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49:勇者サイド5


今回は番外編である勇者サイドです。

この頃、マイ達はサーリーをパーティーに加えてきゃっきゃっうふふな冒険者ライフを送ってます。

それでも宜しかったらどうぞ。


 


 ショータとモエ、ユーリ王子とアルフレッドを乗せた白銀の馬車はこの数日、宿と野宿を繰り返しながら≪ユートピア≫の王都エイデンに向けて進んでいた。



「……ぅおらあっ!」


「甘い!」




 勿論ユーリ王子の宣言の通り、ショータは道中にユーリ王子との実地訓練を交えた鍛錬を行いながら。



 ショータのスキル≪飛ぶ斬撃≫はユーリ王子の言葉通り、一歩を踏み出す動作のみで簡単に避けられた。


 日本の剣道、居合の動作でスキルを使用したショータの隙を見逃さなかったユーリ王子は、素早く近寄りそのままショータの足元を払い……蹴り転がした。


 視線と体の向きで攻撃の軌道を読んでしまうユーリ王子に……()()()()()()攻撃しろと言われたショータは、それでも擦り傷1つ与えられない。


 ちなみに万が一瀕死の重傷を負ったとしても、ユーリ王子の装備している王家の宝の1つ『祝福の甲冑』の効果で日に1回、即死は免れるから問題無いとの許可もある。


 この実力差に、初日は怒りや嫉妬を覚えたショータだったが……今は若干の尊敬を覚え始めていた。


 それだけ、ユーリ王子は剣士としての実力があった。




「ふぶっ!? ……ぉ、王子様の癖に足癖悪くねぇ!?」

 


 言葉だけだと不満をぶつけている様に聞こえるが、ショータの表情は明るい。

 ユーリ王子も理解しているのか、微笑みを崩さない。



「ふふふ。ショータはまず、己の体の全てが武器であり盾なのだと自覚しましょう。……アイテムや装備、スキルに頼り過ぎるのは、2()()の寿命を縮めますよ?」


「…………ちっ、もう1回!」



 顔から倒れてしまった為に擦り傷と土汚れが目立つショータだったが、昼食の準備をする黒い騎士と昔馴染みの少女に視線を1度向けてからまた立ち上がった。



 もう1回、をする為に。



 その勝気な様子に、ユーリ王子は天使を思わせる相貌を戦士のソレに変え。

 そうしてまた、ユーリ王子とショータの鍛錬は再開された。




 2人の鍛錬の被害に合わない距離を取っていたモエとアルフレッドは、本日の昼食として肉が多めのシチューを作っていた。

 勿論じゃがいも、玉ねぎ、人参など定番野菜はゴロゴロと大きめにカットされている。


 ≪ユートピア≫の主食はパンであり、特に寒期(かんき)である今の時期はスープやシチューに炙ったチーズやパンを浸しながら食べるのが主流であった。



「……彼は、何か武術でも習っていたんですか?」



 基礎は出来ているんですね、と鍋をかき混ぜながら鍛錬中の2人を眺めていたアルフレッドの言葉に、焚き火でパンを炙ろうとしていたモエは思案顔になった。



「えっと……、確か、亡くなったお祖父さんが剣道……私達の世界の武術の道場してたって言ってました」


「……成る程」



 その言葉に納得したアルフレッドは、モエに視線を向けた。



「話が逸れましたね。……モエの言っていた≪テイム≫の所持上限と、その()()()()ですが……私も、ユーリ王子の考え通りと思いますよ」


「……そうですか」



 緊張を逃がす為の溜息を零しながら、膝の上にある6この色違いの小さな箱をモエは見つめた。



 赤、青、緑、茶、紫、白の色に分かれた、6つの手のひらサイズの小箱。指輪が入ってそうな、そんな小箱である。

 この箱は≪鑑定≫を受け付けず、尚且つユーリ王子達だけでなくショータでさえ触れる事が出来ない。

 この世界でただ1人、モエだけが使用出来るアイテムだった。



 ここで、モエが白い幼女、創造神ツクヨミから貰った初心者セットを思い出してほしい。



 ―――――


(魔法特化)

