表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/149

35

 



 早朝。


 ダンジョン≪ルルの壁≫近くに設置された小屋には、簡易ベッド4つと4人がけのテーブルセット。あと自前の火石(ひいし)を埋め込んで使うコンロがあった。


 前回使用した冒険者が帰りがけに掃除もしたらしく、思ったより綺麗。


 そのお陰もあって、想像よりもしっかり休息取れたから張り切って朝食を作ろうと思う。



 そう。本日の朝食は、関西の冬の定番……うどん!


 いや、年中食べるけど。でも冬の朝にあったかいうどん、私はめっちゃ嬉しいの。ほっこりするの。

 具は我が家の定番に白ネギ、わかめ、卵も落とし入れて……あとダンジョン用のおかずで天ぷら作った時に取っておいた天かすをトッピング!


 これ入れるだけで、味めっちゃ変わる。

 今回は野菜天ぷら、とり天ぷら作った時の天かす。


 ちなみに、私が好きなのは魚介の天ぷらした後の天かす。……イカ天した後の天かすとかめっちゃ美味しいの!


 人魚の村ならきっと売ってるよな、イカ。絶対、お土産で買って帰ろう。

 ……お好み焼きも、食べたいなぁ。イカ玉、ラブ。



「はふはふ……はふはふ」


「はふは、にゃふっ……」



 ……ディルにはちょっと、熱かったかな?

 舌火傷したっぽいディルには、すすっとお茶差し出しといた。でも食べる手は止まらない。

 ……味は気に入ってくれたっぽいから、今度は少し冷ましてから出そう。


 そういえばサーリーはうどん知らんかったけど、ディルは知ってたな。……≪ユートピア≫は勇者贔屓らしいから、お国柄で日本料理流通してんのかな?


 ……ディルの幼少期、城での詳しい情報が分かるまでは向こうの国にも城にも近付きたくないけど。



 ちなみにうどん初心者のサーリーには、うどんは少し短く切ってお子様フォークで頑張って食べてもらってる。

 ……はふはふちゅるちゅる食べてる姿、めっちゃ可愛い。お出汁も美味しいって飲んでくれた!


 サーリーの可愛い顔に飛んじゃった汁をテキパキ拭ってやりながら、私もうどんを啜った。


 ……ありがとう。昔から愛用してる、うどんスープの素!

 今度もお世話になります!



 そんで食後に完熟バナナの輪切り乗せたヨーグルト差し出したら好評やった。果物好きのサーリー用やったけど、ディルは甘いのも好きやからご機嫌に尻尾振ってる。明日は、桃でしようかな?



 さあ、しっかりたっぷりご飯も食べたし。

 本日も≪聖結界≫と≪結界≫の重ね掛けしてから、パーティー≪ニクジャガ≫出発や!




[2日目]




 流石に一晩で地図塗り替えられる程の破壊がなされる事はなく、慎重に先に進んでも3時間程で昨日辿り着いた第2階層終わりに到着した。

 モンスターに遭遇しなかったのも早かった理由やな。



 さあここから、第3階層の始まりや!



 少し長い階段を上った先に広がる空間は、下の階層と変わらないほんのり光る岩壁の道……やねんけど。

 第1・第2階層では所々薄青く光っていた壁が、今度は広範囲で薄赤い光に変化していた。



 下の階層より、ずっと明るい。

 そんで、心なしかあったかい……いや、なんだか暑い?



「……なんか雰囲気、変わった?」



 私の思わず出た独り言に、サーリーとディルは大きく頷いてくれた。



「うん。ちょっと暑い。……あ、ウンディーネがちょっと弱っちゃった……代わりに、サラマンダーがすっごい元気」



 赤い魔力粒が多くてご機嫌に回ってる、と頭上を見詰めるサーリーの言葉に、ディルは岩壁に触れながら納得する様に頷いた。



「……デビルズ・スパイダーが居たから、下の階層は水属性に近かった……筈。でもここは、完全に火属性になってる」


「階層ごとに属性ってそんな変わるもん?」



 なんかのゲームでは、そういうダンジョンも珍しくないけど……。



「……同じ属性のモンスターが大量に住み着くと、その階層だけその属性に染まる事、ある」



 ……第1・第2階層でサラマンダーに異常は無かったらしいから、若干水属性寄りやっただけなんかな?

