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『ディルムッド……昨日のアレは……お前、まさかノーランの事を?』
『にゃ? なに言っ…………忘れろ……っ!!!』
そうして数十秒間、至近距離で見つめ合ったディル……正しくは、名前を忘れてしまったディルの片割れと、ユーリ王子。
ディルが言うには、これがスキャンダルの発端となる出来事であり、この時ディルの片割れはスキル≪記憶操作≫を使用していたらしい。
この出来事の前日、久し振りの休みに遊びに来てくれたノーランと軍の鍛錬場を壊しながら鍛錬した後に満足したディルはお昼寝。
眠っている間の事は、分からないらしいけど……よそから見たら、おそらくディルの姿をした双子の片割れは、恋する乙女な顔や仕草をしていたんとちゃうかな。
そんで、この現場を偶々ユーリ王子に見られて、確認されて驚きながらもディルの片割れは即座に記憶を消去。
オマケにユーリ王子の発言で自身の恋を自覚して、片割れは暴走。自滅……自殺の準備を始めたって所なんやろう。
……しかし、ノーラン本人が気付いてない。なんでや。
てか現在進行形でユーリ王子殺したい程嫉妬してんのに、マジかぁ……鈍い。鈍過ぎて危ない。
……初めて会った時、ディルが月でノーランを太陽に例えた私って、なかなかセンスあったんやなぁ。
大地に立ってる分には、太陽の日差しは暖かくて丁度良い。
でも太陽が大地に近寄って来たら、大地に存在する全てはその強い火力に耐えられなくて……全部燃えてしまって、何も残らない。
ノーランの、ディルの双子の片割れに対する気持ち、……愛情はちょっと……いや、かなり……ものごっつ強い。
……自然と自覚させるべきか、教えるべきか。ディルの状況がややこいだけに、難しいところである。
「…………なんだよ、俺達が邪魔だって言うのか!!?」
1人思考に耽っていたら、話が色々と進んでいたらしく今度はショータがご立腹となった。
サーリーにこそっと聞けば、何でもショータ達はサルーの町を目指す旅の途中に≪デカラビア≫の政を行なっている6種族の1つである馬獣人……ファンタジーに出てくるケンタウロスやな。その長と偶然出会ったらしく、話の流れで年に1度ある族長の集まりにも参加したらしい。
……まぁ行ってみたら会議という名の飲み会になっていてショータ達は早々に旅立ったらしいけど。
前回≪ユートピア≫で起こったイレギュラーの事もあるから今回の事を伝えた方が良い、とユーリ王子自らが伝令役を志願したんやって。
ちなみに飲み会参加者の1人は季節が陽期になっても飲み続ける、と言ってたらしいよ。
確かに手紙ではいつ届くか分からないし、族長の集まる場所は世界樹のある聖域近くの秘密の場所。漂う魔力が濃過ぎて、ギルドや教会にある鏡通信も使えないから置いてないんやって。
それに教えられてもいない、面識の無い私やディルが行く訳にもいかなんやろうし……。
しかし、ここで難色を示したのがショータである。
「俺だって、今まで鍛錬して来たっ! 『勇者』の俺が戦わないでどうすんだよ!?」
「……ショータ……でも、私達……」
「モエまで、弱気になり過ぎだ! ……お前、帰りたいって言ってただろうが!」
ここで戦わなかったら原因の情報が入らない、と言い募るショータは必死だった。
……成る程。ショータの言い分は、ごもっとも。
今回の緊急依頼は世界の異変、その原因と繋がってる事は確かやもんな。
……それならここは、年長者の私が請け負うのが筋かな。
「それなら、私達がちゃんと調べて」
「お前みたいな女っ信用出来るか!!!」
私の発言に、ショータは鬼の形相で叫び睨みつけて来た。
えっ久し振りに目線があったと思ったら何でマジ切れ?
