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「……これは、どういうことだ? ノーラン・ホーク」


「……」


「ユーリディア王子の問いに答えろ。何故、此処に……ディルムッドと共に行動している?」


「……」


「答えろ、ノーラン!」


「……あー、いちいち叫ばなくとも、聞こえてますよ。……ガキも寝てんだから、もう少し声落としてくれます?」


「貴様……っ!」



 ……う〜ん。



「ま、マイさん……」


「ごるるるるっ!」


「きゃっ!」


「ケン、ケケン!」


「モエ、噛み付かれるから離れろって! ほらケンちゃんも! 食べられるって!」



 ……う〜ん?



「わ、わたしの、やどが……混沌(カオス)になっていく……」



 ……なんや、皆でやいのやいの。



「むぅ〜、うるさいなぁ」


「だったら、そろそろ起きてくれ。……そんで、ディルムッド叩き起こしてくれ」



 もう充分だろ、との声にしょぼしょぼする目を頑張って見開けば……心なしかげっそりやつれた感があるノーランのドアップと、可愛い可愛いディルの寝顔のドアップ、ディルの肩の向こっかわにサーリーの頭頂部とルシファーの後頭部が見える。


 ……どうやら私達、猫髭亭のカウンター席らへんの床でノーランにしがみ付いたまま力尽きたっぽい?


 ……あ。ディルの頭、ノーランの分厚い胸板を枕にしてる。寝心地良いのかうにゃうにゃ鳴きながらすりすりと頬擦り……むむ。またジェラッちゃうやん。


 ごるごる野太く唸るルシファーと向かい合うのは……モエちゃん達かぁ。




 ……あ、うん。色々と思い出した。




「……なんか、色々すんません?」


「もういいから、そのくだり要らねぇからっ、兎に角っ、服を着させろ!!?」



 俺が落ち着かねぇっ、とパンツ一丁で熱持つくらい全身真っ赤に染めたノーランのセリフに。



「らーじゃー!!!」



 私は敬礼しながら立ち上がった。怪我の確認する為に服ひん剥いたの忘れてたっ! マジでごめん!


 そうして私の叫びに目覚めたディルとサーリーに、揉みくちゃにされながらも何とか服を着込んだノーラン、お疲れ様である。

 ちなみにサーリーはノーランの腰に半泣きのまま抱き着いて離れないので、本人も諦め好きにさせている。コアラみたいにくっ付いてるの、かあいい。



「……ディルムッド……お前……」


「にゃ、……ユーリ王子、様……居たの?」


「蹴り飛ばした本人が気付いてねぇの!!?」



 ディルの首を傾げながらの言葉に神々しい金髪頭、ユーリ王子はその場にうずくまり。代わりにショータが驚きの咆哮を上げた。

 わぁ。ツッコミレベル上がったの?


 ……うん。久し振りの同郷達も元気そうで、良かった。




「マイさんっ、あの、大丈夫なんですか? 私もう何が何だか……」



 そうしてショータの後ろから現れたモエちゃんが、ルシファーと同じくらいの大きさの鳥頭のモンスターを抱き締めながら寄ってくる。体部分は……犬? 猫? よく分からん。キメラってやつかな?

 優秀な護衛、ルシファーの唸り声に怯えながらも健気にケンケン鳴いて威嚇してる。モエちゃんのテイム・モンスターかな? うん、賑やか。



「モエちゃんも久しぶりー。……うーん。説明なぁ」



 ディルの事は話せない。誰が信用出来るかなんて、ほぼ初対面の私には判断が難しい。

 ……はてさて。どうやってこの場を乗り切るかな?



 そんな、カオスになったこの場を仕切るのはやっぱり……私の愛しい旦那様やった。



「……ノーラン。話、ある」



 ディルの真っ直ぐな金色の瞳と言葉を向けられたノーランは、予想はしていただろうけど只ならぬ問題が発生しているのだと感じてくれたらしい。小さく頷きながらサーリーを片腕でひょいと抱き上げ、ノーランは猫髭亭の2階に続く階段に向かい無言で私達を促す様に顎をしゃくった。


 そこに待ったをかけたのは、ユーリ王子。



「待てノーランっ! ……ディルムッドっ、ノーランに何をされたか忘れたのか!?」


「王子様には、関係無い」



 ユーリ王子はディルの静かな声に、言葉を止めた。



「俺は、今、ノーランに大事な話がある。……ユーリ王子達には、関係無いの。≪ユートピア≫から来たって事は、俺に用があるんだろうけど……そっちの話は、後回し。今は忙しいから、帰って」



 ユーリ王子とその従者っぽい黒騎士は、ディルの塩対応に驚き固まって動かない。



「はぁっ!? わざわざ此処まで来たのに……っお前何様だよ!!?」



 ふむふむ。……お前が、何様や?



