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説明が少し多いです。

それでも宜しかったらどうぞ


 



 ガタゴト馬車に揺られること、およそ半日。


 昼過ぎには双子冒険者、カールとキールが目指していたダンジョン近くにある宿泊施設前に到着した。


 数人の冒険者が遠目に見える。双子の依頼品は、そのダンジョン固有のモンスターのドロップアイテムやねんて。



「ちくしょー覚えてろよーっ!!!」


「俺達だって勝ち組になれるポテンシャルあるんだからなぁぁーっ!!!」



 乗合馬車から降りた双子の雄叫びを背中に感じながら、私達は他に乗る人が居ないのもあってさっさと出発した。


 このままモンスターに出会わなければ、今日の夕方には私達の目指す町に何とか辿り着く予定や。



 御者の人にも頑張ってもらおうと、昼食にはサーリーとディルにも手伝ってもらった鶏そぼろのおにぎりと、細かく切った野菜の入ったオムレツとタコさんウインナーをお裾分けした。サーリーとディルが気に入ってるので、ここ最近の定番お弁当メニューである。

 ちなみに私1人だったら、だし巻き卵の一択。


 おにぎり初心者のサーリーも頑張ってくれてんけど、小さかったり形が歪なのも混ざってるのは、まぁご愛嬌って事で。


 おにぎりを頬張りながら、そういえば活性化してる割にここまでモンスターが現れなかったのはなんでかなぁ、と私はぼんやり考えてた。



 その答えは、乗合馬車の御者である犬獣人アルファさんと、10歳になる息子のイルファくん親子が教えてくれた。



「この馬車は一部だけど、役割を終えた世界樹の老木が使われているんだ!」


「うちはひいひい爺さんから乗合馬車で各地を移動し続けててなぁ、代々この馬車を受け継いでて……俺の次は、倅とその嫁さんに渡す予定さ」


「へぇ〜!」



 この世界でも、万能薬として名高い世界樹の葉……あと数分で息を引き取るだろう相手の傷、欠損さえ完璧に直してしまえる超が付く上級アイテム。


 それぞれの大陸に一本ずつある世界樹は、存在するだけでモンスターを遠ざける聖なる木で……お城のあるような王都の敷地内で管理している分は、王族が管理し功績を挙げた人に褒美として渡さない限り出回らない。



 ……一般庶民に出回ってるのは、王都と呼べる場所の無い獣人の国≪デカラビア≫だけ。

 ≪デカラビア≫では世界樹は聖域として神聖視され、人の住まない樹海の中心に存在しているのも理由みたい。


 モンスターの存在しない聖域の樹海は、方向感覚が狂う様に魔力が満たされている。空から行こうとしても、樹海の上空に来た途端墜落するらしい。


 そんな訳で、≪デカラビア≫の世界樹見た人は居ないっぽい。


 それぞれの大陸中心に存在する世界樹には枝が500本あり、毎年冬の時期になったらその内の枝一本分の葉を落とす。


 これが世界樹の葉。


 枝一本分は大体1〜3枚。死者蘇生の魔法が無いこの世界では、多いと呼ぶべきかな。

 他国はしっかり管理してるみたいやけど、≪デカラビア≫の世界樹は樹海の中心に存在する為、風の精霊が起こす乱風に乗って遠くに飛ばされる。


 ……見つけられるかは、運次第。


 これを500年繰り返すと枝から葉は無くなり、同時に幹の外皮がぼろぼろ剥がれ落ちて世界樹は()()する。



 剥がれ落ちた外皮は世界樹の老木と呼ばれ、ある程度のモンスターを遠ざける能力を持った上級アイテムになる。

 重要な施設や開拓済みのダンジョンなどの休憩場所の材料として重宝し、貴族や力ある商人の呼び掛けでアルファさん達みたいな贔屓にしてた乗合馬車で生計を立てる人に売る場合もあったみたい。



 剥がれた外皮の下からは、栄養が潤沢な世界樹の幹が現れる。正しく復活、再生や。


 なので1年後の次の冬には、また生えて来た枝一本分の葉を落としてくれるねんて。500年間、またこの繰り返し。



 ちなみに私達の暮らしていたサルーの町は≪デカラビア≫の世界樹からみて南西にあって、そこから更に南西に進むと≪ヒヒの森≫がある。


 ……実は森を抜けた先の断崖絶壁に≪デカラビア≫の政を執り行う6つの族長の1つ、鷹獣人の集落があるねんて。



 そんで。

 今私達が向かってるのは世界樹からみて南東にある、≪デスペリア≫との境界線にもなってる人魚の住む村……の手前にあるダンジョン。




 数ヶ月、冬の時期だけSランク(レベル80相当)ダンジョンになる、その名も≪ルルの壁≫


 壁の様に垂直にそびえ立つ岩山で、洞窟が入り口になっていて中から攻略していくダンジョンらしい。


 ……どうして、ルル、なんて可愛い名前が付いてるのかというと……。



 なんとこのダンジョン。

 ドラゴン・飛龍の総称、竜種が子育てスポットにしてるダンジョン。

 産卵期である寒い時期になると、ルールー鳴き声が聞こえるねんて。


 ……しかも、竜種って縄張り意識強いみたいで。

 場所を取り合った戦いの末、同士討ちになって赤ちゃんや卵を置いてけぼりっていうのがあるらしい。



 竜の卵は超高級食材で、1個あったらいい感じの家が建つくらいのお値段。……今の時期にしか出回らない、貴重品。


 ……親がいたら、普通襲われるからね。

 ……襲われていないのは、その親がもう居ないって事。


 あと1ヶ月もすれば、冬も終わる。

 今年の卵ハンターも既に仕事終わってる筈やから、タイミングとしては今しか落ち着いて探せない。



 そう、私達の狙いは……親の居なくなった、既に生まれてる赤ちゃん!



