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「ふあぁ……海の匂い、ちょっとするなぁ!」
「りゅるっ!」
「……ルシファーも、……外、初めて?」
「そうみたい。……ちょっと元気になって、良かった」
闇龍との別れの後。
私達はほぼモンスターに襲われる事なく、ルシファーの案内で数日かけてダンジョン≪ルルの壁≫入り口に戻る事が出来た。
……まるでダンジョンと同化した闇龍が、私達を……ルシファーを傷付けない様にしてるみたいやった。
襲って来たのは理性の無い、ゾンビ化した巨大蜘蛛だけやったから。私は余計にそう思いたかった。
外に出た時にはもう夕方だったから、私達は世界樹の老木で囲われた小屋で一晩過ごし、次の日の朝に予定していた人魚の村ローレライを目指して出発した。
本当はルルの町に一度戻ろうかとも思ったけど……ダムルとグラーニャの事があったからなぁ。
また会ったら面倒くさい。
それに、竜の卵が特産品になってる町にルシファー連れて行くのも……ちょっとあれなんで。
日の出ている間に辿り着くだろうと言うディルの言葉を聞いて、食材や備品に不足がない事もあって私達はこのまま人魚の村に続く洞窟へ向かう事にした。
「りゅんるる♫ りゅんるる♫」
ルシファーは今、サーリーの腕の中でご機嫌に尻尾を揺らしてる。
ダンジョンの中ではヨチヨチ歩きを封印し空中に浮かびながら勇ましく、私達の前を進んで道を教えてくれてたルシファー。
……今は甘えたいのか、サーリーにすりすり頬寄せながら抱っこされてる。
それでも目新しいのが気になるのは、赤ちゃんの性みたい。
まだ距離はあるけど、遠い視界に映る海からの潮風に反応して、サーリーの腕から今にも逃げ出しそうや。
「ルシファー、駄目! ……勝手に行って、迷子になったら……マイのご飯、食べられないの。それでもいいの?」
「……りゅる?」
ルシファーはサーリーの言葉に反応し、後ろを歩いていた私の顔をチラ見。
先頭を歩くディルも、私達のいる後ろを振り返りながらくすくすっと笑っていた。
私がルシファーの瞳を見ながら、意識して厳しい表情のまま大きく頷くと大人しくなった。
それは、今日の朝の事。
ルシファーにはお気に入りの林檎とバナナ。
私達はベーコンエッグと甘くないフレンチトースト、アニスさんのコーンスープでの朝食を食べている時。
ディルが少し足りないって顔でしょんぼりしてるから、在庫のあったサンドイッチを差し出した時に……なんとルシファーが、厚焼き卵のサンドイッチにかぶりついた。
「るるるるるぅ!」
「にゃうぅぅっ!」
そして。
ご機嫌に鳴く赤ちゃん竜と、嘆く虎にゃんこの出来上がり。なんでや。
にゃうにゃう悲しげに鳴くディルには、サンドイッチを追加で差し出して虎獣人に戻って頂きました。
どうやら普通の料理も食べられるみたいやから、今度からルシファーにも同じメニューの食事を用意する事に。
……そのお陰なのか。
本来ならご主人様優先のテイム・モンスターであるルシファーは、食材調達するディルと調理してくれる私のお願いも優先して聞いてくれる……らしい。
「マイとディルはサーリーのママとパパと同じだから、言う事聞くって! ……だから、ご飯いっぱいちょうだいねって」
あ、うん。現金なやっちゃ。
そんなこんなで楽しく海に向かって私達は進んだ。
ルシファーとサーリーが途中で駆けっこしたりお花を摘んだり、と多少の寄り道しながらやけど。
そして。
多少雑草で荒れてはいたけど人に整備された街道から、岩や石ころ、砂じゃりの道に変化した所で。
やっぱり現れてしまうのが、海辺のモンスター!
しかも、猛スピードでこっちに近付いてる……横歩きで!!!
「……マイ! サーリー!」
「「はいっ!」」
「りゅるるぅ!」
[ゴールデン・クラブ]
名前の通り、黄金に輝く巨大な蟹。
巨大蜘蛛といい勝負の大きさ。
その大きなハサミは人なんて簡単に真っ二つにするし、甲羅は分厚く生半可な武器では刃毀れする。
相手にするなら弱点の火魔法で、と私が考えた所で。
「……っ」
すぱん、とディルの一太刀で黄金蟹のハサミが1本空中を舞い。
「ごるるるる!」
ルシファーが噛み付き食いちぎった黄金蟹のハサミをがりごりと食し。
「≪フレイム≫!」
サーリーが人の頭サイズの火の玉を飛ばして、モンスターがドロップアイテムに変化した事で戦闘は終了した。
「……あれ?」
私の出番、無かったね?
うん。なかったね(笑)




