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朝日がやっと昇って来た早朝。
私達は、≪ルルの壁≫攻略の為の第一歩を踏み出した。
ちなみに、現在の私達のステータス。
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●谷山麻依 (マイ)
●レベル:20
●MaxHP:710
●MaxMP:1200
●力10
●魔26
●守30
●護30
●早13
●運40
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●サーリー
●レベル:12
●MaxHP:130
●MaxMP:1600
●力1
●魔50(+10)
●守1
●護30
●早9
●運55
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●ディルムッド
●レベル:69
●MaxHP:1850
●MaxMP:700
●力88(+70)
●魔51
●守79(+20)
●護51
●早81
●運62
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うん。
地道に成長中の私と、エライコトナッテル可愛い娘。
サーリーの偏り方、はんぱねぇっす。
さ、流石は魔法ステータス高いダークエルフ……魔法以外は殆ど上がらない。物理方面がマジで紙やな!?
……私が側に居ない時……≪結界≫無い場合を考えてモンスター≪テイム≫しとくのは正解やな。護衛、絶対必要。
そんで、何気にディルのレベルも上がってる。
……1人で高ランク依頼無双してた時期あったからかな?
脳内知恵袋だと、高ければ高い程……特にレベル50過ぎた辺りからかなり上がりにくくなるらしいのに……1人でアンデッド・ドラゴン倒したのが効いてる?
実は今、私は自分のステータス確認出来るのと同様に皆のステータスも確認出来る。
……それは、ギルドに支給された腕輪と首飾りのお陰だったりする。
パーティーメンバーに渡される、腕輪と首飾りに取り付けられる魔石……あれ実は、充填する魔力が増えれば増える程、情報を相手に伝えてくれる仕様になってた。
初めて組んだばかりの時、充填される魔力は少ない。
でも冒険の中、パーティーの絆が深まっていけば行く程……側で戦い、守り、魔法を使う程に周囲の魔力を取り込む。
腕輪と首飾り同士で共鳴し、戦闘時のリスクを減らす為の情報を徐々に公開していく。まさに、信頼の証。
それがあの腕輪と首飾りのポテンシャル。
……なんとな〜く便利とか言って、すんませんでしたっ!!!
私達はダンジョン前にある小屋の1つに、使用中と書かれた紐のついた引っ掛けるタイプの小さな看板をドアノブに取り付けた。
これで一応、この小屋予約済みですよ〜となる。
……まぁもし、マナー違反の誰かが使っちゃってももう一軒小屋あるしね。そん時にまた考えたらいいね!
「そんじゃあ行くよ〜。……≪聖結界≫&普通の≪結界≫!」
私の掛け声と共に一瞬だけうっすらと光る私達の体。
≪聖結界≫でおよそ12時間は大体のモンスターは襲ってこないし、≪結界≫で一撃必殺レベルの攻撃10回は防げる。一撃必殺以下なら、私の意思で解除しない限り丸一日は持続可能!
……これも最近、ツクヨミ様が教えてくれてんけど。
≪聖結界≫……やっぱり私のレベルがまだ低いから、高ランクモンスター、特に物理より魔力系高いモンスターには見つかる可能性があるらしい。
最初に降り立った≪ヒヒの森≫は、今ゾンビモンスターばっかで知能も魔力も低いから大丈夫やってんけど……言うの、遅い。
サーリーも居るのに、知らんかったらなんかの時、危ないやん!
……まぁ、それでも無いよりはマシやから使うけど!
普通の≪結界≫と重ね掛け可能なんで、もしもの時も大丈夫。
今回は討伐目的やなくて、サーリーの護衛……戦力増強がメインやしね!
「よし。……今回、どんくらいダンジョンに居る事なるか分からんから、≪聖結界≫維持のためにも私のMPは温存しつつ進むからね。メインアタッカーお願いね、ディル!」
「うん!」
頼もしい私の旦那様は、可愛い破顔でサムズアップしてくれた。
しっかり体を休めたらMPも回復するけど、ダンジョン内だと満足な休息は取れない。
最初は入り口まで戻ってこれるやろうけど、後半はダンジョン内で寝泊まりする予定やし。
≪結界≫は使用MP半減のお陰で1人MP25。3人分でMP75。
≪聖結界≫は12時間で切れちゃうから、ダンジョン内で寝泊まりするとなると2回発動させる事になる。使用MP半減しても1人MP50使うから、3人分でMP150。つまりMP300になる。地味に使う。
しかもこれ、≪結界≫再発動しないでの話。
……戦闘始まったら攻撃もされるやろうし、魔法に銃にMPも使うし。
……回復とサポートが私の役割や。絶対怪我させへんし、しても直ぐに治したる!
