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マイ視点に戻ります。


 



 向かいのベッドで子供達が熟睡中の中、私達2人は2つ目のベッドに座っていた。

 そうしてディルの拙いながらも一生懸命話してくれた内容に、私は驚愕の一言、なんて言葉しか思いつかなかった。




 精霊との双子。

 1つの体に2つの、魂。


 悲しい未来を阻止する為……ノーランは大切な親友2人を救う為に、主人の元を去って手を尽くしている。


 なのに、ディル本人はその事を()()()()()()……。


 ……ノーランは兎も角、ディルの頭の中からは双子の片割れとの記憶が、消えてしまう可能性がある事まで、私に話してくれた。



 何と今のディルは数ヶ月に1度、ふと気付くと自分が双子である事も、片割れが自身の中で眠っている事も、ノーランと言う名の友人が居る事も……忘れてしまうという。

 ここでミソなのが、ノーランとの楽しい記憶がユーリ王子と過ごした記憶と適度に混ざっていて本人は違和感に気付いていない事。

 ……私と初めて出会った時に()()()()()()()()()と言っていたのは……そういう事らしい。



 ふらりと近況報告しにサルーの町に現れるノーラン本人の姿を見ると、ディルは必ず思い出す。

 その証拠に、私と出逢ってから今日まで。つまりノーランがこの宿に訪ねて来るまでは……すっかり忘れてたんやって。



 ……ノーランと再会した時の、あの飛び掛かる程の興奮は……大切な記憶を思い出せた喜びも混ざっていたんやなぁ。


 でもノーラン本人には、これ以上無理させては駄目だと思って、毎回言えていないらしいけど……うん。ノーランが鬼のような形相で怒り狂うな。



「…………、」



 私は、無言でディルの胸元を撫でた。



 真っ直ぐ見つめても、あるか分からない聖女パワー意識して見つめても。私には何も見えないし、何も感じない。

 ディルが言うには、今片割れは眠っている状態。

 どうやら数ヶ月に1度ディルの片割れは目覚めてスキルを無理矢理使用、反動でまた強制睡眠するってのを繰り返してるっぽい。

 ノーラン見たら思い出すのは、契約の関係でなんかあるんかな?




 ……ふむふむ。此処に居るディルの双子の片割れは……こんなにも大事に、心を傾けてくれる人達から……自分の名前と存在を、消し去ろうとしてる。


 それは……なんて。




「……ディルのきょうだい、アホやなぁ」



 心の底から思う。マジでアホや。

 この私の言葉に、ディルも大きく頷いた。



「……っうん。そうなの。……にいねえちゃん、俺なんかより、頭良いけど…………ちょっとだけ、アホなの」


「うん。間違いなく、アホや。……≪結界≫!」



 私がわざとらしく怒った風にスキルを唱えれば、ディルは心底嬉しそうに、笑ってくれた。



「ディルに私っていう嫁が出来た時点で、完全に記憶消せなかったんなら……()()()()()()!!!」



 私のスキル≪結界≫は、ダメージだけやなくて音も匂いも、空気だって遮断してくれる。

 ≪ルルの壁≫でのお仕置きタイムで確認済みやからなぁ……万能スキル、万歳!


 だから記憶を奪おうとする、その≪記憶操作≫のスキルだって……この私がしっかりがっつり防いだる!



「私、今度から毎朝≪結界≫使うから……それに、言ってたかな? 私ってステータスに≪状態異常無効≫あるねん。だから私に対する≪記憶操作≫は無効化出来る筈や! ……私は、絶対に忘れないから……ディル、もう安心やで!」



 そのスキル、どう考えても精神異常に分類されるもん。

 だから、きっと大丈夫。

 ……何せ、私のステータスは神様からの授かりもんやからね! チートやからね!

 なんかあったら、ツクヨミ様タコ殴りやからねっ!!!



