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私が異世界に訪れて、早いもので1ヶ月ほど経ちました。
サーリーを加えた私達のパーティー≪ニクジャガ≫は、今日も街道清掃と言う名のお腐れモンスター討伐を行い、オマケにこの日は月に2度あるかないかのアニスさんの夕食にお呼ばれする日だったのでウハウハ気分で私はご馳走になっていた。
いやだって……我が家のエンゲル係数、旦那様のお陰でうなぎ登り中やねん。
サーリー、育ち盛りやし……小さい子に、ひもじい思いは、させたくない。
なので私は嫁として、家計簿片手にやりくりしてる。
実は現在、私とサーリーの安全なレベルUPの為にディルはランクの低い依頼を一緒にこなしてくれてるので……今の稼ぎは、正直言って心許ない。
私の≪結界≫が有用とは思ってくれてるけど、ディルは驚く程に思慮深い。
モンスターは少しずつ、確実に増えている。
強い個体が突然、目の前に現れるかもしれない。
私の≪結界≫で身を守り、ディルが一人で戦えば私達のレベルは上がるけど……それは、本当の経験にはならないとディルは考えてる。
戦う術は、人それぞれ。
自分で考え、動いて身に付けないと、強敵が現れた時何も出来ない。
私と初めて会った時は高レベルダンジョン真っ只中やったから、緊急処置として私のレベルを無理矢理上げてくれたんや。
ディルは、私とサーリーとずっと一緒にいるつもりやから、私達に見合った敵と戦わせて、なんちゃって冒険者にならない様に鍛えてくれてる。
勿論危なくなったら助けてくれるし、何が悪かったか、今度はこうしてみようって、ちゃんと考えて教えてくれる。
ディル、マジで良い先生や。
なので今の私達は、のんびり冒険者生活を満喫してる。
まあ、先立つお金の事も、足りない分は今の所ディルの貯金が助けてくれてる。
サーリーの所持金は、彼女の将来の為に貯金する事が決定事項となってる。
……死んでも殺されても手を付けない、とディルと固く誓い合った所を見ていたサーリーの微妙な顔も、可愛かったなぁ。
……まあ。
そのディルの貯金、実は100万ギル紙幣の束(10枚で一束、帯も付いてる)がひーふーみーよーとあるので。
……本当なら、暫く働かなくても大丈夫やねんて。
……触るのも見るのも怖すぎて、二度見三度見した後はディルの≪アイテムボックス≫へと放り込んだけどな!
買い物も基本、3人一緒に行くしな!
お財布係、ディルの一択やから!
そんな大金、私は怖くて触れません!!!
……ごくごく一般庶民である私に、そんな大金ってむしろ毒やからね!
そして、この日の夜。
アニスさんとの夕食を終えた後、私とサーリー、ディルの順番でシャワーを浴びてからベッドに川の字にうつ伏せで寝転び、もう何度目かになる家族会議を始めた。
ちなみに1番多い議題は、その日のおかずに鶏肉使うかどうか、です!
「にゃう……何処、行こうかな。……サーリーは、どんなのが、いいの?」
ディルの質問に、サーリーはうんうん唸って私の背中とディルの背中に、交互に乗り上がるようにコロコロ転がってきた。
結構悩んでるので、参考になれば、と私の願望を言うことにした。
「そりゃあもふもふの一択! ねっ、サーリーも、もふもふ好きやんな!」
私の言葉に、ディルの背中の上で落ち着いたサーリーは……やっぱりうんうん唸ってた。
「ぅう、もふもふ……好きだけど……でも……ううんっ、やっぱりおっきくて空飛ぶのが良いっ!」
皆で一緒に飛べちゃうくらいおっきいの、という娘の願いに。
「おっきいの……危ないから駄目」
「……むうぅぅ」
ディルの背中の上でのみコロコロし始めたサーリーに、私とディルは笑ってしまった。即却下が不服らしい。
「……少し、遠出したら……いつかおっきくなるの、見つけられる。……それで、許して?」
「……ほんと?」
サーリーの小さな返事に、背中越しにディルもしっかりと頷いた。
「うん、ほんと。それまで……も、もふもふしたい、なら……俺の尻尾と耳……優しくしてくれるなら……触っていい、よ?」
「「えっマジ!?」」
何それ何それサーリーだけなのずるい!
私もっ、嫁の私も触りたい!
