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サーリー希望の空飛ぶモンスターをゲットする為、私達は数日使って受けていた依頼や旅支度の段取りを終え、サルーの町を出発した。
行って帰ってくるまで、寄り道等も考慮して1ヶ月を予定してる。
アニスさん達大人組(双子は除外)にもお土産を約束して、それから細々としたお願い事もこっそりしといたので……まあそれはおいおい。
……ディルとサーリー、喜んでくれるかなぁ?
るんるん気分で、私達は乗合馬車で目的地に向かった。
ちなみに、最初はディルからの提案で高速移動……あの、街道にへたり込むほどの恐怖を感じた、あの移動にすると言われたのをサーリーと共に断固拒否したので乗合馬車での移動。
お金は大事。節約も大事。
でも、マジであの高速移動は心臓に悪い。
……輪ゴムでバンジーしてるみたいな気持ちって言ったら、伝わる?
「……でねっ……あ。マイー、聞いてるのー?」
色々思い出してると、隣で座っていたサーリーが頬を膨らませていた。
危ない、拗ねる一歩手前や。
「ごめんごめん。えっと……?」
「……インコの……シルフの話」
私の助けて視線に、ディルはそう言って教えてくれてんけど。
「しっ! ……インコみたいな姿。……みたいな姿なだけ。……細かい事気にし過ぎるタイプだから、言葉に気を付けてね」
「「は、はい」」
サーリーの剣幕に、私とディルは神妙に頷いた。
サーリーは自分の友達である精霊達を紹介したいらしく、食事中と移動中には色々と教えてくれる。
それと言うのも、最近になって同じ様な言葉を発していた精霊達に、なんと個別で性格らしきものが現れ始めたんやって。
話を聞いた、私の感想は……。
火の精霊サラマンダーは、おっちょこちょいな男の子。弟タイプ。
水の精霊ウンディーネは、普段はクールで中身はホットな女の子。皆のお姉ちゃんみたい。
風の精霊シルフは、浮き沈みの激しい中二びょ……げふんげふんいやちょっとネガティブな女の子。
土の精霊ノームは、おっとりのんびりしてる男の子。
最後の闇の精霊は……何と、サーリーに恋しちゃってる男の子!
サーリー曰く、甘えんぼな所がディルに似てるらしい。ちなみに姿は黒い蛇。
……サーリーも、満更じゃなさそうな感じやねんなぁ。
私がそう思っている、今この時も。
私とディルの間に座っていたサーリーは、自分の首を撫でながら笑ってる。
「……ふふ〜」
「……今日も、甘えんぼ?」
「うん! 私にくっ付くの、安心するんだって」
蛇の姿なのを良いことに、闇の精霊さんは暇さえあればサーリーの首に首飾りヨロシク巻きついて離れないらしい。
他の精霊達も、ヒューヒュー口笛鳴らしてるねんて。
うん。周囲にも公認されてのラブラブっぷり。
実はエルフとダークエルフは、精霊と人の間に生まれた子供が起源とされてる。
精霊が強く、大きくなったら子供も作れるらしい。
オマケにサーリーは、精霊に愛される体質……まだこんなに幼いのに、早くも旦那様候補が現れてしまった。
「そぅ……なの…………みゃぅん……」
そんな娘を、盗られた様に感じちゃってる虎の旦那様。悲壮な表情と鳴き声で、哀れ感満載である。
……このさみしんぼめ。もう、しゃーないなぁ!
「……サーリー」
「はーい」
私の声に、心得たとばかりにサーリーは馬車の座席からディルの膝の上に座る場所を変えた。
勿論、彼の腕をシートベルトにするのも忘れずに。
スライド式に私がディルの隣に移動し、腕を絡ませながら私が密着するとその顔は真っ赤になった。
犬獣人のポルクさんに、獣人の男は嫁と子供に触って触られてが大好きなので、喧嘩しても抱き着いたら仲直り出来ると教えられている。
落ち込み気味にも、効果バツグンやな!
可愛い姿に上機嫌になった私は、自分の頭をディルの肩に預けた状態で言ってやった。
「もう、淋しがりやの旦那様やね〜」
「ね〜」
私とサーリーがディルにすりすり擦り寄って笑えば。
「……へへ」
幸せ感じちゃってる「にぱ〜」を、ゲットだぜ!
うんうん、私は満足や!