「ディルが忘れたって、私が毎朝、教えてあげるから!」

「っ……みゃぅん」



 私の言葉に……ディルはぽろぽろと綺麗な涙を零しながら、私の胸に縋り付いてきた。



「……っにゃぅ、ん。……マイ……マイ……っ」



 ありがとう、嫌わないで、と繰り返しか細く呟く旦那様の震える頭を撫でながら、私も小さな声で答える事にした。



「……私は、ディル限定で優しくて有能なお嫁さんやからな。……ややこい事情あるくらいで、嫌ったりしません」




 信頼してるノーランは、ディル達を救う為に旅立った。

 自分の片割れは眠ってて、自分を分かってくれる親友は当たり前で側に居なくて……大事な片割れ本人から、記憶を奪われて。

 そうして思い出す度、ディルは恐怖した筈や。次は、覚えてないかもしれないって。




 一時的とはいえ大切な記憶も、思い出も無かったなら。

 ……そりゃあ、心なんか成長せえへんなぁ。




 そんなディルが覚えていたのは、誰よりも強くなる事だけ。

 心は忘れてしまっても、体は強くなる事を止めてないのがその証拠や。



 ……私が思うに、ノーランと交わしたこの約束を覚えているお陰で、契約とも相まってディルは忘れてしまった記憶を思い出せてるんとちゃう?


 そう考えたら、ノーランには凄い感謝しないと。

 ……ディルとラブ……げふんっ仲良くしてても嫉妬しないように、もうちょっと気を付けよう。




「……マイ、大好き。ずっと、大好きなの……」


「……私も、ディルが大好き。……だから私にも、……私達にも、手伝わせて?」



 身内の問題は、家族全体の問題やから。

 皆一緒なら、怖くない! どんとこいや!!!



「……ありがとう」






 そんな訳で、お昼寝から目覚めたらサーリー達にも話そうと決めた私とディルは、それまでイチャイチャしながら待っていたんやけど……。





「ゔ……ぅゔゔ……」


「るる、るる」



 サーリーが、久し振りに悪夢に魘され始めた。

 隣で寝ていたルシファーも気付いて、サーリーを起こそうと頬をぺろぺろしてる。



「サーリー、サーリー」


「怖くないよ、はよ起きて?」



 ああ。またサーリーのお父さん、サタンの夢見てるんや。

 早く目覚めさせようと、私とディルも軽く揺さぶりながら声を掛ける。



「ゔ……、ゔゔう……、……ラ……」


「……サーリー?」



 ディルと2人、見つめ合う。

 ……なんか、いつもと違う?


 いつもはもっと、泣き喚く寸前みたいな感じで父さま父さまって呼ぶのに……。



「……ぅ……ゔ……し………だ、め」


「……るるる?」


「……の、………………ノーラン死んじゃ駄目ええええ!!?」


「ぐぇっ」



 がばっと勢い良く起き上がったサーリーは、顔を覗き込んでいたルシファーの顎と自身のおでこをゴッツンコした。

 ベッドに転がった2人は悶絶してる。うんそりゃ痛い。



「にゃっ……大丈夫?」


「あ、……あ、あれ? は……ま、ま、マイ回復! ノーラン回復してっ、早く早くお腹くっつけてええええ!!!」


「サーリー!?」



 目覚めた途端暴れ出したサーリーの尋常じゃない様子に、私は落ち着かせようと抱き締めディルに視線を合わせた。ディルもあわあわしながらサーリーの背中を撫でる。



「早く! 早く、くっつけてよおぉ!!!」



 それでもサーリーは泣き叫びながら暴れて、しまいにはガリガリと自身の顔を掻き毟り始めた!



「サーリー落ち着いて! それは夢っ、サーリー今まで寝てたから!!!」


「ひっくっ、ひぃっ……ぐす、でも……でもちのにおいしたもぉ……っ!」


「大丈夫やから、サーリー大丈夫やから……え?」




 サーリーが顔を掻き毟った時に絆創膏が剥がれてしまった為、いつもは隠れている頬の痣が丸見え。


 え、いや……何でサーリーの痣が緑色に光ってんの!?



「ひ、光ってる!?」


「……ま、まままさか何かの病気!? 呪い!? 精霊さん達何か知らへん!!?」



 私とディルが天井見上げながら視線を彷徨わせたら、部屋に備え付けられた丸テーブルにさらさらと砂の落ちる音が。


 ルシファーを私が、サーリーをディルが抱き上げ共に丸テーブルに移動すれば、以前と同じ砂でメッセージが書かれていた。




『それは サーリーのステータスにある ゆめみの のうりょく』


『ゆめは かこ げんざい みらい すべて つながってる』


『サーリー いま ひとつの みらいをみた』


『おこるかもしれない あらゆる みらいの ひとつ』


『その みらいで』



「…………ノーラン、が……死ぬ……?」




 ディルの呟きと精霊達からのメッセージに、私は驚き固まってしまった。




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