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臨時投稿です。
評価や感想、ブクマありがとうございます!
時刻は夕方6時過ぎ。
先週よりマシと呼べるけど、それでもまだ寒い。
この世界では陽期(春と秋)・熱期(夏)・寒期(冬)の順番で3つの季節に分かれてて、一年を12ヶ月、4ヶ月ごとに季節が変わっていく。1ヶ月は30日。
熱期と寒期の境目は分かりやすく、時期になると力ある風の精霊が大型台風の様に乱風を巻き上げながら全世界を走り抜けるらしい。
1週間掛けて3つの大陸を横断し、暑い熱期から寒い寒期へと切り替わる。
ちなみに≪デカラビア≫の世界樹の葉は、この季節の変わり目に起こる乱風で飛ばされるらしい。
あ、定期的に勇者が来てるから、春夏秋冬でも通じるみたい。
そして夏至や冬至と言った日は無く、日照時間は日本の夏場の様に長い。
私が冬真っ只中から来たせいもあるけど、冬並みに気温低いのに夕方6時で夏場と同じ明るさ……違和感が中々消えへん。
ルルの町に到着した私はディルとサーリーに手を繋がれながら、乗合馬車の親子と別れた。
そして本日の宿である『龍眠亭』に辿り着くまで、空を見上げながらそんなことを考えていた。
ルルの町唯一の宿『龍眠亭』は、木材と魔力が混ざったレンガで作られた宿屋。
1階が食堂兼酒場で、2階と3階が宿泊施設になってる。
ちなみにアニスさんの『猫髭亭』は2階建て。
そんな『龍眠亭』にやって来た私達は、ディルが事前に連絡していたらしく家族向けのちょっと広めの部屋にスピーディに案内してもらえた。
電話の無いこの世界での遠方との連絡方法は、500〜1000ギル支払ってそれぞれの町で飼育された伝書ハヤブサ(異世界仕様で戦闘力あり)や道具屋で買える自立式のお手紙セット(相手の顔思い浮かべながら名前を書くと透明な折紙の鶴になって飛ぶ)を使うのが一般的。
距離によって数日から1週間掛かる。
緊急ですぐ返事欲しい場合は、1万ギル位支払ってギルドや教会に設置されてる魔法の水鏡(全国それぞれのギルドと教会に繋がってる)を使うって方法もある。
ギルド職員に本人呼んでもらって、相手と直接会話出来るからまぁ安心かな。
会話が長くなったり、相手方が身分のある人で呼び出すのが大変な場合だったりすると手間賃として追加料金が加算されるけど。
……教会にしたら寄付やお布施と同じ立派な収入源なんで、それぞれの町のギルドより相場を下げて利用者増やしてるみたい。
今回ディルは伝書ハヤブサを使って、お宿からのお返事もちゃんと貰ったので抜かりはない。お返事のハヤブサ代は宿賃に含まれるねんて。
流石ディル。旅慣れしてる。
「私、こういう予約とか段取りちょっと苦手やったからホンマ助かるわぁ。ありがとう、ディル」
「ディル、いい子いい子」
私の感謝の言葉とサーリーの頭なでなでを受けて、ベッドの硬さ確かめる為に屈んでたディルは嬉しそうに頬を染めた。
うんうん。流石、私の旦那様。可愛いのに頼りがいある!
「……さて、それじゃ下に降りよっか!」
今回のお宿は半日の休憩扱い……夜中に出発するから、ささっとご飯食べて休まないといけない。あと頼んでた荷物も受け取らないとだし。
今回、ダンジョンで活躍する予定なので私の作ったご飯はお休み。
部屋の確認が終わったら、夕食は宿の食堂で済ませる事になってる。
「「……は〜い」」
そして。
あんまりにも残念そうに返事をした2人が、それ以上何も言わんと部屋を後にした。
部屋に取り残された私は……そんなに私のご飯、食べたかったんか……とか考えちゃって。
……も、もう。しゃーないなぁ。
それなら、関西人が好きなフルーツいっぱい入れたミックスなじゅーちゅ作ってあげるやん!
私の≪アイテムボックス≫の中に、ミキサーあるし!
いや、実は……ツクヨミ様のご好意で小型の電動調理器具、私の魔力で使用可能になってん!
これで、生クリーム泡立てるハンドミキサーも使えるし!
シフォンケーキの生クリーム添えも、正義やんな!