その怒気の意味が分からず少しビビってしまった私を、ノーランの側から私の隣に戻って来たディルが庇うように前に出た。その姿を見て、ショータはディルの背後に居る私を見ながら鼻で笑った。
誰が見ても、嘲笑と呼べる表情で。
「……は、2ヶ月かそこらで自分を養ってくれる男捕まえるなんて……見た目と違ってやり手だよな、あんた!」
「ショータ!!?」
あ。
目の前の背中が、やばい。
「モエだってそう思うだろ……あの貧相な体で、よく誘えたも」
「≪結界≫!!!」
私のスキル発動と、私の脳内と周囲に響く小さなガラスの砕ける音は同時で。
……これが、≪結界≫の破壊される音なのだと。私は今日この時、初めて知った。
「……、…………」
「お、セーフだな」
いつのまにか落ち着いていたらしいノーランも、私の隣に立っていた。仲裁しようと側に来てくれたらしい。ありがたい。
当事者のショータは、尻餅付いて動かない。……動けない。
ショータの目の前、その眉間数ミリ前に、黒い穂先が向けられているから。
……ショータに施した私の≪結界≫は、1回破壊されてる。
スキルポイントMaxにしている私の≪結界≫は……一撃必殺の攻撃を、10回防いでくれる。それが、1回……破壊されてる。
「……」
「…………、ディル」
近寄って仰ぎ見たディルは、無表情やった。
喜怒哀楽、全ての感情を削ぎ落としている様に見えるのに……もっさりとした前髪の隙間から覗く、ぎらりの光る金色の瞳だけが怒りと憎悪に燃えている。
ディルには、躊躇が無かった。
誰がどう見ても、確実に殺すつもりだった。その為に、頭部を狙った?
……私が、回復出来ない様に即死を狙って?
「……ディル。怒ってくれて、ありがとう。……でも私、正直ショータには何言われても鼻で笑い返せる自信あるから。だから、武器で仕返しするのは、禁止! ……ね?」
「…………、…………、………………、にゃぅ」
私がわざと明るく、ディルの背中に抱き着きながらそう言えば……小さな鳴き声の後、黒槍は消えた。
「…………ユーリ、王子」
「……ああ。族長達の事は、任せておけ。……獣人にとって、ツガイが唯一無二の存在だと説明しきれなかった私の責任だ。……ショータを、許せとは言わないが……」
「……にゃ、出来たらショータ……早く、連れてって」
視線を逸らして我慢するそぶりを見せるディルに、ユーリ王子は少し淋しげに、笑った。
「……言い忘れていたが。結婚おめでとう、ディルムッド。誰よりも優しかったお前に……譲れぬものが出来た事、私は嬉しく思うよ」
王族なのに小さく頭を下げてくれたユーリ王子に私は慌てたけど……私とディル、むっつり顔のサーリーとルシファーに視線を向け、天使を思わせる神々しい微笑みをその顔に浮かべた。
そしておもむろにユーリ王子は自身の首元をいじり、私の隣に走り寄って来ていたサーリーの前に屈んだ。
「本来なら、私の年齢で女性にアクセサリーを送るのは特別な意味を持つらしいが……謝罪を込めてなら、問題無かろう」
サーリーに差し出したのは、アンティーク感漂うシンプルな銀細工の首飾りやった。
銀で出来た細い紐部分はよく見れば細かい細工がされていて、ペンダントトップは銀で出来た三日月型で、月の欠けた部分にまん丸い猫目石があしらわれてる。
「ダークエルフは防御に不安のある種と聞く。この首飾りには、古い守りの魔法が宿ってる。……役立ててくれ」
そうして、サーリーの手のひらに半ば強引に首飾りを握らせ、返事を聞く事無く歩き出したユーリ王子に反応したアルフレッドさんが動けないショータを肩に担いで後に続く。
どうやらこのまま、族長達の元に行くみたい。
「ごめんなさい、マイさん……ショータ、子供の頃から、大人の女の人が、苦手でっ…………私、知ってた、のに……ごめ、なさ……」
「……さっきも言ったけど、私は、ショータに何言われても言い返せるし、ムカついたら自分でやり返すから。……モエちゃんもほら、泣かんといて?」