「ショータには言われたくないなぁ。次口開いたら潰すからなぁ。……そういう訳やから、モエちゃんも……そやな。明日にでも顔出してくれる? それか、私達がそっちに行こうか?」



 取り敢えず、ノーランとの話し合いの時間が欲しい。



「っ…………いえ。お疲れみたいなので、私達が伺います! お話の約束してくれるなら明日で大丈夫ですから! ……ね、ユーリ王子もショータも、明日また来ましょう?」




 私の潰す発言に怯えたショータがモエちゃんの肩に縋り付くのは無視してあげた。いや私に対して弱過ぎる。初対面がどんなトラウマになってんねん。


 まあこうしてなんとか、私とモエちゃんの取り成しでこの場は一時解散する事になった。

 ユーリ王子含む勇者様御一行は、名残惜しそうに猫髭亭とは違う宿に引き返した。



「……、……」



 ユーリ王子から私とサーリーに向けられた、少しねちっこい視線の意味を考えるのも、後にしよう。



 ……そして、取り敢えず破壊された扉と少し犠牲になったテーブルと椅子の修理代をディルの貯金から、この時既に終始無言となったアニスさんへと差し出し、謝罪と詳しい話は後で必ずすると約束してから私達の寝泊まりしていた懐かしい部屋の扉に向かった。


 ちなみに、階段登る前にアニスさんからの拳骨、ディルが2発受けてくれました。はい、ちゃんと後で説明しに来ます!




 そうして部屋に入り、サーリーを下ろしたノーランが扉にローレライで使っていたお札を貼ろうとするので、今度は阻止した。



「なんだ」


「いや、ソレ必要無いから。……≪結界≫!」



 音が漏れない様に、振動が伝わらない様に意識してスキルを発動させる!



「ぅお、マジか……お前の嫁、レアスキル持ちかよ!」



 どうやら私のスキルの凄さが分かったらしく、ノーランは不機嫌さが消えたワクワク感ある表情で天井をきょろりと見回した。ふふん!



「にゃ……そうなの。マイ、凄いの!」



 ふにゃりと笑いながら言うディルに頷きながら、ノーランはディルの頭を撫で………………ない!




「おう、確かに凄いなぁ。……それで? 俺の忠告無視して町に突撃してきた挙句、この俺を、素っ裸にひん剥いて、放置して丸々1時間も寝こけてたお前と嫁と娘の処遇についてだが?」


「「「ごめんなさい!!!」」」



 額に漫画の様に綺麗な青筋浮かべながら拳をゴキゴキ鳴らす爽やか笑顔のノーランを前に、ちびりそうになった私達3人はしっかりがっつり、仲良く土下座しました。

 ちなみにルシファーは、なんとあくびしてた。いやアンタは確かに寝てなかったけどっ、この状況でそんなん出来るなら将来大物確定やな!?



 そうして数分間のマシンガントークなお説教をされた私達は、落ち着きを取り戻したノーランに私の事情、サーリーの事情と夢の内容、ついでにディルが言えてなかった記憶の件とを話して聞かせた。



 ノーランは、長かった話を途中で遮る事なく、最後まで黙って聞いてくれた。



 最後、ディルが言えなかった記憶の一時的な欠損についての話を終えると、数秒間瞼を閉じ……次に見開いた時、ノーランは片腕でディルの首根っこを掴んで、抱き寄せた。



「…………なんか変わった事あったらすぐ言えって、何度も言っただろうが……馬鹿野郎っ」


「にゃぅ……ごめ、なさい」



 乱暴な言い方とは裏腹な、ものごっつ心配してますって顔でディルを離さないノーランを見て……私はディルがノーランを好きな理由が良く分かった。



 ……良く、分かったけど!



「りゅるる、るる」


「……ディル、ノーラン。マイが拗ねてる」


「あ、やべ」


「にゃ……俺っヤキモチ焼くマイもっ好き!」


「あーあーサーリー言わんでいいよ! 話進まん! ディルも気にせんでええから!」


「りゅっりゅっりゅっ」


「ルシファーも笑わんといてぇ!」



 くそぅ……どっちも美形やから、無駄に絵になんねん! 抱き合ってても違和感無いねん何でか変にドキドキすんねんっチクショウ〜ディルは私の旦那様やのにぃって思う自分が恥ずかしい!!!


 私は恥ずかしさと邪な感情で赤くなった顔を誤魔化しながら、ノーランから解放されたディルの抱き締め攻撃を両腕伸ばして阻止した。



 部屋の扉すぐ横の壁に肩を預けて避難していたノーランは、そんな私達のアホみたいなやり取りに表情を緩めていたけど。



「まぁ、話は分かった。……疑う訳じゃないんだが……本当に、そこのお嬢ちゃんの夢の通りなら……()()()()殺せる程のモンスターの討伐が、近日中に発令されるって事だよな?」


「そう」



 このディルの即答に、ノーランからピリッとした独特の重苦しい空気が醸し出される。

 ……これがゲームや漫画に出てくる、闘気ってヤツか!



 うん。身内贔屓とか彼等自身の自惚れとかでもない。

 だって冒険初心者な私とサーリーでも分かるくらい、ディルは強くて……ノーランも、絶対、強い。



 おそらくディルと互角…………ううん。

 ディルが幼い頃から憧れたノーランの背中は、……ディルの期待を裏切らず、きっとまだ、遠いんちゃうかな?




「……相手は、サルーの町を襲えるだけの大量のモンスターと……その大量のモンスターを指揮する、右目と右耳が潰された、二足歩行の巨大な狼」


「…………何?」



 ディルの説明に、ノーランの眉間のシワが深く深く刻まれ……纏う空気を、闘気を色濃くした。



「……そうだよ、ノーラン。俺の産まれたポポの村を含んだ、多くの町村を滅ぼした≪名無しの軍団(ノーネーム)≫が……帰って、来るの!」



 ディルの堅い決意を感じる視線と、新たな言葉を聞いた私とサーリーは驚き固まった。




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