 火・水・風・土・闇魔法取得可能

 最大魔力量+1000、魔+10、護+5

 魔力使用量50%軽減、テイムモンスター数上限1→6


 ―――――



 本来の≪テイム≫で使役出来るモンスターは、1体で限界とされている。勿論、特殊な場合は複数使役出来る場合もあるが……それでもMPの問題で2体が限界だろう。



 その限界を、モエが持つ小箱が解決してくれるらしい、というのが彼等の見解だった。



「その小箱には、それぞれの属性の魔力が宿っています。赤は火の魔力、青は水の魔力……箱の内部に施された魔法陣を見るに、モエが≪テイム≫したモンスターは自動的にその小箱に移動し、簡易封印を受ける形になっています」


「小箱の中に居る場合……簡易封印されてる間は、私の魔力を必要としないって事ですよね?」


「ええ。多少の傷も簡易封印されている間に回復出来るように、小箱の方に魔力を宿している様です。……しかし、それぞれの属性モンスターを1体ずつ使役出来るとは……モエの負担を軽くする為の小箱と言い、我等の創造主は素晴らしいお方です!」



 この説明をしてくれたユーリ王子の、うっとりと桃色に染まったその顔を見たモエは……それは違う思った。


 何故なら……多少の制限はあってもこの小箱、絶対に、諸々な理由で言ってはいけないゲットだぜの某ゲームのボールと同じ仕様なんです、と。

 でもそれを言うと、この世界の信仰心とか下がったりして色々問題ありそう……てかユーリ王子が面倒くさそう、とか何とか嫌な想像をしてしまったモエは。


 ……取り敢えず。深く考えるのと諸々の説明を放棄した。英断である。





 昨日のあれこれを思い出しながら、出来上がったシチューを配膳していたモエは茶色の小箱に視線を向けた。


 検証する為に食事用とは別に用意された簡易テーブルに並べられていた小箱の中、他の淡い色合いとは違う、ビターチョコレートのような濃い色に変化した小箱。


 それは、昨日の夕方。

 モエが始めて、モンスターを≪テイム≫したから起こった変化であった。



 ―――――



 ショータ達は昨日の夕方、泊まる予定の町に到着し町外れにある教会に足を運んでいた。


 ユーリ王子達はディルムッドと連絡を取り合う為、教会に設置されている水鏡で直接会話しようとしていたのだ。しかし……。



「……はぁ」



 教会から、悲壮感満載な溜息をユーリ王子が零したおかげで簡単に結果は知れた。



「また居なかったのか?」


「……そうらしいです」



 向こう(デカラビア)の教会には知人であるディルムッドに連絡を取りたい、とユーリ王子は伝えている。

 しかし間が悪い事に、依頼が立て込んでいる為寝泊まりしている宿にも帰って居らず、自分達では呼びにも行けない様なダンジョンに籠っているという。

 向こうの教会から手紙を送ってくれているらしいのだが、返事はまだ無い、という昨日と同じ受け答えだった。



 ……ユーリ王子は、知らなかったのだ。

 自分達≪ユートピア≫の国に携わる人間が、≪デカラビア≫でどう思われているか。


 ディルムッドは闇の精霊グリードの事があってから≪デカラビア≫の英雄として有名になった。


 それに伴い仕事は増え、そうなれば必ず、接する人々はディルムッドの違和感……異常に気付く。



 そして、当然その理由をも邪推される。



 ……事実はどうあれ、≪デカラビア≫の住民達は自国の英雄が面倒ごとに巻き込まれない様立ち回った。



 サルーの町の教会を取り仕切るシスター・ミラも、その1人である。

 彼女は1度、遠目ではあるがユーリ王子を見たことがあったのだ。だから彼女は、嘘を伝えた。


 この時のディルムッドは、マイとサーリーを連れて街道のモンスター掃除をしていたくらいである。遠出などしていない。



 しかしそんな事を知らないユーリ王子は、依頼で町を空けている、と言われれば遠く離れた地にいる為そうなのか、と頷くしかない。


