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 ユーリ王子の向かう先に、ショータ達は心当たりがあると言う。



 サルーの町、北門から出て少し進んだ先の草原。

 サルーの町周辺はダンジョンとして存在する森や洞窟、山を除けば草原に囲まれている。そして北門から出ると、レベルの低いダンジョンが近くにある為周辺のモンスターも弱い。

 弱いモンスターは野生の感が働いて、レベル差のあるユーリ王子達には近寄らないらしい。

 成る程。邪魔者が寄って来ない、と。



 北門を出て数分。

 街道を外れて進んだ先に辿り着いたのは原っぱ。道の先から冒険者がこんにちわ、なんてのも無い筈。



 取り敢えずどうやって止めるべきか相談する為にディルに視線を向けた、私とサーリーやねんけど……。




「……っ!」



 尻尾ご機嫌に振って、さながらアイドルのコンサート開始を今か今かと待ちわびてるファンのヒト。その名は、ディル。


 うん。ちょっと待たんかい!




「いや、止めようや!」


「にゃっ!?」



 何で、そんな勿体ない! という態度で鳴くディルに……私とサーリーは呆れ、ショータとモエちゃんも必死に止めようよ、と言いたげにカクカク頷いてた。


 ……男の子って、ちょっとした喧嘩も武勇伝にするもんね?

 でもこんな時に少年魂呼び出さないで。

 そしてしゃーなし私が止めようと前に出ようとすると、ディルが嫌々しながらくっ付いてきて邪魔してくる。顔をぺろぺろちゅっちゅしてくる。こんな時に色仕掛けか……こうかはばつぐんだ!


 モエちゃん達の視線を感じる……どうしようそっち見るの怖い。めっちゃ恥ずい!




「マイが居るからいいけど……ディルは、ノーランと王子様痛い思いしても良いの?」


「ノーランが、酷い怪我させる訳ない」



 サーリーの疑問に、ディルは即答した。

 これに、羞恥を我慢して視線を向けた先に居たショータはむむっと眉間に皺を寄せた。



「っんだそれ……あんたは、戦う前からユーリ王子が負けるって言いたいのか」


「そう」



 見てたら分かるの、と。ディルは言い切った。



 その言葉に私が前を向くと、視線の先では引き止める言葉が尽きてこちらに向かってくるアルフレッドさんと、剣を抜き構えるユーリ王子とノーランの姿があった。




 ユーリ王子は金色の髪と白い甲冑、白銀に輝く剣も相まって御伽噺の王子様そのもの。


 対するノーランは、邪魔だったらしく古ぼけた茶色い外装を取り外し丸めて……おもむろに、ディルに向かって投げた。


 ビュッと風を切る音と、バチンとディルの手のひらに丸められた外装がぶち当たるのは同時でした。

 ちなみに私はディルの左腕に捕獲されていて、右腕で受け取ってたよ。



 ……でもさぁ? 不思議に思わん?

 ……布製品って、丸めたくらいであんな勢いで投げれる? 途中でばさっと広がって落ちるんじゃ……?


 じゃらん、と金属的な音がディルの手のひらから聞こえて私とサーリーはノーランの外装に釘付けになった。




『偽装の鉄マント』

 人相、気配、存在を他人に悟られにくくなるマント。スキル≪隠密≫との相性抜群。装備されていれば、他人からは例え触れられても古ぼけた革マントにしか思えない。しかし実際は恐ろしく重く、重量200キロ。レベル・ステータス共に高くなければ装備出来ない。



 ……あわわわ≪鑑定≫したらなんかえらい事書かれてるぅ!

 てかあっぶな! 200キロの鉄の塊を豪速球にすんなや!



