も、心狂わせながら。

 罪を償う為だけに生きている事が、事実なのだと。



「……サタンに償いを要求したのは、ワシではなく姉神なのじゃ」



 床に正座したまま頭を上げたツクヨミ様は、サーリーの涙を自身のヒラヒラした白い衣で簡単に拭った。



「ツクヨミ様の、姉……天照大神(あまてらすおおみかみ)か……!」


「アマ、テラス……?」



 聞き覚えが無かったらしいディルは、私を見詰めながら首を傾げてる。



「ぅ、うん。ツクヨミ様は私の生まれ育った国では月の神様やねんけど、お姉さんに太陽の神様であるアマテラスがおって…………あ?」



 そう言えば、ツクヨミ様。

 この異世界≪リヴァイヴァル≫をアマテラスに与えられたって……言ってたよな?

 私の思考を見ていただろうツクヨミ様が、小さく頷きながらサーリーから私に視線を向けた。



「そう。姉神であるアマテラスは、ワシの為だけにこの異世界を創った。……ワシを、以前と同じ状態に戻す為に」



 話を聞けばツクヨミ様、実はもっと大人な姿をしていたらしい。しかし心が弱ってしまったと同時に体は縮み始め、この世界を与えられた時は15、16歳くらいになってたんやって。

 これ以上幼い姿になったら消えてしまうかも、と皆が心配したからこそ、この世界は造られたらしい。



 ……でも、それなら。

 今の、ツクヨミ様の姿は……?



「……それなら、あんたなんでガキの姿なんだよ」


「……まあ、色々とな」



 大人の姿か、現状維持の姿のどちらでもない今の幼い姿は……異様と言える。もしかしたら、サタンだけやなくて、ツクヨミ様にも何かペナルティがあるんじゃ……?

 ノーランの当然の疑問と私の心の中の言葉に、ツクヨミ様は何も返してくれなかった。



「な、なら……ツクヨミ、様……父さま……ぐすっ、どうしたら、アマテラス様に……許して、もらえるの?」


「………………すまぬ。今は、言えぬ」



 ツクヨミ様の、悲しげな拒否に。



「ぐすっ……ツクヨミ、しゃま……」



 サーリーは、愛らしい顔を鼻水と涙で凄い事にしながら同じ背丈のツクヨミ様にしがみ付いた。

 そして、およそ1分。えうえう泣き続けるサーリーの顔を肩越しに見てしまったツクヨミ様は……。



「………………し、しかしな? 今回の緊急依頼に参加し……結果を残せる程の実力を見せてくれたならば、ワシもその……安心して、色々と込み入った話が出来るというか…………ちなみに保護者同伴、共同作業可能じゃ」


「……っ!!!」



 ぐりんっと勢い良く私達に顔を向けたサーリーに、私とディルは「勿論参加!」と両手でサムズアップした。サルーの町ほっとくなんて出来ひんし、一石二鳥や!

 ルシファーもるぅるぅ鳴きながら私達の頭上を旋回してヤル気をアピールしてる。



「…………………………なぁ、神様」


「……う、うむ。なんじゃノーラン」


「……俺が緊急依頼で結果残したら、俺に()()をくれ」



 ノーランのこの言葉にツクヨミ様は……ちょっとだけ寂しそうな、微笑んでる様な顔で見上げた。



「……うむ。お主が結果を出したなら、()()を望むなら……お主に答えを与えると確約しよう」



 ツクヨミ様の了解の返事を貰えたノーランは、小さくガッツポーズして喜びを表現してた。……うん。きっと、精霊であるディルのきょうだいに関する事やな。同化する体をどうするかって質問か!


 私がノーランに声を掛けようとすれば、ガッツポーズをやめた彼はツクヨミ様の顔をじ〜っと見つめてた。顎に指先添えて、まさに思案顔。

 ツクヨミ様も居心地悪くなったのか、視線を右往左往して気まずそうや。


 ちなみにツクヨミ様にくっ付いてたサーリーは、ディルにありがとう言いながら足にへばり付いてるよ。そのサーリーの足に、床に降りたルシファーがグリグリ頭擦り付けてる。ああ、ちみっこ可愛い。



「……な、なんじゃ。ワシのプリチーな顔にサーリーの鼻水でも付いとるのか?」


「……いや……、何でかな。あんたの顔、見た事ある様な気が…………」


「っ…………そうか。お主は聡いからの、サルーの町中を彷徨くワシを見た事あるのかもしれんの」



 それでも首を傾げるノーランに、何故か嬉しそうに微笑むツクヨミ様は私達にそろそろ帰る時間だと言って教会にさっさと戻してしまった。


 緊急依頼が発令されたらまた顔を出してほしい、と言う言葉と共に。



「……うむうむ、ノーランは聡いの……」



 愛じゃな、愛。

 そう言ってうっひっひっ、と楽しげに笑うツクヨミ様を知る事になるのは……まだ先である。




 ―――――




 私が昨日の事を思い出しながら扉を開けば、慌ただしい外とは違って礼拝堂の中は静寂に包まれていた。


 真っ直ぐ魔法陣に向かえば、やって来たのはツクヨミ様の居る真っ白な部屋。

 ツクヨミ様はソファに座り、私達を待っていた。



「来たな。それではこの書類を読み終わった後にサインするのじゃ」



 ソファに並んで座った私達は、差し出されたB5サイズの書類に目を通す。

 ギルドの方でも書いた、魔法契約書やな。



 ―――――


 聖樹暦1017年 陽期(ようき) 1の月 2日

 創造神ツクヨミの名の下、以下の条件を満たす場合に願い叶える事を確約する


 ●緊急依頼≪名無しの軍団(ノーネーム)≫の撃退に参加する事

 ●≪名無しの軍団(ノーネーム)≫のモンスターをパーティー≪ニクジャガ≫で1000体以上倒す事

 ●≪名無しの軍団(ノーネーム)≫の団長、ナナシの撃退(生死問わず)

 ●最後まで生き延びる事を諦めない事



 上記に同意する場合、署名と血判をもって契約完了とする



 ―――――



 あ、ちなみにこの世界にも西暦みたいなのあってんで! 知ったの最近やけどな!

 寒い寒期(かんき)は終わり、今は春と秋みたいな気候の陽期。1ヶ月を30日として4ヶ月続く。……1の月っていうのは、最初の月って意味かな?

 私達がそれぞれ見終わり顔を上げると、目尻に涙を溜めたツクヨミ様がこっちを見ていた。



「特に、最後の条件を満たさぬ場合……ワシ、泣くからな!」


「っ…………ツクヨミ、様……」



 そんなん言われたら、私が泣きそうやん!



「ぐすっ……私、頑張る!」


「くすん……にゃん!」


「りゅる!」


「……」



 半泣きな娘と虎にゃんこをあえてスルーした私達は、しっかり書類を確認してから名前を書き、指先を傷付けて血判も押した。



「……そうや、忘れてた…………あったあった。ツクヨミ様!」



 私は≪アイテムボックス≫から蓋つきのコップを取り出しツクヨミ様の小さな手に握らせた。ツクヨミ様から提供された道具や氷で作った、関西名物ミックスなじゅーちゅや!



「約束してたじゅーちゅ、これでも飲んで待ってて!」


「マイ、覚えて…………ぅ、うむ。待っておるよ」



 ツクヨミ様は、大事そうにコップを両手で握りしめながら笑ってくれた。



 さあ、準備は整った。決戦は、明日の正午。

 首を洗って待ってろや、≪名無しの軍団(ノーネーム)≫!!!



 

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