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微笑ましいお下品の後に少し残酷な部分があります。
それでも宜しかったらどうぞ。
「拷問とか……それ、どういう事?」
ディルの様子を見ても、その拷問っていうのがすでに嘘臭い。だって、友達言うて抱き着いてたやん。あんな嬉しそうやったやん。
……そんなんで拷問が事実なら…………考えたく無いけど、もう、そういうプレイとしか……。
「……おい。先に言っとくけどっ、俺はどノーマルだからなっ!? おっぱい大好きだからな!!?」
私の不躾な視線に勘付いたらしく、自身の性癖を叫ぶノーラン。
うん。サーリーとルシファー抱き潰して耳塞いでるから今回は許そう。その発言、次は無い。
……なら、なんでそんな誤解が?
そんな私の視線に、ノーランは……ペリドットを思わせる明るい緑色の瞳をディルに向けた。ディルの方は、小さく気まずそうに俯いた。
ディルのその姿に、ノーランは首を横に振った。
「俺からは言えん。ディルから聞け」
「……ノーランっ!」
嫁であるあんたこそ、直接聞かなきゃならん、と。
ノーランは真っ直ぐ、私の目を見て言い切った。
それでこの話は終わりだと言いたげに、ノーランはサーリー達を自身の腕から解放して扉へ。
ディルの引き留める声に……振り返って私達の顔を順に見たノーランは、心底嬉しそうに笑っていた。
「嫁さん貰った男前が、猫みたいにみゃーみゃー鳴くんじゃねぇよ。家族養う旦那のテメェがそんなんじゃ困るだろ? ……それから、お嬢様への不義理は俺の罪であって、テメェの罪なんかじゃねぇ。……次、また情けねぇ顔してたら俺が酔うまで酒奢らせるぞ」
ノーランの言葉にキョトンとした顔になったディルは、次の瞬間には八重歯が覗くいつもの愛らしい顔で笑っていた。
「ノーラン、…………そしたら俺の貯金、無くなっちゃう」
「なら言うな。うぜぇから」
ふは、と笑いながら扉に貼られたお札を剥がしたノーランはそのまま出て行こうとするから、……そんな、仲良さげな、信頼してますって態度、見てて分かっちゃったら……ヤキモチ焼いた私達がアホみたいやんか!
「……ノーラン、ちゃんと名乗ってなかったけど、私、マイって言うの! ディルの嫁や! ……今度来る時は早めに連絡ちょうだい! ノーランの好きなご飯、ディルに聞いて作るから!」
私の言葉に、私の可愛い家族も同意の声を上げた。
「にゃ……うん! ノーランっ、マイのご飯、美味しいよ!」
「私もお手伝いするー!」
「りゅるるる!」
またね、と手を振る私達に。
「…………ああ。期待しとく」
時々手紙送るわと言いながらひらひらと手を振ったノーランは、照れ臭そうな顔で部屋を後にした。
こうして私達は、王子様の件をノーランに任せる事にした。
―――――
ノーランが去った後、お腹を空かせた子供達の要望で慌ただしく、パンケーキを山の様に作らされて私はグロッキーになっていた。
満腹のサーリーとルシファーは、同じベッドでお昼寝中。
私とディルは向かいのベッドに腰掛け、食後のお茶を飲みながらゆったりとした時間を過ごしていた。
……あ。ゆったりしてるのは私だけで、ディルはずぅっとそわそわしてるけどな。
うーん。サーリー達も眠ってるし……この様子やと、私から言わないと教えてくれない気がする。
「ノーランが言ってた、ディルの話……今聞いてもいい?」
そう思って声を掛けてみた。
ディルは一瞬固まりにゃうにゃう鳴き始めたけど、覚悟を決めたのかサイドテーブルに自身と私のカップを置いて……それから、私を抱き締めた。
ディルの胸に私の顔は押し付けられてるから、彼の表情は分からない。
私は腕をディルの背中に回して、優しく撫でた。
「……子供の頃、俺の父さんと母さん……モンスターに殺されたの」
「!」
……予想はしてたけど、やっぱりそこから話すんやね。
アニスさん達からは聞いたけど、ディル本人からは1度も聞かなかった……聞けなかった話。
ぎゅ、と。
私はディルに回した腕に、力を込めた。
「母さん、聖魔法使えたから……村の皆を、回復してる時に……カールとキール庇って、死んだ」
その時双子の両親共々……蜘蛛に喰われてしまった、と。ディルは続けた。
「……父さんは、……仕事で村を、離れてたのに、……怪我、沢山してたのに……俺が『助けて』って言ったら……父さん、帰って来た。……生き残ってた皆を、助けて……俺を、助けて。…………俺を庇って、父さん……死んだ」
私は自身の腕に、これでもかと力を込めた。
ディルも、私を抱く腕に、私を壊さない程度に力を込める。
「悲しかった。苦しかった。……俺達を置いて行かないで、ほしかった……」
「ディル……」
「それでも、追い掛けたいって……死にたいって思わなかった理由、知ってるのは……ノーランと、……きっと、あの神様だけ」
私の脳裏に一瞬、白い幼女の姿が浮かんで……そう言えば、最近彼女の声を聞いていない様な?
その疑問も、私の肩に移動したディルの手によって掻き消えた。
少し開いた隙間から覗くディルの顔は、やっぱり泣きそうになってる。
「……マイ、俺…………双子なの。だから、きょうだい、居るの」
「え」
ディルが、双子?
え、え……その口ぶり、ディルの双子のきょうだい、今、生きてるって事やんな!?
何かの理由で離れて暮らしてるっていうなら……それなら、それなら!!!
「な、なら迎えにっ」
「此処に居る」
「え?」
そう言って、ディルは自身の胸倉を掴んだ。
「……此処に、居るの。……俺の双子のきょうだいは……今も俺の中で、眠ってるの」
ディルの告白に、私は驚き固まってしまった。
次回からディルの事情と不思議が少し分かる番外編、ノーランサイドを投稿予定です。