「俺の≪心眼(スキル)≫で分かるから、マイは余計な事すんなよー。あとちょっと邪魔だからソレ預かっといてくれ」


「にゃ!」



 もうすぐ陽期(ようき)……春の気候は目と鼻の先ではあるけど、まだ肌寒い今日、黒の半袖シャツの上に黒金(くろがね)と紅が映えるスケイルアーマーを着たノーランの頼みに、ディルは大きく頷いた。


 ……うわぁ。ディルが可愛く笑ってるぅ。てかあの勢いの鉄の塊、片手で受け止めてるぅ。私のこっそりスキル使用の目論見もバレてるぅ……マジか。


 私達(私、サーリー、ショータ、モエちゃん)はその肉体言語(こうけい)にドン引きした。




「……それで、どうします? ユーリディア王子ともあろうお方が、どちらか死ぬまでなんて……言わんでしょう?」



 私達の騒ぎに頓着する事なく。

 ノーランの質問にも険しい表情から変わらないユーリ王子は、チラリとこちらを……ディルを見た。



「昔と、一緒だ………………ディルムッドが、止めに入るまで、だ!」



 そう言って、剣を持ってノーランに突進したユーリ王子の一撃を。



「そうですか」



 がきん、と。

 左手に装備された、刀身が真っ赤に染まった剣で。ノーランは受け止めた。




 剣が空を切る音と、金属がぶつかり合う音が幾度も幾度も鳴り響く。




 ユーリ王子の太刀筋は素早く、鋭い。ちゃんとした師匠が居たのか、私にも綺麗だと分かる太刀筋や。≪結界≫の無い状態の私なら、避ける事も受け止める事も無理そうや。


 でも、ノーランは……そんなユーリ王子の攻撃を受け止め、逸らし、躱してる。無駄な動作なんて無い。最小限の動きで全て行ってる。


 激しく剣と剣のぶつかり合う金属音は鳴り響くけど、戦況はとても静かなものと言える。



 だって、これは……大人と子供の、チャンバラや。

 ……確かに、私の≪結界≫必要無さそうや。ノーランが上手く立ち回ってる!



「……ノーランっ、貴様、ふざけているのか!?」


「何が、ですかね?」



 ノーランの言葉に数メートル分距離を取ったユーリ王子は、神々しかったその顔を憤怒に染め上げ、激昂していた。



 ユーリ王子の怒りの理由は、分かる。



 ノーランは最初に抜いた赤い刀身の剣を腰にしまい、今は黒光りするナイフ……短剣を右手に装備していた。双剣使いとディルは言っていたけど……ノーランは今、短剣1本、右手1本のみでユーリ王子を相手取っていた。



「どうして……それ程の実力がありながらっ……お前は国を、……否っアメリアの側を離れた!!?」



 離していた距離を一気に詰めたユーリ王子は、そう叫びながら剣を振り下ろす。



「それだけの能力(ちから)を持っていたならっ、お前ならっもっと上手く、立ち回れた筈だ!」


 ガギン。


「私だって、今はもう分かってる! 何らかの理由でっ、ディルムッドと一芝居打ったのだろうと! 城から離れなければならない、理由があったのだとっ!」


 ガギンッ。


「ディルムッドを義弟(おとうと)と思っていてもっ、私は王族だ! ……相談出来なかったのも、分かるつもりだ!」


 ガギンッ。


「それでも……だからこそ! お前はっ、私達を説得すべきだったんじゃないのか!?」


「……説得して、どうするんです? ……ユーリディア王子は国を捨てて、ディルムッドを取るんですか?」



 ガギギッ。



「……っ国を捨てずとも、ディルムッドを救える手立てを探すっ! 王族の特権を使ってでも!」


「ふ…………相変わらず、ユーリディア王子は、ディルムッドの事になるとポンコツだな」


「何っ!?」


「……ぁあ……、…………、」




 私達が、数度目に響く剣戟を聞いたこの時。

 ノーランが口元を歪め、何かをぼそっと呟いたその時。

 ぞわ、と。私の背中に怖気が走り。

 同時に、私の隣で風が巻き上がった。





「はい。ノーランの、勝ち。…………ノーラン、めっ!」


「、…………あー、うん。悪かったよ」



 最後のは危ない、と言いながらディルは自身の愛用する黒槍を戦っていた2人の間に突き刺し、ノーランに可愛く威嚇……注意した。



 ……そう、しなかったら。



 ノーランの左手にいつのまにか握られていた、あの真っ赤な刀身の剣が……ユーリ王子の首から滴る血で色濃く染まってた。ディルの黒槍がノーランの攻撃を受け止めなかったら、確実に。



