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アダルト・ディルのお色気フルスロットルな姿に、私も脳内がハートでご乱心なさってます。
正直、私が今、何を口走ってるかも分かりません(涙)
「うっひっひっ、仲良きことは美しきかな、うっひっひっ」
「その笑い方やめえやっ!」
神々しさとは程遠いやらしい顔と声のツクヨミ様に私は叫び声をあげた。
いやホンマ、その笑い方どっかの悪役魔女やからっ、幼女姿じゃ似合わないから!
「……マイ?」
今、そっち気にするの?
そう言いたげなディルが、いつもの「にぱ〜」とはまた違ったステキな笑顔を浮かべていらっしゃる。
そして、その目は、笑ってない。
ああ、ちゃうねん無視してないっ、ただ恥ずかしくて現実逃避してるだけで!
……お、お願いやから目付き鋭くしながら腕に力入れないでぇっ!
腰にディルの尻尾も巻きついてるしっ、密着度、凄い事になってるから!
「ひぃっ!?」
こ、今度は私のうなじ舐めよったっ! めっちゃぞわってしてんけど!?
「マイ……マイ……ぐる、ぐるるぅ」
喉を鳴らし、ぐりぐり頭擦り付けてくるディルは大型の動物と変わらない。
そして。
サーリーの純粋なる視線が、いたたまれません!
……マジで待って私の心が追い付かないから誰か説明プリーズ!
そんな、混乱の極みとなっている私の願いを聞き入れたツクヨミ様が答えてくれた。
「うっひっ……こほん。獣人の求愛表現はまあ、ちょいと過激なだけじゃ。そう照れるでないよ」
「求愛!!?」
これが求愛ならっ、セクハラってこの世に存在せえへん事にならへんかな!?
「どうやら、動物的な本能が働くみたいでのぅ。舐めたり身を擦り付けるのは、自身のツガイや子にする獣人特有の求愛、愛情表現じゃよ」
基本的に触れ合うのが好きな種族なんじゃ、とツクヨミ様は笑った。
ツクヨミ様の説明する声に返事するように、ディルは私の頭やうなじ、頬を撫でたり舐めたりしてる。
「ひっ……な、なら」
これは、ツガイ……嫁にする、求愛行動。
つまり私、姉的存在じゃない。
そんでもって、母的存在でも……ない?
………………え、メルヘンゲット?
「…………ディルとマイ、もう夫婦だったの?」
「ぐる、る……うん、そう。……サーリー……俺達の、妹と……子供、どっちが良い?」
新しい情報と溢れんばかりの羞恥心によって、容量オーバー起こした私を放置してディルとサーリーは会話を続ける。
うんっとりあえず、心臓に悪いから先に私を解放しよか!
……うぐ、ディルの腕、ビクともせえへん!?
下からサーリー、見上げてるやろ!?
恥ずかしいやろ私!!?
「……私、邪魔じゃ、ないの?」
「にゃ……なんで、邪魔?」
そんでディルは、私を抱えたままナチュラルに会話続けんの!?
ジタバタもがいてる私を無視した状態で、ディルとサーリーの会話は続く。
「っ…………ご、ご飯、美味しかったしっ、優しかったし……マイと、ディルの……娘になら、なってあげても……いいけど……」
「……じゃあ、今日から……3人家族、ね?」
「……ぅ、うん!」
そして私が会話に入る事なく色々と決まった!?
サーリーがにこにこ笑顔で私を見上げてる。
ありがたい事に、サーリーと会話した事でちょっと落ち着いたディルからのすりすり&ぺろぺろ連続攻撃が止まった。
私の心もやっと平穏に静まりつつある。
えっと、今の会話は……つまり。
ディルが私の旦那様で、サーリーが私の娘で、3人家族になったって話やんな?
え、ここが天国?
「ふふ、神であるワシの前での契りじゃからの。浮気も別離も出来んから安心したら良いよ」
お前達が幸せに生きていくのを楽しくデバガメしようか、と笑うツクヨミ様はどう見たって孫見るオババや。
「デバガメ…………やっぱり、日本の神様なんですか?」
ディルの腕の中から抜け出す事を諦めた私は、羞恥心を無視してツクヨミ様に目を向けた。
確か初めて会った時も、スマホゲームとか現代日本の最新知識持ってるの違和感ありまくりやったけど。
「確かに、ツクヨミというのもワシを呼称する名ではあるのぅ……ワシは中立……大いなる姉と、荒ぶる弟達のバランスを取るのが生まれ持ったワシの役目じゃ」
創造と破壊、両極端に位置する姉神と弟神が多少暴走しても問題無いのは、彼女自身が緩衝材となっているかららしい。
ツクヨミ様は、ありがたい事に私の生まれ育った世界の守り神的存在みたい。
……でもその代償に、ツクヨミ様本人は行動を縛られ、私の生まれ育った世界の運営に関われないらしい。
その事に、後悔はないらしい。
守れる事も、彼女にとって喜びだと思えるから。
でも元々、命の育みを尊く感じる彼女に何もするな、は酷過ぎて……ある時から負の感情、悪意的な淀みが自身の中に溜まって来たんやって。
それは、俗に言う祟り神になる前段階と同じ状態、らしい。
……このままじゃ、自身がどんな存在に変わるか分からない。
だから大いなる姉に懇願して、自身が愛せる小さな世界……異世界≪リヴァイヴァル≫を与えられた、とツクヨミ様は教えてくれた。
「この世界は、やっと愛せる私の子供。何だってしてやりたくなるし、よりよい世界に成長する為の試練も手を抜かぬ。……飴と鞭は大事なのじゃ!」
その表情は本当に楽しそうで、嬉しそうで。
……子供の成長を楽しむ母親の顔に、見えなくもない。
「……もう、淋しくないですか?」
きっと。
ツクヨミ様は、途方もない時間を苦しんで、悲しんで来た。
だから、その姿を見ていた姉神は……創造する力で、この異世界を与えたんや。
祟り神にしない為……そんな理由より。
孤独に寂しがる妹を救おうとした……そんな理由だったら、良いのに。
「……ああ。ワシは幸せ者じゃ。……優しい子らよ。ワシはいつまでだって、お主らを見守るとも」
心を覗ける目の前の神様は、にっこりと、幸せそうに笑ってくれた。
「お、そろそろじゃな」
ツクヨミ様がそう言った直後、私達3人の体が淡く光り始めた。
どうやら、教会に帰れるっぽい?
「何か困った事があったら、また教会に来たら良いよ」
軽く手を振りながらそんな事を言ったツクヨミ様を最後に、私の目の前は暗くなった。
え。いや有難いけどなんか、ちょっとそれは贔屓しすぎちゃうかなっ、と心の中で叫びながら。
「うっひっひっ……聖人と聖女、オマケに精霊の愛し子相手には……ワシもちょっぴり、サービスしても良いのじゃ」
白い幼女姿の、ちょっと似合わないお下品な笑い声が響いたのを知る者は本人のみ。