アイテム使用も今回から解禁や!
笑顔の増えた旦那様を見詰めながら決意を新たにしてると、サーリーに私のローブをくいくい引っ張られた。
「私もっ、私も頑張る!」
魔法使いの定番、トンガリ帽子と魔女っ子ローブを着込んだプリティー・サーリーに……私は脳内でノックアウトされた。
「……うんっ。今回はサーリーが頑張らなあかん所、いっぱいあるからな。まだ難しいかもしれんけど……皆で一緒に、頑張ろうな!」
「うん!」
サーリーの力強い返事を聞いてから、私はディルと視線を合わせた。
「よっしゃ! ……そんじゃ、パーティー≪ニクジャガ≫出発や!」
「「おーっ!」」
Sランクダンジョン≪ルルの壁≫、いざ攻略!
[1日目]
岩山の入り口に入ると、入り口から差し込む光とは別に薄青く発光する岩の道。岩壁に含まれてる鉱石の1つが発光してるみたい。
洞窟全体がぼんやり光ってて、幻想的や。
其処彼処からモンスターの気配はするけど……でも≪聖結界≫のお陰か、一定距離より近づいてこない。
無駄な争いは望んでないので、警戒は怠らずに私達は前へ進んだ。
隊列は前衛、ディル。中衛、サーリー。後衛、私。
まぁ後衛と言っても今はサーリーの隣に並んで進んでる。戦闘になったら場所ズレるけど。
取り敢えず戦闘も無く、サクサク順調に進む私達。
冒険の大先輩であるディルに教えられながら、≪鑑定≫した鉱石をいくつか拾いつつ地図を確認しながら進んで行くと……。
「この道……崩れてる」
「この先が、上の階層行く道やったん?」
「……最短ルート、だったけど……道が潰れてる」
本来なら、3つに別れてた細い道の1つから上の階層に行ける階段があった筈やねんけど。
……全部崩れて、ちょっとした映画館の上映ホール並みの広場になってる。
天井たっかいなぁ……いくつかの階層ぶち抜いてるな、これ。
魔力の含まれた岩と鉱石で出来てる山やから、突然の崩落とかでは崩れないらしい。
……上の階層、もしくはこの場で大型モンスター暴れたってなら、話は別やけど。
「…………ここで暴れたの、何匹かの飛龍だって」
サーリーが吹き抜けの天井を見ながらそう言った。
「サーリー、分かるの?」
「うん。精霊達がそう言ってる」
成る程。
この場に残ってるマナで、モンスターの種類が分かるのか。精霊、凄い。
「ぁ……鱗、落ちてる。……これ、飛龍のだ」
そう言ったディルの手のひらには、薄紫色の綺麗な鱗があった。とても薄いけど、私の手のひらサイズ……なら持ち主も結構な大きさや。
竜種には2つあって、1つはRPGでお馴染みのドラゴンタイプ。背中には大きな翼、トカゲっぽい長い尻尾。
前足が翼になってるのとかもいるらしいけど、総称してどちらもドラゴンって呼ばれてる。
もう1つは、日本や中国で描かれる龍タイプ。
蛇みたいに長い胴体に小さな前足と後ろ足があって、翼は無く魔力で空を飛んでる。
こっちは飛龍って呼ばれてる。
……イメージはドラゴンが防御特化、飛龍が攻撃特化と思ったら良いかな。
勿論ドラゴンの方もブレスが強力やし力も強いけど……特筆すべきなのはその頑丈さ。剣も魔法も中々通さない鱗でその身を守ってる。
だからドラゴンの鱗や角、爪や牙を鎧や盾に用いれば、剣はおろか、かなりの魔法攻撃を防げる装備になる。
そんな、モンスターで上位に位置するドラゴンの素材はそれだけ貴重なんや。
モンスターは倒したらドロップアイテムになっちゃうけど、ドラゴンや飛龍みたいな大型モンスターは攻撃の最中に鱗や爪を剥ぎ取ったらそのまま素材として手に入る。
ドロップアイテムになっても最低3つ、多くて6つくらいになる。これは飛龍も同じ。
飛龍の方は頑丈さには負けるけど、魔力量が多く吐き出すブレスの威力が凄まじい。ドラゴンの鱗も飛龍のブレスには辛いものがあるねんて。
そして、自身のブレスを浴びてビクともしない飛龍の角と牙と爪は、武器の素材に最適。
鱗は薄く綺麗なのもあって、御守りやアクセサリーに使われる。
ドラゴンスレイヤーを自称するパーティーの武器や装備は、竜種の素材を用いてる。
竜種を倒すには、同じ竜種の装備で。RPGの世界やな!
