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「お疲れ様でしたぁ」



 ちゃんとお話出来たでしょう? と続くシスター・ミラの声に我に帰ると、私達は教会の中にある祭壇前に戻って来ていた。



 3人同時にシスターに振り返り、思わず凝視してしまったのもしょうがないと思う。



「?」



 ……シスターのこの様子だと、私達全員が居なくなっていた事に気付いてないっぽい。


 まさしく神の世界。時間の流れさえ違うんや。



「「「……ありがとうございました」」」


「あらあら、そんな良いんですよ」



 私達は挨拶もそこそこ、教会を後にしてアニスさんの待つ猫髭亭に戻る事にした。


 ……私達、とくにディルと私は、話し合うべき事がまだまだあるはずやから。






 からんからん、と扉に付けられたベルを鳴らしながら宿の扉を開けば、アニスさんが食堂部分の床をモップがけしていた。



「ああ、お帰り……んしょ、その子は?」


「「娘です」」


「サーリーです。これから宜しくお願いします」


「へぇ〜むすめ……?」



 流れる様な会話をしながら、私達は掃除中のアニスさんの横を通り、寝泊まりしている2階へ続く階段に直行した。



「…………ぇ、むす、め?」


「まぁちょっと説明長くなりそうなんで、後で詳しく話しますからっ!」



 ディルがサーリーを抱えて階段を駆け上がり、私共々部屋に閉じこもった瞬間響いた雄叫びは無視しよう。うん。



 私は≪結界≫……音や振動が外に漏れずに、ぶっちゃけアニスさんに破壊されない様にと願いながら部屋全体に発動。

 扉の向こうからナンカ聞こえるけどこれで一安心。アニスさんのげんこつは、ディルに任せた!



 私がディルと寝泊まりしてるのはトイレ・シャワー付き、2人がけの丸テーブルと小さな棚1つだけある部屋。

 部屋の3割をベッドが占拠してる、と言えなくもない。

 ……ディルの体はおっきいから、大きめのベッドの筈やのに密着して寝てるけどな!



 この部屋にソファは無い。

 なのでベッドの上、サーリーを真ん中にして座りながら『第一回家族会議』を始める事にした。




「……では皆さん。まずは教会での出来事、どんだけ覚えてる?」



 私の質問に、さっと手を挙げたのはサーリーだった。



「はい。……私くらいの女の子が、神様だった」



 うん。ちゃんと覚えてる。

 私以外の人の記憶無し、とかでは無かったか。


 私はサーリーからディルへと視線を変えた。



「ん…………神様公認で、……マイが、俺の……お嫁さん」



 ディルは、すっと自然に腕を伸ばして私の顎を掴んだと思ったら……ちゅっ、と可愛い音たてて口付けて来た!



「んむっ……ちょ、ディル!?」



 サーリーの頭の上でっ、いきなりキスしないのっ!



「きゃっ」

『きゃっ』



 もうほら恥ずか……っておい早速脳内デバガメかいっ!!?



「ディルっ……な、何でそんな、急にっ」



 でろでろ甘々キス魔になっちまったのっ!?


 私の言外の訴えに気付いたディルは……少し、変な顔になった。



 どうして、キスする理由を聞いただけで……そんな淋しそうな顔して、笑うの?



「……我慢、してた」


「夫婦なのに、なんで我慢するの?」



 サーリーの疑問に、ディルは淋しさを感じさせる表情のまま、答えてくれた。




「…………マイが……元の、世界に……帰るかもって……」


「「!」」



 え?



「俺、マイ好き……ずっと、好き。……マイ、優しぃから……だから俺、……我慢、するの」



 伸ばした腕で私の頬を、頭を撫でながら、ディルは笑ってる。




 この時、今になって。

 私はやっと、ディルの心の一部を理解出来た。




 今までやって来た、異世界の勇者達は帰ってたんや。

 その事を、歴史として知っていたディルは……私もいつか、元の世界に帰るんやと思うのは自然な事や。


 ……恋人みたいな事、色々してたら……私が、帰りたくても言えないんじゃないかって思ったんや。


 ……私が、何の憂いも持たんでええ様に……いつでも、帰れる様に……我慢してた?



 ……だから、私が帰らないって言った途端……あんな……あんな……っ。




「………………っディルのアホぉ!!!」


「「ひっ!」」



 私は叫んでから、ディルの膨らんだ尻尾ごと彼を抱き締めた。ディルの首は多少締めても、多分大丈夫!

 でもお腹部分で挟んじゃったサーリーには、ちょっと我慢してもらおう!