 そんで今から進む第3階層は、がっつり火属性。モンスターも火属性のが出てくると思えばええんか。



「なら、私とサーリーの出番やな!」



 なんせ私とサーリー、水魔法使えるし!

 そんな、ヤル気に満ち満ちた私の言葉に。



「……俺、水属性の槍、持ってるよ?」



 だから頑張るよ、言いながら。

 ディルはいつもの黒槍から青白く輝く、穂先が3つに分かれたフォークっぽい槍を装備してみせた。


 映画とかで、ポセイドンとかの海のお偉いさんが持ってる槍にそっくりやね。

 ……いやいやそういう問題ちゃう!



「「私達もレベル上げ頑張るの!!!」」


「にゃんっ!?」



 私とサーリーの雄叫びに、ディルは尻尾を膨らませながら怯えた。




 ディルは≪武芸者(スキル)≫の性質プラス、両手に違う武器、今やと槍と大剣を装備したらステータスで力が上がる。だから属性違いで色々集めて、臨機応変に対応してる。


 普段からよく使ってる黒槍は、動物系モンスターに効果的な炎獄の槍と呼ばれる火属性の槍。

 もう1つはギガント・モアと呼ばれる無属性の大剣。この2つを振り回すのが今のお気に入りみたい。



 時間がある時は、大量の武器をまとめて手入れしてんねんけど……これが結構楽しそう。尻尾見たら、分かる。ご機嫌にふりふりしてるから、サーリーと一緒にちょっかい出してる。


 危ないから駄目ってディルは困るけど、可愛いからやめられない。手入れのスピード変わらんしな。


 ディルは……ちょっとした武器コレクターかもしんない。



 まあ、それは置いといて。



「「目指せっディルみたいな凄腕冒険者!」」



 私とサーリーの邪魔は、させない!

 いつも守ってくれてるディルの背中を、今度は私達も守るんや!



「……にゃぅん」



 自分の為に頑張ろうとしてくれてる、大好きな嫁と娘にめろめろになりながらも目立たずサポートしよう、とか無表情で考えてる虎にゃんこが出来上がった事を知ってるのは幼女な神様だけである。





 そして、この第3階層を進む事になった。

 ……私のレベルが低いからか、下の階層よりもちょいちょいモンスターに遭遇し、襲われる様になった。




[ファイア・バットの群れ]




 6体前後の群れで行動する火属性のコウモリ。

 攻撃力はあんまないけど、1度に遭遇する数が多く、小型で素早いのでちょっと面倒なモンスター。



 ディルは私とサーリーを尊重してくれるらしく、率先して前に突っ込まないでくれた。ありがたい事や!



「サーリー!」



 私はツクヨミ様から貰ったマジック・ピストルを装備しサーリーを呼んだ。



「うんっ、……頑張ってウンディーネ! ≪アイシクル≫!」



 私の声に応えたサーリーが、自身の杖をモンスターに向け、そこからいくつもの氷のツブテが飛び出した!


 ≪アイシクル≫はスキルポイント10pで使える様になる、敵6体までに氷のツブテをぶち当てる魔法。

 本来なら子供のこぶしサイズの氷のツブテが、精霊の加護によってディル並み……成人男性のこぶしサイズになってモンスターの群れを襲う!


 モンスターも避けようとしたけど、半分は翼を撃ち抜かれ体勢と隊列が崩れた!



 今や!!!



「属性付加っ、≪スプラッシュ・ショット≫!」



 私の所持武器マジック・ピストルは、魔力を弾丸に変化させ使用し、一発がMP1。


 そして、私が所持してる火・水・聖のいずれかの属性を弾丸に付加すれば、一発MP3でぶっ放せる!


 私が火と水魔法に1pしか振り分けなかったのは、そんな理由もあった。



 ……まあぱっと見、改造されて強力になった水鉄砲みたいやけど気にしたら負け!!!



