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それから3匹ほど黄金蟹の突進があったけど問題無く撃退した私達(今度は私も戦闘に参加出来た!)は先に進み。
顔中に冷たい潮風を感じながら、いつのまにか私達は歩くとサクサク音がする砂浜に辿り着いた。
少し早いけど洞窟に入る前に昼食取ることにした私達は、砂浜に毛布とは違う分厚い大きな風呂敷を敷いて、その上で豚汁と鳥の唐揚げ、ディル作成のおにぎり各種を食べた。
そして、デザートにルシファー希望の甘いモノ……ドライフルーツたっぷり入れたパウンドケーキとバナナマフィン、クッキーを献上した。
ルシファー、小躍りしてたよ。
そして食後、冷たい潮風もなんのその。
サーリーとルシファーはきゃーきゃーるーるー声を出しながら、楽しそうに砂浜で追いかけっこを始めた。可愛い。
海に入らない事を約束させてから、視界の隅っこにサーリー達を捉えながら私は座ったまま静かに海原を見つめた。
視界いっぱいに広がる、青い海。
その色も、においも、私の知ってる海に似通ってる。
……いや。ここの海の方が、水が綺麗かな?
「……すごい…………懐かしいなぁ」
子供の頃は、父の田舎でこんな砂浜でキャンプしてたなぁ。
……数時間釣竿垂らしても、ちっさなタコや小魚しかゲット出来ひんかったけど。
父がその場で捌いてくれた魚を、母がただ塩振って焼いただけのソレが……堪らなく美味しかったのを覚えてる。
「マイ……海の、近くで……育った?」
私に尻尾と体を擦り寄せながら、ディルはしょんぼりと気落ちした声で聞いてきた。
……あ、もしかして。
私が里心思い出して帰りたいって言うかもとか、疑ってるな?
私は、ディルの左腕に腕を絡ませながらその肩に頭を乗っけた。
「ううん。私のお父さんがちっさな島で生まれてて……田舎の実家取り壊されて無くなってんけど、近場の砂浜は残っててなぁ。……子供の頃は、長いお休みの時に家族で来てたから……砂浜見て、懐かしいなぁって思っただけ」
「……おとう、さん?」
「うん。板前さん……お魚料理が得意な、料理人やってんで!」
谷山家のちょっとした贅沢な食事は、ちょっとお高いイタリアンや焼肉食べに行くんじゃなくて……お父さんが仕入れて来た魚介で作ったご馳走やった。
お造り、お寿司、海鮮鍋にあら炊き、すまし汁……大きな魚はお店で作業しちゃう時もあったけど、幼い頃の私には魔法使いに見えてた。
一般的な普通の台所で、魚屋さんみたいに手際良く捌く姿がカッコ良かったから。
……でも父に魚の捌き方教えてもらった時、私が鯛の背びれで指切った時はショック受けてたなぁ。あ、勿論安いちっさな鯛ね。
『お、お、女の子に傷がああああっ!!?』
『いやいやこんなんかすり傷』
『ええい麻衣はこぉんな危ない魚捌かんでええっ! 将来旦那にやら……えもう嫁に行くんかああああっ!!?』
『……うん。私、中学生やから。お嫁さんはまだめっちゃ先やから』
『あらあら。麻衣ちゃんの旦那様はお料理男子決定やなぁ』
『うん母さんちょっと父さん煽るのやめよっか!?』
『ぅぐうう俺の屍踏み越えられる覚悟ある男やないと許さん!』
『なぁお願いやからその物騒な発想やめ……ぁああ包丁まな板に置いてぇっ!!?』
父の叫びと母の穏やかな相づちを聞きながら、私も慌ててツッコミ入れてたなぁ。
以来、手開き出来るイワシみたいな小魚しか家では触らなくなったっけ。
「……ディルって、尾頭付きの鯛や……ブリみたいな大きな魚、捌ける?」
脳内知恵袋だと、日本にある魚介は大体いるっぽいねんけど。
「? ……うん。……小さい頃、父さんと……あと学校でも、教えてもらったから……出来る」
学校……ああ、確かディルは軍隊入る為の学校行ってたってアニスさん達言ってたなぁ……?
でもそこで習った魚の捌き方って……モンスター用なのでは?
……深くツッコミ入れたら駄目な気がする。
「そ、そっかあ。……そんなら今日は、人魚の村でお魚買ってご飯作ろうかなぁ〜。……おっきい魚だったら、捌くのディルに任せても良い?」
……おっきなブリ捌くのは自信無い。
でも鯛の三枚おろし位なら、私でも出来るんやけど。
「にゃ……うんっ、手伝う!」
満面の笑みを浮かべる旦那様を見て、頼って良かったと思う。
お父さん。お母さん。
私の旦那様は男前で、とっても可愛くて、とっても強くて、オマケにお肉の解体もお魚捌くのも何でも出来ちゃう頼り甲斐のある男……いわゆる、ハイスペック男子やねん。
……わざわざ、最初に座ってた場所から少しずれて……当たり前みたいに、冷たい潮風の壁になってくれる様な、そんな優しい旦那様。
「……魚、お刺身で……生で食べれるかなぁ?」
「にゃっ!? な、生で、食べると……虫にお腹、食い破られるからっ駄目っ!」
「えっ!?」
オマケに、すっげー物知りやからっ!
色々、安心やろ!!?(涙)
脳内知恵袋で寄生虫の記述(この世界では人の体内で巨大化する寄生虫がいる)を確認。
決して、生食しないと心に誓ってから。
ディルとお茶を飲みながら、遊ぶ幼い子供達を暫く眺めていた。
「……そろそろ、行く?」
のんびり過ごしていると、ディルが懐中時計を確認しながら私の頬を尻尾でくすぐって来た。
青みがかった灰色に黒の縞模様がキュートなふわもこ尻尾を撫でながらディルの手のひらを覗けば、食事が終わってから1時間程休憩してたのが分かる。
「そうやなぁ……おーい、2人ともそろそろ行くよー!」
「……はーい!」
「るぅるるぅ!」
綺麗な貝殻を拾って遊んでいた子供達も、駆け足で戻って来た。
良し。
全員集合。忘れ物、無し!
それでは海底洞窟、人魚の村に出発やな!