「私にあんな好き好き言うとった癖に、私がっ、帰りたい言うたらお別れする気やったんかっ!?」


「ふにゃっ……にゃ……お、俺……だって」


「そこは……俺が幸せにするから帰らないで〜とか、俺が好きなのに離れられるのか〜とか言って、引き止めていいとこやからっ! てか私が淋しいから引き止めんかいっ!!!」



 力一杯抱きつく私をにゃうにゃう鳴いて受け入れるディルが、今はちょっと憎らしい。



「にゃぅ、…………マイ……」



 私の為に、色々我慢してたらしいディル。

 ディルの為に、色々我慢してた私。


 つまり私とディル、同じ様な事考えてたって事?



 ……私の鋼の意思……覚悟の必要、全く無かったって事?



「……泣いてる、の?」



 ディルの言葉に、余計溢れてきた涙が彼の頬や肩を濡らしていく。


 だって、泣きたくもなるわ。

 ホンマなら、ディルと出逢った時からこんな感じに……ラブラブちゅっちゅしてる予定やったんやろ?



 ……実際されてたら、恥ずかしかったやろうけど。めっちゃ照れて、暴れてたかもやけど。


 ……私はなんて、もったいないことを!



「わ、私…………ぐすっ、ディルに、母親っみたいに、……思われてるのかなって……こ、恋されて……ないんじゃって……ひっく」



 恋愛的に、女扱いされないくらいならっ!

 恥ずかしいのがなんぼのもんじゃい!!!



「ぅぷ……マイ…………ディル、ひどい」



 えうえう泣いてディルにしがみついてる私を、サーリーはちっさな手と腕を伸ばして背中を撫でてくれた。

 ディルがビクついたから、もしかせんでも睨んでるっぽい。

 ぅう。サーリーのその優しさ、尊い!



「……ごめ、なさい……マイ……ごめんなさい」



 そう言うディルも多分、半泣きになりながら私の目元……通り越して顔面ぺろぺろしてくる。


 ぅうっ、えっちなのではないけど恥ずかしいし、くすぐったい!



「ぐすっずび…………そんなん、考えてたんなら……言うてくれな……分からへんもん……私、エスパーちゃうもん……」



 舐めてくるディルを押しのけ、膝の上にサーリーを乗っけてベッドの端っこに私は逃げた。



 この時、自分が言わなかった事は棚上げした。




「……は、はい……今度から、ちゃんと言う……マイに相談、する」



 そう言ったディルはベッドの上、正座する姿が私の視界に映る。




「…………私の事、お嫁さんにしたい?」


「し、したいっ」



 ……相変わらず、男前が真っ赤になった顔、可愛い。



「……ハグとかキスとか……それ以上も、したい?」


「……にゃぅぅ」



 両手で顔を覆いながらも、ディルは何度も頷いた。

 ……恥ずかし過ぎて、口では言えないみたいや。でも要望は伝えてくる、と。

 ちなみに今、私に耳を塞がれてるサーリーはハテナ顔である。教育、大事!



「…………私を、……例えば、やけど……幸せになれそうやからって、他の男の所にやらない?」



 私の為って言いながら、変な事されるのが嫌やったから確認のつもりで聞いただけやってんけど。



「ぜったい、あげない」


「「そこだけ可愛くないっ!!?」」



 あんな、照れて真っ赤になってた顔から、一瞬で殺人鬼にしか見えへん凶悪顔に変化したやとっ!!?

 よく分かってないサーリーまで、私と同じツッコミ入れちまったがな!!?



 私の発言に何らかの危機を感じたのか、ディルは私に手を伸ばした。



「マイ…………マイ、誰にもあげない……も、もう俺のお嫁さんだからっ! ……何処にも、帰さない!!!」



 抱き締めていたサーリーの背中から、私の手を奪いながら。

 私の目を見て、また顔を真っ赤に染め上げたディルはそう宣言してくれた。


 ……嬉しくて、また私の目から涙が溢れる。



「……ぅん。離さないでね。……ディルと……サーリーも。……私とずっと、一緒に居て……長生き、してね?」



 2人とも……私の両親みたいに、急に……居なくならないでね。


 そんな気持ちを込めた私の言葉を受けて。



「「……うんっ!」」



 ディルとサーリーは、大きく頷いてくれた。





 そうして私は、サーリーごとディルに抱き締められ。


 ここで私はやっと、ぶちゃいくながらも笑う事が出来た。



 ……私をこの世界に連れて来てくれて、ありがとう。ツクヨミ様。


 やっと、ちゃんと、言える。





 ……メルヘンとファミリー、ゲットだぜ!!!





次回はサーリーサイドのお話です。

明日、金曜日に予約投稿してます!

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