私とサーリーのガチな食い付きに、ディルは背中にサーリーを乗っけたまま怯え始めた。
「にゃっ……ま、待って! その勢いでっ……握られるのこ、こわい……」
自分の虎耳を片手で隠し、器用に動く尻尾も自分のお腹の下に隠し始めた旦那様、あざと可愛い。
怯えるディルをサーリーと2人で頭と背中撫でていい子いい子してあげたら、リラックスしたのか喉鳴らしてもっともっとと甘えて来た。
心臓、キュンキュンする。トキメキ、ヤバイ。
……ディルの可愛さに、話が逸れた。
実はサーリーのスキル振り分け儀式……私達が家族になって、初めての家族会議を行った次の日。
朝食を食べた後、これからどうするかの話し合いの時にサーリーがステータスと取得したスキルを教えてくれてんけど……。
――――――
●サーリー
●レベル:1
●MaxHP:10
●MaxMP:1000
●力1
●魔10(+10)
●守1
●護10
●早1
●運50
≪特殊スキル≫
鑑定Max10p使用
知力Max10p使用
隠密5段階10p使用
≪魔法スキル≫
火魔法10p使用
水魔法10p使用
風魔法10p使用
土魔法10p使用
闇魔法50p使用
≪武器スキル≫
杖・棍棒1段階1p使用
計121p
余り4p
(特別スキルボーナス50p取得済)
――――――
「「ぶふっ!?」」
食後のお茶を飲んでいた私とディルは、紙に記された数字を見て揃ってお茶をふいた。
「ぇ……どぅ、したの? ……私、……そんなに、変なの?」
大きな紫紺の瞳を潤ませたサーリーの視線に私とディルは大きく首を横に振った。
「っち、ちゃうちゃう! 運がえらい事に……いやMPも多め……じゃなくてほぼ全属性持ち……えっとポ、ポイントも……思ったより色々多かってんなあってびっくりしただけ!」
(ふきふき/机拭いてる)
「……特別、スキルボーナス……Max凄い……ね?」
(ふきふき/顔拭いてる)
動揺し過ぎて全部口から出てるのに気付いていない、ダメ親2人の出来上がりである。
「……むうぅぅ」
誤魔化してるの丸わかりな態度に、サーリーはご立腹。
……しかし。
「「可愛い」」
「そんな事で誤魔化されない!!」
少し分かりづらい、膨れた褐色の頬を赤らめる姿を見て私とディルは同時に答えました。
ううん。誤魔化してないの。ただ可愛いは、正義やなって思っただけで!
サーリーにはスキルとは違う生まれ持った能力で≪精霊の愛し子≫と≪魔力高感知≫というのがあるらしい。
≪精霊の愛し子≫は言葉の通り、精霊にとても好かれる。
私達にはその姿は見えないけど、なんと今も側で手のひらサイズの精霊がくるくる踊っているらしい……それも、5体。
……精霊に愛されるだけで幸運と言われてるから、多分そのお陰で運がえらい事になり、精霊の試練が無くとも特別スキルボーナスをサーリーは与えられてるっぽい。
≪魔力高感知≫の方は、空気中に含まれる魔力を視認出来る能力やねんて。
脳内知恵袋によると、この世界の魔法は自分の魔力(MP)と空気中に含まれる魔力を混ぜ合わせ発動させてるみたい。
なので、自分の周囲に発動させたい属性が少なければ自身の使用MPが増える事になる。
でもサーリーは、空気中の魔力を視認し効率良くマナを集められるので……MP消費を可能な限り、減らす事が出来る。
実質、私と同じ使用MP半減を所持しているのと同じ効果があるみたい。
……え、何そのチート。
初心者セット貰った私より、ある意味凄くない!?
「「サーリーすごい!」」
「……えへー」
説明を聞き終わった私とディルの答えは同じだった。
オマケに、はにかみ笑顔が可愛すぎてディルと2人でサーリー抱き締めたのも懐かしい。
……サーリーの可愛さに、話が逸れた。
サーリーが一番ポイント振り分けたスキル、それは闇魔法。
闇魔法に50p使用すると使える魔法……≪テイム≫は、モンスターを使役出来る。確か和風美少女の賢者、モエちゃんが使いたいって言ってた魔法やな。ゲットだぜ、のやつ。
使役されたモンスターは毎日、主人のMPを栄養として少し貰い、後は魔力含まれた鉱石や植物、モンスターを食べて補う。
この≪テイム≫、サーリーの生まれ育った≪デスペリア≫では率先してゲットする人が多い魔法の1つ。
それと言うのも、魔法特化型の人はドラゴニュート……竜人以外、防御力が、ガチで紙らしい。
なので闇属性を持つ人は、自身を守る護衛役としてモンスターを使役出来る≪テイム≫をゲットするんやって。
モンスターの大きさで栄養として与えるMP量変わるらしいけど……サーリーなら、どんなんでも大丈夫そうやし。
……確かにまだ幼く、とっても可愛いサーリーを守ってくれる存在は、多い方が良いに決まってる!
なので今現在、サーリーの相棒を探す為の家族会議中。
将来大きくなる、空飛ぶモンスターか……どんなんかなぁ?
まだ見ぬサーリーの相棒に思いを馳せながら、私はディルとサーリーの温もり感じていた。
その日のおかずに、鶏肉使うかどうか。
高確率でディルの泣き落とし入るので、マイがめろりんされて高確率で鶏肉使われます。
ディルは天然なのか、確信犯なのか。
どっちでも良いですかね(^ω^)