 王族に偽りを口にするのは重罪だが、それは≪ユートピア≫での話。


 ≪デカラビア≫に、王は居ない。

 町長や族長など代表する者や実力差での違いはあれど、基本人々は対等という考えが根強い。


 ……オマケに、シスターは子供好きだった。

 愛らしいサーリーは、今日も教会で世話を焼く子供達と仲良くオヤツを食べている。

 優先順位は明白だった。


 こうした理由もあり、ディルムッド達は何も知らず、のんびり冒険者生活を謳歌していた。



「……ショータ、ちょっと付き合って下さい」



 天使を思わせるその麗しい顔に、取って貼り付けた様な笑顔を作ったユーリ王子がショータの腕を掴んだ。というか、既に引きずりながら歩いている。


 おそらく、今日の鍛錬を行うつもりなのだろう。

 しかし、ショータは激しく異議を唱えた。



「あんた最近ストレス解消に俺の鍛錬(あいて)してねぇ!?」


「そんな事はありません」


「その笑顔が嘘くせぇぇぇ!」



 そのまま、引きずる様に連れて行かれたショータを見送ったモエとアルフレッドは、同時に溜息を零した。

 ……この2人、連れに振り回される所は似ているのかも知れない。



「……備品に問題は無いので、宿に戻りましょうか」


「……そうしましょう」



 そうして町外れ、鬱蒼とした森の中にある教会から歩く事、数分。


 ある1本の木の根元から、「ぐぇ〜ぐぇ〜」と小さな音……鳴き声が聞こえて来たのだ。


 モエとアルフレッドは顔を見合わせ、その木に近寄ってみれば、柴犬サイズの大きなハリネズミがいた。


 針の部分は明るい灰色で、顔の部分は若干土色が濃い。今は見えない、針の無い腹の部分も似た様な色合いだろう。

 ……所々、怪我の為なのか後ろ足の部分が黒い血で汚れている様だったが。



「え、おっきい」


「……このモンスターは、これが標準ですよ?」


「え、モンスターなんですか?」


「ええ。ニードル・ドッグ……まあ、見たままの名前です」



 あ、ねずみじゃなくて犬の扱いなんだと思いながらモエはハリネズミ……ニードル・ドッグの様子を伺った。



「ぐぇ〜ぎぇ〜」



 ニードル・ドッグはこちらに見向きもせず、木の根元に向かって鳴いていた。野生のモンスターとしてはどうかと思うモエだった。


 アルフレッドが気になって近寄ろうとしたモエを制し、自身が長身を生かして上から覗き込んでみると……彼の表情が、曇った。



「……どうやら、自分の子を他のモンスターか動物に襲われたようです」


「え、」


「成体になっても、防御力があるだけでニードル・ドッグはあまり強い種ではないのです。……赤子だと、まだ針も柔らかいので餌になってしまうのでしょう」



 ニードル・ドッグは比較的穏やかな性格で農作物に取り付く虫を食べてくれるので、人々にも嫌われていない数少ないモンスターである。

 だから森の中とは言え、人々の近くにいてもあまり警戒する事なく、生きていけたのだろう。


 モエは、未だに1度もこちらに振り返る事なく鳴き続けるニードル・ドッグに視線を向けた。



「……ねぇ」



 モエはアルフレッドの制止を無視して木の側にしゃがみ込み、悲しげに鳴き続けるモンスターに声を掛けた。

 人の気配、体温にやっと気付いたらしい。

 慌てて見上げるように顔をモエに向けたニードル・ドッグの瞳は……それでも威嚇するでもなくただ、悲しみの涙で潤んだだけだった。



「私も手伝うから……埋めてあげよう?」



 そうして木の根元をゆっくり手で掘り始めたモエに習って、ニードル・ドッグも前足で一緒に穴を掘り始め……その穴に小さな骨を移し、優しく土を被せた。


 アルフレッドはその様子を、少し離れた場所で眺めていた。



「ぴ、ぴぴ」



 土を被せ両手を合わせたモエを見て、満足気に鳴き声を響かせたニードル・ドッグが、ぼんやりとその体を光らせた。