 赤ちゃんでも竜種……卵ゲットよりもハードルがかなり高いから、攻撃されない限り冒険者達もほぼ放置するらしい。


 相性の面は、ほぼ全属性待ちのサーリーに死角無し!


 なのでひとりぼっちになってる、可哀想な赤ちゃんモンスターを≪テイム≫しようって話で纏まった。



 将来大きくなって、空も飛べる……サーリーの希望に、竜種はぴったりやし。

 ……もふもふ好きの私はちょっぴり残念やけど、それはそれ!



 それに……1人はきっと淋しくて怖いから、と言ったサーリーの情け深い所っ、嗚呼尊い!


 ディルと2人で撫でて抱き締めて娘を可愛がりました。



 御者の親子と色々話しながら、双子と別れてからも馬車に揺られる事数時間。


 空が少し薄暗くなって来た所で、視界の先に町の並びが見えてきた。




「……あの町が目的地?」


「そう、ルルの町。……卵とかは、あそこに集められてから売られていくの」



 サーリーの言葉に、アルファさんが鉱石も多く取れる≪ルルの壁≫のお陰で、武器や防具、道具の種類も豊富なんだと教えてくれた。



「……そうなんや〜。人魚の村は……えっと、あっちの方角?」



 地図とにらめっこしながらディルに聞けば、彼は頷きながら地図上の今いる場所から海の部分までを指を滑らせた。

 ≪デカラビア≫は上から押し潰された様な星型の大陸で、星型の丁度右下にある出っ張りと、綺麗な正三角形の出っ張り部分の重なる場所でディルの指は止まった。




「うん。……ルルの町からだと……少し遠いの。≪ルルの壁≫からなら、歩いても1時間位。……波打ち際にある洞窟進むと、ある。……そのまま、海底洞窟の中通ったら≪デスペリア≫に行ける」



 このディルの説明に、私は待ったをかけた。



「えっ洞窟の中なん!? ……てっきり、海中にあるんやと……」


「……息、出来ないよ?」



 いや、そうでしょうね!

 ……某海賊漫画みたいな感じに、海中にふわっとあるイメージやったのに。ちょっと残念。


 私が落ち込んだ様に見えたディルが、どうしようかと忙しなく尻尾を振り始めたのが分かった。



「洞窟って言っても、とってもとっても広いのっ。ディルの何倍も上に天井があって、()の所は海に住んでる精霊が永久氷河の氷をはめ込んでて、昼間はキラキラ光って綺麗なの!」



 最近通って来たから知っているのだろう、ディルの膝の上でサーリーが笑顔で語ってくれる内容にちょっとワクワクした。私も現金や。


 洞窟だから暗くジメッとしてるのかと思ってんけど、ちょっとした観光スポットみたいやな。

 ……帰りにちょこっとだけ、寄ってくんないかな?



「……ね、ディル。私も人魚の村行ってみたいって言ったら……困る? ……帰ったら高ランク任務、溜まってるかなぁ?」



 私とサーリーに付き合ってくれてるので、現在ディル指名の高ランク依頼は他の町にいる高レベルパーティー数組に回してる。

 ディルと何度か依頼で一緒になった事のある、信用出来る力ある冒険者達だって双子もアニスさんも言ってた。


 ディルを騙すのは中途半端な実力しかない小物達だけで、ちゃんと相手の能力を理解出来る強者達は、むしろディルを尊敬してる。


 なので、珍しいディルの頼みを喜んで聞いてくれてるらしい。


 ……まぁそれでも、後から一部に色々言われて絡まれた事があった。


 それで一悶着あって……実は、ディルとはそれで一歩前進した事もあってんけど。


 ずっと周りに頼る訳にもいかんし、サーリーの護衛ゲットを機に、私達も一緒にディルの高ランク依頼受けようって話になってん!



 これから忙しくなるし、最後の休暇っぽいモノとして人魚の村行くの……駄目かな?

 私の伺う視線に、ディルは最近良く浮かべる、優しい微笑みで頷いてくれた。



「良いよ。……サーリーも、良い?」


「うん! 優しくしてくれた精霊さんに、お礼言いたい!」


「じゃ……終わったら……人魚の村案内……マイに、出来る?」


「出来るー!」



 サーリーの元気な返事を聞いて、私の小さな胸は高鳴った。

 ああ、私の旦那様と娘やっぱ優しいっ、可愛いっ、めっちゃ好き!



「2人とも、ありがと〜!」



 腕を限界まで伸ばして2人まとめてぎゅむっと抱き締めると、可愛い旦那様と娘からの「にぱ〜」を頂きました。


 ああ私、幸せ!!!




「……双子のにいちゃん達の言いたい事、ちょっと分かる」


「はっはっはっ。お前にもツガイが出来たら分かるさ」



 暖かく見守ってくれる犬獣人の親子のツッコミと笑い声を聞きながら、馬車はルルの町へと向かった。





次回は、本編ではなくマイの言っていた一悶着話です。


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