 それでも私の放った勢いある水鉄砲は、体勢崩したモンスターに見事命中! 致命傷になってドロップアイテムに変化した!


 やったね!



 そんで、サーリーの攻撃を避けて残ってた無傷の半分は……ディルが槍の一振りで、一気にしゅぱっとやっつけてくれた。……むぐぅ。



「むぐぅ」



 ああ、サーリーまで私と同じ唸り方を……うん。

 これは、精進あるのみ!



「次や!」



 ドロップされた素材をしっかり回収してから、私達は先に進んだ。


 道なりに進み、分かれ道も確認しながら新しい地図にも記していく。行き止まりを戻ろうとしたら、モンスターが来た道を塞ぐ様に現れた!




[グレネード・ロック×3]




 別名、爆弾岩と呼ばれる……人の顔っぽいのが彫り込まれてる、人の頭サイズの岩。

 でも失敗した福笑い的な顔のお陰で、美的センスのかけらも感じられない。



 ディルは即座に青白い槍と大剣を取り出すと、私とサーリーを庇う様に立ち塞がった。



「こいつ、瀕死に追い込むと自爆するから……俺が」


「サーリー!」



 優しい、優しい私の旦那様。そんな貴方がとっても大好きやけど。

 でも今日は、私とサーリーの為に鬼になって!!!



「うんっ、一体ずつ確実に!」



 これからも、ディルと一緒に戦っていく為に!

 ディルの背中を、ちょっとでも守れる様に!



「……にゃ、にゃぅ」



 ディルの心配する鳴き声を聞きながら、私とサーリーは前に出た。

 中途半端な攻撃が駄目なら……一体ずつ、サーリーと二人掛かりで攻撃したら何とか倒せる筈やっ!


 やったるでぇっ!!!




[10分後]




「≪スプラッシュ≫!!!」



 最後の一体に、サーリーが精霊に強化された魔法をぶっ放したら、何とかドロップアイテムに変化してくれた。



「やった〜!」


「倒せたなぁ!」



 私とサーリーは、2人で勝利の抱擁をしてからディルに近寄った。



 まぁ、結局ディルがモンスター威嚇してくれてる間に、一体ずつ確実に同時攻撃して倒してったよ!

 まだまだ精進足りないです! 頑張ります!


 ……それに意外にこのモンスター、転がって避けるのめっちゃ上手で攻撃当てるの苦労したし!

 転がる先を予測して攻撃出来る様にならないと。うん。



「……2人共、頑張ったね……いい子いい子」



 う、ディルになでなでされた!

 でも結局、ディルに手伝ってもらっちゃったのに……それでも頑張ったねって言われるの……嬉しい。



「ぐすっ……さあさあ素材拾ってレッツゴーや!」


「「おー!」」



 変な感動で涙滲むけど、この場所は高レベルダンジョン。

 気を抜かずに進もう!



 しかもこの階層、コウモリと爆弾岩が大量発生してるみたいでちょいちょいエンカウントしながら私達は先に進む事になった。


 初めは稚拙と呼べる動作も、少しずつマシになってると実感しながらの戦闘やったと思う。


 一度、塩むすびと酢豚ならぬ酢鳥、あと暑いからって生の果物シャクシャク食べるご飯休憩を挟んでまた進み。


 そして行き止まりを戻っては地図に書き込み、また戻って進むを繰り返し……私達は遂に、上の階層に行ける階段を発見した!



 懐中時計を確認し、モンスターとの戦闘時間も考えると今なら日が落ちる位に外に出られるみたい。


 ここは無理せず、私達は戻る事にした。




 2日目の戦利品。


 銀鉱石、ルルの紅鉱石多数。


 火蝙蝠の翼、火蝙蝠の牙多数。


 爆弾岩のカケラ、爆弾岩の核多数。




 ディルが言うには、そろそろ小屋まで戻らずダンジョンで寝泊まりするかもやって。


 ディル1人ならまだしも、私とサーリーが一緒だと戻るのにも時間掛かるし。


 それにせっかく作った地図が、大型モンスターが暴れて意味なくしたら大変やもんなぁ。時間は有限や。



 明日からは、ダンジョン内での野宿……頑張らないと!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