「紫の鱗……闇龍かな」
名前の通り、闇属性の飛龍の事。
「う……闇龍は、一番攻撃されてるかもって……死んじゃってるかも、しんないって……」
サーリーは、少し悲しそうにディルの手のひらにある鱗を眺めた。
相手はモンスター。危険は少ないに越したことはないから、同士討ちでも構わないと私は思ってるけど。
……でもここに居る竜種は、子育てに来た、親でもある。
当然、幼い子供が居る筈や。
「……行こう、サーリー」
「……うん」
私はサーリーの背中を押して、先を促した。
あらかた広場の探索を終えて一度休憩にして、お昼ご飯はディル希望の鳥じゃがをおかずに塩むすび食べて……サーリーが、ディルと同じキラキラした顔で食べてくれたのが嬉しい。ちょっと浮上したかな。
そういえば……最近気付いたんやけど。
どうやらこの世界の味付け、私やディル、サーリーには濃い味付けらしい。
たまに食べる分には、私は美味しく頂ける。ちょっとした外食気分になる。
でもずっと食べ続けるとなると……多分、胸焼けする。
うーん。何年か前の欧米の食事に似てるの、かな?
塩っ辛いのは香辛料バッチリで塩っ辛く、甘いのはめっちゃ甘く……日本食のあっさりした出汁味、うっすらな塩味、控えめな甘さが、無い。お出汁の概念、無い。
全部が極端やった。
……パンは香り高くてすっごく美味しいし、濃いめのスープに浸して食べたら抜群に合う。
ディルとサーリーも、アニスさんのパンとコーンスープ大好きやし。
でも、おかずが……うーん。
しかもこの世界、お米あるけど日持ちする非常食って認識が強くて安く買える。10キロ2000円は安い。……日本産のお米、5キロで2000円前後が殆どやのに。高いのもっとするのに。
安いのは、嬉しいねんけど……ただの非常食扱いは、複雑。白米は、大事。
……私のメルヘンとファミリーゲット出来た裏側に、味覚の差は関係あると思う。
「……やっぱりご飯は大事やな!」
餌付けの重要性を再確認した私の目の前には、口におかずを詰め込み首をかくかく何度も振る2人が居た。
「……返事は、飲み込んでからでええから」
「「ふぁい」」
もぐもぐ口を動かす2人にお茶を差し出しながら、私もおにぎりを頬張った。
そんなこんなで食事の後、見つけていた上の階層へと続く階段を上って先に進む。
この時で、≪聖結界≫が切れるまであと5時間。
便宜上最初を1の階層、今いる上の階層を2の階層とする。
2の階層は、おそらく15枚あった地図の4つ目か5つ目に該当すると思うんやけど。ややこしいのでこの地図は片付けて、と。
新たに地図を作成しながら進んで行くと……。
「…………っ、マイ。サーリー。……俺の後ろから、出たら駄目」
「……え?」
道を曲がっては行き止まりを繰り返し、丁度4回目の行き止まりでディルが止まった。
「ディル?」
「あの壁……っデビルズ・スパイダーか!」
ディルがかつて無い大声を出しながら大剣と白銀の大きな盾を手に持つのと、目の前の岩壁から大型バイク並みの巨大蜘蛛が突然現れたのは同時だった。