 そして、モエの視界にステータス画面の様な半透明のボードが現れた。



『土属性モンスター、ニードル・ドッグを使役しますか?』



 モエは驚きながらその文字を見た後。

 足元で腹を見せ転がったニードル・ドッグに吹き出しながらも愛らしい笑顔を向けた。



「……私と一緒に、悪者と戦ってくれる?」


「ぴぴぴぴぴ!」



 その鳴き声に、半透明のボードの文字が変わった。



『賢者モエ、ニードル・ドッグ、共に了承。名付けを行なった後≪テイム≫を施行して下さい』



「名前、かぁ…………うん。なら、ぴぃちゃんかな。これから宜しくね、ぴぃちゃん! ≪テイム≫!」



 そうしてニードル・ドッグ、ぴぃちゃんの周囲に小さな砂嵐が発生し、しかしそれも直ぐに消え去った。


 ぴぃちゃんの額には、杖の形を象った文様が現れていた。



「ぴぴぴっ」



 嬉しそうに鳴いたぴぃちゃんは、そのまま小さな光の玉になり、モエの目の前から消え……モエの≪アイテムボックス≫にあるはずの茶色い小箱が1つ、モエの目の前の地面に転がったのである。



 ―――――




 モエは野菜の皮をぴぃちゃんに与えながら、昨日の事を思い出していた。



「……モエの思いつく名前って、相変わらずだよなー。……おかわり」



 そこに、余計な一言を加えたショータがシチューを入れていた深皿をモエに差し出してきた。

 モエも条件反射で受け取り、鍋に入ったままだったおたまで熱々のシチューをすくう。



「……そんな事言うショータのお肉は、アルフレッドさんにあげますね」



 そしてころころとした肉の塊は、アルフレッドの器に追加された。



「頂きます」


「ごめんなさい!」


「……可愛い名前ですけど。ねぇ、ぴぃちゃん」


「ぴぴぴっ」



 じゃがいもと人参の皮を齧っていたぴぃちゃん本人は名前を気に入っているらしいので、問題無さそうである。



 戦闘力はあまり期待出来ないニードル・ドッグだが、ダンジョン等では地面に隠されたトラップが多数ある。

 彼等の様に土の中を住処にするモンスターはそのトラップを簡単に見破る事が出来るだろう、との見解をアルフレッドからもらったモエはショータに向かって勝ち誇った笑みを向けていた。


 こうして、索敵能力に定評のあるぴぃちゃんがモエのテイム・モンスターとなった。







 昼食の後。

 ショータとモエが2人でぴぃちゃんと戯れている間にユーリ王子とアルフレッドはこの先の道順を、食事の為に設置した簡易テーブルで確認をしていた。



「この調子で行くと、後1週間程で王都に戻れますね」


「……そうか」



 アルフレッドの言葉に、ユーリ王子は気もそぞろ返事を返した。おそらく連絡の取れないディルムッドの事を考えているのだろう、とアルフレッドは当たりをつけていた。


 そして、アルフレッドは表情を引き締めユーリ王子に声を掛けた。



「……王子よ、ディルムッドの事は、一旦保留にして頂けませんか?」


「……アル?」


「ディルムッドの事になると、貴方の聡明さは損なわれる。そしてその被害に遭うのもまた、ディルムッド本人なのだと……私達は、あの日、知った筈です」



 アルフレッドの、ユーリ王子の表情が悲しげに歪んだ。



「……それは……」


「……ユーリディア王子。私は貴方の従者であり、拾われた所有物です。……なので、黙っていた私を斬り捨てても構いません」



 アルフレッドの言葉に、ユーリ王子は眉間のシワを寄せた。

 そして、アルフレッドはユーリ王子の目を見て、告げた。



「ディルムッドは今、ツガイと身寄りのない幼い娘と共に生活しています。……子虎の幸福を願うなら……あの子を、捨て置いてやって下さい」



 アルフレッドの懇願に、ユーリ王子は石の様に固まり。

 それから小1時間、微動だにしなかった。





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