……あ、流石に電子レンジと炊飯器は無理やった。あそこまでの精密機械は爆発する可能性あるねんて。
モーター動かすだけのミキサーなら安心して使えるから、夕食後ディルがシャワー浴びてる間にサーリーと一緒にミックスなじゅーちゅを作ろうと思う!
サーリーが好きやからバナナやら桃やらオレンジやらの果物ストックは多いから、そこは安心。
サーリーと2人で皮剥いて適当な大きさに切った果物をミキサーの中に入れて、牛乳を注いで、と。
ここで最後に大事な材料、氷がない。
あのしゃりしゃり感が好きで、夏でも冬でも家で作る時は絶対入れてたけど……まあ今回は、無しでもいっか。
このままスイッチ押そうとしたら、脳内でツクヨミ様から『……今度、サーリーにそのじゅーちゅ持たせてくれるなら氷あげるぞ?』とお声がかかった。
……はっはっはっ。まさかの氷、ゲットだぜ!
よしよし。それでは全ての材料を入れて、と。
私がコンセントを、サーリーがミキサーの蓋を抑えた状態でスイッチオン!
電源が入り、がりごり氷を削りながら攪拌されるじゅーちゅ! 感動や!
「おお〜!」
サーリーのキラキラとした興奮顔も、また可愛い。
連続でモーター回しすぎると熱持って怖いから、スイッチのオンオフ切り替えながら攪拌すれば完成!
出来上がりを2人でちょっぴり味見したら、果物の甘酸っぱさと牛乳のまろやかさ、そんでしゃりしゃりとした口当たり。完熟したバナナと桃入れたから、砂糖無しでもうまうま!
約束通り、蓋付きのコップにツクヨミ様の分を取り分けて、シャワー上がりのディルにじゅーちゅ差し出したら……笑顔で擦り寄られながらのぺろぺろ頂きました。
幸せやけどディルが上半身、裸!
サーリーも一緒に寝るようになってから、服着てたのに! 突然のお色気禁止! 心臓に悪い!
私とサーリーもシャワー浴びてからるんるん気分でじゅーちゅ飲んで、これから向かうダンジョンの地図や道具の確認してから早めの就寝。
いつもと同じ、サーリーを真ん中に3人並んで川の字になるとすぐに睡魔がやって来た。
数時間後。
朝日にはまだ遠い深夜に目覚めた私達は、ダンジョンに向かう為宿を後にした。
ちなみにサーリーはまだ寝ぼけてたので、ディルにおんぶしてもらって移動。
来た時と同じ町の入り口に止まっていた、予約していた深夜馬車で私達はルルの町を出発した。
しばらくしてサーリーが起きたので、≪アイテムボックス≫から朝食としてサンドイッチ(厚焼き卵とハムチーズ)とアニスさんのコーンスープ、あと残ってたじゅーちゅを飲み食いしながら馬車で揺られる事およそ3時間。
空も少し明るくなった所で、≪ルルの壁≫洞窟前に到着した。
平原に突然現れた様な岩壁が、ちょっと異様やな。流石ダンジョン、怪しげや。
このダンジョンは冬の時期だけとはいえ、冒険者の出入りが激しい。入り口前には冒険者用に解放されてる小屋と広場があった。
広場と小屋を囲むように柵があって、御者の話ではその柵には世界樹の老木が使われてる。
この周囲なら、そこまでモンスターの心配しなくて良いんやって。
それにしても……確かに壁やわ。ホンマに真っ直ぐ垂直の岩山なんやなぁ……天辺、雲ん中で見えへん。
脳内知恵袋によれば、標高およそ3500メートル。富士山よりちょっと小さい位やな。
……道に迷わん様に、気を付けないと。
実はディルと出逢った≪ヒヒの森≫にはある程度書き込まれた地図があるらしいねんけど、≪ルルの壁≫内部の地図は毎年新しく作られるらしい。
……結構、親達のバトルが激しいらしくて。だいぶ地形変わるんやって。いや怖いわ(涙)
一応、地図は手に入れて来たけど……まあ、頑張ってみよう。
これが私達の、がっつり本格的な初ダンジョン攻略になるんやし!
ちなみにマイの所持品の中に、スマホはありません。
さすがに文化レベル違いすぎるのと、調理器具の様にこっそり使わないで外でガンガン使っちゃうのが目に見えてるのでツクヨミ様が預かってます。
ツクヨミ様が、こっそりサーリーとディルとマイをぱしゃぱしゃしてるのは、内緒です。