そうしてモエちゃんはごめんなさいを繰り返し、ユーリ王子が先に進もうと促すまで頭を下げ続け……私達は後味悪く、この場を解散した。
サルーの町に帰る道すがら。
ディル程では無いけど、それでもショータに対する好感度が底辺になったサーリーとルシファーをなだめながら歩くノーランの後ろを、私とディルは無言で歩く。
獣人であるディルにとって、お嫁さん……ツガイの私は、唯一無二の存在。
傷付けられたら理性を失い、例え相手が年端のない子供であっても殺せる程、大切な存在。
「なあ、ディル?」
「俺、同じ事するから」
私の言葉を聞きたくない、と遮る様に口にしたディルの言葉に……その表情に、私は目が離せなくなった。
「マイは優しいから、きっと許す。……でも俺は、ショータが同じ事言ったら……俺は今日と、同じ事するから。……絶対、するから!」
「……うん。……私を思って、怒ってくれたんやね。……ありがとう、ディル」
ふふ。何でかな。
ディルのしかめっ面を見てると、自分の非を認めない、悪くないって突っぱねる男の子にしか見えない。難しい年頃の中学生っぽい。
「む……マイ。今、俺の事可愛いって思ってない?」
「ふふ。思ってない、思ってない」
「にゃう……あやしい」
「ぐふっ……お、思ってない、思ってない」
「思ってな〜い!」
「るるっるぅ〜!」
「むぅ……サーリー達まで…………にゃうぅ」
「……可愛い呼ばわり嫌なら、取り敢えず猫語止めたらいいんじゃね?」
そうして私達は、なんとも緩い会話をしながらサルーの町へと向かった。
さて。
色々イベントが挟まって予定は狂ったけど、軌道修正。
今度こそ、ギルド長に面会しないと!
このままだと忘れ去りそうなので、ショータ達のステータスと装備をご紹介。
サラッと見て頂いたら嬉しいです。
●ショータ
●レベル:20
●MaxHP:1500
●MaxMP:450
●力51(+10)
●魔11
●守36
●護16
●早26
●運10
使用MP半減
状態異常付加率1.5倍
装備
鬼切丸
紅鉱石の胸当て
グリフォンの羽根兜
暗殺者の黒靴
紅鉱石の籠手
トゲトゲブレスレット(ぴぃちゃんの抜けた棘を使用)
――――――――
●モエ
●レベル:20
●MaxHP:300
●MaxMP:1500
●力11
●魔61(+10)
●守21
●護36
●早11
●運10
使用MP半減
テイム・モンスター上限6体まで
装備
賢者の杖
黒魔女のローブ
黒魔女のとんがり帽子
黒魔女のブーツ
黒魔女の手袋
トゲトゲブレスレット(ぴぃちゃんの抜けた棘を使用)
――――――――
●ユーリ王子
●レベル:55
●MaxHP:1200
●MaxMP:1200
●力75
●魔75
●守45
●護45
●早55
●運45
天啓
精霊の瞳
装備
カラドボルグ(剣/聖)
祝福の甲冑
聖騎士のグリーブ
聖騎士の籠手
古の首飾り(聖)→サーリーに譲渡
――――――――
●アルフレッド
●レベル:60
●MaxHP:1800
●MaxMP:600
●力71
●魔35
●守79
●護60
●早65
●運10
装備
アラドヴァル(槍/火)
ダーク・ドラゴンメイル
ダーク・ドラゴングリーブ
闇鉱石の籠手
火精霊の耳飾り(片耳用)
身代わりの十字架(闇)
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スキルも乗っけるとエライことになるので、また機会があった時に。…装備の名前考えるの、楽しかったけど全部が本編で活躍するかはまだ分からない。
何せ主役は虎にゃんこファミリー。でも設定考えとくのは自由ですよね!
モエちゃんは銘柄を揃える派。
ショータは伸ばしたい能力であつらえる派。
ユーリ王子は母親が教会出身だったのもあり軍人ではなく騎士装備。
アルフレッドは武器とアクセサリー以外は軍で支給されてる装備。
 