 ばつが悪そうに頭をかくノーランの姿に、蒼褪めたアルフレッドさんがユーリ王子の前から離れる。


 ……あの一瞬で、アルフレッドさんはユーリ王子の盾になってたんか。凄い。



「……ユーリディア王子。頼むから、もう俺に突っかかるのは止めて下さい。……次は、多分、殺しちまう」


「「「「!?」」」」



 短剣を腰に括り付けている鞘に納めながら口にしたノーランに、ユーリ王子達だけでなく、ショータ達も息を飲んでいた。

 何故ならノーランの顔に冗談の色が、全く無かったから。その明るいペリドットの瞳は、どこまでも本気だったから。



 顔を上げたノーランは、真っ直ぐ、ユーリ王子を見詰めている。



「俺はこれまで、俺の大事だと思う奴等を守る為に強くなって、剣を振るって来た。……でも今の俺は、ユーリディア王子の知ってる俺じゃない。俺は俺の為に、俺の欲の為にしか剣を振るわない。……振るえない」


「……欲、だと?」



 おそらくは乾いた喉で、乾いた声を出すユーリ王子は……ノーランに怯えていた。

 まるで肉食獣を目の前にした、捕食される獲物の様に。



 そうして夕焼け色に染まった空に視線をやりながら……ノーランは甘やかな優しい顔で、笑った。



「なぁに、簡単な話だ。……俺には今、どうしても欲しいモノがあるんだ。ユーリディア王子は、俺の欲しいモノに()()()()()だから、出来たら傷付けたくも無いし殺したくもない。そう、思ってるのに……俺の感情だけで行動すると、やばいんだ」




 そのペリドットの瞳だけを、鈍く濁らせながら。

 ノーランは、笑ってる。




「…………俺は今も……何でかすっげぇ、あんたを殺したいんだ」




 そしてユーリ王子とアルフレッドさんは恐怖に固まり。

 ショータ達はあまりの恐怖に、静かにこっそり、泣いていた。



 私は勿論、抱き締めながらサーリーとルシファーの目を塞いだ。この状況でその言葉と表情は、あまりに毒が過ぎる。……私も事情を知らなかったら、泣いてたかもしんない。


 これでディル曰く、本人無自覚らしいから驚きや。







『ノーラン、自分の事なのに気付いてないけど。にいねぇちゃんが大好きなの』


『にいねぇちゃんもね、ツガイになりたいくらい、ノーランが大好きなの』


『……だから俺、ほんとは……俺が死んで2人が添い遂げるなら……それでも良かったの』



 サーリーとルシファーがお昼寝してる時に、まるで悪事を告白する様にもごもご話すディルの言葉を思い出す。勿論ネガティブ発言したディルにはチョップを入れといた。



 ……うん。まさに少女漫画の定番、無自覚両片思い。あ、片方は自覚してるんやっけ。



 そんでややこしい事に、自覚してない方が片恋相手の想い人と思ってる男……実際は無関係の男に、本人無自覚に嫉妬拗らせて勢い余って殺意さえ抱いてるっていうこの状況。今ね、ここなの。いやー困った困った!



 ……うん。マジでどうしろと?






この話が書き終わって最初に思った事。


皆の者であえー!

兄貴が、兄貴がご乱心じゃあ!


でした( ̄▽ ̄)


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