「え何これ何それマジかよツライ」
「独身にツライ世の中……滅びろ」
そんな不穏な言葉を口にしたのは、パーティー名≪ツインズ≫のカールとキール。
依頼の関係で途中まで同じ馬車での移動になった双子が、血反吐吐きそうな顔してるけど。
気にしたら負け。何故なら、お仕置きを兼ねてるから。
私の旦那様に、けったいな本片手にお勉強会した双子には良い薬や。うん。
まあ本人達は? 善意って言ってるけど?
……特殊性癖満載な教本でのお勉強会って、善意なのかなぁ?
未だに双子を見ると、ほんのちょっぴり殺意が芽生えそうになる時がある。
一週間くらい前、ディルに「「男同士の話し合い!」」とか言って朝から連れ出したのはあの双子やった。
長い事離れてたけど、同郷で、ディルも気を許す幼馴染みたいな存在やからな。交流は大事や。
昼食終えてサーリーがお昼寝始めた所で、神妙な顔でディルが帰って来て……。
思ったより早いなぁとか思いながらディルに昼食差し出そうとしたら、ばさっと。
ディルは、私に向けて本を開いて見せた。
「……これ、必要って……カールと、キールが……マイ、どれが良い?」
湯気出そうな程、顔真っ赤にして私に向けて開かれた本の中には……知らなくて良い世界が広がってました。まる。
私は本を即座に奪い取り、魔法で燃やして魔法で水かけての消火まで行ってから、ディルに説明を求めた。
詳細は、省くけど……とにかく双子から聞いた、私の為になるって話を信じて……ロープやらの小道具をどんなのが良いかの相談して来たディルを見た時の衝撃が凄まじかった、とだけ言っときたい。マニアックは、ヤバすぎる
……サーリーがお昼寝してる時で良かった。いやマジで。
そりゃあ私も、それ相応の年なんでね。
友人同僚のお陰で、耳年増なんでね。
それでもさ……私のかあいい旦那様に……破壊力ありまくりな恐ろしい知識を与えるんじゃねぇよ(怒)
私の行動とその後の怒り様に、ディルは双子に騙されたと気付いたらしく。
ベッドに怒りながら座っていた私の足にしがみ付いて……ニャンコ写真の定番、ごめん寝スタイルでぶるぶる震えて許しを乞うていた。
土下座ではなく、ごめん寝スタイル。関節やらかいね。
「あ、大丈夫。ディルには怒ってないの」
双子に殺意芽生えただけやから!
出来るだけディルの頭を優しく撫でてあげたら、私の気持ちが伝わったのか膝に頬を擦り付けごめんなさいと言いながらにゃうにゃう可愛く鳴いて甘えて来た。
ああっめっちゃ可愛い!
……戦士として申し分ない背丈と筋肉、力量を持ってるのに。
顔の作りも、とっても美しくて男らしくてカッコいいのに。
ディルの、この笑顔と甘える姿の……ギャップ萌え凄まじい。
……アニスさんが、ディルのお父さんは獣人らしくない、人族っぽい照れ屋な性格やったから最初は気にしてくれてて。でも心配する必要無かった。
それにしても……こんなディルに、あんな恐ろしい知識が備わったら……世のお姉様方、それもお遊び好きそうな権力有り余ってる方々に狙われるんじゃなかろうか?
……そういえば前科もあるし、もしかしなくても男相手でも危ないんじゃ?
あ、私が守らないと。
色々と悟ってしまった私は、その日ディルに何度も何度も本の内容を忘れなさい、と言い続けた。
その次の日。
宿の食堂で捕まえた双子に言い訳をしてみろ、と言った所。
「いや将来的には」
「必要かなって」
「だっていつかは」
「サーリーもきょうだい欲しがるかなって?」
双子特有の阿吽の呼吸で言い訳するカールとキールの頭の上にはたんこぶが出来ていた。
うん。親代わりのアニスさんからの、愛の鞭やな。
「……私、まだディルとマイ独り占め、したいから……きょうだいはもっと後でいい……」
「「サーリー!!!」」
可愛い事言うサーリーを、私とディルで撫でくり回したのはしょーがないと思うの。
「「もうやだこのラブラブ親子っ」」
ちょっとしたイタズラのつもりが大惨事になった、とアニスさんに愚痴ってまた殴られてた双子が居たそうやで。
ざまぁ!!!
……あれ、また話が逸れた?
旦那様と娘の可愛さに、話が逸れまくるのを許して下さい。
可愛いが、正義なんで(なんか違う)




