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「サーリー、ちゃんと説明して!」
「うっく、ひっく、」
「ノーラン、何処で殺されるの、誰と戦ってたの、教えて!!!」
「ディルっ、ちょっと待って!」
「うえっ、ふええっ」
「サーリー教えてっ! 泣いてたら分からな」
「ちょう待てぇ言うとるやろうがああぁ!!!」
「ふぎゃあん!!?」
あんまりにも怖い顔でサーリーに迫るので、ディルの敏感な尻尾のさらに敏感な生え際を力一杯捻り上げてやったら激痛で床に転がった。ざまあ!!!
あ。勿論ディルの腕の中からサーリーは救出済み。
「子供、怖がらせる、旦那様、最低。……オーケー?」
「……みぃ……ぁい。……しゃーりぃ……ごめ、にゃさ……」
「あ、うん。私もごめん」
ディルの泣き叫んだ後の哀れ感たっぷりな泣き顔見て正気を取り戻したサーリーから、私達は夢の内容を聞く事が出来た。
夢の始まりは、サルーの町が多くのモンスターに襲われている場面から始まる。
驚き固まるサーリーの目の前で、ノーランは風の様に町を走り回りモンスターをやっつけていた。
そこに、突然地面からにゅっと現れた、3メートル以上の巨大な狼と戦い始めて……ノーランが優勢やったけど、他のモンスターに襲われ逃げて来たアニスさんを庇って、狼の鋭い爪で、その体を真っ二つに引き裂かれたらしい。
床で丸くなったまま話を聞き終えたディルが、泣き顔から感情の分からない無表情に変化させ。
……淡々と、声にまで感情を乗せずにサーリーに問い掛けた。
「……………………その狼、右目と右耳が潰れた、二足歩行だった?」
「えっ……そ、そう! 目は殴られて、そのまま潰れたって感じでぐちゃってなって、耳は骨が折れて、えぐれて、ぐにゃにゃ〜ってなってて!」
え、サーリーさん細かい描写がちょっとグロい!
でも、この説明で何らかの確信を得たらしいディルは床でうつ伏せていた体勢を勢いよく起き上がらせた。
「…………っマイ、サーリー、ルシファー……俺、ノーラン追い掛ける。皆はここで待ぶっ!?」
ばちん、と音鳴らしてディルの口を塞ぎ……私はにっこりと、愛しい旦那様に笑いかけた。
……ディルがまた床で丸くなった。オマケで蒼褪めながらブルブル超振動し始めたけど、気にしない。
「…………ディル? 家族1人の、問題は?」
「…………かぞくみんにゃの、もんだいでしゅ」
あ、舌噛んでる。可愛いから許す。
「よろしい! ……サーリー、ルシファー。ちょっと話聞いてくれる?」
そうしてサーリー達にディルとノーランの事情を簡単に話した。
精霊の双子に関しては、サーリー本人とサーリーの側に居る精霊達も分からなかったらしく、驚いていた。
「それなら、ほらっ! 早く追いかけないと!」
「りゅるっ!」
精霊達曰く、未来は数多に分岐している。
話を聞いて、サーリーが見たのはおそらく『私達が居ないサルーの町の未来』だろうと予想を立てた。
血の匂いさえ感じられたリアルな夢の中。
サーリーからしたら特徴的らしい私の≪結界≫も、テイム・モンスターであるルシファーの気配も感じなかったと言うのだから。
サーリーが私の腕から離れ、自身の身支度しながら急げ急げとディルへと振り返る。
「……にゃ……でも、危ない」
「危ないからこそ、私達は行かなあかんの! ……広範囲で、聖魔法と≪結界≫使える私と、ルシファーっていう竜種を連れてるサーリー。……町が襲われるなら、人手はいくらあっても足りんのやで!?」
私とサーリー、ルシファーの視線に。
「…………うん、分かった。……皆、俺と一緒にサルーの町に、帰ろ!」
ノーランを、一緒に助けて。
……旦那様のオネダリを、断るなんてしません!!!
「「うん!」」
「りゅーるー!」
こうして私達は、ギョロルお爺ちゃんに慌ただしく別れを告げて人魚の村を飛び出した。
目指すのは、およそ2週間ぶりに帰る私達の拠点。冒険者の集まるサルーの町。
ショータ達と王子様御一行にちょっとした不安があるけど、なんのその。
頑張ったら、何とかなるって!!!
………そう、思っていた時期が。
私にも、ちょっとだけ、あった。
「≪ゲイル≫!!!」
「「ひいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃ………っ!?」」
ディルに頼まれたサーリーは、ルシファーを抱っこ。そんなサーリーを、私が抱っこ。そんな私を、ディルがお姫様抱っこ。
あ、これが、デジャブか。
ディルと出逢ったばかりの頃を思い出した時には、もはや風となったディルが海底洞窟を爆走したのはいうまでもなく。
私とサーリーの叫び声だけが、洞窟内に木霊した。
「りゅっるー♪」
ルシファーの鳴き声だけが無駄に楽しげやったのがムカついたので、おやつ抜きにしてやろうと思う。
うん。八つ当たり。
サーリーもきっと許してくれるから、犠牲となれルシファー!!!
ちょっと短いですがキリが良いので今回はここまで。
この次は早めに投稿します。




